第2話
旧イルメラちゃんは『王都から2ヶ月もかかる田舎に追いやられるなんて……! 私はなんて不幸なの』とか嘆いてたけど……
流行のドレスやお帽子に何の興味もなくなった今、王都の流行最先端の娯楽ってMAXで観劇なんだよねー……
しかもこの世界の劇って、日本的に説明するとオペラ的なやつで……
イケメンや美少女がきらびやかな衣装で出て来て、歌と踊りでストーリーを進めていく劇。
物事の説明も役者同士のやり取りも全てが歌!
――ストレートの舞台とまではいかなくても、せめてミュージカルくらいお芝居してくれれば……
今の私にだって楽しみようもあったんだろうに……流石にオペラはなぁー。
全く触れてきてないジャンルだから楽しみかたが全く分からねぇよ……
イケメンは多かったから目の保養にはなったんだろうけどー。
――ま、イメルラだってストーリー自体っていうよりかは、イケメン役者の愛を乞う歌や女優たちの煌びやかなドレス、それにその劇を見に行ったんだってことを報告し、友人たちと話し合うことこそが楽しかったみたいだし。
たださぁ……そういう見目麗しい役者には、基本パトロンが付いてて……――それはつまり、そういう役者は確実に誰かの愛人ってことな訳で……
――イルメラはある程度そういうものだっ割り切った上で楽しんでだけど、私には絶対ムリー。
だって芝居が終わったそのすぐあとでイチャコラ始めやがって!
せめて会場ではそういう関係を隠す配慮が必要だと思いますけどね⁉︎
しかもイルメラが「サインをいただきたいわっ!」って、わざわざ用意して貰ったパンフレットを胸に抱きながら声をかけに行った時に限って、パトロン同士が鉢合わせするイレギュラーに遭遇しちゃうし!
パトロンたちが周りの視線も気にせず、その役者挟んでマウント合戦開始してしまうから、まだ学生のイルメラは話しかける度胸もなくタイミングも掴めず、泣く泣くパンフレット抱きしめながら諦めててさっ!
なんて不憫な子……
あのパトロンたちは『サインを貰う時、少しだけでもお話しできるかも! そしたら今度のお茶会でお友達に自慢しちゃうの!』って気分ルンルンお目々キラキラだったイメルラにぜひとも謝って欲しい!
――夢を売るのが役者の仕事みたいなトコあるでしょう⁉︎
せめて劇場内でぐらい少女の夢を壊さないで貰えますかねぇ⁉︎
――イルメラ……憤って良いんだよ!
アイドルとかには夢を見続けさせて欲しい派は、年々肩身が狭くなって行くけど、それでも私にはグチを言ってくれて良いんだよ!
熱愛報道や結婚とかはね、口先だけ「えーおめでたいねー! 幸せになって欲しいー」とか言ってれば、お腹の中では呪詛を吐き散らかしてても案外バレないもんだから!
察してくれるのは大抵が同じことしてる同士だけ!
そしてそれが友情の始まり……!
……まぁ、私が新イルメラになった今となっては、そもそも観劇しに行くつもりがなくなってしまったわけだけどー。
そうか……――よく考えれば考えるほど、私にとって田舎暮らしになんの問題無いわけだ。
むしろ、ちんぷんかんぷんな人間関係の序列やら、わずらわしい社交界のTPOやらから解放され、誰とも会わないイコール笑い者にもされない現状……
これから連れて行かれる田舎こそが天国なのでは……⁉︎
――だとすれば、旧イルメラの入水自殺予定に拍車をかけた“侍女、誰1人も付いてこない事件”は、むしろ幸運だったのカモ……?
アイツらイルメラに忠誠心がないどころか、あからさまにイルメラを下に見て、仕事ろくにしてなかった給料泥棒だったしなぁ……
――だからってアイツらのこと許してもやらなければ、されたことも忘れてはやらないけどね。
一緒に来る――いや、両親からの命令で一緒に田舎にドナドナされるはずだったのに、それを嫌がり、なんとか回避しようと父の愛人になったり、兄や弟と肉体関係になったりして、父や兄弟付きに強引に配置変えされ、ただの一人も付いてこず……!
それも当日の朝に集団で‼︎
ズラリと私の前に並びながら「急にそういうことになってしまいまして……」とニヤニヤ顔を隠すように頭を下げてきた時は、父親や兄弟ごと呪い殺してやろうかと……――イヤ? 呪いは使えないけど、だからってこのままほっといてやる必要なんか……無いよね?
しかも復讐するなら、向こうからの報復される確率が格段に低くなった今なわけで……
――イルメラは今回の婚約破棄で父や兄弟に迷惑をかけてしまったって負い目から『これ以上騒ぎを起こしては……』とか思ってたみたいだけど、こんなクソ案件イルメラが泣き寝入りする必要なんてどこにも無いから!
大体が婚約破棄の後始末だって、明らかにイルメラを犠牲にしてるしっ‼︎
そんな奴らの為に黙っててやる義理なんかカケラだって無いねっ!
――しかも、1人残らず移動になって同行者無しって状況を理解た瞬間、気まずそうに視線を逸らしあった父兄弟だよ?
そのすぐあと唸るように「不慮の事態だが予定を狂わせるわけには……」とか適当抜かしてイルメラを馬車に押し込んだ父、そしてそれに抗議するどころか後ろで頷いて同意していた兄弟と元侍女ズだよ⁇
地獄に落ちるまで徹底的に粘着して構わねぇと思うわ。
……せめてお母様が見送りに出てくれてれば侍女の1人――主に父の愛人に納まった女――ぐらい、強引に乗せてくれただろうに……いや、居ない今が気楽なんだから、そうならなくて良かったのか……――そもそも、見送りにも出てくれない母親だしな……
――だけど私が娘であることには変わりがなくて、向こうは降爵家の内側を丸っと取り仕切る降爵夫人様だ。
あいつらの爛れた関係、全部お母様にチクッたんねん。
ついでに義務的なお茶会でしか会ったことない兄弟の婚約者にもチクったんねん。
……ちょっと話盛ってチクッたろ。
イルメラがなんも言い返せないと思って好き勝手やりやがって!
そう何度も泣き寝入りなんてしてやらないんだからな!
――旧イルメラも新イルメラも、こういうことは忘れてやらない派ー。
そして私は地獄に堕ちようとも絶対に許してやらない派閥ー。
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