第52話
合流した五人はハイヤーを呼びつけて移動を再開していた。
「ったく何なんですのあの失礼なオッサン、昼間っから酒臭いし人のことを邪魔者みたいにして、普通は謝罪の一言もあるものですわよ!」
いぶりーの機嫌は悪い。
運営側の態度もそうだが、GM相手にあっさり取り押さえられた事実が拍車をかける。
隣でごろーが寝息を立てていてもお構いなしだ。
「まぁいいじゃん、何事もなかったんだし。それにしてもGMとか初めて見たよ」
「連中、基本的にプレイヤーの前に姿を現さんからの。というかシスコ、お主が人質を提案したと聞いたが?」
リトラの瞳に剣呑な光が宿る。
「うん。キヨカの為だったら飛んでくるでしょ?」
「それはそうだがやり方と言うものがあるであろうに……」
「本当はリトラの姿が見えたら速攻でネタばらしする予定だったんだけど、まさか奇襲しかけてくるとか予想外でさ。助けに来ても正面から突っ込んで来ると思ってたから」
悪びれる様子の無いシスコの態度にリトラはため息と共に肩の力を抜く。
「GM相手ではプレイヤーはどうしても勝てぬでな、奪還するなら奇襲が良いとなったのだ」
その話が出た瞬間いぶりーは口笛を吹きながら窓の方に顔を向ける。
「なるほどねー、結局ボスっぽい人も出てきたし無理筋だったかもね」
シスコはGMドーンの格闘術やいつの間にかその場に居たカラヤという男を思い出して大きく首を縦に振った。
「あ!」
声を上げるのはキヨカだ。
「急にどうしたのだ?」
「カラヤさんって運営の偉い人だよね?」
「んむ、そうであるぞ」
「だったらデスゲームの理由聞けばよかったなーって」
キヨカは眉根を下げて肩を落とす。
「そんなに気になるか」
「うん、上手く言葉にできないんだけど納得みたいなのが欲しいから」
キヨカは自身の胸に手を当てる。キヨカ自身も理解できない蟠りのような気持ちがどこかにあるのだろう。
「そうであるか。まぁ船長なら聞けば教えてくれそうではあるな」
何処か親しみのある表情になる。
「船長?」
「カラヤのことだ。親しい者はみな船長と呼んでおる。昔はタグボートの船長をやっておったという話でなそこから呼ばれるようになったのだ」
「仲良いんですのね、あのオッサンと」
いぶりーがジト目でリトラを見やる。
「まぁの、我の人格形成期に話し相手になってくれたりして色々と現実世界のことを教えてくれたのだ。我にとっては親父みたいなものだな」
懐かしむリトラの表情は柔らかい。
「そんな人が居るのになんでデスゲームなんて始めたんだろ」
キヨカは腑に落ちない表情で窓の外を見る。
都市の上空は日が傾き始め陰影を濃くし始める中、車は第一階層の市街地へ向かうために地下へと続く道路に入ってゆく。
「という訳で買い物の続きですわ!」
一行が向かった先はクエストボスの元、ではなくて大型ホームセンター。
「拠点で使う日用品とか揃えよう」
と言うことで今回の残りの目的、生活に必要そうなものをまとめ買いである。
「私の眼鏡にかなわない限りレジは通させませんわ!」
レジ前のスペースにアウトドア用品展示場から持ってきた折り畳みチェアにふんぞり返るいぶりーは検品係を自推し、居座った。
「それじゃ任せるよ。これ今回必要そうなリストね。抜けがあるかもだから気になるのがあったら教えてね」
シスコは言っても聞かないだろうと諦め端末からメモを飛ばす。
「よろしくってよ!」
ごろーのジト目に気が付いて「なんですの!」威嚇し始める。
「さて、我らは掃除道具担当であるな」
「リトラちゃんとお買い物楽しいな」
楽しそうに籠を手に笑みを浮かべるキヨカ。
「我もである。なんというか肚の底が疼いて仕方ない。これがわくわくという感情かの」
リトラと二人手をつないで売り場へと消えてゆく。
「おれらも行こっか」
「ん」
二人を見送ったシスコとごろーも行動を開始するのだった。
「えーっと、カトラリーセットは家族向けの奴が数揃っててちょうどいいからこれで、お箸は色違いを入れといて後で皆に選んでもらおう。それと茶碗とお椀とコップと平皿と小皿と小鉢も欲しいかなぁ。あとスープ用の深皿も……あ、大皿も一つ欲しいなぁそれだと平皿は無くして取り皿用の小皿だけでもいいのか、ごろーどう思う?」
食器コーナーでカートを押しながらシスコはあれこれ目移りが止まらない。
「ん」
その横でごそごそと土鍋を投げ込み、カセットコンロとカートリッジを投げ込み、ホットプレートも投げ込んでいる。
シスコは買い物リストになかったようなと思いつつも、まぁいっか、でスルー。
買い物してる最中に予定にないものが増えるのはよくあることだ。
「取り敢えず籠いっぱいだし戻ろっか」
二人が戻ってみると、既にいぶりーの座る椅子の隣には幾つもの籠が積まれて置いてあった。
キヨカとリトラは順調に日用品を買い集めているらしい。
「で、アナタ達は食器係だったはずですわよね? カセットコンロなんて何に使うんですの? あとごろー、何ですのそれ」
カートからホットプレートの箱を下ろそうとしているごろーを見て眉根を寄せる。
「何って鍋とかできるじゃん」
「ほっとけーき」
ごろーが抱える箱にはデコレーションされたホットケーキの写真がプリントされている。
「それ直ぐに必要じゃありませんわよね? それに調理器具は今リトラとキヨカが確保に向かってますので必要ありませんわ!
「まぁ、そうかもだけど……いいじゃん」
「ダメですわ! 売り場に戻してきなさいですわ! あとキヨカが小物を収納できる棚かケースが欲しいみたいなのでそれも頼みますわよ」
有無を言わせぬ勢いで追い出されてしまった。
「まさかいぶりーにまともな感覚があるなんて……」
「ごさんすぎる」
トボトボと二人並んで歩くのは家具コーナー。
「で、どうする?」
家具と言っても人の好みは千差万別。
「てきとーもってく」
「それしかないよね。ダメならまた探しに来るだけだし」
二人は買うかどうかの判断をいぶりーに丸投げた。
シスコが選んだのはスチールラック。銀の光沢がクールに輝くナイスガイ。ポールと天板の組み合わせによる拡張性は正に家具界の大谷〇平。ハンガーラックからテレビ台まで何でもこなせる。
対してごろー。手にするのはカラーボックス。均整の取れたスマートでシンプルなその造形はどのようなシーンにも対応する万能選手。
全てはここから始まった。あらゆる家具の祖にして頂点。迷ったら取りあえずこれ、そうしたら間違いはない。
「却下ですわ!」
いぶりーは視界に二人が入った瞬間ジャッジを下す。
「なんでさー」
「ぶーぶー」
不満になるのも仕方ない。
「理由? ダサい! 以上ですわ!」
「謝れよ! 全国のカラーボックス愛好家に謝れよ」
「そーだー」
二人の抗議は届かない。
その後もダメ出しが続いて、いい加減うんざりしたシスコとごろーがいぶりーを担いで売り場に行ったのは必然だったのだろう。
「お姉ちゃん達もどってこないねー」
「そうであるなぁ、何を迷っておるのだか……」
荷物番に回された二人はやることもなくレジ前で待ちぼうけである。
その日の買い物が終わったのは日付の変わる少し前。
クエスト制限時間まであと1時間を切ったところだった。
ボスはキヨカとシスコによって強化されまくったごろーがワンパンで倒してくれました。
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