187 城下町の案内


 あれから無事に守護者へと任命された俺は、現在ヴラシュに案内されて、ダンジョン・・・・・内を歩いていた。


 そう、あの城の中ではない。いや、見た目はそっくりであるが、別物だ。


 どうやら城と城下町の構造とそっくりのダンジョンが別にあり、正門の出入口の魔法陣はそちらに繋がっているらしい。


 つまり城と城下町は、それぞれ同じものが別に存在している。


 もちろんこちらは侵入者用のダンジョン仕様であり、全く同じという訳ではなさそうだ。


 なので俺が先ほどいた城に侵入者は、通常これないみたいである。


 本来の城の防衛が皆無なのは、こうした理由があった。


 それと守護者の指輪だが、左人差し指に付けていた呼吸の指輪と変えている。


 紫黒しこくの指輪と変えるのは、直感的に不味いと感じたので止めた。


 もしもの時ゲヘナデモクレスを召喚する可能性もあるし、どちらかなら呼吸の指輪一択だろう。


 また女王とエンヴァーグだが、俺を一時的な守護者にしたことで、何か調整しなければいけないらしく別行動となっている。


 そういう訳で現在はこうしてヴラシュに案内されながら、説明を受けていた。


「この城下町は見た目以上に広く、隅から隅まで回ろうとすれば、数週間は余裕でかかるんだよね。これは城も同じで、容易には攻略できないわけなんだ。

 このダンジョンは城下町と城の二エリアしかないけど、攻略時間はかなり長くなる可能性が高いんだよね」

「なるほど」


 城下町は、想像以上に広いらしい。


 俺でもそう簡単には、辿り着けそうにないだろう。


 他にも正面には城が見えるが、真っすぐ進み続けても辿り着けるわけではないようだ。


 加えて迷路のように入り組んでおり、屋根に上って向かうのも出来なくしているらしい。


 先ほど歩きながら、そんな説明も聞いた。 


「まあここに来るような挑戦者なら、最速で数日ほどあれば突破できるらしいんだけどね。城下町は人数制限が無いから、人海戦術という手もあるらしいし、少しずるいけど仕方ないんだ」

「人海戦術か。それがアリなら、あっという間に突破されそうだな」


 俺も配下を大量に召喚すれば、案外早く攻略できるかもしれない。


 そう思ったのだが、やはり単純にはいかないようだ。


「いや、城に入るには、城下町にいる守護者四体から旗を手に入れる必要があるんだよね。それを城門の前に突き刺すと、開くんだ。

 だからそう簡単にはいかないと思う。けど、他のダンジョンでボスを倒した者たちが相手だと、やっぱり負けちゃうね」


 確かにボーンドラゴンを倒せるのなら、それより弱い守護者では時間稼ぎが関の山か。


「そうか。なら、その旗の一つを俺が守ればいいのか?」


 であれば俺の守護する場所は、その旗の一つだろうか?


 そう思い、ヴラシュに問いかけてみる。


「いや、ジン君には城の最深部、女王の間の前を守護することになると思う。これはダンジョンのシステムと関係するのだけど、周囲に配置できるモンスターは、守護者の力量と階層に大きくかかわるみたいなんだよ。 

 つまり他でダンジョンボスを倒したジン君は、低くてもBランク、高ければAランク以上になるはず。だから城下町に配置すると、弱い通常のモンスターが配置できなくなる可能性があるんだ」

「なるほど。そうなのか」


 ダンジョンのシステムについては一切知らないため、勉強になる。


 全てのダンジョンが同じとは限らないかもしれないが、目安にはなるだろう。


 思えばダンジョンは階層が浅いほど弱く、深いほど強い。


 塔の守護者であったスケルトンナイトのいた十階層付近は、確かにランクがDとCだった。


 ただダンジョンボスのボーンドラゴンがAランクと考えると、ダンジョンボスは例外なのかもしれない。


 その一つ前の階層に出たのは、Cランクモンスターだった。


 あとはグインのようなイレギュラーモンスターは、それとは関係なく極稀に現れるのだろう。


 であれば唯一ランクをある程度無視できるのは、ボス部屋の前だけかもしれない。


 レフと融合したブラックレオパルドが、それだった可能性がある。


 あれはハパンナダンジョンの最下層に、一体だけいた強いモンスターだった。


 といってもCランクだったし、他に出現したのはDランクだったから大きく離れた訳ではなかったが。


 若干、こことシステムルールが違うのかもしれない。


「だから城下町はスタート地点から近い順に、守護者のランクはD、D、C、Cとなっているのさ。ちなみに例外として指揮系統モンスターがいる場合、その下位モンスターであれば、弱くても出すことが可能なんだよね。

 だから同系統の上位種と下位種を揃える方がコスパが良いらしいよ。あとは担当場所が無かったり、自ら移動すれば一時的にそれを無視できるみたい。僕たちがこうしているのがそんな感じだね」


 なるほど。塔のダンジョンでゾンビ系統が一気に出てきたのは、ノーブルゾンビが指揮していたからか。


 あとはダンジョンのコストパフォーマンスと考えると、やはり魔力を支払う量と関係している気がする。


 ダンジョンの運営も、そう単純ではないようだ。


 そう考えると、ボーンドラゴンや以前戦ったグレートキャタピラーがダンジョン運営をしていたとは考えづらいのだが。


 また自ら移動可能であれば、ダンジョンボスの前に配置した強い個体を浅い階層に向かわせればいいのではないだろうか?


 そうした部分が気になり、ヴラシュに問いかけてみた。


 すると、こんな答えが返ってくる。


「ダンジョンは基本的に、自動で変わっていくみたい。だから、知能の低いダンジョンボスでも運営は可能らしいよ。

 その点ルミナリア女王様は、自分で色々調整してる感じだね。その分自由度が高くなるけど、毎日大変みたい」


 そうだったのか。であれば、グレートキャタピラーといった知能をあまり感じさせないダンジョンボスでも、運営可能かもしれない。


「それで移動の件だけど、これはルミナリア女王様の頑張りの成果だよ。自動でダンジョン運営をしているところだと、階層間を超えることができないらしいんだよね。

 加えて自ら自由に行き来できる数は、そこまで多くはできないんだって。元々守護者の指輪にその権限が付与されていると思うんだけど、今もルミナリア女王様が頑張って細かい調整していると思うよ」


 なるほど。まあこれまでのダンジョンを見れば、納得だ。


 守護者の指輪にそうした効果は記載されていなかったが、おそらく隠し効果的なものなのだろう。


 それとダンジョン内で自由に行き来するのも調整が必要なら、ダンジョンを出て他のダンジョン攻略に乗り出すのは、かなり大変なのではないだろうか?


 だとすれば、他のダンジョンを見つけてもすぐには行かず、女王に一度確認を取ったほうがいいだろう。


 そうしてその後もヴラシュからダンジョンの説明を聞きながら、城下町を歩く。


 周囲には当然モンスターがいるが、俺を襲うことはない。


 何だか不思議な気分だ。


 ちなみに門番だったドヴォールとザグールは、それぞれが本来城下町で旗を守っている守護者らしい。

 

 門の前にいたのは、小規模国境門が増えたことで警戒を高めていたからのようだ。


 どうやら女王でもダンジョンの外の様子を把握することができないらしく、直接見張らせていたようである。


 あと城下町の残りの守護者は、Dランクのスケルトンアーチャーとスケルトンソーサラーとのこと。


 この二体はドヴォールたちのように知能は無く、喋ることもできないらしい。


 そういえば、どうしてドヴォールたちが意志を持ち喋られるのかが気になるな。


 なので俺は、その事について尋ねてみた。


「ああ、それについては、ルミナリア女王様に直接訊いてほしい。結果的に、色々と知る必要があるからね。

 僕は元々部外者だから説明の足りない部分が出てくると思うし、そもそも話すべきではないと思うからね」

「そうか。なら後で直接訊いてみることにする」

「うん。そうしてくれると、僕も助かるよ」


 どうやらドヴォールたちが意志を持ち会話が可能な理由には、重要な秘密が隠されているらしい。


 そして同時に、女王とこの国が現状に至るまでの経緯も、知ることになる気がする。


 だとすればこの大陸がここまで荒廃していて、アンデッドだらけの理由にも繋がるかもしれない。


 思わぬ形で、様々な謎が解明される予感がした。


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