161 岩山の洞窟で拠点作り


 あれから俺は、岩山が連なる場所へと移動していた。


 その中で発見した洞窟があり、中は広々としていて拠点としても丁度良さそうである。


 おそらくこの大陸には、しばらくいることになるだろう。


 であれば、毎回寝る場所を探すのは面倒だ。


 この洞窟は入り口こそ大人二人が通れるほどだが、内部は五~六人が余裕を持って過ごせる程度にゆとりがある。


 少し整備すれば、拠点として十分に活用できるだろう。


 それとこの周辺は、おそらく安全だ。


 理由はここら辺で、一切モンスターを見ないからである。


 念のため岩山の近辺を偵察させたが、スケルトンの一体すら見かけない。


 これには俺も当初は首をかしげたが、拠点としては便利なので受け入れた。


 それにこの大陸がもしダンジョンだとすれば、あえて空白地点を作っているのかもしれない。


 無駄に戦力を全体に配置しておくのではなく、特定の場所に集中した方が様々な面でメリットがあるのだろう。


 思えば偵察中は、モンスターのほとんどいない場所が多かった。


 いても、スケルトンがぽつぽつといる程度である。


 逆に先ほどの廃墟街のような場所には、過剰なほどゾンビがいた。


 なのでこの可能性は、十分にありえるだろう。

 

 それにわざわざこんな岩山に、普通は拠点を作らないのだと思われる。


 だいたいはやってきた国から支援が受けやすい、小さな国境門の近くに拠点を築いていた。


 この大陸は水や食料は期待できず、また敵に小さな国境門を占拠されたらたまったものではないだろう。


 なので何もない岩山に、わざわざ拠点を築く必要が無いのだ。


 それにここは周囲に村や町もなく、完全に孤立している。


 草木もなく、生き物は皆無。水の入手なども期待はできない。


 モンスターがいなくて安全ではあるが、ただそれだけの場所である。


 ある意味見放された土地だが、俺にとっては関係ない。


 召喚転移があれば、問題なく移動ができる。


 水や食料も十分にあり、小さな国境門の周囲を守る必要もないのだ。


 ゆえに他は見向きもしない場所だが、俺にとっては使いやすい拠点となる。

 

 いくら強くなっても、安全な場所というのは良いものだ。


 夜の晩はモンスターがしてくれるし、大抵の敵は相手にならない。


 それでも心情的に、敵が来ないというのは気が休まる。


 俺は種族こそデミゴッドであるが、精神は普通の人とあまり変わらないのだろう。


 そういう訳で、俺はこの洞窟を拠点とすることにした。


 であれば暫く過ごすことになるだろうし、早いうちから整備しておこう。


 まずは暗い内部を、生活魔法の光球で照らす。


 するとやはりデコボコした面や、とがった岩が突き出ているところなどが気になる。


 他にも邪魔な岩があったり、天井の高さにもバラツキがあった。


 何となくそのまま使う気は起きなかったので、整えることを決める。


 そういえばこんな時、使えそうなモンスターがいたな。


 俺はそう思い、あるモンスターを召喚した。


「出てこい」

「モグ―!」


 そして現れたのは、先端に小さなドリルの付いたモグラ。ドリルモールである。



 種族:ドリルモール

 種族特性

【掘削】【触覚感知】

【ドリル強化(小)】


 

 色は茶色で、サイズは小型犬ほどだ。


 普通のモグラは目が退化しているが、ドリルモールはつぶらな瞳でこちらを見上げている。


 鳴き声も独特で、愛嬌があった。


 何だかペットとして、人気が出そうなモンスターである。


「にゃにゃ」

「モグー」


 するとレフが、ドリルモールと何やら会話を始めた。


 やけに親しそうだが、そこであることを思い出す。


 確かボンバーを倒した際に、レフをドリルモールの背に乗せて地中を進ませていたんだった。


 当時のレフは縮小のスキルで更に小さくなっていたので、ドリルモールに乗ることが出来たのである。


 おそらくこの個体は、偶然その時のドリルモールと同じだったのだろう。


 そんなことを思い出しながら、俺はドリルモールを抱き上げる。


 意外と毛触りがよさそうで、ふわふわしていた。


 ブラックヴァイパーのグローブ越しでも、それを感じる。


「よし、ドリルを回してくれ」

「モグ―」


 俺がそう命ずると、ドリルモールは先端のドリルを回し始めた。


 キュイーンという音が鳴り回っている姿は、何だか不思議な光景である。


 おそらくモンスターの中でも、ドリルモールは特殊な部類だろう。

 

 そうして俺は、壁の尖った場所を試しに削っていく。


 ドリルモールの掘削スキルとドリル強化(小)も相まって、綺麗に削り切れた。


 なお削る際に飛んでくる粉塵ふんじんなどは、生活魔法の微風でガードしている。


 それとこの大陸全体をダンジョンと仮定していたが、洞窟の壁は普通に削れるみたいだ。


 強度も普通と変わらない。ダンジョンの壁のような物質ではなさそうである。


「よし、問題はなさそうだな」

「モググー!」


 削り過ぎて少し壁がへこんだが、問題ない。


 生活魔法の土塊で、凹んだ分を付け足す。

 

 魔力で強化しているので、強度も十分だ。


 ただ色合いが、壁の灰色と土塊の茶色という感じで違う。


 しかしこれについては、後で考えがあるので今は気にしない。


 そうして試しが済んだので、俺は残りのドリルモール九匹を召喚する。


 また持ち上げる役として、ハイスケルトンも呼び出す。


 ハイスケルトンなのは、普通のスケルトンだと少し腕力が心配だったからだ。


 それと粉塵が飛んでも、こいつらは気にしないだろう。


 ドリルモールも元々は地中で過ごしているので、大丈夫そうだ。

 

 そしてハイスケルトンとドリルモールを二体一組として、尖った壁や浮き出た部分を削らせる。


 また落ちている岩は外に運ばせ、壁や床と繋がっている岩は削って分離させた。


 多少凹ましても問題ないので、気が楽だ。


 俺とレフは、洞窟から出てそれを眺める。


 辺りは既に暗いが、光球が洞窟内を照らしていて良く見えた。


 そうしてしばらく経った後、無事に問題の箇所を全て削り終える。


 俺は凹んだ部分を土塊で埋めていき、平らにしていく。


 よし、これで壁と地面は完璧だな。


 だとすれば残すのは、天井だけか。


 しかし天井を削るのは、流石に崩落ほうらくの危険があるかもしれない。


 念のため強化した土塊の柱を作り、支えておく。


 まあもし崩れても、モンスターは復活するし大丈夫だろう。


 そうなったらドリルモールが少しかわいそうだが、何事も犠牲はつきものだ。


 なった時のことを悲観するのはほどほどに、さっそく実行に移そう。


 俺は再び外に出ると、ハイスケルトンとドリルモールに天井を削らせる。


 高すぎる場所には、生活魔法の製作で作った脚立きゃたつを渡して対処させた。


 ちなみに脚立は木材だけで簡易的に作ったので、閉じることが出来なかったりする。


 丸太から直接、脚立へと形成した感じだ。


 出入り口からは入れるのが困難なので、一度中に入りストレージ経由で渡している。 


 これで問題なく天井に届いているので、作った甲斐があった。


 それと一応天井が崩れそうなら、すぐにモンスターをカードに戻すつもりだ。


 なので、作業からは目が離せない。


 しかし俺の心配をよそに、結局のところ何事も起こらずに作業が終わる。


 凹んだ天井部分は、同様に土塊で埋めた。


 加えて僅かな凹凸でこぼこの改善と補強のために、厚み数センチの土塊で全体をおおっていく。


 魔力を十分に込めたので、薄くても強度はかなりのものだろう。


 天井が突然崩落することも、無くなったと思われる。


 更に全体の色合いも統一されたので、まとまりができた。


 最後に邪魔な柱と脚立を撤去すれば、洞窟内は茶色い正方形となる。


 加えて土塊は研磨けんました石のように、ツルツルとしている。


 光沢があると眩しいので、抑えめだ。


 あとは出入口を土塊で塞いで偽装のスキルを使えば、外からはただの岩肌にしか見えない。


 ただ空気穴が無くなるので、今回出入り口の上部には少しスキマを作っている。


 これについては、今後改めて考えよう。


 ちなみに洞窟内、いや拠点の床に散らばった粉塵や岩の破片などは、既に無い。


 微風で角に集めた後ストレージで収納して、それを外に纏めて捨てておいた。


 なので現在の拠点内は、とても綺麗という訳だ。


 それと役目を終えたハイスケルトンとドリルモールも、撤収させている。

 

 故に広々とした空間にいるのは、俺とレフだけだ。


 他のネームドたちも、この岩山に来るときにカードへと戻している。


 これは少し、広すぎるかもな。


 時間があったら、家具を作って置いてみてもいいかもしれない。


 それか、廃墟街から壊れた家具を持ってこよう。


 生活魔法の清潔・修理・調整があれば、使えるようになるはずだ。


 清潔で綺麗にして、修理で直し、調整で俺のサイズに合わせられる。


 本来効率が悪くても、俺の魔力量なら十分に可能なはずだ。


 価値のある物が無いと判断を下していたが、これは思わぬ発見だろう。


 何が役に立つのか、分からないものだ。


 そんなことを考えていると、なんだか少しワクワクしてきた。


 たまにはこうして、拠点を作るのもアリだな。


 俺はそう思いながら、もう夜も遅いので軽く夕食を済ませると、寝る前の支度を終わらせた。


 そしてストレージから、敷物とブランケットを出して横になる。


 枕はもちろん、大型犬サイズになったレフだ。


 けれども少し、肌寒い。


 一応ブランケットをかけているが、何となくそう感じた。


 アロマの再召喚までは、もう少し時間がかかる。


 今夜は、諦めるしかなさそうだ。


 念のため見張りのモンスターを召喚したあと、俺は眠りにつくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る