186 守護者の契約に向けて


 女王の間での謁見は終えたが、肝心の守護者について詳しくは聞いていない。


 なので場所を移し、再度話を聞くことになった。


 移動先はソファとテーブルのある、落ち着いた部屋である。


 するとあの半透明のメイドが現れて、俺とヴラシュにお茶を入れてくれた。


 女王の前にも、一応空のティーカップが置かれる。


 アンデッドでは飲食が不可能だからか、形だけで紅茶は入れられていない。


 ちなみに席の配置は、上座に女王、向かいに俺とヴラシュとなる。


 エンヴァーグは、女王の後ろに立っていた。

 

 ヴラシュも女王の後ろに立つのかと思ったが、まあ気にしなくてもいいだろう。


「シャーリーありがとう! 君の淹れる紅茶はおいしいからね!」

「いえいえこちらこそ紅茶を淹れるお仕事ができるようになり、嬉しい限りですので」


 ヴラシュは半透明なメイドのシャーリーに、ティーカップを持ち上げてお礼を言った。


 それに対してシャーリーは、紅茶を淹れること自体が嬉しいみたいだ。


 まあ、アンデッドは飲食をしない以上、紅茶を淹れる仕事はこれまで無かったのだろう。


 俺がそう思っている間に、シャーリーは部屋を退室していった。


「さて、それじゃあ肝心の守護者について話させてもらうわね」


 するとタイミングを計り、女王が守護者について話始める。


「ジン君にお願いするのは、挑戦者が女王の間に辿り着くのを防ぎ、追い返すか倒すこと。期間は、現在開いている小規模国境門が閉じるまで。これについては大丈夫かしら?」

「ああ、それについては既に理解している」


 これは事前にヴラシュから聞いていた通りなので、問題はない。


「ふふ、良かった。それで報酬は、一人対処するごとに聖金貨一枚。期間の完遂で宝物庫から好きな物を三つ与えるのでどうかしら?」

「お、女王様! 国宝はダメですぞ!」


 女王が報酬について口にすると、エンヴァーグが必死に止め始める。


「いいじゃない。どうせもう必要ないでしょ?」

「必要なくてもダメなものはダメですぞ! ただでさえ宝物庫の中身の大部分は、アルハイドに持っていかれているのです。残り少ない国宝は、何としても死守せねばなりませぬ!」

「はぁ……分かったわよ。ジン君、申し訳ないけど、国宝以外に五つでどうかしら?」

「まあ、別に構わないが」

「助かるわ」


 国宝が手に入らないのは残念だが、五つも貰えるならいいだろう。


 加えておそらくだが、二重取りが発動して実質倍になると思われる。


 これはハパンナ子爵からスキルオーブを貰った時に、確認済みだ。


 それと二重取りといえば今更だが、ヴラシュから宝珠を貰った時二重取りが発動しなかった。


 だがこれはオブール杯のメダルの授与と同様に、増えても困る物や必要の無い物には効果を発揮しない事が関係しているのだろう。


 二重取りは、マイナス要素に対しては効果を発揮しないのである。


 そのマイナス要素というのは、おそらく俺の主観に関係していそうだ。


 まあ実際緑の宝珠だけが増えても持て余しそうなので、増えなくて良かった。


 それにヴラシュの近くで増えれば、怪しまれたかもしれない。


 まだ実証した訳ではないが、二重取りで増えるところを転移者が見た場合、普通におかしいと感じる可能性がある。


 気になるところだが、それを試す機会は早々には訪れないだろう。


 ここまで考えたところで、内容が脱線していることに気がつく。


 おっと、考えが脱線したな。


 なので俺は、再び女王の言った内容について思考を巡らせる。


 そういえば忘れているだけかもしれないが、聖金貨というのは初めて聞く。


 おそらく聖金貨は、金貨の上位通貨だろう。


 一枚と一見少なく思えるが、かなりの価値があると思われる。


 あとはエンヴァーグが口にしたアルハイドという人物が、とても気になるな。


 宝物庫の大部分を持っていった人物か。宝珠を集めた先と何か関係があるのか?

 

 とりあえずこれから長く滞在するし、聞く機会は幾らでもあるだろう。


 今は守護者についての話に、集中する事にした。


 俺の熟考が終わったと判断したのか、女王が再び口を開く。


「それでここからなのだけど、正式に守護者の依頼を引き受けてもらったあと、この指輪を付けてもらう必要があるの」


 そう言って、女王が一つの指輪を俺の前に置いた。


「鑑定しても?」

「いいわよ」


 許しを得たので、俺は指輪を鑑定してみる。



 名称:守護者の指輪(ルベニアダンジョン)

 説明

 ダンジョンボスである【ルミナリア・フォン・ルベニア】に守護者と任命された者のみ、身につけることが可能。

 この指輪は時間経過と共に修復されていく。

 この指輪は装備する者のサイズに調整される。

 この指輪を身につけた場合、以下の効果を得る。

 ・その者は守護者として扱われる。

 ・【ルミナリア・フォン・ルベニア】への危害を与えられなくなる。

 ・【ルミナリア・フォン・ルベニア】との繋がりを得る。

 ・命じられた領域に侵入者が現れた場合、その場所へと強制的に転移する。

 ・生命力や魔力、身体能力が上昇する。即死効果が無効になる。



 なるほど。これは実質外付けで、エクストラの守護者を与えられるのだろう。


 それと単なる守護者となっているが、階層守護者との違いは何だろうか?


 まあ違いは名称だけで、概ね同じなのかもしれない。


 何はともあれ、この指輪は中々に強力だ。普通の装飾品としても、装備しておきたいほどである。


 けれども強制転移というデメリットが一応あるので、身につけるのは守護者の期間だけになるだろう。


 あとは、守護者するにあたっていくつか知っておきたいことがある。


「いくつか、質問をいいだろうか?」

「ええ、構わないわよ」


 質問の許可も得たので、俺は気になる点をいくつか尋ねてみた。


 その結果として、以下の回答を得る。



 Q1.守護者期間中の空き時間に、他の宝珠を探しに行ってもいいか。

 A.何者かがダンジョンに侵入次第繋がりを通じて連絡をするので、一時中断して状態を万全にすれば問題はない。


 Q2.守護者になることで、何か俺にデメリットはあるか。

 A.臨時の守護者は、本来の守護者と違い復活ができない。故に命の危機を感じたら、助けを念じることで逃がすことが可能。


 Q3.指輪を付ける上で、注意事項はあるか。

 A.一度付けると、守護者の依頼終了まで取り外すことができなくなる。またダンジョンの内情や守護者の契約などについて、外部の者に話せなくなる。


 Q4.この指輪はもらえるのか。

 A.限られた希少な物なので、一時的な貸与となる。守護者の依頼終了時に返却すること。


 Q5.何故俺を守護者として雇うことにしたのか。

 A.信頼できるヴラシュからの勧めがあり、尚且つ女王は戦闘を好まない。加えて他の宝珠のダンジョンボスを超える配下はいない故。


 Q6.理不尽な命令に対して、拒否する権利はあるか。

 A.守護者の範疇を超えるものであれば、拒否は可能。


 Q7.ダンジョンのモンスターに襲われる心配はないか。また仮に襲われた場合、反撃しても構わないかどうか。

 A.このダンジョンのモンスターは、指輪を付けている限り味方と認識する。また罠類も発動しなくなる。仮に襲われた場合は、倒してしまっても構わない。


 Q8.看過できない事態になった場合、守護者の依頼の途中解消は可能か。

 A.審議話し合いの上で、こちらに重大な問題が発覚した場合は途中解消可能。その場合報酬は、それまでの働き次第によって決定される。


 Q9.この守護者の依頼を受けることによって、宝珠を全て集めた際に示される場所に関連して、何か問題や影響はあるか。

 A.詳しいことは話せないが、影響は限りなく低い。またその場合に限り、一時守護者の依頼を解消することも可能とする。


 Q10.小規模国境が増えた理由は何なのか。

 A.原因不明。予想は出来ているが、それを話す権限を有していない。



 俺が現状訊きたいことは、概ね以上だ。


 何か気がつけば、その都度質問することにしよう。


 また以心伝心+の効果で、嘘は言っていないようだ。


 何となくだが、やろうと思えば以心伝心+の嘘発見能力も、相手は誤魔化せた気がする。


 以心伝心+で表層から嘘か本当か見破ったとき、若干女王が反応した気がした。


 何も言わないという事は、それを受け入れた上での回答となる。


 それと根本的に気になることもあるが、それは守護者の依頼とは関係ない。


 加えて、喋ることができない内容があるみたいだ。


 それはどうも、宝珠を集めた先と関係があるのかもしれない。


 喋ることは出来ないみたいだが、これから守護者をしていく中で、何らかの機会で知ることもあるだろう。


 とりあえずは質問した上で考えるに、守護者の依頼を受け入れても良さそうだ。


 不安材料がゼロとは言い切れないが、それは様々な事でも起きることだろう。


 報酬も悪くないし、女王は出来る限りの誠意を示している。


 他にも、宝珠を探しに行っても問題が無いことが大きい。


 瞬間転移用のモンスターをその場に残せば、侵入者を倒したあとも再開できる。


 であれば、もう迷う必要はない。


「この守護者の依頼、正式に受けさせてもらう」

「本当! 助かるわ! 短い間に二人も話し相手が増えて、とても嬉しいわ!」

「ジン殿、良く決断してくれた! これで女王様の安全も増すというものだ!」

「ジン君、ありがとう! 僕も精一杯、協力するよ! これからよろしく!」


 俺が決断したことで、三人は喜びの声を上げる。


 女王は守護者というよりも、話し相手という部分が重要だったのだろうか? 出会って短いが、その可能性は十分あり得る気がした。


 逆にエンヴァーグとヴラシュは、守護者についてくれる事に対して、本当に喜んでいるみたいだ。


 やはり小さな国境門、いや、周りと合わせて小規模国境門と呼ぼう。小規模国境門が急激に増えたことに対して、危機感があったのだと思われる。


 例え攻略されても復活するとはいえ、ダンジョンコアを破壊されたらそれまでだ。


 人型種族はダンジョンに利益を求めているため、可能性は低いがゼロではない。


 そんな時に現れた俺は、渡りに船だったのだろう。


 宝珠を持っているという事は、他でダンジョンボスを倒したという事でもある。


 このダンジョンにボーンドラゴンより強い配下はいないみたいなので、女王の間に到達されることは十分にあり得た。


 なのでボーンドラゴンを倒した俺は、現状女王の手駒の中では一番強いことになる。


 まあ、実際にボーンドラゴンを倒したのはグインだが、そのグインを扱えるので間違いではないだろう。


 この大陸に来てこうなるとは全く思ってもいなかったが、なった以上は全力で取り組むことにする。


 約束した以上、それを守らなければいけない。


 なので例え勇者や魔王がやって来ても、どうにかして退けてみせよう。


 俺は、そう心に誓うのであった。


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