166 レフの大冒険


 レフの名前はレフ! グレネスレーヴェっていう、Bランクのモンスター!


 そして、主の一番の相棒よ!


 けど今は、よく分からない廃村に放り出されてしまったの!


 新参者のメスウサのケアをするんだって、主はそう言っていたわ。


 何よもうっ! これはきっと浮気だわ! 妻のいない間にチョメチョメする気よ!


 以前別の村で、人族のメスたちがそんな会話をしていたの! たぶんそれに違いないわ!


 凄く不安。あのメスウサは、あざといメス。きっと弱った自分を餌に、主をたぶらかす気に違いないわ。


 まったくもうっ、もうもうもうっ!


 最近出番が少ない気がするし、もしかして主は、あのメスウサに乗り換える気かしら?


 それだけは、何としてでも阻止しないと! 面倒な鎧おばけもいるし、ウカウカしていられないわ!


 主の一番は、いつだってレフなんだからっ!


 だからそのためには、もっと頑張らないといけない。


 放り出されたことには言いたいことがあるけど、この機会に活躍してみせるわ!


「ヴぉぁあ!」


 すると早速、くっさいゾンビがきた。


 直接触るなんて、お断りよ!


「にゃぁあ!」

「ヴぉげぇっ!」


 だから得意のダークネスチェインで、くっさいゾンビを倒しちゃうわ。


 ふふんっ、レフにかかれば、くっさいゾンビなんて相手じゃないの。


 数が多くたって、関係ないわ。


「ヴぉげっ!?」

「びゅヴぁっ」

「でごヴぁ!」


 複数の鎖で、一網打尽よ!


 そうだ。主のために、何かおみやげを用意しようかしら。


 凄いおみやげを用意すれば、きっと主もレフの凄さに気がつくはずだわ。


 そうすればあのあざといメスウサのアピールなんて、すぐに忘れるはずよ。ふふんっ。


 流石レフだわ。成功間違いなしよ!


 今から主に褒めてもらう時が、楽しみだわ。


 そうと決まれば、凄い獲物を見つけなきゃ。


 こんなくっさいゾンビなんて、相手をしていられないわ。


 それから、村を駆け回った。けど、見つからない。


 いるのは、くっさいゾンビとスカスカのホネだけ。


 これじゃあ、主が褒めてくれない!


 どうしよう……そうだわ! 知っているやつに訊けばいいのよ!


「にゃ~!」

「……がぁ?」


 主の配下であるカラスの一羽が、レフの呼び声に答えてやって来る。


 このカラスは、最近どこにでもいる気がするわ。


 それとこいつらカラスは、メスガキアンクの子分どもよ。


 あいつも新参者のくせに、生意気なやつだわ。


 いつかどっちが上か、わからせてやろうと思うの。


 まあ、今はどうでもいいわ。


 あと主の配下同士は、少し離れていても意思疎通ができるの。


 だから上空を飛んでいても、レフの声は届いたわ。


「にゃっにゃ、にゃにゃにゃ~!(ちょっとあんた、近くにある大きな街に案内しなさいよ!)」

「かぁ、ががぁ(自分、ここら辺を見張るように命を受けています)

「にゃにゃな~。にゃん(なら見張りながら案内してくれれば大丈夫よ。主には許可を取っておくわ)」

「がぁ(承知いたしました)」


 どうにかなったわ。主の配下って、ほとんど自我が薄いのよね。上位の者が命じれば、大抵いう事を聞くの。


 けど上位者でも、近い種族の方を優先するわ。


 だからこのカラスたちは、レフよりもメスガキアンクの言う事を聞くの。


 数も多いから、面倒なやつらね。


 ◆


 それから無事に、レフは街までやってきたわ。


 移動方法? 縮小で更に小さくなって、カラスの足に鎖でぶら下がってきた感じよ。


 ちなみにそのカラスは、もう用が無いから帰ってもらったわ。


 あんなカラスがいなくても、レフは一匹でもできるもん!


 そうして街に入ると、思ったより静かだわ。


 くっさいゾンビがたくさん来ると思ったのだけど、違うみたい。


 モンスターの姿は、全くないわ。


 けど、レフにはお見通しよ。


 見えないところに、いくつも気配を感じるわ。


 どうやらレフの周りに、集まっているみたい。


 いいわ。いつでも来なさい。正面から叩き潰してあげる。


 そして街の広場にやってきた途端、敵が一斉に現れた。


「ウォン!」

「ヴァウ!」

「グルッ!」


 敵は、黒く短い毛をした犬だわ。耳が垂れているけど、鋭く赤い目がとても凶悪。


 何よりも頭部全体が、頭蓋骨の兜によって包まれている。


 硬そうなだけではなく、自身の牙と頭蓋骨兜の牙の二重構造だわ。


 噛まれたら、とても痛そうね。


 そんな犬が何匹も集まり、レフのことを狙っているわ。


 ここに、誘いこまれたみたい。


 けど、そんなの関係ないわ。


「グルオウ!」


 縮小を解いて、真の姿を見せてあげる! さあ、来なさい!


 するとそれを皮切りに、敵が一斉に向かってきたわ。


 一体一体はそこまで強くないけど、この数は面倒ね。


 でも、大丈夫。レフにはとっておきがあるから。


「ギャウン!?」

「キャイン」

「ギャイ!?」


 シャドーアーマーを発動させて、迎え撃ってやったわ。


 シャドーアーマーの付属スキル、シャドーネイルで敵を切り裂き、自慢の牙で噛み千切った。


 もちろん、ダークネスチェインも大活躍よ。


 ふふんっ、数だけ揃えたって、このレフを倒すには力不足ってわけ。


 すると敵もそれを悟ったのか、安易に飛び込んでこなくなった。


 けど、それは怯えや警戒だけではなく、理由があったみたい。


 奥から、一体のモンスターが現れた。


「「グルルル」」


 それは、頭が二つある犬だわ。体は他の犬よりも断然大きい。


 加えて他に違いがあるとすれば、頭蓋骨の兜が少し豪華で、角が生えていることかしら。


 おそらく強さは、相当なものね。


 油断したら、レフでも危ないかもしれない。


 そう警戒した途端、相手が動いた。


「「ヴァウ!」」

「グル!?」


 突然消えたかと思ったら、至近距離から現れる。


 これは、レフと融合したモンスターが使っていた技!? シャドーステップ!


 何とか回避しようとするけど、相手は頭が二つ。一度に対処ができない。


 くやしいけど、避け切れなかったわ。


 一つは前足で押さえつけたけど、もう一つの頭にその左前脚を噛まれた。


 凄い力。けど、レフのシャドーアーマーは簡単には砕けないわ。


 それに、これはチャンス。ダークネスチェインで、二首犬を拘束する。


 でもそんな時、他の犬たちが一斉に襲ってきた。


「ギャウ!」

「グル!?」

「キャイィ」


 けれども犬なんて、いくら集まっても相手にはならないわ。


 チャンスとでも思った? レフを舐めないでよね! 鎖はもっと出せるんだから!


 それに、もうおしまいよ。魔力が十分に溜まったわ。


「グルオウ!」

「「ギャイン!?」」


 魔力を込めたシャドーネイルで、押さえつけている方の首を切り裂いてやったわ!


 頭蓋骨の兜は硬そうだけど、首は無防備でもろい。


 無事な方の頭も、痛みで口を離した。それは、大失態ね。お終いよ。


「ギャウッ……」


 残ったもう一つの頭にも、シャドーネイルを首にお見舞いしてあげたわ。


 それによって、二首犬を無事に仕留めた。


「グルルル! (逃がさないわよ!)」


 最後に親分がやられて逃げ出そうとしていた犬たちを倒して、殲滅完了よ! レフの完全勝利!


 するとそれと同時に、広場の中央に宝箱が現れた。


 あ! 見つけると主がいつも開けるのを楽しみにしている箱だ!


 けど、主は絶対に自分では開けなかった。


 よく分からないけど、危険があるのかもしれない。


 だからレフも少し離れて、鎖で何とか開ける。


 何も、起きないわね。主はいつも、何を警戒しているのだろう?


 まあいいわ。中身は何かしら。


 近づいて、宝箱の中身を確かめてみる。


「にゃぁ~!」


 これなら、主も絶対喜んでくれるわ! ふふんっ、今から主に渡すのが楽しみ!


 いったい、どんな顔をするのかしら。


 レフのこと、撫でてくれるかな? よくやったって、言ってくれるかな?


 主、早く迎えに来ないかな?


 ……主、遅い。


 ぐぬぬ、もしかして、メスウサといちゃいちゃしているの? 


 レフというものがありながら……。


 レフのこと、忘れてないよね?


 主、信じてるからね! レフ、ここで待ってるよ!


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