176 塔のダンジョン ⑧


 十四層目はノーブルゾンビが指揮をとり、アーマーゾンビ・ハイゾンビ・ゾンビという、ゾンビ系勢ぞろいの軍団である。


 数がとても多く、進むだけで時間がかかった。


 ハイゾンビとゾンビは相手にならないが、ふとした瞬間に現れるアーマーゾンビがやっかいである。


 おそらく、ノーブルゾンビがわざとそうけしかけてきている感じだ。


 アーマーゾンビの一撃は、受けると洒落シャレにならない。


 なので細心の注意を払いつつ、地道に狩っていく。


 すると当然、罠発動用のスケルトンたちを出す余裕が無い。


 しかしどういう訳か、この階層では罠が発動しなかった。


 もしかして、先行している冒険者が発動させていったのか?


 これまで普通に罠が発動していたことから、ダンジョンが再設置する前に来れたという事かもしれない。


 それかこの敵の数に、冒険者も罠を回避している余裕がなかったのだろうか?


 まあどちらにしても、罠が発動しないのであれば楽ができる。


 念のため残っている罠が発動しないか注意しつつ、配下たちが敵をほふっていく。


 そうしてアーマーゾンビはカード化して、他はトーンに喰わせていく。


 かなりの数を倒したからか、全体的に配下の魔力消費がいちじるしい。


 なので俺は、配下たちに繋がりを通じて魔力を送った。


 ちなみにこれは、初期の頃には出来なかったことだ。


 カード化したモンスターには、程度は違くとも常に一定量の魔力が俺から送られている。


 当初はこの量を調節することは不可能かと思われたが、多くのカードを手に入れ、召喚し続けることで俺も成長したらしい。


 繋がりを意識すれば、俺自身の魔力を配下に送ることができるようになった。


 送る量を増やしても魔力を回復させる程度だが、十分に有用なことだろう。


 まあ、常に魔力が全回復状態だと配下の成長に支障がきたすので、使うのはこうした時か緊急事態の時だけになる。


 なお逆に一定時間送る量を減らすと、モンスターはカードに戻ってしまうようである。


 そんなわけで魔力が減った配下たちは、現在魔力が満タン状態になった。


 あとは少し休憩をとってから、十五階層目に進む。


 頂上は、まだ先であろうか?


 しかしそう思っていたのだが、唐突に終わりがやってくる。


 十五階層目は小部屋であり、中央には大きな魔法陣。


 部屋の隅には、金色の燭台しょくだいと青い炎の蝋燭ろうそくが揺らめいていた。


 明らかに、普通ではない。


 魔法陣を鑑定してみたが、十階層目と同じ入場の魔法陣である。


 俺が侵入した五階層目が普通のエリアだったこともあり、頂上は早くても二十階層目だと思っていた。


 しかし現状の様子からして、この十五階層目が最終階層になると思われる。


 さて、入場人数が四人となっていることから、メンバーは俺・レフ・アンク・ホブンで行こうと思う。


 ジョンたちは、状況を見て後から召喚しよう。


 そう思いながら、配下たちをカードに戻す。


 これで、準備は良いだろう。


 そうして魔法陣に乗ったのだが、反応が無い。


「なるほど。そういうことか」


 思わず、俺は呟く。


 入場の魔法陣が起動しないということは、先にボスと戦っている者がいる。


 つまり、これまで先行していたと思われる冒険者だ。


 待機している者が他にいないという事は、先行していたのは一つのパーティだけか?


 それか既にボス部屋を突破しており、今戦っているのが最後のパーティという事もあり得る。


 どのみち今戦っている者たちが全滅するか、突破するかしなければ進むことはできない。


 だが突破先にある魔法陣でここに戻ってくる可能性もあるので、油断はしない方がいいだろう。


 部屋は狭いので端によりつつ、現れたら不意打ちで決めることにする。


 ここに来て、まずは話し合いというのは危険だろう。


 悪いが、来たら容赦はしない。


 どう考えても高確率で、戦闘は避けられないはずだ。


 であれば、先制攻撃のチャンスがあるのは大きい。


 しかしいくら待っても、敵が現れることはなかった。


 そして気がつけば、魔法陣が再使用可能になったのか一瞬光る。


 今の光は、入場可能になった合図か? 結局敵は来なかったな。


 であれば、このままボス部屋に移動することにする。


 討伐後の移動先で不意打ちの可能性もあるが、それは囮を先に送ればいいだけだ。


 それよりも、こんな狭い場所の方が戦闘には不便だろう。


 俺はそう判断を下し、魔法陣に乗る。


 そして移動した先は、塔の頂上だった。


 既に日が昇っていたのかもしれないが、漂う霧によって薄暗い。


 加えて当然、視界も悪かった。


 そんな霧の立ち込める中から、一体の巨大な敵が現れる。


 グインをも超える巨体に、鋭い牙と爪を持ち、大きな翼と尻尾があった。


 頭部の後ろには、二本の直線的な白い角。


 そして眼窩がんかには赤い光が灯り、こちらをじっと見つめている。


 敵でありながら、まるで王の風格があった。


 例えそれが、骨だけの身・・・・だったとしても。

 

 そう、それはドラゴン。骨だけのドラゴンだった。



 種族:ボーンドラゴン

 種族特性

【火闇属性適性】【火闇属性耐性(大)】【生命感知】

【ファイアボール】【シャドーネイル】【ダークフレイム】

あぎと強化(大)】【物理耐性(中)】【威圧】

【生魔ドレイン】【再生】【飛行】


 エクストラ

【ダンジョンボス】


 スキル

【自然魔力回復量上昇(中)】【骨食い】

【ダークフィールド】【瘴気生成】



 鑑定してみれば間違いなく、Aランクかそれ以上の強さ。


 これを討伐した可能性のある冒険者の実力は、かなりのものだろう。


 ダンジョンボスは一度討伐されれば復活までに時間がかかると聞いていたが、このダンジョンではそのルールが適応されないらしい。


 しかし入場の魔法陣の効果を思えば、倒したら二度と挑戦できない可能性がある。


 一度倒せば次回からこのエリアではなく、先のエリアに飛ばされるのだ。


 だとすればそれ故に、こうしてすぐに挑戦できるのかもしれない。


 俺がそんなことを考えていると、一枚のカードが強く反応をしめす。


「そうか、戦いたいのか」


 ここまでじっとしていたのが不思議だったが、それはこの時のためだったのだろう。


 思えば、あの敗北からほとんど活躍する機会が無かった。


 そろそろ、コイツも限界という事だ。


 いいだろう。お前に任せる。


 俺はそのカードを手に取ると、呼び出した。


「出てこい、グイン!」

「グォオオオウ!!」



 種族:ホワイトキングダイル(グイン)

 種族特性

【水光属性適性】【水光属性耐性(大)】

【威圧】【あぎと強化(大)】

【狂化】【悪食】【自然治癒力上昇(大)】


 エクストラ

【イレギュラーモンスター】 


 スキル

【水弾連射】【ウォーターブレス】

【ライトウェーブ】【ライトベール】

【縮小】



 スキル数では負けているが、決して勝てないということはない。


 相手のエクストラであるダンジョンボスも強力だが、グインのイレギュラーモンスターの効果も負けてはいなかった。



 名称:イレギュラーモンスター

 効果

 ・通常個体よりも生命力や魔力、身体能力が大幅に上昇する。

 即死効果が無効になる。

 ・あらゆる隷属状況下でも、自由行動を可能とする。

 ・知力を上昇させ、個を確立する。

 


 ゲヘナデモクレスの一撃で敗北してから、グインは色々溜め込んできたはずだ。


 アンデッド軍団との戦いの際には、確かにある程度の発散はできていた。


 けれども、望んでいたのはそれではない。


 グインが本当に望んでいるのは、強敵との戦いだったのだ。


 だからこそ、これまでは我慢してこれた。


 しかし、目の前に自身を上回るかもしれない強敵が現れたのであれば、我慢の限界だ。


 俺もここで、グインを出さないわけにはいかない。


 グインにとって、この戦いは大きな意味を成すだろう。


 どのような結果が待ち受けるのか、俺はそれを見守らなければならない。


「ギャォオオン!」


 するとボーンドラゴンもグインを敵と認めたのか、発声器官もないのにもかかわらず、声を上げた。


 両者にらみあい、戦いの瞬間を計り始める。


 そして、その瞬間が訪れた。


 ここにボーンドラゴンと、ホワイトキングダイルであるグインの戦いが、今始まる。


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