170 塔のダンジョン ②
まず初めにすることは、案内用のハイゾンビに質問をすることだ。
なのでとりあえず、宝箱の場所を訊いてみる。
だが驚くことに、この階層に宝箱は無いらしい。
おそらくここも、廃墟街と同じということだろう。
何ともけち臭いことである。
けれども無いのは仕方がないので、諦めるしかない。
また強敵についても訊いたが、こちらも同じ結果だった。
知っていたのは、次の階層までの道順だけである。
なお罠についても、知らないようだ。
だとすれば、罠は存在しないのかもしれない。
未だ罠に対する対処法が限られているので、ありがたい情報だ。
ちなみにここへ冒険者が来たか訊いたところ、生命の気配を感じて向かったが、気がついたらいなかったという。
おそらくその時には、別の階層に移動したのだと思われる。
これは、かなり重要な情報だ。
もしかしたら外で待機している冒険者とは別に、この先にいるのかもしれない。
進むにしても、注意していこうと思う。
そうしてハイゾンビに案内のため先行させたところ、事件が起こる。
「あっ……」
何と十字路の中央をハイゾンビが踏んだ瞬間、床が開き下へと落下していく。
俺はそれを、ただ呆然と眺めていることしか出来なかった。
罠について、知らないんじゃなかったのかよ……。
もしかしてこれまでは、ダンジョンのモンスターだったから罠が発動することがなかったのか?
だから知識として、インストールする必要もないという事だろう。
しかしそれが俺のモンスターとなったことで、どういう訳か罠が発動するようになったのだと思われる。
これは、困った。
けれども序盤で知れて、逆によかったともいえる。
とりあえず、ハイゾンビをカードに戻してから再召喚した。
「ヴぁぁ」
「これは、無理だな」
だが残念な事に、ハイゾンビは足が折れて歩ける状態ではない。
仕方が無いのでカードに戻し、消滅という名の解雇を行う。
かわいそうだが、これ以上ハイゾンビはいらないのだ。
道案内は、また補充すれば問題はない。
しかしなんだろう。以前なら何とも思わなかったのに、今は少し罪悪感がするんだよな。
うーむ。俺の精神面もある意味、成長しているという事だろうか?
まあ、それについては今考えるべきことではない。
結局罠については分からないままなので、やはり定番の方法に落ち着く。
俺はスケルトンを無数に召喚すると、前方へと先行させた。
1,000体もいるので、幾らやられても替えが効く。
それとなぜか分からないが、スケルトンだと罠にかかってもそこまで心が痛まない。
スケルトンに、痛覚や恐怖心がないからだろうか? いや、それはハイゾンビも一緒か。
そんな事を思いながら、道を進んでいく。
すると当然というべきか、敵が現れる。
出てくるのは、ハイゾンビとゾンビの集団だ。
なのでここは一度スケルトンを送還して、ジョンたちに相手をさせる。
既にハイゾンビやゾンビとは戦闘経験があるので、順調そのものだ。
特に
だが魔力の消費をあまり考えていなさそうなので、そこは注意しておく。
俺が魔力を譲渡すればいい話だが、それだと成長しないだろう。
自身の持っている魔力をやりくりしながら、臨機応変に戦ってもらいたい。
それを指摘したところサンは、自身で考えながら必要な時に応じて、ウィンドカッターを放つようになった。
うむ。それでいい。
またアロマは、廃村の時よりも落ち着いている。
恐怖心は少しあるみたいだが、乗り越えつつあるみたいだ。
仲間へのサポートも忘れない。
トーンとジョンも安定しているみたいだし、しばらくは戦闘を任せてもよさそうだ。
「ガァ、ひまぁ~」
するとアンクがそう言って、俺の肩に乗る。
普通のカラスの倍くらいのサイズがあるので、凄く邪魔だ。
わざとなのか、羽を俺の頬にこすりつけてくる。
「きもちぃ? きもちぃ?」
「うっとうしい」
「ぴえん」
どこで覚えたのか、人のように話しかけてきた。
元々カード化すると人語を理解するようになるが、ここまで達者なやつは初めてだ。
けどそれもそれは、おそらく声真似というスキルがあるからだろう。
というかその少女のような声は、いったい誰の真似なんだ?
俺の知らない間に、色々と偵察などの合間に覚えたのだと思われる。
「ふにゃぁあ!!」
「ガガァ!?」
すると何を思ったのか、レフが跳躍してアンクに猫パンチを叩きこんだ。
「にゃにゃにゃぁ!」
「……ガァ」
そしてレフとアンクの間で何かやり取りがあり、決着がついた。
レフは縮小を大型犬までのサイズに戻すと、その背にアンクを乗せる。
どうやらそこまでしてまで、俺の肩にアンクを乗せたくなかったみたいだ。
まあこれ以上争わないのなら、それでいいか。
何となくこの件にはあまり関わらない方がいいと、俺の直感スキルが告げている。
そんなことがありつつも、無事に戦闘が終わった。
俺はさっそくカード化すると、案内用を残して他を処分する。
今回は何らかの原因でダメになってもいいように、複数体を確保しておく。
ちなみに双骨牙で倒した敵ではないので、骨を喰わせることはできない。
試しに喰わせようとしたが、何も反応はなかった。
そうして俺は、案内役と罠発動用のスケルトンたちの召喚を行う。
案内役のハイゾンビに道を訊きつつ、スケルトンたちを歩かせた。
すると途中何度か敵と遭遇するが、それも難なく突破していく。
やはりこの階層には、ハイゾンビとゾンビしかいないみたいだ。
宝箱や強敵もいないみたいなので、さっさと次の階層に行きたい。
せっかくダンジョンに来たのだから、早く初見のモンスターと出会いたいところである。
それからは特に変わったことはなく、無事に次の階層に繋がる階段を発見した。
なおスケルトンたちはかなりの数が罠にかかって、犠牲になってくれた事をここに明言しておく。
まだまだ補充可能なので、この先も頑張ってもらいたい。
感謝の気持ちを忘れずに、スケルトンへも声掛けを行う。
「スケルトンたち! この先も頼んだぞ! 俺たちの安全はお前たちにかかっている!」
「「「カタカタカタ!」」」
一瞬キレられたかと思ったが、そうではない。
カード化すると俺への忠誠心が芽生えるのか、むしろ喜んでいるように思える。
普通のサモナーやテイマーなどの使役では、こうはならない。
もちろん、ツクロダが行ったような魔道具による物でもだ。
何気にこの忠誠心の植え付けこそが、カード召喚術の恐ろしいところかもしれない。
しかしこの忠誠心の植え付けも、他人のモンスターの場合は完全ではなかった。
リードに渡したグリフォンも、そんな感じだった気がする。
もしかしたら他にもふとした落とし穴があるかもしれないので、カード化したモンスターには、できるだけ理由なき非道な行いはしないことにしよう。
今回の罠発動役は、必要なことだと割り切るしかない。
そんなことを思いつつ、俺はスケルトンたちを次の階層へと先行させる。
階層を
でなければそもそも、ダンジョン内で召喚転移などは行えないだろう。
そうしてスケルトンが次の階につき、周囲を警戒し始める。
ちなみに感覚を共有しないのは、スケルトン程度ではまともに魔石が感覚器官の役割を果たさず、スケルトンの生命探知頼りになるからだ。
その程度ならば使い慣れているスケルトン自身に発動させて、その報告を待つだけでいい。
よし、特に問題はないようだ。
スケルトンたちの報告を受け、俺たちも先へと進む。
だがここで、ふと思う。
階段の先で冒険者が出待ちしていた場合、スケルトンでは全滅してしまうと。
なら隠密が得意なモンスターをその時召喚して、向かわせるか?
いや、どのみち階段付近にいた場合、気がつかれる可能性が高い。
それならスケルトンにその時犠牲になってもらうことで、不意打ちを一つ潰せる。
加えてどのように行動をするか、考えることもできるだろう。
遭遇したら、確実に相手とは敵対することになるはずだ。
相手からすれば、出入り口にいた見張りはどうしたとなる。
増援にしては早すぎるだろうし、こんな大陸に来るくらいだから、面識や何らかの合図もあるはずだ。
なのでスケルトンたちを先行させるのは、悪くない選択だろう。
そう改めて考えたところで、俺は役割を終えた案内役のハイゾンビを解雇すると、先へと進むのだった。
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