第23話
クランとは、親しい、あるいは同じ目的を持ったプレイヤーの集団であり、ゲームのシステムに付随する各種サポートを受けることのできる、プレイヤーの手によって組織される集団である。
その恩恵はすさまじく、所属プレイヤーが自由に利用できるクランハウス、特殊クエストを除く異なるクエスト間、ロビー間での情報共有(このゲームはクエスト中に外部とやり取りができない)、所属プレイヤー間における共有倉庫、個人倉庫、クランメンバーのみでパーティーを組んだ場合、クランの評価も判定に加味されるようになり、追加報酬発生の条件が緩和されるなどがあげられる。
この中で、最も恩恵が大きいのはクランハウスと倉庫機能だろう。このゲームでは、無所属の場合、プレイヤー個人にはパーソナルスペースというものは与えらえていない。しかし、クランハウスなら機能拡張を行うことで個人が占有できる空間を得ることができるのだ。しかも、クランハウスの持つ機能は現代をベースにしているため、だいたいオール電化であるし、風呂も追い炊き機能付きである。
ある意味、現状況で様々なプレイヤーから必要とされている機能を持ったこのクランの設立、なぜみんな設立しないのか、それは、
「5,000万クレジット……」
「なんですのそれ……」
「ぜろ、おおい」
通常の上位クエストの報酬が多いもので1~2万クレジットで、これはレベル90台となる。受けやすいクエストレベル帯とされる60~70あたりだと報酬額が1万を割る。つまり、最低でも上位クエストを三人で2500回はクリアしなければならないのである。(報酬は頭割り)
そりゃ、気軽にクラン設立するプレイヤーがいないわけである。
ポータル近くの多機能コンソールの前で立ち尽くす少女三人。
「ふふ、簡単にクランが設立できていれば路頭に迷う人だってこんなにいるわけはありませんものね、ごろー、消耗品の買い出しに行きますわよ。シスコはその間にちょうどいいクエストを見繕っていてくださいませ」
いぶりーは焦点の定まらぬ目で言いごろーの手を取ってマーケットに向かって歩き出す。
途中足を止め振り返ると、
「シスコ、出来れば温泉のあるフィールドを所望しますわ」
力なく言うと肩を落として歩を進めるのだった。
そんないぶりーに手を引かれるごろーは、
「おさかなたべたい」
いつもの調子でいうのだった。
残されたシスコはいつもの事なので大して気にしない。「テキトーにクエスト受けとくから」と手を振って送り出すだけだ。
二人が売店に入っていったのを見届けるとロビー中央にあるクエスト受注端末に向かう。
「ふーむ、いろいろあるけど、何がいいんだろう」
画面上には現在受注可能なクエストがリストになってずらりと並んでいて、ちょっと画面をスクロールさせるだけでは全部に目を通すことができないほどだ。
一応難易度別に選択できるとはいえ、その数は膨大で、たかが下位レベルのクエストであってもその数は百以上、上位になればその数はさらに増えて千近くとバカに数が多い。しかもクエストごとにフィールドデザインは系統こそあるものの、すべて異なっているという手の込み方である。(売店では基本マップしか売ってないので植生を知るくらいしか役に立たない)
より取り見取り、とはいいようで、この中から目的にかなったクエストを探すのはなかなかに骨の折れる仕事である。
「まぁ、絞り込み機能使うんだけどね」
シスコは誰にともなくつぶやいて、まず絞り込み機能を呼び出し、「難易度条件」の除外項目を「最上位」のみにチェックを入れる。いぶりーが傍にいれば、間違いなく「上位」も除外項目に入れさせていただろうが、ここには居ないのだ。
そして、フィールド条件の項目に「海辺」「水辺」を入力。そして検索を開始する。
それでも画面に現れるのは400近いクエストの数である。まぁ、大抵の場合は地形の都合にもよるが、大なり小なり水辺は存在しているのだ。いくら乾燥地帯の地形でも砂漠でもオアシスのような場所がフィールド内に存在すれば検索条件に引っかかってしまうのだ。
あー、それもそっか、とシスコは苦笑しつつ画面をスクロールさせていくが、下の方になると灰色で表示されたクエストが並び始める。
そう、先日の孤島炎上により、シスコは該当フィールドへの入場ペナルティが発生しているのである。一応タイムリミットは設定されていて、解除まであと半月はかかる。
「そういえば忘れてた……」
苦笑しつつもう一度絞り込み機能を呼び出すと、除外に「孤島」を入力。そして、ついでだからといぶりーのリクエストである温泉をキーワードに入力。
そして検索を掛けると……、
「あったよ」
思わず口にしてしまうのだった。
『真・黒星』
討伐対象は『黒龍リトラ』、クエストのタイムリミットはなし。フィールドは『封じられた火山島』であり、今まで聞いたことのないフィールド名だったが、シスコにはそんなこと関係ない。
むしろ、報酬金が『5000万クレジット』、これである。もう他のクエストを探す気もなくなるような破格のクエストだ。
しかも不思議なことにクエストの難易度欄には何も記載されておらず、これを見たシスコは、
(これボーナスステージってやつか。しかも噂にも上がってこないってことは受注できる人数が限られてる? それかランダムで表示されるクエストだとしたら……早い者勝ちじゃん)
……と、考えた。
考察、出来ているだろうか。大暴投ではないだろうか。
少し前にユイに口酸っぱく気を付けてね、と言われていたにも拘らずユイに髪を梳かしてもらったという楽しくも美しい記憶によってその内容は綺麗に上書きされてしまったのだ。
結果、シスコは特に疑いもせずにクエスト受注ボタンを押すのである。
集合場所の第三ロビーのクエスト用ゲート近くのベンチに少し遅れてやってきたいぶりーとごろー、
「な、なんですの」
「きもちわるい」
緩みきってニヤニヤした顔のシスコを見て顔を顰める。
「んっふっふー二人とも、二人のリクエストに適ったクエストを見つけちゃったんだなーこれが」
シスコは軽い足取りで仲間二人を引き連れるようにしてゲートへと向かう。
「へぇ、そうでしたの。あぁ、温泉、楽しみですわぁ」
いぶりーは正に夢見心地で蕩けたような顔で非常にだらしない。
「ん」
ごろーはというと、あれ、そんなクエストあったっけ? と疑問を抱いていた。
三人が揃って転移ゲートのサークルに入り、転送待機状態になったときにようやくクエスト情報がクエスト参加者の端末に共有される。
普通なら、ここで最終確認をしつつ追加メンバーの募集をやったりするが、この三人には関係ない。むしろ、「早く、出発しますわよ!」いぶりーが囃し立てる。
そんな中、嫌な予感がしてごろーは端末に届いたばかりのクエスト情報を呼び出す。
クエスト名は『真・黒星』難易度は書かれていない。
目にした瞬間、ごろーの記憶から少し前の記憶が呼び起こされる。
ほんの十数分前。
クエスト前にいぶりーと共に買い物をするのが日課になってもうそれなりに経つ。
買い出しでのごろーの担当は常に水である。野外の生水は非常に危険だと経験しているために、大量の水を毎回購入する。その時も、ごろーは買い物かごいっぱいに水を詰め込んで両手で抱えていた。
その隣では、いぶりーが、
「塩浴、塩浴ですわ!」
楽しそうに調味料のある棚から大量の塩を籠に移していた。
そんなとき、二人組のプレイヤーが通路端で深刻そうに話し込んでいたのが目に入る。
ごろーがそれとなく目を向けたのは、その二人が女性アバターで実にけしからん乳をしていたから自然と向いたのだ。揺れる乳袋はロマンの宝庫である。
「なぁ、聞いたかよ第一ロビーの話」
「いや、知らんが何かあったのか?」
「ばっかオメー、八龍クエストがヤベー難易度だってヤツだよ」
「え、なんだよそれ」
内容的には、ログアウト不能、デスゲームから解放するためのキークエストである八龍(煌龍、天龍、冥龍、黒龍、地龍、炎龍、氷龍、嵐龍のこと人によっては祖龍と呼ぶ)関連の話である。
ごろーとしては話の内容よりも、口調と仕草から二人がネカマと分かってしまったことの方がよほど衝撃的だったのだが……。
因みにごろー含めシスコ、いぶりーはこれらの情報が出回ったときは渓谷フィールドで野生の果物探索ツアーに出かけていて詳しく知らなかったりする。
なんか、龍の親玉を倒せば何とかなる、くらいのふわっとした認識で、多分そのうち誰かが倒してくれるだろう、と勝手に思っていたりする。
そのため積極的に情報を仕入れることもしていないのだ。
「でな、このクエストがヤベーのは難易度表記がないから、キーワードがちょっとでも含まれてると下位の検索でもヒットしちまうんだってよ」
「マジかよ、じゃぁ、それで死んだ奴も?」
「ああ、だが、あからさまに怪しいってのと第一の連中があちこち回って警告してくれたおかげで低ランク連中が死んだって話はきかねぇ」
因みに『第一』というのは『第一ロビー』あるいは『第一ゲートロビー』の略で現状で最もデスゲーム攻略に意欲の高いプレイヤーの集まるロビーの事である。いぶりーのかつての寄生先パーティーもそこで活動している。
「ならよかったじゃねーの」
「そうでもないんだよ、第一の連中が警告したのはいいけど、結構な数の腕自慢がクエスト受けてよぉ、結果全員死に戻ったらしい」
「マジかよ」
「ああ、そんでそいつ等よほど酷い死に方したらしくてな、引きこもるか、気が狂ったかしたらしいぜ」
「そんなにヤベーのかよ」
「まぁ、こんな状況だ、命が惜しい奴はまず受けねーって。受けるとしたら自称勇者様か、よっぽどの馬鹿だけだ」
「はは、ちげぇねぇ」
そんな見知らぬ二人組の会話を思い出す。
ぞわり、と全身総毛立つような感覚が沸き上がり、
「……ッ!」
驚愕の表情を浮かべる。
どうにかしてシスコを止めなければ。
やめるように言おうとするがどうにも上手く言葉にできないもどかしさ。
「だめ、まっ……」
ようやく体が、口が動くようになる。
ゲートはもう起動する寸前である。
手を伸ばし、シスコを止めようとした瞬間。
溢れた光が弾けた。
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