189 集団の侵入者たち


 まず初めに、エクストラの偽装で顔面を少し厳つい骸骨にする。


「ジ、ジン君、その顔は!?」


 するとそれに驚き、ヴラシュが声を上げた。


「いや、このダンジョンで人族が出てきたらおかしいだろ? だから、顔を偽らせてもらった」


 ローブにあるフードもかぶり、なるべく露出部分を無くす。


「私とお揃いね! じゃあ、念のため偽名も考えてはどうかしら?」

「偽名、偽名か……」


 顔面が同じ骸骨になった事に喜ぶ王女にそう言われ、俺は悩む。


 これまで色々と偽名を名乗ってきたが、今回はどうするべきか。


「であれば、ジルニクスはどうであろうか? 魔将ジルニクスだ! 我が国の英雄の名であるぞ!」

「それはいいわね。魔将ジルニクスは、この国が最も激しい戦争をしていた時代にいた英雄ね。万の兵を率いて敵軍をいくつも打ち破り、自身も一騎当千の強者だったらしいわ」

「わぁ、かっこいいですね! 僕も賛成です!」


 エンヴァーグが提案した名前に、二人とも絶賛する。


 魔将ジルニクスか。悪くない。


 今回の偽名は、それにしよう。


「分かった。俺が守護者として戦う時は、魔将ジルニクスを名乗ろう」


 ステータスに偽装をかけて、侵入者からもバレないようにしておく。


 まあ、並大抵の相手では、そもそも俺を鑑定することは出来ないと思うが、念のためだ。


 加えて、レフの見た目も骨の猫に偽装しておいた。


 レフだけぱっと見普通の猫だと、違和感が半端ないからな。


 そうして俺は、侵入者たちがいる城下町へと打って出る。


 三人は、安全な城内から様子を伺うらしい。


 どうやら女王は、ダンジョン内の光景を共有することができるようだ。


 それによると、敵集団はかなりの速度で前進しているらしい。


 既にDランクの守護者二体も、倒されてしまったみたいだ。


 ドヴォールも既に持ち場に転移されており、敵と戦っているが負けるのも時間の問題だろう。


 すると敵の先遣隊なのか、数人の人物がやって来る。


 ちなみに俺の現在いる場所は、城下町と城を繋ぐ城門の前だ。


 ふむ。説明を受けた通り、全力が出せそうにはない。


 加えて横に配下であるレフがいるからか、戦おうとすれば体が動かなかった。


 これが、女王の言っていた制限というやつか。厄介だが、仕方がない。


 であればここは、配下たちに任せよう。


 だが先遣隊が戻ってこなければ、相手は警戒するかもしれない。


 ならここは、程よいモンスターで油断させつことにする。


「いでよ」


 そして俺が召喚したのは、このモンスター。



 種族:ハイスケルトン

 種族特性

【生命探知】【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】



 ザコモンスターであるが、その数は百体。


 この数を見て流石の先遣隊も立ち止まり、引き返していく。


 そうだ。数百人いるんだろ? 沢山連れてこい。


 俺はその間に、いくつか布石を打っておく。


 これで何かあっても、挽回できるだろう。


 そしてしばらくすると、思った通り大人数でやって来る。


 ハイスケルトンを百体向かわせるが、やはり相手にはならない。


 この大陸に来ている時点で、それなりに戦えると思った方がいいな。


 見たところ弱い者でも、Dランク冒険者くらいの実力があるみたいだ。


「召喚者のサモナーを倒せ! こいつらを幾ら倒しても無駄だ!」


 すると倒したハイスケルトンが消えるからか、指揮官のような人物がそう叫ぶ。


 まあ、当然の答えだろう。


 ハイスケルトンも全滅しそうだし、次を出した方がいいな。


 それにまだまだ、実力を出すには時間が必要みたいだ。


「ほら、次は大変だぞ?」



 種族:ボーンリザード

 種族特性

【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】【生命探知】

あぎと強化(中)】【物理耐性(小)】

【威圧】【シャドーネイル】



 その数は三十。ハイスケルトンはEランクだったが、今度は一つ飛び越えてCランクだ。


「ひぃ!?」

「ぐぉ!?」

「なぁ!?」


 すると急には対処できず、弱い者からやられていく。


 ボーンリザードの顎は、とても強力だ。


 Cランクでも、上位の威力を持つ。Dランク冒険者程度の実力では、その油断が命取りだろう。


「くっ! 援軍の要請に行け! 我々では対処しきれん! ぬぉおお! ファイアウォール!」


 状況が不味いと判断したのか、指揮官がそう叫び炎の壁を作り出す。


 それにより、ボーンリザードの群れを二つに分断させた。


「今のうちだ! 先に数で仕留めろ!」

「うぉおお!」

「やってやらぁ!」

「スラーッシュ!」


 そして炎の壁の内側に残った数体のボーンリザードを、数の利で倒していく。


 ふむ。人の大集団と戦うのは初めてだが、やはり単純にはいかなそうだ。


 こっそりダンジョン内に飛ばしているアサシンクロウから確認すると、上手く連携をして倒している。


 だがそこに、単独で倒す者の姿は無い。


 この集団には、状況を一変させるレベルの強者がいないのだろう。


 もしかしたら、そのような強者は後方で待機しているのかもしれない。


 ダンジョンでなるべく、強者を消耗させない作戦だと思われる。


 この先のボス戦を考えたら、悪くない作戦だろう。


 だとすれば、この集団はつゆ払い係といったところか。


 援軍に何人か走って行ったし、数が増えすぎると面倒だな。


 なので追加でスケルトンアーチャーを百体召喚すると、同時に弓を放つように命じる。


 スケルトンアーチャーの矢は、ファイアウォールを超えて次々と落ちていった。


「ぎゃっ!?」

「矢が降ってきたぞ!」

「シールド! シールド!」


 当然向こうは阿鼻叫喚であり、敵集団は混乱に陥る。


 だが、それだけでは終わらない。


「行け」


 俺は残りのボーンリザードへと命じ、ファイアウォールに突入させた。


 大ダメージは避けられないが、それでやられることはない。


「なぁ!?」

「嘘だろ!」

「て、撤退! 撤退!」


 不意に現れたボーンリザードの追撃になす術なくやられ、敗走していく。


 ファイアウォールも同時に消えたので、追加でボーンビーストを二十体召喚して追わせる。



 種族:ボーンビースト

 種族特性

【生命探知】【爪強化(小)】

あぎと強化(小)】



 狼に似た骨の獣、ボーンビーストは、敗走中の敵を追いかけていく。


 ザコモンスターだが、敗走中であればそれなりに活躍するだろう。


 視界を一部共有して、観察する。


 案の定何人かは追いつかれて、ボーンビーストの餌食になっていた。


 普通に立ち向かえば倒せるはずだが、状況や恐怖心により正常な判断ができないのだろう。


 思わぬ形で、ボーンビーストが役に立った。


 けれどもそんな好調な追撃も、長くは続かない。


 無数の魔法が突然飛んできて、ボーンビーストたちをあっという間に蹴散らした。


 魔法部隊か。これは少し面倒だな。それに、前衛が大事に後方を守っている。


 次にやってきたのは大盾を構えた集団と、その背後にいる魔法使いの集団だ。


 ボーンリザードを向かわせるが攻撃は大盾で塞がれ、相手は確実に魔法で仕留めていく。


 またスケルトンアーチャーの一斉掃射も、魔法で防がれた。


 逆にいくつも魔法が飛んできて、スケルトンアーチャーを消し飛ばしていく。


 正にこれこそ、軍の部隊という感じだな。


 これは、Cランクではきつそうだ。


 加えて、大きすぎるモンスターも魔法の的になる……まあ、こちら側に出せばな。


「蹴散らせ、ガシャドクロ!」



 種族:ガシャドクロ

 種族特性

【闇属性適性】【闇属性耐性(大)】

【物理耐性(中)】【魔法耐性(小)】

【生命探知】【マナドレイン】

【再生】【瘴気生成】



 そう言って召喚したのは、ガシャドクロ十体。それも、敵集団の真後ろにである。


「ひぃい!?」

「いったいどこから!?」

「そんな馬鹿なっ!? サモナーが召喚できるのは自身の近くだけのはず!?」

「近くに別のサモナーがいるはずだ!」

「それよりコイツを早く倒せ!」

「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボールゥウウ!!」


 突然現れたガシャドクロに、敵は対処が追いつかない。


 瘴気と共に、腕や足から強烈な一撃が放たれる。


 加えて的が大きいとしても、ガシャドクロは耐久型のモンスターだ。


 簡単にはやられない。


 更に後方にいたのは、耐久面がもろい魔法使いたちである。


 当然、耐えられるはずもない。


 ガシャドクロの一撃で、簡単にミンチになる。


 流石はBランク。結構強いな。


 巨体から繰り出される純粋な物理攻撃に、物理と魔法両方に耐性を持つ耐久型。


 再生のスキルを持ち、瘴気という毒とは違った状態異常攻撃もある。


 このガシャドクロを設計したヴラシュは、戦闘に才能が無くとも、こちらの才能は十分にあったみたいだ。


 敵集団は、次第に壊滅していく。


「これで終わりか」


 俺がそう、口にした直後だった。


 一筋の光が、ガシャドクロの頭部を唐突に撃ち抜く。


 続いて大剣を持った男が、ガシャドクロをみごと唐竹割からたけわりして見せた。


 更に他のガシャドクロたちが不自然に動けなくなり、そこへ次々と槍のような矢が打ち込まれていく。


 残った個体も似たように仕留められ、あっという間にガシャドクロが全滅した。


「どう考えても、あれは場違いだよねぇ」

「ああ、そうだな。ここはまだ前半だろ? あのランクはあり得ねえ」

「ガシャドクロ? 初めて見るアンデッドでしたね。おそらくBランクでしょう」

「だとすればあの骨のサモナーは、イレギュラーモンスターじゃねえか?」


 するとそんな風に会話を交わしながら、四人の人物がこちらを凝視するのだった。


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