168 新たな武器を廃墟街で試す


 俺がサンに緑斬リョクザンのウィンドソードを渡したことで、レフの機嫌が何故か悪くなった。


 おそらく頑張った自分は頭を撫でられただけなのに、何もしていないサンが俺のおさがりを貰ったからだろう。


 なので帰ったら色々相手をすることを約束して、何とか機嫌を直してもらった。


 そんな事がありつつも、廃墟街を進む。


 だがどういう訳か、敵が一向に出てこない。


 レフが倒したのが、全てだったのだろうか?


 それとも数が少ないだけで、どこかに隠れているのかもしれない。


 前に行った廃墟街の敵がゾンビだと考えると、この廃墟街は質を高めた結果、その分敵の数が少ないのだろうか?


 探すのが面倒だな。ならここは、一つ試してみよう。 


 レフが倒したネクロハウンドは、アンデッドには見えなかった。


 そう思い、俺は生命感知の範囲を広げていく。


 すると思った通り、いくつか反応が出現する。


 やはり、数が少ないようだ。


 しかし群れで行動するモンスターだからか、一定の数が集まっている。


 俺はその中で、一番近い群れへと向かうことにした。


 そして廃墟街の街角を曲がったところで、見事発見する。


「グルル!」

「ヴァウ!」

「グル!」


 敵は、ネクロハウンドが三匹。


 死犬の双骨牙そうこつがを抜き、構える。


 そしてレフとサンに心の中で合図を送ると、戦闘を開始した。


 まずサンが空を飛び、レフがダークネスチェインで敵を束縛する。


 そこへ俺が突っ込み、一番近いネクロハウンドへ双骨牙のスキルを発動した。


「双撃!」


 黒く光った双骨牙が、容易にネクロハウンドの首を飛ばす。


 威力は、まあまあといった感じだ。

 

 現状での強さでは、緑斬リョクザンのウィンドソードの方が上の気がする。


 ちなみに双撃は、剣系スキルであるスラッシュの双剣版という感じだ。


 斬撃の威力と速度が、上昇した気がする。


 そして次にサンが上空から、緑斬リョクザンのウィンドソードを振ってウィンドカッターを飛ばす。


 念のため、俺は後方へと退避した。


 飛来するウィンドカッターは、一匹のネクロハウンドに見事命中。


 両断するほどではないが、深い傷を負わせた。


 Cランク相当の相手だと考えれば、十分な威力である。


 問題はなさそうなので、サンにウィンドカッターを連発させることにした。


 もちろんネクロハウンドは回避しようとするが、レフが動きを封じているので逃げることが出来ない。


 ただネクロハウンドはシャドーニードルを飛ばし、サンに抵抗し始めた。


 それを空中で回避しながら、サンがウィンドカッターを放つ。


 やはり飛行可能というのは、それだけでかなりのアドバンテージだ。


 ただ全てを回避することは出来ず、いくつか被弾してしまった。


 しかし闇属性に耐性を持つサンには、そこまでのダメージはない。


 加えてこの大陸では太陽を直接確認できていないが、日中という事もあり陽光再生が発動している。


 つまり、サンが敵のシャドーニードルで倒れる可能性は極めて低い。


 そうして一方的な攻撃が成立したことで、格上のネクロハウンド二匹はサンに敗れる。


 思った通りだ。緑斬リョクザンのウィンドソードを手にしたサンであれば、格上とも十分に渡り合えるな。


 それと闇属性の攻撃魔法を手に入れても、この大陸ではあまり活躍できなかったかもしれない。


 格上であるネクロハウンドのシャドーニードルを喰らっても、闇耐性のあるサンにはそこまでダメージは無かった。


 であれば、逆もしかりだろう。


 俺は有り余る魔力のゴリ押しで、敵に耐性があっても倒しきることができる。


 だが本来、属性の相性は重要なはずだ。


 だとすれば風属性のウィンドカッターと闇属性のシャドーニードルでは、天と地の差が出る。


 特に一定以上の強さを持つモンスターであれば、闇属性耐性を持つ個体がほとんどだろう。


 なのでシャドーニードルでは、効率が悪すぎるのだ。


 故に緑斬リョクザンのウィンドソードをサンに渡せたのは、正に僥倖ぎょうこうだったと言えるだろう。


 俺はそう思いながら、サンの倒した二匹のネクロハウンドをカード化する。


 そして俺が倒した一匹に、双骨牙を二本同時に突き立てた。


 やり方が分からないが、とりあえず骨を喰らうように命じてみる。


 すると双骨牙の剣身にある赤い線が、怪しく光った。


 気がつけばネクロハウンドの死骸は、骨だけを抜き取られたかのように、内臓と皮だけになる。


 見ていて、気持ちが良いものではない。

 

 双骨牙は満足したのか、光が収まる。


 これで強化されたと思われるが、ぱっと見では何が変わったのか分からない。


 鑑定してみても、変化は無かった。


 おそらく一定の数を喰らわせなければ、大きな変化はないのだろう。


 それか俺が気がつかないくらい、僅かに強化されたのかもしれない。


 とりあえずは、しばらく様子見でいいだろう。


 余った敵の骨を与えていれば、その内変化が分かると思われる。


 そして骨を失った死骸にカード化を試みたが、やはりダメだった。


 これは何となく分かっていた事なので、驚きはしない。


 元々倒した敵の素材を剥ぎ取った後にカード化を試みても、カード化しないことを知っていたからだ。


 であれば骨を失ったモンスターも、同様の結果になるだろう。


 今回は試しで喰わせたが、基本カード化の方を優先させる。


 なのでカード化する気のない、余った死骸から喰わせる感じだ。


 さて、これでネクロハウンドが14枚になった。


 あと6枚ほど、集めようと思う。


 生命感知には、まだまだ反応がある。


 そうして俺たちは、廃墟街の探索を続けた。


 また一応ネクロオルトロスを召喚して色々訊いてみたが、やはり得られるものは皆無である。


 やはり普通の冒険者にとって、廃墟街はメリットよりもデメリットの方が大きいだろう。


 これだけの廃墟街を探索しても、得られるのは宝箱一つである。


 おそらく、割に合わない。


 しかしモンスターをカード化できる俺からしたら、メリットの方が大きかった。


 ソロ故に、宝箱が一つでも十分である。


 これはいくつか廃墟街をリストアップして、巡回してみてもいいかもしれない。


 加えてダンジョンと同じように、宝箱が復活する可能性もあった。


 復活するのであれば、そのメリットは計り知れない。


 そんな事を考えながら、ネクロハウンドを倒していく。


 またどうやら、この廃墟街にはネクロハウンドしかいないみたいだ。


 食料的な役割でスケルトンがいるかもと思ったが、ダンジョンのモンスターだと仮定すれば、それも必要はない。


 俺のモンスターもそうだが、ダンジョンのモンスターも食事を必要としないのだ。


 そうして予定では20枚までのはずが、気がつけば30枚集まっていた。


 Cランクモンスターだし、30枚でもあって損はない。


 それとロブントから手に入れた、追尾の瞬弓も使ってみた。


 追尾の瞬弓は、連射とホーミングアローのスキルが使用可能だ。


 実際に使用してみると、連射のスキルは矢を放つとその後ろに、魔力の矢が現れる攻撃スキルである。


 次にホーミングアローは、放った矢が一定時間敵を追いかける感じだ。


 威力自体は普通に矢を放つのと大差はないが、とても便利なスキルである。


 ちなみに収納の矢筒は、腰に装着した。


 ロブントの入れていた矢もあったので、それを使っている。


 矢は結構たくさん入っているみたいなので、当分は大丈夫だろう。


 それと双骨牙と瞬弓の切り替えに時間がかかってしまうが、そこは慣れるしかない。


 威力的には十分に出たので、今後は上手く使っていこうと思う。


 さて、この廃墟街での探索も、これくらいでいいだろう。


 双骨牙と瞬弓も使ってみた感じ、悪くはない。


 新しい武器というのは、良いものだ。


 サンも緑斬リョクザンのウィンドソードを上手く扱えているし、問題は無さそうである。


 使えそうなカードも手に入ったし、今回は豊作だ。


 帰ったら、レフに改めてお礼をしよう。


 そうして俺たちは、拠点へと召喚転移で帰還するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る