第15話
第三ゲート、そのゲート広場の一角で騒がしい三人組の姿があった。
「なんですの! なんですの! なんですの! あのリザルトは!」
両手を握り顔を真っ赤にして地団太を踏むのは金髪ツインテールに赤ゴスという派手な格好をした少女アバター、名をいぶりーという。
「いや、島一つ焼いちゃったんだから仕方ないじゃん」
そんないぶりーを宥めるように肩に手をやるのは、綺麗なストレートの赤髪の少女で、Tシャツにホットパンツ、ニーハイソックスという何というか活動的な格好をしている。
その名をシスコ。
そんな二人の傍にぺたんと床に座り、うつらうつらと船をこぐ少女。十歳くらいの年頃のアバターで淡い水色の癖のある髪をしていて、体つきに似合わない大きなフード付きコートが目につく。少女の名前をごろーという。
「仕方なくありませんわ! 報酬マイナスなんてGMコールものですわ!」
「いやいや、その理屈はおかしいって」
「おかしくありませんわよ。というかせっかく貯めたクレジットが残り15クレジットですのよ!」
「むしろそれくらいで済んでよかったんだよなぁ。所持金はゼロ以下にならなかったし」
シスコの持つ端末に表示された所持金は0クレジットで、元々の所持金を考えればマイナスになっていてもおかしくはなかったのだ。
それに、現実であれだけの被害を出したら、被害額の桁は三つも四つも違ってくるだろうし。しかも施設が焼失したことも考えれば尚更だ。
「うん、おれたちの被害は軽かったと考えるべきだよ。まぁ、孤島エリアの入場制限は痛手だったけど」
「何ですって!? GMコールですわ!」
シスコの手を振り切っていぶりーは端末を通してクレームを入れ始めたらしい。
シスコはため息一つ漏らして、ごろーをそっと背負う。
「とにかく、ここじゃ人通り多いからラウンジスペースに行こう、素材の分配もあるし」
シスコは端末に向かってまくしたて始めたいぶりーに手招きすると人込みを避けつつテーブル席の並ぶラウンジを目指すのだった。
取りあえず食事と食料確保は済んだものの、余計に疲れた気のするシスコである。そして報酬分配が終われば、予定通りに動くつもりなのだ。
そう、妹分補給のために。
取りあえずGMに怒りのたけをぶちまけスッキリした様子のいぶりーと、無理やり起こしたごろーを前にシスコは音頭を取る。
「そんなわけで、今回手に入れた素材なんだけど」
シスコは三人座ったテーブルの真ん中に今回のクエストで手に入れた、カード化したアイテムを並べる。
カードには巨鶏の『頭部』『手羽先』『
それ以外の部位に関しては、特に羽は焼け落ちて殆ど残っておらず、他の部位も焼け焦げていたり、砂にまみれて使う気の起きなかった部分ばかりである。ハツが回収できたのは本当に奇跡と言ってもよくて、実際には一部抉れていたりするが何とか、半分は食えるということで回収してきたものだ。
他にも本当なら半壊していた『頭部』も捨てる予定だったのだが、ごろーの強い希望によって確保することになった。
そんなカードを見てシスコが思うことは、レバー欲しかったな、ぐらいである。レバーは見事に粉砕されており、砂にまみれていて回収を諦めた部位の一つである。ちょうちんやせぎもは最早他の部位とミックスされており、どれがどれだかわからない程であった。砂肝が手に入ったのは、その部位が他の内臓に比べ丈夫だったおかげだろう。ただし、砂肝の中身は中々グロかったし臭かった……。
これらの素材が手に入っただけでも運がよかったのだろう。
「この中で欲しいものあったら言ってねー」
シスコはPTLの責任としてメンバー二人に告げる。誰も欲しがらない場合はマーケットにでも流してそこでの売却金額から皆に分配する予定である。
「ん!」
いの一番に反応したのはごろーである。勢いよく手を上げると巨鶏の『頭部』の描かれたカードを指さす。
「えーっと、ごろーはそれが欲しいのね、いぶりーは?」
「わたくしですの? 別に要りませんわ」
いぶりーは嫌そうな顔をしてしっし、と手を振る。
そう、カードに描かれたイラストは、確かに鶏の頭部なのだが、その片目は飛び出し、口からは舌が大きく飛び出している。それに、小ぶりだが立派な鶏冠は半分ちぎれかけている。
「おっけー、じゃぁそれごろーのね」
シスコがカードをごろーに手渡すと、
「おぉ~」
目を輝かせて頭上に掲げる。
予想通りとはいえ、そんなものが欲しかったのか、とシスコは微妙な気分になって他のカードを見る。
シスコとしては砂肝とむね肉が手に入ればそれでいいのだが、
「いぶりーはどれ欲しい?」
「特にありませんわね。というか、殆ど食材に見えるのですけど?」
いぶりーが訝し気にシスコを見る。通常、クエストで手に入る素材の中には骨などもあって、そういった素材は異能像の制作に流用できたりするのだ。
しかし、テーブルに並んでいるアイテムカードの中にそういった素材系アイテムは見受けられない。
「え? 今は食材って結構重要だろ? 飯食うたびにクエストしてたら疲れちゃうよ」
「それこそ、下位程度なら問題ありませんわ。だから、わたくしはその中で欲しい素材なんて」
「あ、そうなんだ。じゃぁ、これ後でマーケットに出品しとくから」
シスコはそう結論付けカードを束ね始めるのだが、
「はぁ? 何を言っていますの? それはあなたが管理するのですわ」
いぶりーはことも何気にそう言ってシスコを見る。
何を言っているんだコイツは……。
最初にシスコの頭に浮かんだ言葉である。
普通、野良PTでの拾得物は、特定の素材を手に入れたい場合はその時点でのマーケットでの取引額を支払い、PTの残りメンバーで分配する。また、余った素材はマーケットで売却し、後日その金額を参加メンバー全員で分配する。
このゲーム内での常識である。
が、ごろーはその金を出す素振りもない。いぶりーは当たり前のように素材の管理をシスコに求めている。
いったい何が起きているのか、シスコは思考が追いつかない。
「ん、まかせた」
何を思ったのかごろーもそんなことを言い出す。
まるで固定PTを組んだかのような反応である。
「では、次は何処に行きますの?」
「そうげん、あるとこ!」
「いいですわね、爽やかな感じがして、少し涼しい場所というのも良いですわ」
「うし、うし! すてーき!」
ごろーは焼き肉のような野趣な感じはおなか一杯だった。分厚く切った肉をプレートで焼いて、野草を付け合わせにしたステーキを夢想する。
孤島での食事と比べて大した違いは感じられないが、ごろーの中では高級感があるのだ。
「待った、待ってくれおれ達って野良パーティーだよな? 何で次のクエストの話になってんだよ!」
たまらずシスコは声を上げる。
「え? 何を言っていますの?」
「ほん、き?」
ごろーといぶりーには寝耳に水である。
「いや、そのさ、おれ達って偶々一緒にクエスト行っただけだよね?」
「だめ?」
シスコの問いにごろーは首を傾げる。どうせ当てもないのだし、今回偶然だとしても一緒にクエストに行ってシスコは信頼のおける人物だとごろーの中では認識している。何なら料理が出来る人間と一緒に居ればその分楽して食事ができるのだ。
そして、いぶりーは、
「こんな状況ですのよ? お互い頼れる仲間が必要だと思いませんの?」
立派に役者をしていた。実際のとこは、ここでバラバラになると新しい寄生先を探すのが面倒になりそうだ、とかそんなところである。意図としてはそんなところなのだが、この二人の前では余り気を遣わずに済んで気持ち良く遊ぶことが出来る、と無意識に感じていたことも大きく影響していた。
あと、以前のPTメンバーに再会した際に変に繕わずに済むのも大きい。
「そんな目で見られてもさぁ……」
シスコの言に二人は更に目を潤ませる。
「あの、その、わかったよ、おれも用事あるからすぐに次のクエストってわけにはいかないけどさぁ」
言った途端、いぶりーとごろーは笑みを浮かべる。
「信じていましたわ!」
「さすが、できるおんな」
「いや、リアルは女じゃないから」
「で、次はどうしますの?」
当たり前のように言う。
「え? えーっと……ないけど」
シスコには答えようがない、そもそもこの二人と過ごす予定なんてなかったのだ。次にどうするかなんて考えているはずもない。
「ようじ、ある!」
勢いよくごろーが手を上げる。その割に声は割と平坦で、表情は相変わらず眠たげだ。
「それ、どれくらいで終わりますの?」
「ん? んー……、さんじゅっぷん?」
ごろーが首を傾げれば、
「わかりましたわ! では一時間は次のクエストに向けての準備時間で自由時間、後ほどここでまた落ち合いましょう。よろしいですわね?」
まるで素晴らしい思いつきのようにいぶりーは提案する。
提案するのだが、シスコにとっては面白くないし、一時間で満足できるわけがないわけで、
「せめて三時間は欲しいかなぁ」
「では、それで良いですわよ」
「ん」
してやったりとごろーといぶりーは笑みを浮かべる。気が付けばシスコは二人の思惑に踊らされていた。
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