167 レフからの贈り物


 レフの元に召喚転移を発動すると、そこは村ではなく街だった。


「にゃ~ん」


 加えて俺が現れると、レフが嬉しそうに鳴いて近づいてくる。


 それは別に構わないのだが、後ろの光景が気になって仕方がない。


 犬のようなモンスターの死骸が、鎖に繋がれていた。


「レフ、これはお前がやったのか?」

「にゃ、にゃにゃん!」


 レフは『そう、レフがやったの!』と言わんばかりに、答える。


 その表情は何となく、どや顔になっている気がした。


 どうやら、レフが単独で倒したらしい。


 鎖で繋がっているのは、そうしないといつの間にか無くなっていたからのようだ。


 放置した死骸が無くなるのは、ダンジョンではよくある事である。


 だとすればこれは、この大陸がダンジョンという新たな証拠になるかもしれない。

 

 まあそれはいいとして、もう一つ気になる事がある。


 鎖によって空中に浮いている、二振りの剣のことだ。


「その剣はどうしたんだ?」

「にゃふふんっ!」

「なるほど」


 二首犬を倒したら、宝箱が現れたらしい。


 その中に入っていたのが、この二振りの剣のようだ。


 レフは『凄いでしょ!』と言うように鳴くと、俺の前にその剣を持ってくる。

 

「にゃにゃん!」


 どうやらくれるらしいので、俺は二振りの剣をレフから受け取った。


 すると何か期待するかのような瞳で見つめられたので、礼を言って頭を撫でてやる。


「くれるのか? ありがとな」

「にゃふふんっ!」


 するとレフは満足したように胸を張って、ドヤ顔をした。


 とりあえずこの剣の効果も気になるが、周囲のモンスターをまずはどうにかしよう。


 素材は使えそうだが、カード化できないのがもったいない。


 初見のモンスターだし、二首犬の方は強そうだ。


 ダメと分かりつつも、俺は何となくカード化を試みる。


「ん? これは……」


 するとどういう訳か、周囲のモンスターたちがカード化されていく。


 この出来事に、俺は呆気にとられた。


 だが少しして、理由が何となく分かってくる。


 離れた場所や死骸を移動させた場合、カード化できなかったはず……いや、そういうことか。


 これまで死にかけのモンスターを連れてきて、俺の近くで倒すという方法をとっていた。


 だが逆に、俺から近づくという方法もある。


 既に死亡しているが、カード化出来たのには理由がありそうだ。


 おそらく死亡した場所が、魂的な何かが留まる場所だからかもしれない。


 死亡後に移動させるとカード化出来ないのは、魂的な何かと肉体が離れるからだと思われる。


 故に死亡していても死骸をあまり動かさなければ、カード化の条件は満たされるのだろう。


 これは、思った以上に重要な事だ。


 カード化の有効時間などがあるかもしれないし、その内実験してみようと思う。


 それはそうと、今はカード化したモンスターの情報だ。


 二振りの剣を一度ストレージに収納した後、俺はカード化したモンスターの能力を確認し始める。



 種族:ネクロハウンド

 種族特性

【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】

【シャドーニードル】【あぎと強化(小)】

【嗅覚向上(小)】【集団行動】【骨喰い】


 種族:ネクロオルトロス

 種族特性

【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】

【シャドーニードル】【シャドーステップ】

あぎと強化(中)】【嗅覚向上(中)】

【集団行動】【集団指揮】【骨喰い】



 ふむ。結構強いな。


 ネクロハウンドはCランク、ネクロオルトロスはBランクだろうか?


 見た感じアンデッドではなさそうだが、関係はしてそうな風貌ふうぼうだ。


 特に頭部を包んでいる、頭蓋骨が特徴的である。


 自身の牙と頭蓋骨の牙、一度の噛みつきで実質二連攻撃になっているようだ。


 であるならば、中々攻撃性能は高そうに見える。


 犬型という事も考えれば移動速度も高く、連携もお手のものだろう。


 ちなみにネクロハウンドは12枚、ネクロオルトロスが1枚という結果だ。


 できれば、ネクロハウンドがあと8枚欲しいところである。


 こいつはCランクだろうし、とても使えそうだ。


 あと見慣れない骨喰いというスキルだが、骨を食すだけで生命活動が可能になり、自身の骨を強化及び修復できるみたいである。


 おそらく頭に纏っている頭蓋骨も、骨喰いで強化と修復ができるのかもしれない。


 このスキルも、結構優秀だ。


 見た感じレフに怪我はなさそうだが、よく単独で倒せたものである。


 俺が思っていたよりも、レフは強いのかもしれない。


 とりあえず、カードについてはこの辺でいいだろう。


 次はレフがくれた二振りの剣について、確認をすることにした。


 ストレージから出して、鑑定を発動する。



 名称:死犬の双骨牙そうこつが右牙うが

 説明

 ・離れた場所にある左牙を引き寄せる。

 ・この剣は倒した敵の骨を喰らう事で修復し、強化される。

 ・定期的に骨を与えなければ、持ち主の生命力を吸い取る。

 左牙と同時に装備することで、以下の能力を一時的に得る。

 ・適性があればスキル【双撃】が使用可能になる。



 名称:死犬の双骨牙そうこつが左牙さが

 説明

 ・離れた場所にある右牙を引き寄せる。

 ・この剣は倒した敵の骨を喰らう事で修復し、強化される。

 ・定期的に骨を与えなければ、持ち主の生命力を吸い取る。

 右牙と同時に装備することで、以下の能力を一時的に得る。

 ・スキル【闇耐性(小)】を得る。



 クセはありそうだが、何とも将来性のある双剣だ。


 定期的に骨を与えなければ、持ち主の生命力を吸い取るというデメリットがある。


 もしかすると、この双剣は呪いの武器なのかもしれない。


 だが倒した骨を与えることで、強化されるという。


 正直、俺のカード召喚術との相性は悪い。


 双剣に骨を与えてしまうと、おそらくカード化が出来なくなる気がする。


 これは、後で確認する必要があるだろう。


 しかしそれでも成長する武器というのは、何ともロマンがある。


 どこまで強化されるのかは不明だが、少なくともBランクモンスターを倒して得た武器だ。


 育てれば、かなり強くなるだろう。


 そんな双剣の見た目だが、どちらも同じ見た目をしている。


 まず全体的に黒っぽい灰色、ダークグレーだ。鞘の中央には、赤い線が入っている。


 柄頭から鍔までの持ち手は、ダークグレーの細かい骨の集合体のように見えた。


 また柄頭には、牙のようなものが生えている。


 そして剣を抜いてみると、剣身は鞘と似たようなデザインだった。


 ダークグレーの剣身の中央には、赤い線が入っている。


 この赤は、ネクロオルトロスの赤く鋭い瞳を彷彿とさせた。


 何とも禍々しい双剣である。


 ちなみに長さは緑斬リョクザンのウィンドソードより少し短いが、双剣としては長い方かもしれない。


 個人的には、使いやすそうな長さをしている。


 ふむ。この機会だし、武器を変えるのもアリだろう。


 緑斬リョクザンのウィンドソードのウィンドカッターは便利だったが、今は手に入れたばかりの弓もある。


 遠距離攻撃は、そちらで代用すればいい。


 それに緑斬リョクザンのウィンドソードを持たせるのに、ちょうどいいやつがいる。

 

 緑斬リョクザンのウィンドソードの良いところは、適性が無くともスキルが使えるようになるところだ。


 つまり装備すれば、誰でもウィンドカッターが使える。


 であれば、渡す相手は一体しかいない。


 そう、遠距離攻撃手段が加われば確実に強くなる、サン・デビルズサーヴァントのサンである。


 加えてサンは、進化前に緑斬リョクザンのウィンドソードを使ったことがあるのだ。


 だいぶ前の事のように思えるが、ソイルセンチピートとの戦いの時である。


 なので緑斬リョクザンのウィンドソードを渡しても、上手く扱えるはずだ。


 確か手も人間と獣を足して割ったような感じだったので、持てないということはないだろう。


 これも、確かめた方がいいな。


 そう思い、俺はサンを召喚する。


「サン、この剣を使ってみてくれ。昔ウィンドカッターを発動させたことがあっただろ?」

「ギギ?」


 サンは俺から緑斬リョクザンのウィンドソードを受け取ると、軽く振る。


 しっかりと握れているのか、すっぽ抜けることはなさそうだ。


 そして建物の壁に向けて、ウィンドカッターが放たれた。


 するとウィンドカッターは容易に壁を貫通して、壁を崩す。


 魔力や操作力の関係で威力は俺が使う時よりも低いが、十分に戦闘に活かせるレベルだ。


「良い感じだ。よし、これからはそれを使って、活躍してくれ」

「ギギギ!」


 サンは俺の期待に応えるように、声を上げた。


 これで、サンの戦闘能力もかなり上昇しただろう。


 闇属性の攻撃魔法を覚えるよりも、現状はこちらの方がよさそうだ。


 ただ剣適性が無いので、剣の扱いに補正はかからない。


 剣の上達も、その分遅くなるだろう。


 なので剣の上達については、今後のサンの頑張りに期待することにする。


 俺は譲渡した緑斬リョクザンのウィンドソードの代わりに、左右の腰へ死犬の双骨牙そうこつがを身につけた。


 ブラックヴァイパーの装備一式と色合いも近いし、悪くない。


 一応生活魔法の調整を発動すると、消費した魔力の割に大きさはほぼ変わらなかった。


 それと緑斬リョクザンのウィンドソードの鞘は、サンの腰に付けてやる。


 もちろん剣と一緒に調整を発動させて、サンのサイズに合わせた。


 サイズが結構変化したからか、魔力の消費がいちじるしい。


 俺でなければ、おそらく干上がっていたことだろう。


 そうして準備も整ったので、少しこの廃墟街を探索することにした。


 ちょうど新しい武器を試したかったし、ネクロハウンドのカードがもう少し欲しかったというのもある。


 そういう訳で俺はレフとサンを連れて、廃墟街を進むのであった。

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