169 塔のダンジョン ①
拠点に帰ってからは、ひとしきりレフの相手をした。
撫でることはもちろんのこと、専用のエサも用意する。
特別に、秘蔵していたマッドクラブを出したほどだ。
これだけは、ユグドラシルからも死守したのである。
後はブラッシングもしてやったのだが、ブラシにアロマの毛が付いていたことで、レフが何故か怒った。
なので新たにレフ専用のブラシを用意して、毛を
更に桶を出して、体を洗ってやった。
ここまでしてようやく、レフの機嫌が直る。
気がつけば、かなりの時間が経過していた。
そして同時に、塔に向かわせていたアサシンクロウの一匹から連絡がくる。
どうやら、
一定の距離に近づいた瞬間、突如として現れたらしい。
加えて、冒険者らしき集団が十人ほどいた。
おそらく、あの帰還途中だった冒険者の仲間だろう。
報告組と、残留組に別れたのだと思われる。
ただ一つの出入り口と思われる正面に、陣地を形成していた。
土属性魔法が得意な者がいるのか、防壁も乱立している。
これは、簡単に侵入することは難しい。
正面から蹴散らすという手段もあるが、それは最終手段だ。
ロブントは簡単に倒せたが、あいつはBランクの中でも弱い方らしい。
仲間にはAランク冒険者もおり、その他もロブントより強い者が大多数だ。
安易に仕掛けるのは、危険だろう。
それに何よりも、関わりのない人をこちらの理由で殺すというのは、流石に
何度も言うようだが、俺はそこまで人間性を失ってはいない。
これを自分に言い聞かせないと、いつか破滅する気がする。
邪魔だから殺そう。ではダメなのだ。
ツクロダのように、始末しなければ今後面倒が分かり切っているのであれば、その限りではないが。
また半殺しの方が、情報の流出という面で危険だ。
戦いが始まれば、殺す以外の選択を取れる可能性は低い。
なので現状、他の侵入経路を探した方がいいだろう。
とりあえず何をするにしても、日が落ちてからにする。
流石に近づき過ぎれば、感知系スキルを持っている者に気づかれるかもしれない。
アサシンクロウは隠密スキルを持っているが、暗い夜の方がその効果が高まる。
これは単純に、視認しやすさの問題だ。
気配感知と隠密は対極関係にあるが、その場の状況によって優勢へとどちらかが傾く。
つまりそれが、夜中という訳だ。
もちろんスキル保持者の熟練度や能力によって、大きく変わるのだが。
まあ、それを考えては切りが無い。
ひとまず、夜中まで待機しようと思う。
そうして俺は適当に、ストレージ内の整理整頓などをしながら、時間を潰すのだった。
◆
時間が過ぎて、現在は深夜。行動に移すなら、今だろう。
まずはアサシンクロウを離れた場所に移動させ、増援としてアンクを送り出す。
アサシンクロウの中で、アンクが一番能力が高いのだ。
ちなみに最近できるようになったのだが、召喚転移でモンスターだけを送れるようになっている。
レフを単独で行動させたときも、この方法で転送していた。
何度も使っているからか、応用が利くようになったみたいである。
そうしてまずはアンクに隠密を発動させた後、気がつかれない範囲から塔の裏手に回らせた。
塔の反対側には、誰もいない。
夜中は一つしかない出入り口の前で、冒険者たちは固まっている感じだ。
なので気づかれることなく、アンクをそのまま上空へと向かわす。
頂上まで飛べば、簡単に攻略できるかと思ったからだ。
しかしどういうことか、一定の高さまで飛ぶと下の方にワープさせられてしまう。
どうやら、ズルは認めないらしい。
まあ、そりゃそうか。
これが可能なら、飛べなくても塔の外側からよじ登ればいいだけだしな。
けれどもこれについては、何となく分かっていたので気にしない。
以前ツクロダダンジョンでも、ズルをして入り口に戻された経験があったからだ。
であれば次に行うのは、塔の窓からの侵入である。
しかし塔の窓は鉄の棒がいくつも交差しており、菱形の小さな穴しかない鉄格子になっていた。
これでは、侵入は難しい。
破壊なんて、もってのほかだろう。
流石にこの大きさでは、レフの縮小化でも無理だ。
縮小化にも、限度がある。
なので他の方法を考えるべきだが、そこで一つ妙案を思いつく。
俺はアンクの足にスライムを召喚して送り出すと、それを窓のスキマに押し込ませる。
スライムは体の形を変えて、スキマから少しずつ内部へと侵入していく。
だが当然と言うべきか、スライムの核が入るには小さすぎた。
けれども、これで問題ない。
スライムの大部分は、侵入を果たしている。
俺は意識を集中させると、自身を召喚転移させた。
場所はもちろん、スライムのいる塔の内側だ。
「成功だ」
俺は思わず、小さく呟く。
窓からの侵入は想定外だったのか、何か起きることもない。
無事、塔へと侵入を果たす。
これがダメなら、正面から行くしか無かっただろう。
俺は念のため目印となるモンスターを設置すると、レフとアンクを再召喚を利用して近くに呼び出す。
そして、役目を終えたスライムを送還した。
さて、無事に入れたし、ここから塔の頂上を目指していくか。
縦に並んだ窓の数からして階層はおそらく、五階層だと思われる。
外から見た時の記憶から、そう判断を下す。
それより上は、ワープで戻される関係で行くことができなかった。
また頂上付近は霧が立ち込めており、一番上が何階層か予想がしづらい。
少なくとも、十階層は越えていると思われる。
それより先は、どこまで続いているのか直接確かめるしかなさそうだ。
廃墟街を例外だとすれば、これが久々のダンジョン攻略となる。
なんだか、ワクワクしてきたな。
それと周囲を見渡せば、石造りの壁と床が広がっており、思っていたよりも広い。
いや、拡張されている。
ダンジョン内だからか、明らかに塔の内部とは思えない広さだ。
グインを本来の大きさで召喚しても、問題なく収まるだろう。
まあ流石に動きづらくなるので、グインを召喚したとしても大きさを半分程度に縮小させるのが、ちょうどいいと思われる。
あとは等間隔で松明が燃えているが、薄暗く不気味な印象だ。
人によっては恐怖で進むことに、抵抗を覚えるかもしれない。
いかにも、アンデッドが出てきそうな雰囲気だ。
とりあえず、どれくらい強い敵が出てくるか分からない。
なので俺とレフ、それとアンクでこのまま進むことにする。
まずは生命感知を広げるが、反応がない。
加えて窓の外と中は完全に遮断されているのか、それ以上広げられなかった。
天井と床の先も同様だ。
その部分はまさに、ダンジョンらしいといえる。
けれども気配感知のネックレスからは、反応があった。
この先の十字路の左側から、何かが現れる。
「ヴぉええ」
「ヴぁぁ」
「ウヴぁボ」
ゾンビ、それとハイゾンビが複数か。
種族:ゾンビ
種族特性
【生命探知】【身体能力上昇(小)】
種族:ハイゾンビ
種族特性
【生命探知】【闇属性適性】
【身体能力上昇(小)】【毒爪】
Eランクと、Dランクの雑魚である。
死犬の
最早、苦戦する相手ではない。
レフとアンクも、簡単に敵を倒している。
カードも必要ないので、自身で倒した敵の骨を死犬の
うわっ、骨の無くなったゾンビは、想像を絶する気持ち悪さだ。
とりあえずストレージに収納して、後でまとめて処分することにする。
正直収納したくないが、残して冒険者に見つかると面倒だ。
ちなみに生命感知に反応が無かった事から、少なくともこの階層にはいないと思われる。
そして最後に、レフたちが倒したハイゾンビとゾンビをカード化した。
ちなみに一体を案内役で残し、他はいらないので処分しておく。
これで、道にも迷わなくなるだろう。
さて、この階層に出てくるのがゾンビとハイゾンビという事は、敵の強さも概ね予想できる。
おそらくこの階層に出てくるモンスターは、Dランク前後だろう。
絶対ではないが、これまでの経験からそんな感じがする。
それを踏まえて、召喚するモンスターを考えることにした。
まあ考えるも何も、現状の選択だとこれしかないだろう。
俺はそう思いながら、ジョン・サン・トーン・アロマを召喚した。
それと案内役用に、先ほどのハイゾンビも出しておく。
また念のため、アンクもこのまま召喚を継続させることにした。
あとはアロマの事も少し心配だが、逆にここで呼ばない方がダメだろう。
アロマも、それを望んではいない。
なので、アロマにも出来る限り頑張ってもらうことにする。
よし、まずはこの編成で進んでいこう。
そうして俺は、塔のダンジョンの攻略を開始するのだった。
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本日から8/31まで、毎日更新いたします!
理由は、【カクヨム夏の毎日更新チャレンジ】に参加するからですね。
頑張って達成を目指しますので、どうぞよろしくお願いします。
m(_ _)m
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