第59話

 都市を舞台にしたクエストは幾つか種類があって、シナリオ型、ボス討伐型、ダンジョン攻略型と大まかに区別するプレイヤーも居る。

 今回、一行が受けたクエストは所謂ダンジョン型。

 ダンジョン型にも幾つか種類があって、討伐対象が魔獣なのか妖魔なのかで難易度が大きく変わる。


 魔獣が討伐対象の場合、工場等の施設に入り込み住み着いているので施設の地図を片手に魔獣を探して討伐するという内容になっている。

 都市部に入り込んだ害獣駆除に近いものがある。

 群れの場合もあれば、ボス単体の場合もあってそれによっても難易度は変わってくる。


 妖魔が討伐対象の場合、妖魔は特殊な能力を使用して特定の空間を改造して自分の領域とするので既存の地図などが役に立たない場合が多い。

 特に討伐対象の妖魔の格が高い程、生み出される空間は巨大で複雑なものになっている事が多いのだ。


 シスコ達六人は現場の警備をしていたNPC警察官に挨拶しながら建物の中に入っていく。


「このパターンはよくあるヤツで一番奥にボスがいて、そいつを倒せばクエストクリアだ」


 アライは先頭に立つとざっと周囲を見回す。

 先行するようにアライの異能像エイリアスがハンドガンと日本刀を手に進行方向を警戒する。


 侵入した先は所帯じみた飲食店のようなカウンターテーブルや固定式の椅子が背合わせになって延々と並んで奥に続く光景が広がっている。

 通路の幅は2mくらいだろうか。


「妖魔の知能が高いと現場に残された物品に残る記憶を使って過去を再現したりする事が多いのよね」


 ユイはそう言いつつカウンターテーブルに配されている調味料やプラスチックのカップを見て「ラーメン屋かな」呟く。


「シスコちゃん、この先何か見える? 見えなかったら私の異能像エイリアス走らせるけど」


 ヒイラギは物珍しそうに等間隔に並んでいる調味料を手に取って眺めているシスコに声を掛ける。


「見てみるね」


 カウンター脇の椅子の上に飛び乗ると、シンクロ状態になって延々と続く通路の先を見る。

 視界の先は数百メートル先で靄がかかりはじめ見えにくいが、靄の手前あたりから人影が列を成しているのが見える。

 そして、靄の向こうにもそれは続いている。


「あれって何かの儀式なのかなぁ」


 シスコは見えたものを取りあえず仲間に伝える。


「うーん、アライ君これって……」


「特殊勝利条件付き、だな。受注後にボス戦の内容がランダムで変更になる、面倒な仕様だよ」


 アライは苦々しい顔で、通路の奥に向かって歩き出した。


「うー、変なのじゃなきゃいいけど」


 ヒイラギは心底嫌そうな顔をしている。


「じょうけん?」


 首を傾げるごろー。


「偶に戦闘以外でクリア条件が達成される場合があるのですよ。例えばぬるぬるローションマットで障害物競走とか、二階の高さから落とした熱々おでんを口で連続キャッチとか……たぶんこのゲームにおけるミニゲーム要素なのでしょうけれど」


「昔のバラエティ番組かな?」


 シスコもこの手のクエストは初めてだ。


「戦闘力に自信の無いプレイヤー向けの救済クエストだって言われてるけど、ふざけて作ったとしか思えないのよね」


 通路の先を見るユイの目が据わっている。

 余り良い思い出が無いのだろう。


「ちなみにですが、力業でクリアする方法もありますよ。ただ特殊勝利条件の場合、敵の強さが通常の三倍くらいですので腕に自信が無い方にはオススメしません」


 そういうファセットであるが、面倒くさかったら力業が手っ取り早いのですけどね、と微笑みながら補足していた。


 一行が霧の手前に差し掛かったあたりでNPCが列を成しているのが目に入る。

 誰も言葉を発さず、ただただ列に並んでいる。

 アライを先頭に彼らの脇をすり抜けて奥へと行こうとしたのだが、


「待てよアンタ、順番は守りな。それがマナーだ」


 最後尾のスーツに山高帽の優男が注意の声を上げる。

 同時に列に並んでいたNPCたちの視線がアライを中心にシスコたち一行に集まる。


「悪かった。並ぼう」


 アライは肩を落とすと列の後ろへと加わった。


「並ぶんですか??」


 ぶっ倒せば早いじゃん、とは口が裂けても言えないシスコ。

 ユイの前では良い子なのだ。


「こういうルールは守っといた方が良いんだ。それにこの列に並んでいるのは高位妖魔ばかりだしね」


 アライは額に汗をにじませながら声を潜ませる。

 妖魔の特徴は様々あるが、人型の場合は死蝋色の肌に紫の瞳を持つことが多い。

 そして人型の妖魔は例外なく人の言葉や文化を解し、八龍に及ばないまでも圧倒的な強さを持っている。

 それを考えるとこの場のルールに従っておいた方が面倒はない。


 それから三十分くらいかけてゆっくりと列が進んでいき、靄に浮かび上がるように券売機とウォーターサーバーが見えてくる。

 列に並んだNPCたちは券売機で各々好きなメニューのチケットを買うとウォーターサーバーで備えてあったコップに水を注ぎ、そのコップの中に同じくコップの隣に備えてあるレンゲを突っ込んでいる。


 一行が券売機を見れば、メニューはいたってシンプル。

「小ラーメン」「大ラーメン」「小豚ラーメン」「大豚ラーメン」「黒ウーラン茶」

 その下にトッピングメニューがいくつか。


 これ良く知ってるヤツ……、ごろーは嫌な予感を覚えていた。


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