190 四人組の強者


 すると早速、鑑定が飛んでくる。

 

 だがそれを打ち消し、お返しに鑑定を飛ばす。


 しかしその点は対策済みなのか、鑑定が通らない。


 無理やり鑑定を通そうとしたが、ここで全力が出せないことが裏目に出る。


 残念だが、鑑定は諦めるしかなさそうだ。


 幸い超級鑑定妨害と偽装のコンボで、こちらの能力を見破られることはない。


 それはそうと、あの四人は明らかに強者だろう。


 ちなみに塔で見た冒険者とは、別の四人組だ。

 

 特徴は大剣を持った筋骨隆々の茶髪の男と、茶髪ロングヘアの女。


 次に金髪糸目で、ガシャドクロの動きを止めたと思われる男。


 最後に大きな弓と、槍のような矢を持つ赤髪で筋肉質の男だ。


 強者であろうこの四人には、流石に油断はできない。


 骨系で統一していたが、そうも言っていられそうにないな。


 冒険者だとすれば、最上位のSランクかもしれない。


 だとすればAランクのボーンドラゴンでも、単独であれば倒されるだろう。


 これは、思ったよりもピンチかもしれない。


 であれば、もうなりふり構ってはいられないな。


 故に俺はまず、相手の体力を削ることにした。


「いでよ」


 そして召喚したのは、以下の通り。



 ・スケルトンソードマン300体

 ・スケルトンアーチャー300体

 ・スケルトンソーサラー300体

 ・スケルトンナイト90体


 ・ネクロオルトロス1体

 ・ネクロハウンド30体

 ・ボーンリザード70体

 ・アーマーゾンビ100体


 

 召喚した合計は、1,191体の軍団となる。


 もちろん正面には出しきれないので、建物の中や屋根も使い、敵を囲むように召喚した。


「なにっ!? この数はありえねえだろ!?」

「普通のサモナーじゃないわ! 気をつけて!」

「くっ、流石にこれは、厳しいですね」

「ここまで囲まれると、逃げられねえな。おめえら、死にたくなきゃ道を切り開け!」


 あまりの数に、四人組も警戒をあらわにする。


 また大弓の男が他の侵入者たちにそう言って、後方の退路を確保させ始めた。


「し、死にたくない!」

「俺は逃げるぞ!」

「くそがっ!」

「とにかく後ろの敵を倒せ!」

「む、無理だ! 数が多すぎる!」


 そして他の侵入者たちは生きるために、必死で退路を確保しようとあらがう。


 まあ、それについては構わない。


 むしろ、逃げやすいようにしてやろう。


 あえて俺は、退路にいるモンスターの数を薄くする。


 ここであの四人組に協力される方が、面倒だ。


「サークルスラッシュ!」

「ライトレーザー!」

「スレッドトルネード!」

「サークルアロー!」


 すると四人組が範囲攻撃を行い、俺の配下たちを倒していく。


 サークルスラッシュは、大剣を自身を中心として円を描く一撃だ。


 スケルトンソードマンやアーマーゾンビを、簡単にほふっていく。


 次にライトレーザーは、ガシャドクロを倒した一筋の光だ。


 縦攻撃であり、後方のスケルトンソーサラーやアーチャーにも被害を出している。


 そしてスレッドトルネードは、おそらく糸系の攻撃だろう。


 細い何かが嵐のように荒れ狂い、範囲にいるモンスターを細かく切り刻んでいく。かなり強力な技だ。


 最後にサークルアローは、放った矢の周囲に魔力の矢がいくつも複製され、雨のように降り注ぐ攻撃である。


 サークルスラッシュと名称が似ているが、明らかにこちらの方が上位スキルだろう。


 前者のサークルスラッシュが中級だとすれば、後者のサークルアローは上級だと思われる。


 この技で後方にいたスケルトンソーサラーとアーチャーが、一度にたくさん倒されてしまった。


 一回の攻撃で、かなりの被害が出てしまったな。


 しかし全体を見れば、配下の総数は一割も削れていない。


 このまま四人組にスキルを使わせ続ければ、疲労していくだろう。


 もちろんポーション類の回復もあり得るが、あれは傷と魔力を回復するだけで、疲れはとれない。


 それに液体であるポーションは、無限に摂取できるものでもないだろう。


 持久戦なら、こちらに分がある。


 俺はそう考えながら、軍団の水増しにただのスケルトンも召喚していく。


 攻撃を無駄打ちさせるだけで、十分役に立っていた。


 スケルトンのカードは1,000枚もあるし、どんどん出していこう。


 また残りのゾンビ系も召喚して、戦闘を長引かせた。


 するとその間に他の侵入者たちが退路を切り開き、撤退をしていく。


「よし! 味方が退路を確保したみたいだぞ!」

「これは私たちも、一度撤退をしましょう」

「そうですね。ここまで敵が多いとは予想外でした」

「ちっ、今回は大失敗だな。味方の損害もでかすぎるぜ」


 四人組も進んで殿しんがりを勤めながら、少しずつ撤退しようと動き始めた。


 だが、そうはさせない。


 お前たちに逃げられるのは、流石に認められないな。


「出てこい」

「ギャオオオオン!!」


 そして四人組の退路を塞ぐように、俺はボーンドラゴンを召喚した。



 種族:ボーンドラゴン

 種族特性

【火闇属性適性】【火闇属性耐性(大)】【生命感知】

【ファイアボール】【シャドーネイル】【ダークフレイム】

あぎと強化(大)】【物理耐性(中)】【威圧】

【生魔ドレイン】【再生】【飛行】


 エクストラ

【ダンジョンボス】


 スキル

【自然魔力回復量上昇(中)】【骨食い】

【ダークフィールド】【瘴気生成】



「なんだとっ!?」

「これはどう見ても、ダンジョンボスクラスじゃない!?」

「え? 鑑定結果がスケルトン? これは、偽装されていますね。まさか、私の鑑定が欺かれるとは……」

「そんなこと言っている場合じゃねえだろ! 確実にAランク以上だ! やるしかねえぞ!」


 ボーンドラゴンの登場に、四人組も驚き戸惑う。


 ちなみに細かく偽装している暇が無かったので、近くにいたスケルトンの能力をそのまま移し替えるように偽装した。


 また俺が直接戦闘することは現状不可能だが、こうした配下へのサポートは問題ないらしい。


 であれば軍団指揮の効果も適応されていると思うので、通常よりも強くなっているはずだ。


 

 名称:軍団指揮

 効果

 ・一定数の味方の数に応じて、味方のあらゆる行動に補正がかかる。

 ・ある程度の距離や数が入り混じっていても、狙った個体と情報共有などの意思疎通が容易になる。



 このスキルは、今の立場と非常に相性が良い。


 俺がそんなことを考えている間にも、場面が動く。


 ボーンドラゴンは召喚された瞬間に、四人組に向けて大技を発動した。


 当然それはグインも苦しめられた、ダークフレイムだ。


「っ!? ライトシールド!!!」


 すると茶髪の女性が光の盾を作り出し、ダークフレイムを見事受け止める。


 凄いな、あのダークフレイムを受け止められるのか。


 それに、残りの三人もただ見ているだけじゃないみたいだ。


 普通の冒険者なら、他のメンバーはここで何もできないだろう。


 しかし、こいつらは違った。


「ホーミングアロー!!」


 大弓の男が斜め上空に矢を撃ち、ボーンドラゴンに攻撃を加える。


「スレッドガーディアン!」


 続いて糸目の男が光の盾の前にゴーレムのような糸の巨人を作り出し、ダークフレイムを受け止めさせる。


「ショットスラッシュ!」


 そして大剣の男が跳躍すると、ボーンドラゴンに斬撃を飛ばした。


 即座の対応としては、かなりのものだ。


 しかし四人組の連携は、それで終わりでは無い。


「ライトクラッシュ!」


 スレッドガーディアンで手の空いた茶髪の女性が、光の衝撃を繰り出した。


 まるで流星のように落ちる光の衝撃を感じ取って、当然ボーンドラゴンはダークフレイムを止めて回避行動を……しない。


 そのまま構わず、ライトクラッシュを受けさせる。


 光属性の攻撃に、ボーンドラゴンは大ダメージを避けられない。


 事実、この攻撃でダークフレイムを止めてしまった。


「おっしゃ! 命中だぜ!」

「ふふ、どうやら避けられなかったみたいね」

「だがまだ倒せてねえ、追撃をするぞ!」

「そうですね、このまま……待って下さ――」


 糸目の男が何かに気がついたようだが、もう遅い。


「グォオオウ!」


 その時には既に、召喚されていたグインが四人組の後ろからウォーターブレスを解き放つ瞬間だった。


 現れるAランクモンスターは、一体じゃないという訳だ。


 強敵を倒せば同等の敵はまず出ない。ダンジョンに慣れ過ぎれば、そんなバイアスがかかるのかもしれない。


 加えて強敵に大ダメージを与えて、倒せるかもしれない状況。


 意識はどうしても、そちらに向いてしまう。


 例え先ほどの一撃で倒せたとしても、十分な油断となる。


 結果として、その一瞬の油断が命取りだ。


「ぐおおおおお!!!」

「バーディ!」

「くそがっ!」

「えっ!?」


 だが、そこは流石の強者。ギリギリで気がついた糸目の男が、ウォーターブレスを一人で受け止める。


 糸を駆使してダメージを減少させているみたいだが、それで耐えられるものではない。


 ウォーターブレスが止んだとき、糸目の男は事切れていた。


「見事だ」


 思わず俺は、そう呟く。


 残った三人は仲間が死亡したと判断するや否や、悲しみを吹き飛ばして体制を立て直す。


 そこで心を乱さないのは、素晴らしいの一言だ。そして三人はすぐさま、こちらの分析を始める。


「何だこいつ。巨大な白いワニだと? ここはアンデッドしかいないはずじゃ?」

「いても、闇属性でしょ、あれはどう見ても違うわよ。場違いすぎるわ」

「それにこんなモンスターを続けて召喚するとか、あの骨野郎はいったい何者だ?」


 流石に、俺の存在がおかしいと思い始めたらしい。


 だが、ここからどうする? 前門のグインと、後門のボーンドラゴンだ。


「これはもう、どうにかして逃げるしかねえぞ」

「そうね。なら後ろの骨のドラゴンしかないわ。幸いダメージも大きそうだし、倒せなくとも突破はできるはずだわ」

「ちっ、それしかねえか。賭けるしかねえ」


 どうやら、作戦は決まったみたいだ。


 三人は普通に作戦を口に出しているが、俺に聞こえないと思っているのだろうか?


 おそらく現状聞かれたとしても、即座に意思決定する必要があったのだろう。 


 まあ実際、三人の声は十分俺へと届いている。


 俺は近くにいるモンスターと感覚を繋げれば、音が拾えるからな。


 未だに軍団は、壊滅してはいない。


 あとはそもそもとして、モンスターが言葉を理解するとは考えてもいないのかもな。


 先にドヴォールたちと遭遇したはずだが、会ったのはこの四人組ではなく露払い係だったのだろう。


 まあ、今更どうでもいいことか。結局この戦闘は、もうすぐ終わる・・・のだから。


「ま、待て、何か聞こえないか?」

「お、おい! 上を見ろ!」

「うそ……でしょ」


 三人が見上げる上空、そこには、溶岩の龍がいた。


 溶岩の龍は生き物のように動き、三人へと迫る。


「ライトシールド!!!」


 そして上空からぶつかってくる溶岩の龍を、茶髪の女性が必死に防ぐ。


 だがその威力は、ダークフレイムの比ではない。


 加えて機を計ったかのように、周囲の軍団が突撃する。


「ちくしょう! ふざけるな!」

「だぁあああ! あり得ねえだろお!!」


 周囲から襲ってくるアンデッド軍団を、男二人が必死に倒す。


「えっ、やだ。だめ、うそでしょ……本当に、おねが――」


 そして茶髪の女性の祈りも虚しく、溶岩の龍が三人を飲み込んだ。


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