162 拠点の家具集め
翌日俺は、拠点に調理場所も兼ねた暖炉を作っていた。
拠点は切り立った岩山の根元にあり、頂上まではかなりの高さがある。
召喚転移を駆使しながら、そこにドリルモールを移動させて
もちろんドリルモールとの繋がりや、感覚を共有して位置関係を十分計算した上で行っている。
その結果として拠点の壁中央に、ドリルモールが見事に暖炉の煙突を開通させた。
途中薄い土塊の壁を掘削できないアクシデントもあったが、これで下地は整う。
あとは再度上からちょうどいい大きさに穴を広げて、周囲を土塊でコーティングする。
加えて暖炉となる
拠点内から見れば、既に完成しているように見える。
だが重要な部分が、まだ出来ていない。
俺は召喚転移で岩山の山頂に移動すると、煙突部分を土塊で形作っていく。
穴から四角形の短い煙突が飛び出たように作り、上部に雨が入らないように傘のような蓋をする。
そして蓋のすぐ下の煙突部分に、煙用の穴を四か所横長方形に開けていく。
一応この大陸で虫などを見ていないが、念のため網状にして侵入を出来なくしておいた。
よし、これで暖炉と煙突の完成だ。
まあ煙が出れば多少は目立つが、頻繁に使うつもりはないから大丈夫だろう。
そもそも周囲には生き物を始め、モンスターも見かけない。
過剰に隠れ潜む必要は、無いと思われる。
またこの暖炉と煙突は、普段は空気穴の代わりになるだろう。
たまに微風で空気の循環をさせれば、新鮮な空気を吸える。
しかし料理中や暖をとっている時は、少々不安だ。
なので別途、小さな空気穴を作ることにした。
拠点の右上部の角へと、ドリルモールに空気穴を開通させる。
ただ流石に、小型犬サイズのドリルモールが掘った関係で空気穴が太すぎた。
故に土塊で内部をコーティングする際に調整して、程よい太さの空気穴に変えておく。
そして拠点側にある空気穴の出口は網目状に塞ぎ、山頂の方はひっくり返した『し』のようなパイプを土塊で作った。
もちろん空気穴の入り口側も、網目状に塞いでおく。
そうして、空気穴も無事にできあがった。
これで一先ず、拠点作りは完了したといってもいいだろう。
足りない部分が出れば、後から作り足せばいい。
問題はダンジョンのように、気がついたら元に戻っていないかである。
これはハパンナ子爵家に滞在していた時に聞いたのだが、ダンジョンは内部構造が破損すると自動的に元通りにするらしい。
なので資源が採取できるダンジョンでは、採取後もしばらくすればまた採取が可能になる。
せっかく作り上げた拠点だが、気がついたら元の洞窟に戻ってしまうかもしれない。
けれどもそれは、一般的なダンジョンの場合だ。
この大陸の場合、少し違うかもしれない。
実際一晩経ったが、拠点の壁に変化はなかった。
加えて俺の魔力で作った土塊で、壁がコーティングされている。
それが邪魔をして、元に戻らないかもしれない。
なのでしばらく様子を見て、これで問題が出るようであれば、その時に対策を考えようと思う。
俺はそう判断を下し、次の行動に移る。
召喚転移を発動して、昨日の廃墟街へとやってきた。
ふむ。ゾンビは補充されていないみたいだな。
一晩経った程度では、昨日のようなゾンビの群れは補充されないらしい。
廃墟街は見た目通り、物音一つしない静寂に包まれていた。
まあ今回は戦闘が目的ではないので、ちょうど良いとも言える。
俺はレフと共に廃墟街を観察しながら歩き、次に領主の館までやってきた。
そして館に入ると、この場所も街と同様に静か極まりない。
ホールにも移動してみたが、ノーブルゾンビも当然のように補充されていなかった。
仮に一晩で補充されていれば、毎日宝箱を開けられた可能性があっただけに、とても残念である。
まあ、そんな甘い話は無いという訳か。
けれども床や壁を見れば、戦闘によって付いた傷が元通りになっている。
やはりこの屋敷も含めた廃墟街は、ダンジョンということなのだろう。
これは拠点も元通りになってしまわないか、少し心配になってきた。
まあ拠点が洞窟に戻ってしまった時は、悲しいが諦めるしかない。
そんな悲観的な考えが頭をよぎったが、さっさと切り替えてここに来た目的を果たすことにする。
そもそも俺がここに来た目的は、拠点用の家具を手に入れるためだ。
領主の館とあって汚れて壊れていても、元々は質のよさそうな物である。
試しに近くにあった椅子に対して、生活魔法の清潔・修理・調整を発動してみた。
すると驚くほどの魔力を消費したかと思えば、椅子が新品同然へと変わる。
「おお」
シンプルなデザインながら大変質の良い椅子に、俺もつい声が出てしまう。
仮にこの生活魔法を駆使して暮らせば、転売だけで十分に食っていける気がする。
しかし同じことを一般的な人族が行えば、魔力欠乏症から死へと至るかもしれない。
それくらいの魔力が、消費された。
なのでこれを専門にしている者は、あまりいない気がする。
そもそも生活魔法を上級まで使える必要があるので、なおのこと難しい。
修理と調整は、上級生活魔法なのだ。
故に廃棄物同然の椅子を生活魔法で直すのは、それくらい大変ということになる。
しかし俺にしてみればそれも、少し休憩すれば回復する程度の魔力で可能だ。
加えて必要なのは自分で使う分だけなので、消費する魔力はそこまで気にする必要はないだろう。
また直した椅子は、俺が生活魔法の製作で作る物よりも断然良い物だ。
サイズも調整により、俺の体にピッタリである。
たとえ拠点が洞窟に戻ったとしても、こうした品は今後も役に立つだろう。
なので俺は必要そうな家具を、片っ端から集めていく。
いつか使うかもしれないと、予備の家具や現状必要にないものまで、ストレージに収納していくのだった。
◆
よし、これだけあれば十分だろう。
無事に家具を集め終わった俺は、そのまま拠点へと帰還する。
そして必要そうな家具を早速新品同然に直しながら、拠点へと配置していく。
どこに何を置こうかと考えるのは、案外楽しかった。
まず中央には、絨毯を敷く。その上に長方形のテーブルを置き、向かい合うように同じく長方形のソファをそれぞれ設置した。
次に暖炉側の左奥に置くのは、ベッドだ。領主の館にあった質の良い、シングルベッドである。
最初は見るに堪えないほど朽ちていたが、ベッド台、マットレス、羽毛布団がそろっていた。
直すのに尋常ではないほどの魔力を消費したが、直れば最高の寝心地となる。
一応枕もあったのだが、レフが修復不可能なほどに破壊したので諦めた。
どうやら、枕のポジションを降りる気はないらしい。
続いて向かい側の奥には、棚や引き出しを置いた。
特に収納する物は無いので、ガラガラだ。
見栄えが微妙なので、そのうち何か置こうと思う。
そして暖炉側の右奥には、食器棚と調理スペースとなるテーブルを設置した。
食器類は屋敷から集めた物を、綺麗に直して入れている。
また調理スペースのテーブルを置いた場所は、いずれ手を加えるつもりだ。
時間があるときに半分シンクにして、排水管を通そうと思う。
次に向かい側の奥には、作業用の机と椅子を置く。
何か作る時を想定して、少し大きめだ。
そしてその隣には、本棚がある。
屋敷で見つけた本をいくつか入れているが、見栄えだけは良い。
廃墟街には本自体がほぼ無かったが、屋敷には多少あったのだ。
しかし本を開いても、中身は全て白紙だったのである。
これは、少しでも情報を与えたくないという事だろうか?
まあそれについては、今は気にしても仕方がない。
直しても白紙だったので、元からそういう本だったのだろう。
それか修復では、本の内容までは戻らないのだろうか?
これについてもいつか、実験してみようと思う。
そうして手に入れた本であるが、カバーの作りがよかったので、インテリアとしては十分である。
数は用意してあるので、隙間なく本棚に収めておく。
そして最後に残った元出入口付近だが、玄関マットを敷き、両サイドには鉢植えを置いた。
鉢植えには土塊を入れて、そこへ召喚したリトルトレントをそれぞれ植える。
リトルトレントは観葉植物に見えなくもないし、召喚転移の目印にも最適だ。悪くない。
そんな感じで家具の設置が終わり、俺の拠点はかなり充実したものとなった。
また天井には生活魔法の光球が浮いていて、十分に明るい。
ただ窓が無いのが少し不満だが、それは諦めよう。
そして暖炉にストレージから出した薪を置いて、生活魔法の火種で着火する。
パチパチと音を鳴らす火を見ながら、ソファへと座った。
屋敷にあったものだけに、心地よい。
「にゃぁ」
するとレフが小さく鳴いて、俺の膝の上に座る。
俺はそれを見てグローブを外すと、レフをゆっくりと撫でた。
レフも心地よさそうに、目を細める。
この大陸は荒廃しているが、この拠点内だけはそれを思わせないゆとりがあった。
いつか旅を終えた時に、どこかで静かに暮らすのもいいかもしれない。
そんな気持ちが少し芽生えるほどに、平和な時間が流れるのだった。
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