160 見守った戦闘の行方


「ウギィ!?」

「きゅぃ……」


 トーンとサンに毒が効いた様子は無いが、ジョンとアロマは苦しみ出した。


 加えて当然のように、ハイゾンビたちにも効いた様子はない。


 するとその隙を狙っていたかのように、ハイゾンビの一体がジョンに攻撃を仕掛ける。


「ヴがあ!」

「うぎぃ!?」


 毒の煙も相まって視界が遮られた中、ジョンはこの攻撃を避けることが出来なかった。


 対してハイゾンビは、生命探知で相手の居場所が丸わかりである。


 ジョンはハイゾンビの強靭きょうじんな腕力により、首をへし折られてしまった。


 当然死亡して、カードとして戻ってくる。


 その間にアロマがリフレッシュアロマで毒から回復するが、一歩遅い。


「――!?」

「ヴぉげげげ!」


 いつの間にか接近していたノーブルゾンビのシャドーネイルで、トーンが倒される。


「ヴぉがぁ!」

「きゅっ!?」


 それによりトーンによって動きを封じられていたハイゾンビが自由になり、アロマを襲った。


 戦闘能力が低いアロマには、成す術がない。


 そして最後に残ったサンは、健闘むなしくも数に圧倒されて、敗北をきっする。


 ノーブルゾンビが戦闘に加わっただけで、あっという間に瓦解した。


 数とトップのランクで負けている状態で勝つのは、やはり厳しいものがあったようである。


 負けた……か。


 あえて指示も出さずに最後まで見守ったが、やはりくるものがあるな。


 敗北も経験だ。この負けた悔しさを糧に、ジョンたちにはより精進してもらいたい。


 しかし、俺も勝てる可能性があると思ったから送り出した。


 フュージョンモンスターなどのエクストラや、俺の軍団指揮の効果で能力は上がっている。


 Cランクとも、十分に渡り合えると思った。


 けれども結果としては、敗北。


 不利な状況下でそれを覆すものが、足りなかった。


 それは作戦やスキル、経験など多岐に渡るだろう。


 また敵であるノーブルゾンビは、思った以上に知能が高かったようだ。


 加えて、種族特性のバランスもいい。


 負けたのは不利もあったが、ノーブルゾンビが的確に出せる手札を出した結果だな。


 悔しいが、俺としても見ていて勉強になった。


 だから、この敗北にも意味がある。


 よし……反省はこのくらいにしよう。


 相手に関心はしたが、自分のネームドモンスターがやられたことに腹が立ったのも確かだ。


 例えそれが、生き返るカードのモンスターだったとしても。


「何だ? 攻撃してこなかったのか? 隙だらけだっただろう?」

「ヴぉぎぎぎ」


 やはり、あのノーブルゾンビは頭がいい。


 これだけ熟考していて、如何いかにも隙だらけに見えたのに攻撃してこなかった。


 いや、単にレフとアンクを警戒しただけか? それとも、何故か・・・アンデッドなのに怯えているからか?


 まあ、どうでもいいか。どちらにしても、次の結果には変わらない。


「これは八つ当たりになるが、悪く思うなよ?」

「ヴぉげ!?」


 俺はカオスアーマーを纏うと、ノーブルゾンビとハイゾンビを一瞬でミンチに変えた。


 ◆


 ん?


 戦闘が終わると、ホールの中央にある物が現れた。


 それは良く見慣れた、とある物である。


「これは、宝箱だよな?」


 思わず俺は、声に出す。


 そう、ノーブルゾンビを倒して現れたのは、ダンジョンでよく見かける宝箱だった。


 何で現れた? まるで、ダンジョンのボス部屋のようだ……ダンジョン?


 もしかして……そういうことか。


 あれだけの数をカード化しても、ユニーク個体がいなかった理由。それは、この大陸全てがダンジョンだからではないだろうか?


 飛躍した想像ではあるが、あり得なくはないだろう。


 それにユニーク個体は、ダンジョンの個体からは生まれない。


 これは長く旅を続けた上で、判明している事実である。


 だとすれば、ユニーク個体が手に入らなかった説明がつく。


 そしてこの宝箱は、正にダンジョンである理由の一つになるだろう。


 まだ確定した訳ではないが、この大陸がダンジョンであるという前提で考えてもいいかもしれない。


 であるならば、いくら探してもダンジョンが見つからないことも頷ける。


 ダンジョンが見つからないのではなく、既にダンジョンの中にいるのだから、見つからなくて当然だ。


 そう考えるとこの大陸には、ダンジョンコアを守る真のダンジョンボスがいることになる。


 ならこのノーブルゾンビはボスではなく、お宝部屋を守る強敵というところだろう。 


 鑑定しても、エクストラにダンジョンボスという項目は無かった。


 おそらく以前戦った、ハパンナダンジョンのハイオークと似たようなポジションなのだろう。

 

 俺はそう判断を下すと、とりあえずノーブルゾンビをカード化する。


 ちなみにハイゾンビはもういらないので、カード化した後抹消しておく。


 そして念のためスケルトンを召喚すると、宝箱を開けさせた。


 すると特に罠は無く、中身を取り出して持ってくる。


 これは、スキルオーブか。


 スケルトンから受け取ったのは、なんとスキルオーブだった。


 俺は早速、スキルオーブに対して鑑定を発動する。



 名称:生命探知のスキルオーブ

 説明

 使用することで、生命探知のスキルが習得できる。



 なるほど。アンデッドなら大抵持っているあのスキルか。


 であるならば、おそらくこの大陸では外れ枠になるのだろう。


 しかし未取得の俺からすれば、是非とも欲しいスキルである。


 生命がある者限定とはいえ、相手の位置が探れるスキルは有用だ。


 一応気配感知のネックレスはあるが、それとはまた違う索敵方法があっても損はないだろう。


 なので俺は迷いなく、スキルオーブを使用した。



『スキル【生命探知】を習得しました』

『神授スキル【二重取り】が発動しました。スキル【生命探知】を獲得しました』

『スキルが重複しているため、スキルが統合されました。スキル【生命探知】は、スキル【生命感知】に進化しました』



 名称:生命感知

 効果

 周囲の生命を感知する。



 効果はシンプルだが、これはかなり良いものだろう。


 発動してみると、近くにいるレフやアンクはもちろんのこと、街で狩りをさせている配下たちの生命も感じ取れた。


 範囲を広げようと思えば、おそらくかなりの距離を広げられる。


 けれどもこれは、使う時をよく考えた方がいいだろう。


 まず前提として、この大陸はアンデッドばかりで生命を持つ者は少ない。


 いるのは現状俺たちや、小さな国境門付近にいる他国の者たちだけになる。


 だがこれをもしハパンナの街のような場所で行えば、俺の脳に対して瞬間的に多くの情報が届くかもしれない。


 それでもし脳が破裂してしまっては、流石にシャレにならないだろう。


 なので普段は精々、数メートルほどに制限しておく。


 この大陸で役に立つときは限られると思われるが、今後はきっと役に立つスキルとなるはずだ。


 そうして新たなスキルを習得した俺は、次に一応屋敷の中を探索することにした。


 けれどもやはり、碌な物が無い。


 領主の屋敷にもかかわらず、価値のあるものは発見できなかった。


 なのでノーブルゾンビを召喚して色々と訊いてみたが、それも空振りに終わる。


 一応隠し部屋は知っていたみたいだが、その隠し部屋にもゴミしかない。


 ここまで徹底していると、わざとだとしか思えなかった。


 価値のあるものは一切無いのに、壊れた家具や食器、腐った食べ物などは大量にあるのだ。


 もしかすると、意図して置かれたダンジョンの配置物なのかもしれない。


 普通のダンジョンなら宝箱くらい隠されているものなのだが、ここは違うようだ。


 ノーブルゾンビも、宝箱の場所を知らなかった。


 おそらく、この街に宝箱は無いのだろう。


 だとすれば何かあるだろうとこの街にやってきた者たちは、徒労に終わることになる。


 なのにモンスターは、しっかりと配置されていた。


 もしもダンジョン内部を設計できる者がいたとすれば、これは嫌がらせに他ならない。


 それかそもそも、来た者たちを排除することが目的なのだろう。


 水も食料もなくゾンビに襲われ続ければ、普通はたまったものではない。


 街にあるのは、腐った食べ物だけだ。清潔な飲水など、当然期待はできない。


 一時の飢えはしのげても、その後が地獄になるだろう。


 そして何とか無事にノーブルゾンビを倒しても、得られるのはスキルオーブが一つだけ。


 これは、割に合わないという次元ではない。


 多くの小さな国境門があったし、その内この街にやって来る者たちも、実際にいるかもしれないな。


 まあ、それについてはどうでもいいか。


 問題は、他の街も似たような感じかもしれない事である。


 ノーブルゾンビにそれを訊いても、他の街について知っていることは無かった。


 ダンジョンでいえば、階層が違うという事だろうか。


 この大陸の謎も、少しずつ分かってきたな。


 けれどもそれについては、率先して探す必要はない。


 偶然知ったり、目の前で知る機会があれば探す程度でいいだろう。


 俺の今の目的は、仲間たちの強化だ。


 今回みたいに敵が多い場所を何度か襲撃していけば、少しずつ判明していくかもしれない。


 そう考えながら、俺は領主の屋敷を出る。


 すると外は、少し薄暗くなっていた。この大陸にも、夜という概念はあるみたいだ。


 この街で夜を明かすくらいなら、別の場所にテントを設置した方がいいだろう。


 ほこりっぽいし、何より臭い。


 加えてダンジョンだとすれば、ゾンビがどこからともなく湧き出て襲撃が続くだろう。


 召喚したモンスターで対処可能だが、睡眠妨害になるのは確実だ。


 この街でやることはもう無いし、このまま街を出よう。


 俺はそう決断すると、離れたネームドたちとノーブルゾンビをカードに戻す。


 そして偵察を続けているアサシンクロウたちの中で、一番良さそうな場所を吟味ぎんみし始めるのであった。


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