188 城内の案内


 それから城下町で他の説明を聞いた後は、続いて城内へと移動する。


 城内はぱっと見同じ作りだが、やはり色々と違うらしい。


 出現するモンスターは、Cランク以上とのこと。


「この城内にも二体の守護者がいて、その二体から手に入る鍵が無ければ、女王の間に入れない感じなんだよね」

「なるほど」


 城にいるとすれば、その守護者は結構強そうだな。


「まあその守護者は、エンヴァーグさんとメイドのシャーリーなんだけどね」

「そうだったのか」


 エンヴァーグは黄金の騎士だし、強そうなので納得ができる。


 だがしかし、あの半透明なメイドのシャーリーとは意外だった。


 ああ見えて、結構強いのかもしれない。


「あとは、強敵部屋もあるよ。その内の一つは僕が手がけていてね。一体だけど、僕がデザインしたモンスターもいるんだ。ガシャドクロっていって、でかいスケルトンなんだよ」

「ガシャドクロ……あれはヴラシュが考えたのか」


 だとすれば、俺が戦ったガシャドクロはこのダンジョンから出荷されたのだろう。


 よくよく考えれば、アンデッド軍団の中でガシャドクロだけ妖怪の名前だな。


「うん。そうなんだ。新しいモンスターを産み出すのは凄くコストがかかるみたいなんだけど、特別に作らせてもらったんだよね。って、ジン君はガシャドクロと戦ったことがあるのかい?」

「ああ、国境門から出てきたから、この大陸に来る前に倒したぞ」

「そうなんだね。何だか少し悔しいけど、とても頼りになる情報だ。ガシャドクロはBランクだから、このダンジョンでも強い方なんだよね」

「ガシャドクロで強い方なのか」


 カオスアーマーを纏った俺なら、簡単に倒すことができた。


 しかし塔のダンジョンではそもそも、Bランクは出てきていない。


 だとすれば、それだけでこのダンジョンの方が格は上だろう。


 たぶん守護者であるエンヴァーグも、B~Aランクな気がする。


 ダンジョンボスのボーンドラゴンよりは弱いみたいだが、そこまでの差は無いかもしれない。


 そう考えていると、ヴラシュがちょうどその事について教えてくれる。


「うん、エンヴァーグさんはAランク、シャーリーはBランクなんだ。その二人を除けば、ガシャドクロはこのダンジョンで三本の指には入るよ」

「なるほど。だとすれば、他のダンジョンボスを倒した者が来たら不味そうだな」

「そうなんだよね。だからジン君が守護者になってくれて、とても助かるよ」


 やはり、エンヴァーグはAランクなのか。それでメイドのシャーリーは、Bランクらしい。


 それとガシャドクロが三本の指に入るという事は、同じくらいのモンスターがあと二種類ほどいるのだろう。


 思わずカード化したい気持ちに駆られるが、守護者となった以上それは諦めるしかない。


 そんなことを思いながら、俺はヴラシュにダンジョン内を案内してもらう。


 だがその時、不思議なことが起きる。


 周囲のモンスターが途端に消え始めたかと思うと、いくつかのドアや通路が消えていく。


「これは、いったいどうしたんだ?」

「見た限りダンジョン構造をいくつか消しているみたいだね。一応表の城に戻ろうか」

「ああ、分かった」


 ヴラシュにそう言われて、俺は一度ダンジョンを出ることになった。


 ちなみに表の城というのは、最初に俺が足を踏み入れた方である。


 モンスターがいてダンジョン化している城と城下町が、裏ということらしい。

 

 そうして俺たちが表の城に戻ると、メイドのシャーリーが待っていた。


「シャーリー、裏のダンジョンについて何か知っている?」

「はい、それについて女王様がお話があるようなので、ご案内いたします」

「分かった、案内してくれ!」


 ヴラシュとシャーリーの間でそのようなやり取りがあり、俺も案内に続いていく。


 通された部屋は、女王と契約について話し合ったあの部屋だった。


「ちょうど来たみたいね。ダンジョンについてでしょ? 今から説明するわ」


 女王は既にソファに座っており、その背後にはエンヴァーグもいる。


 俺とヴラシュもソファに座り、早速話を聞くことにした。


「えっとね。簡単に説明すると、容量が足りなかったの」

「え? 容量ですか?」


 ヴラシュが女王の言葉に驚いて、思わずそんな風に訊き返す。


「うん、容量。ジン君を女王の間の前に配置しようとしたら、あり得ない量のコストを要求されちゃってね。結構余裕があったはずなのだけど、それでも足りなかったから色々と削除したわ。

 結果として城下町と城内共にサイズを縮小して、ある程度のモンスターと罠類を削除したの」

「ええっ? ダンジョンのあれは、そういう事ですか。ジン君って、そこまで凄かったんだね」


 どうやらダンジョンにも俺のカード召喚術のように、容量という概念があるらしい。


 それで必要な俺のコストが、尋常ではなかったのだろう。


「そこまでどころじゃないわ。これだけ削っても足りなかったから、戦闘する際のジン君にいくつか制限をすることになったの」

「制限?」


 おれはそこで、ようやく口を開く。


 どれくらいの制限かは不明だが、状況次第では相手に負ける可能性も出てくる。


「そう。制限よ。まず最初から全力で戦えなくなるわ。加えてレフちゃんのような配下がいるなら、一緒に戦うこともできない。動けるのは先に配下を戦わせて、相手に負けた場合になるわね。

 一時的な守護者とその配下は復活できないから、負けそうなら事前に引かせるか、そもそも戦いに出さない方がいいわね」

「なるほど。その場合、配下に何か制限はあるのか?」

「いえ、配下には制限は無いわね」


 どれくらい全力を出せないかは、気になるところだな。


 後から全力を出せるという事だろうか? であれば、何とかなるかもしれない。


 それと配下に制限が無いのであれば、俺自身が戦わなくてもどうにかなる可能性もある。


 最悪の場合は、ゲヘナデモクレスも召喚可能だ。


 加えてグインとボーンドラゴンを二体同時に出せば、それだけで塔のダンジョンより難易度は上がる。


 逆にそれを倒せる者が現れたら、なりふり構ってはいられない。


 とりあえず、全力を出せるのはいつになるのかを訊いてみよう。


「そうか、なら全力を出せるのはいつからになるんだ?」

「それについては、ダメージを一定以上受けることで、段階的に解放されていくわ。また戦闘時間の経過と共に、少しずつ解放されていくわね」


 であれば、配下で時間を稼げば問題はなさそうだ。

 

 軍団を出せれば、相手が強くてもすぐには壊滅しないだろう。


 なら、最終的に俺の戦いを女王は知ることになるだろうし、ある程度ここで話しておくか。


「なるほど。それについては理解した。ちなみに俺の戦う場所だが、出来る限り広くしてほしい。俺はサモナーでもあり、大量の配下を召喚することができるんだ」

「うーん。大変だけど。分かったわ。部屋の広さは、城下町をある程度削ればたぶん大丈夫だと思う。けどその分挑戦者の到達まで早まるからね」

「ああ、それについては了解した」


 頼んだ結果、俺の戦う場所が結構広くなりそうだ。


 どれくらい広くなるかはまだ分からないが、100体くらいは召喚しても大丈夫であればありがたい。


「にしても、ジン君って僕が考えていた以上に、凄い人物みたいだね。これは、守護者にしようと判断した僕のファインプレーだね」

「ええ、ヴラシュ君がそうしなければ、たぶん私はジン君に倒されていた気がするわ」

「であればジン殿は、とても頼りになりそうですな! しかし個人的には、戦ってみたい気持ちもありましたぞ」


 コストの重さから予想して、俺が相当強者ということを理解したらしい。


 確かにダンジョンの情報を得た今では、ほぼ確実に踏破する自信がある。


 まあ契約した以上、問題が無ければ俺がこのダンジョンを攻略することは、おそらくないだろう。


 そんなことを考えていると、城の外に待機させているアサシンクロウから、驚くべき情報が届く。


 これは、かなり不味いな……。


 一定の距離から城が発見できたように、その逆もあり得たという事だ。


 俺がその事を伝えようとした瞬間、慌てたようにドヴォールも部屋に入ってくる。


「失礼いたします! 敵の大群が現れました! 数は推定数百! ザグールが時間を稼ぐと申してましたが、すぐに突破されると思われます!」

「な、何だと!? ドヴォールよ! それは誠か!?」


 敵の大群がやってきた報告に、緊張が走る。


 そう、アサシンクロウの報告も、同じだった。


 ここまでくる時間が早かったのは、アンデッド特有の生命探知で先に見つけていたからだろう。


「ッ! ザグールがやられたわ。敵も続々と、侵入してきている。くっ、タイミングが最悪ね。現状は削除処理中で、ダンジョン機能が殆ど機能していないわ」

「ええ!? そ、それは不味いじゃないですか!」

「そうね。たぶん数時間以内に城下町は突破されるわ。ルートも単純になっているから、迷う事もおそらくないわね」


 状況は、かなり不味いらしい。


 数は力だ。数百人も侵入者がいたら、女王の間に辿り着くのも時間の問題だろう。


 だが、これはちょうどいい。


「その数百人の侵入者。俺が蹴散けちらそう。幸い数の多い敵と戦うのは、得意なんだ」


 俺はそう言って、ソファから立ち上がる。


「にゃん!」


 レフも、待ってましたというように鳴く。


「お願いできるかしら」

「ああ、任せてくれ」


 そうして守護者となって早速、俺に出番が回って来るのだった。


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