第48話

 時計の短針が3時を少し回った頃。

 買い物を終えた三人、シスコ、ごろー、キヨカは喫茶店に入って寛いでいた。

 落ち着いたレトロな雰囲気の店内にピアノジャズが流れる中、コーヒーを傾けるのはシスコで、ごろーとキヨカはミックスジュースだ。


「おいしーね、ごろーお姉ちゃん」


「ん」


 この喫茶店で別行動をとっているいぶりーとリトラの二人と落ち合う約束になっている。


「あ、パフェとか食べたかったら好きに頼んでいいからね」


 三人それぞれ好きなものを注文しておしゃべりしながら待つこと一時間。

 注文したケーキもパフェも食べ終わってまったりとした時間が流れている。


「来ないねー、二人ともどうしたのかな?」


「うーん、トラブった? でも連絡は来てないしなぁ」


 着信やメッセージはない。

 通話を試みるも、


「あーダメだ、電源切ってるよコレ」


 プレイヤーに与えられた端末はなんと電池無限以外はスマホと機能が変わらないのだ。電源のオンオフだってできるぞ。

 シスコは取りあえずメッセージアプリで直ぐに連絡をよこすようにと送る。


 三人が連絡が帰ってこない場合、探しに行こうかどうか話し合っていると喫茶店に新たな客が入ってくる。

 軍人のような恰好をした人物で、一見しただけでは男か女か見分けがつかない。


 そんな軍人はというと店内を見回しつつ警戒した様子でシスコたちの座る席の前にやってくる。


「お三方はごろーさんにシスコさんに、えーっとお姉ちゃんさんであってます?」


 中性的な声でそう尋ねる。


「そうですけど、えっとどちら様?」


 代表してシスコが応える。


「申し遅れまして……私はGMやってますトワイライっす。はじめまして」


 GMを名乗った軍人は会釈をする。


「こちらこそ初めまして。それでGMさんが態々何の用事ですか?」


「えーと、要件と言いますか……ここに黒龍リトラって来てますか?」


 GMトワイライトの語るところによると少し前にリトラがシステムにアクセスして所持金の額を改竄したことが発覚したらしい。

 ボスAIとしての仕事を終えた現在はいちプレイヤー同等の立場でしかなく、好き勝手されては全プレイヤーに対しての公平性が失われるとの判断が下ったとのこと。

 GMを統括している上司は「別にほっときゃいいよ」と発言したらしいのだが、


「黒龍リトラは少し前にもデータの改竄から構成データの私的利用等の問題行動が多くてですね、今回は流石にもう目を瞑ってはやれないぞ、と」


 GMトワイライトは自身の言葉に大きく頷いて説明を続けた。

 曰く、黒龍リトラに厳重注意を行うために接触しようとしたのだが、追跡できないように細工を仕掛けられていたという。ここに姿を現したのはPTメンバーならもしかしたら行き先を知っているかもしれないという一縷の望みをかけてだった。


「はぁ、そう言われても正直そうですか、としかね。そもそも行き先なんて聞いてないし」


 冷めた返事しか返ってこない。そりゃそうだ、GMの困りごとはシスコ達にとってはどうでもいい事に分類される。


「いや、そこはもう仰る通りなんすけどねぇ……というかあの、今日は色々言われる覚悟で接触してるんすけど、何かあります? デスゲームについてクレームとか」


 軍服の似合わない妙な腰の低さ、その割には言葉遣いやら適当なせいでミスマッチ。


「おれ特に無いけどなぁ」


「おなじ」


 二人に不満と言うものはない。確かにサバイバルはしんどかったけど、そこはそれとして楽しんでいたし、ごろーからすると仕事に行かなくて良くなったのは非常にプラスなのである。なんなら仕事に出られなかった期間に関してはVRゲーの運営が悪いので責められることもない。

 デスゲームに関しても、そのうちトッププレイヤー達が何とかしてくれるだろうしそれまでまったり過ごしてよう、とこんな感じである。


「んー、質問でもいい?」


 キヨカは小さく手をあげる。


「別にかまわないすけど、でも答えられない質問もあるんでそこは勘弁っす」


「それじゃーねぇ、どうして運営さんはデスゲームなんて始めたの?」


 これである。キヨカは何時だか自分の置かれた状況理解したときに黒龍リトラに尋ねたことがあったが、言葉を濁されて答えを聞くことが出来なかった。


「えー、それ聞いちゃうんすか? いや、まー答えられない質問じゃないからいいんすけど」


 うーん、腕組みして唸ったトワイライトは少し申し訳なさそうな声色で、


「実は自分バイトなんで詳しい意図とか知らないんすよね。短期のバイトで丁度良かったんで受けたんすけどこんなことになっちゃって……困っちゃいますよねぇ。衣食住が保証されてるんでプレイヤーよりは環境良いんすけどね」


 確かに答えられない質問でもないが、答えを知っているわけでもない。


「そっかぁ」


 少し残念そうだ。


「あー、でも前に上司が……あ、上司って運営メンバーの一人らしいんで色々知ってるみたいなんすよ。で、その上司が『思ったよりも死なねぇなぁ』ってぼやいてたっすねぇ。あれ聞いた時は流石に引いたんすけど。でもその割にはあんましプレイヤーの動向とか気にしてない感じでしたねぇ」


 トワイライトは当時を思い出したのか口元を歪める。


「そんなGMさんはおれ達の味方になってくれたりは?」


「無理無理無理! 何言ってんすか、こっちだって死にたかねーっす。可愛い顔して怖いこと言うんだからもう。こっちは仕事って割り切ってんすから、プレイヤーへの手助けはしませーん」


 両手で大きくバッテンをつくる。


「ケチだなぁ」


「へたれ」


 シスコとごろーからヤジが飛ぶ。とはいえ二人は本気ではない。


「そう言われても皆わが身が大事ってことっすね。んじゃ、質問に答えたところで、お三方に頼みがあるんすよね」


 トワイライトは表情を引き締めGMの顔となる。


「頼みは簡単、黒龍リトラの捕縛を手伝って頂きたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る