第22話
「はー、なるほどねぇ。お風呂に入りたいけど、シスコが紹介してくれないと……」
今は四人、ラウンジのテーブルを囲むように座って事情を説明し終えたところだ。
「そうなんですのよ! まったく心が狭いのですわ」
いぶりーは少しでも味方してもらおうと必死である。
「だからって、知らない人のトコに押しかけて風呂貸してくれはちょっとねぇ」
「何をおっしゃいますの、今は非常時! 助け合いですわよ!」
悲痛な声をあげるが、
「これほど身勝手な助け合いも珍しいな……シスコ、友達は選んだ方がいいよ?」
取り付く島もない。
「こういうヤツなんだ。それでだけど、今後の事考えたら風呂に入る方法、確保しときたいんだよね」
シスコもとりなす気はなく、そのまま話を続けようとするのだが、
「ちょっと、それってどういう意味ですの!?」
横合いでギャーギャーといぶりーがわめきたてる。
シスコはそれを無視することに決めたらしい。彼女の方を見ようともしない。
「なんかいい方法ないかなぁ」
「うーん、ボクが知ってる方法とか聞いたことあるのだったら少し」
スカジの言葉に三人が目を輝かせる。
「教えてもらえると助かるよ」
「ん!」
「そう、そういうのでいいんですわよ!」
いぶりーひとり、何故か上から目線で偉そうである。
「なーんか引っかかるけど、いっか。一つは、デスゲ始まってトイレできたじゃん。そこの水使って洗濯とか体拭くらしい。これ聞いた話ね」
「ほー、まぁ、洗面台から水手に入れればいいのか」
「んー、びみょう」
「はぁー!? 却下ですわ! なんでトイレの水なんかで」
三人の反応はまぁ、それぞれである。
「次はフィールドかなぁ。これは最近までボクらもやってたんだけど、自然地形マップで水場があるトコ選んでそこで済ませる方法かなぁ。川辺とかがあるマップだと大きめの石で風呂みたいにして炎熱系の能力組んでる人に温めてもらったりね。中級くらいだったら平原系と渓谷系のフィールドにあったりするから、オススメかな。それと、同じ水場でも海は止めた方がいいよ。体洗ってもなんか塩気でベタつくし、髪もなんか痛むんだよね」
という具体的な体験談を盛り込んだ素晴らしい情報だ。
「おー、それいいかも。いぶりーいるし何とかなりそう」
「おふろ! ろてんぶろ!」
シスコとごろーは目を輝かせるが、
「はぁー? 冗談じゃありませんわよ! あなたたち、最近私の事をガスコンロか何かと勘違いしていませんこと!?」
「いつも薪に火付けてくれるじゃん」
「それですわ! 毎度毎度人を便利に使わないでくださいまし!」
「でもなぁ、竈はごろーが岩運んだりして作ってくれるし、おれだって食べられるもの探してきたりしてるだろ」
「ぎぶあんどていく」
そうなのだ、ここ二週間くらいはこの分担でサバイバル生活を行っているのだ。ちなみにごろーが狩りに行くとよくわからない謎の肉片を持ってくるのでシスコが交代した経緯がある。
それが分かっているからいぶりーもそれ以上は言い返せずに言葉に詰まってしまう。
「むきー! で、でも私は川べりでお風呂モドキにはいったり洗濯なんてしたくありませんわよ!」
いぶりーの主張に、シスコとごろーは、ああ、家事したくないんだ、なんとなく理由が見えて納得したのだった。そんな三人のやり取りを横で見ていたスカジは思わず腹を抱えて笑いだしてしまう。
「ちょっと、何で笑うんですの!」
「あはは、ほんと面白いメンツ集まったねぇ」
いぶりーの抗議も軽く流すところを見るに、スカジもなかなかいい性格をしている。
「変わり者二人だけど、なんだかんだ楽しくやれてるよ。しっかし、フィールドでサバイバルは決定かぁ」
シスコは変わり者の中らちゃっかり自分を省いていて、いぶりーとごろーからの不満そうな視線にあえて反応しないよう努めている。
「いやいや、そうでもないよ。命がけになるんだけど最上位の現代都市ミッションだったら色々買い物もできるし、ホテルとかに泊まれば割といい暮らしできるよ」
「ホテルが一番寛げそうですのに、最上位クエストだなんて命がいくらあっても足りませんわね」
「それなー、デスゲ前に普通に最上位のクエスト受けてた第一ロビーのプレイヤーも今の状況じゃ結構失敗してて成功率が3割切ってるらしいから、まぁ、選択肢に入れるには厳しいよ。あっちじゃもうライフ残り1点だけってのが百人超えそうな勢いらしいし」
スカジは提案しておきながらそんなことを言う。
「なら何で選択肢にあげたんだよ」
シスコは口をとがらせてスカジをみる。
「んー、ほら、今のPTの実力わかんないし、一応提案としてね。で、個人的には次が本命かなぁ」
「本命、ですの?」
「まーね。シスコだけだったらウチに誘うって手もあったんだけど……三人仲よさそうだしねぇ」
スカジはシスコを見て苦笑する。
「あ、あーもしかして、そういうことか。確かにそれが確実かぁ」
「お、気付いちゃった?」
「なんの話ですの?」
「簡単に風呂に入る方法、それは……クランを作ることだよ」
スカジは少しばかりもったいぶってからいう。
いぶりーは目からウロコだと言わんばかりに目を見開いて、ちょっと前からダレてきたのかテーブルに突っ伏した状態で端末をいじっていたごろーはがばりと顔を上げて目を輝かせる。
「それですわ!」
「ん!」
いぶりーはすぐにテンションを上げて、
「今すぐ申請に行きますわよ!」
勢いよく立ち上がるのだった。
「お、なんか解決っぽい? ならボクはそろそろ行くよ。ステノ、クラン設立したら連絡してよ、連絡会みたいなのがあるんだ」
スカジはそう告げて、颯爽と去っていく。そんな後姿を眺めていると、いぶりーが、
「不思議な方ですわね。初対面な気がしませんわ」
ポツリとこぼす。
「だろ。クラン設立が完了したら招待してお礼もしなくっちゃな」
シスコは感謝の念を込めてそう口にした。
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