177 塔のダンジョン ⑨


 まず最初に動いたのは、ボーンドラゴン。


 自身を中心として暗黒の空間を広げていき、あっという間に周囲を暗くした。


 元々薄暗かったのも相まって、かなり見づらい。


 それに加えて、何故か俺・レフ・アンクの体の調子が良くなる。


 対して、グインは少し気怠そうだ。


 おそらくボーンドラゴンが発動したのは、ダークフィールドというスキルだろう。


 効果は闇属性適性のある者を強化して、逆にない者には弱体化を与えるものだ。


 俺たちは闇属性適性を持っているが、グインにはそれが無い。


 敵味方関係ないが、かなり有用なスキルだ。


 しかしグインも、されるがままではない。 


 ライトベールを発動することで、弱体化を打ち消す。


 ライトベールは発動中、あらゆる状態異常を寄せ付けなくする。


 それには、このような弱体化も含まれていたみたいだ


 かなり強力な補助魔法といえるだろう。


 ボーンドラゴンは瘴気生成も発動するが、それもグインのライトベールには無意味である。


 俺たちはひとまず、瘴気を浴びないように距離を取った。


 瘴気は毒状態と似ているようで、別の状態異常である。


 おそらく毒耐性は、意味をなさない。


 そして今度はグインが、ここで攻勢に出る。


 水弾連射を発動して、打ち込んでいく。


 ボーンドラゴンはそれを脅威と思ったのか、飛行スキルで飛び立った。


 骨だけの翼なのにもかかわらず、ボーンドラゴンはかなりの速度で周囲を飛ぶ。


 加えて、ファイアボールをお返しに撃ってくる。


 グインはそれを水弾連射で相殺しつつ、ボーンドラゴンを狙う。


 ファイアボールの方が威力は上だが、水弾を突破できるほどではない。


 また水弾連射は文字通り、連射攻撃だ。


 現状空を飛んでいるボーンドラゴンが回避をしているが、当たるのも時間の問題だろう。


 思っていたよりも、グインが優勢だ。


 スキル量や身体能力では、おそらく相手の方が上である。


 だが属性という面では、グインが僅かに優勢だ。


 ボーンドラゴンは、火闇属性。


 対してグインは、水光属性である。


 闇と光は、お互いに弱点という印象だ。


 しかし火と水では、基本的に水の方が優勢である。


 もちろん圧倒的な火力の前だと水は蒸発するが、威力が拮抗きっこうしていれば水の方に分がある感じだ。

 

 まあ、この属性に対してこの属性が強いという、明確な基準は無い。


 重要なのはそれよりも、属性耐性だったりする。


 なので一番相性が悪いのは、お互いに同じ属性の時だろう。


 基本その属性の適性があれば、同時に耐性も獲得する。


 故にグインとボーンドラゴンは、どちらの攻撃も十分に通るのだ。


 当たればお互いに、ただでは済まないだろう。


 そうして戦いが少し硬直し始めると、周囲に変化が訪れる。


 塔の外側から、モンスターがよじ登るようにして現れた。


 ボーンドラゴンの配下としての位置づけなのか、無数のボーンリザードがやってくる。



 種族:ボーンリザード

 種族特性

【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】【生命探知】

あぎと強化(中)】【物理耐性(小)】

【威圧】【シャドーネイル】



 ここでグインの邪魔をさせる訳にはいかないので、俺はジョンたちを召喚して迎え撃たせることにした。


 加えて、レフ・アンク・ホブンも参加させる。


 これで、俺の配下であるネームドたち総出陣だ。


 そこに、俺も混ざる。


 グインの戦いの行方は気になるが、ボーンリザードの数が多い。


 追加でネクロオルトロスと、階層守護者だったスケルトンナイトを召喚する。



 種族:ネクロオルトロス

 種族特性

【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】

【シャドーニードル】【シャドーステップ】

あぎと強化(中)】【嗅覚向上(中)】

【集団行動】【集団指揮】【骨喰い】



 種族:スケルトンナイト

 種族特性

【生命探知】【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】

【剣盾適性】【スラッシュ】【ガード】【集団指揮】


 エクストラ

【階層守護者】


 スキル

【シャドーニードル】【サークルスラッシュ】【パリィ】

【斬撃強化(小)】【眷属召喚】



 数を召喚しないのは、グインの戦闘の邪魔にならないためだ。


 なのでスケルトンナイトには、眷属召喚をなるべく行わないように命じる。


 そうしてボーンリザードの群れと戦うのは、このメンバーになった。


 俺・レフ・アンク・ホブン。

 ジョン・サン・トーン・アロマ。

 ネクロオルトロス・スケルトンナイト。


 ボーンリザードも見た限り十体しか現れていないので、こちらも数を合わせた。


 気配感知のネックレスも、十体だと告げている。


 なおアロマに一体任せるのは酷なので、もちろんパーティ単位で動かす。


 準備ができたところで俺は、死犬の双骨牙そうこつがを抜くとその場から駆ける。


 そしてボーンリザードの脳天に、スキルを放った。


「双撃!」

「――!!!?」


 一撃で頭蓋の魔石を砕き、ボーンリザードを仕留める。


 またそのまま、双骨牙に骨を喰わせた。


 ボーンリザードは骨そのものなので、魔石片だけを残して消え去る。


 すると双骨牙が、一瞬脈打つように中央の赤い線が光った。


 かなり上質な獲物だったらしい。


 カード化は配下が倒した個体にして、俺個人が倒したのは双骨牙に喰わせる事にしよう。


 周囲を見れば、配下たちは余裕をもってボーンリザードを倒している。


 特にレフ、ホブン、ジョンが活躍していた。


 やはりジョンに渡した魔導銃は、ボーンリザードとの相性が抜群だ。


 魔石の場所も判明しているので、隙ができれば倒すのは容易である。


 またアロマのリフレッシュアロマにより、ダークフィールドの弱体化を軽減できていた。


 アロマも、十分に活躍している。


 これなら、配下たちは大丈夫だろう。


 すると、霧の向こうから新たなボーンリザードが現れる。


 どうやら、十体だけではないようだ。


 気配からして、倒してからすぐに補充されているようだった。


 もしかして、無限湧きなのだろうか? 


 本来であれば、ボーンドラゴンと戦いながらこの数の相手をする必要がある。


 思った以上に、この塔のボス難易度は高いのかもしれない。


 けれども俺からすれば、これはボーナスタイムである。


 数を用意できる俺としては、半端な数はそこまで脅威にはならない。


 そうして俺は、新たに現れるボーンリザードを狩っていく。


 次第にパターンが出来上がっていき、余裕が出てきた。


 なので俺は、戦いつつも気になっていたグインの戦いに視線を移す。


「グォオ!?」


 するとちょうど、グインがボーンドラゴンに急接近され、シャドーネイルを喰らったところだった。


 グインはそれにより血を流すが、反撃としてライトウェーブを発動する。


 光の波が、ボーンドラゴンを襲う。


「ギャオオン!」


 これには、相手もたまったものではない。


 近いほど威力の上がるライトウェーブを喰らい、ボーンドラゴンは一気にその場から後方へと離脱する。


 そして直線上の距離が出来たからか、二体はここで大技を放つ。


 グインは、得意のウォーターブレス。


 対してボーンドラゴンは、ダークフレイムという漆黒の炎。それがドラゴンブレスとして放たれた。


 互いの技がぶつかり合い、一時は拮抗する。


 だが、ダークフレイムの方がスキルとしての格が上だったのか、徐々にウォーターブレスを押し込んでいく。


 そしてとうとう、拮抗が崩壊する。


 グインのいた場所を、ダークフレイムが飲み込んだ。


 「グイン!」


 俺は思わず、声を上げる。


 だが俺の心配は、予想外の展開で打ち消された。


 ダークフレイムが消えた瞬間、ボーンドラゴンの目の前にグインが突如として現れる。


 そうか、縮小か!


 ダークフレイムは、ブレスのように直線の攻撃だった。


 更にはグインが巨体故に、下に僅かなスキマがあったのだろう。


 そこへ縮小で入り込み、ギリギリのところで回避したのだと思われる。


 しかし縮小には縮小限度があることに加えて、ダークフレイムの威力は相当のものだ。


 グインもタダでは済まない。見れば背中がかなり焼け焦げている。


 現状、立っているのもやっとだろう。


 けれども、グインはこの瞬間に全てを賭けたのだ。


「グォオウ!」

「ギャオオオオン!?」


 グインは縮小を解いた直後、ボーンドラゴンの首に噛みついた。


 そして自身の体を回転させる。


 あれは、地球のワニでもよく見られる必殺技。デスロールだ。


 ボーンドラゴンは抵抗しようとするが、それよりも首の骨が捩じ切れるのが先だった。


 それにより、巨大な胴体が倒れる。


 しかしそれで安心はできない。ボーンドラゴンは、アンデッドなのだ。


 頭部だけでも、活動ができる。


 むしろ魔石のある頭部だからこそ、動けるのかもしれない。


 だがグインは、そこで油断はしない。


 同時に発動させていた水弾連射で、ボーンドラゴンの頭部を撃ち抜く。


「――!?」


 複数の水弾を受けて、流石のボーンドラゴンも頭部だけでは成す術がない。


 砕け散った頭蓋骨と魔石が、周囲へと飛び散った。


 グインは最後まで警戒を怠らず、辺りは一瞬の静寂に包まれる。


 しかしそれは杞憂であり、ボーンドラゴンは完全に活動を停止していた。


 グインの勝ちだ。


 ボーンドラゴンが動くことはない。これにより、グインの勝利が確定した。


「グオオオオオウ!!」


 グインは自身の勝利に歓喜したのか、高らかに声を上げる。


 そしてそれと同時に、力尽きてカードへと戻った。


 やはり、ダークフレイムを受けた部分のダメージが深刻だったみたいだ。


 けれどもこれは、間違いなくグインの勝利である。


 決め手の縮小だが、以前レフがスパークタイガーと戦った際の出来事を、カードの中で見ていたのかもしれない。


 グインにしては、珍しい戦法だった。


 ゲヘナデモクレスに負けてから、力づくだけではダメだと気がついたのかもしれない。


 この勝利を糧に、グインは大きく成長することだろう。


 そしてボーンドラゴンが倒されたことで、ボーンリザードの無限湧きも終了した。


 最後の一体を俺が始末すると、頂上の中央に退出の魔法陣が現れる。


 ここに宝箱が出ないという事は、この先に宝箱とダンジョンコアがあるのだろう。


 そして同時に、先行している冒険者たちがいる可能性もある。


 あのボーンドラゴンを倒したという事は、かなりの力を有するはずだ。


 油断は、できるはずがない。


 そうは思いつつも、俺は先にするべきことを始める。


 配下が倒したボーンリザードと、グインが見事打倒したボーンドラゴンをカード化した。


 周囲の骨と魔石が光の粒子になり、俺の手元に集まってくる。


 そして、カードへと姿を変えた。


「ボーンドラゴン、ゲットだ!」

「にゃにゃんにゃん!」


 強力なAランクモンスターのカードに、俺は笑みがこぼれる。


 レフも新たなカードを手に入れたことに、喜んで鳴いた。


 ボーンドラゴンは配下の中で、かなり強力な個体になるだろう。


 実力は、グインと同等だ。


 空も飛べるし、要所要所で役に立つと思われる。


 けどそんなボーンドラゴンではあるが、俺はコイツをあまり頻繁に使う気はない。


 なぜならばコイツはいずれ、グインが進化する際に使おうと思ったからだ。


 コイツは、グインが命懸けで倒した獲物である。

 

 それに案外、グインと相性が良い気がした。


 骨だけとはいえ、ドラゴンとワニは何となく似ているからかもしれない。


 またグインの場合、ランクアップの選択は現状難しいだろう。


 ホワイトキングダイルと同系統のモンスターは、所持していない。


 なので選択するならば、フュージョンとなる。


 ランクも同じAランクだし、悪くはない。


 しかしそうは思ったが、ドラゴンというのはロマンがある。


 なのでバーニングライノスのように、何だかんだで出番があるかもしれない。


 これは、ケースバイケースで考えていこう。


 そういう訳でボーンドラゴンは、必要時を除いて基本的には取っておくことにする。


 さて、問題はこの先だな。


 俺は退出の魔法陣を前に、思考を巡らせるのであった。


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