156 そして伝説へ……


「俺は、ただの旅人だ。お前らの敵ではない。国境門を通りたくて、邪魔なアンデッドどもを排除したに過ぎない」

「そ、そうでしたか。助かりました。よろしければ、是非お礼をさせてください」


 ダークエルフの代表者はそう言うが、恐怖していることが伝わってくる。


 俺が暴れ出したら、ひとたまりもないと考えているのだろう。


 背後にいるダークエルフ達も、固唾かたずんで見守っている。


 俺たちの戦いは、想像以上に彼らの精神に影響を与えたのだろう。


「いや、結構だ。先を急いでいるからな。礼は不要だ」


 そう言うと俺が理性的だと思ったのか、ダークエルフの代表者は一度思案すると、緊張しながらもこう口にした。


「承知いたしました。なら、あなた様の力を見込んで、どうか我らのお願いを聞いて頂けないでしょうか? 我らダークエルフは、現在自称ハイエルフという脅威にさらされているのです」


 ダークエルフの村同士には連絡をする手段があるのか、既に戦争についての情報が届いているのかもしれない。


 だがそれも、既に意味は無いだろう。


 ここで隠していてもいずれ知られるだろうし、断るついでに言っておこう。


「その脅威はもう去ったようなものだ。自称ハイエルフの女王ティニアは、既に死亡している。彼の地は今、神聖な巨樹であるユグドラシルが支配している。

 ユグドラシルにとってはエルフもダークエルフも関係なく、また攻撃されなければどうこうする気はないらしい。

 自称ハイエルフの軍は残っているが、それも時間の問題だろう。故に心配する必要はない」

 

 俺がそう言うと、ダークエルフ達はポカンとする。


 まあ突然そんなことを言われても、理解しきれないだろう。


「ではそういう事で、俺は行かせてもらう」


 言いたいことは言ったので、俺は背を向けて歩き出す。


「お、お待ちください! せ、せめてお名前を!」


 すると背後から、そう声をかけられた。


 名前か。ジンと名乗ると身バレしそうだし、偽名を名乗るか。


「……ジオス。俺の名は、ジオスだ」


 ジン+カオスアーマー=ジオスという訳である。


「ジ、ジオス様、ありがとうございました!」


 ダークエルフの代表は最後そのように、お礼を叫んだ。


 俺はそれに対して、片腕を上げてその場を去る。


「にゃおう」


 するとシャドーアーマーに身を包んだレフが近寄ってきたので、それに飛び乗った。


 続けてレフ以外のモンスターをカードに戻し、ついでに倒したモンスター達をカード化しながら進んでいく。


 もちろん国境門をこれから通るため、この大陸にいるモンスターも全てカードに戻した。


 それとアンデッドが現れたという事は、国境門の先がどうなっているのか想像がしやすい。


 おそらく国境門の先は魔境であり、近くに人はいないだろう。


 これまで人型種族の争いに何だかんだで関わってしまったので、魔境というのも良いかもしれない。


 カオスアーマーで強くなったとはいえ、細かい部分ではまだまだ足りないだろう。


 それに俺が強くなっているという事は、他の転移者も成長しているはずだ。


 強さを求めることに、終わりは無い。

 

 また次の目標は強くなって、ゲヘナデモクレスを降し手に入れることだ。


 今回の戦いを経験したことで、ゲヘナデモクレスと渡り合える切っ掛けは掴めたと思う。


 これまでは倒せるビジョンが見えなかったが、ようやく少しは見えた。


 決着をつける日が、今から楽しみだ。


 そうして国境門に辿り着くと、僅かに現れるスケルトンを蹴散けちらしながら、先へと進む。


 いったいこの先には、何が待っているのだろうか。


 レフに騎乗しながらも、俺は心を弾ませるのだった。


 ◆ ◆ ◆


 時間は少し巻き戻り、ジンがカオスアーマーを身に纏った時のこと。


「お、おおお、うぉおおおお! あ、主……な、何だその鎧は!? か、かっこ良すぎるではないか!」


 カルトスの神授スキルであった全知の追跡者を手に入れたゲヘナデモクレスは、少し離れた場所から神授スキルを使って、ジンを覗いていた。


「わ、我と並んだら、お似合いではないか? 色合いや、雰囲気も似ている。きっと誰もが、そう思うに違いない! こ、これは運命。我と主の結ばれた運命だ! 何と言っても、我は主の切り札だからな!」


 周囲に誰もいないことを良いことに、ゲヘナデモクレスの独り言が止まらない。


 ユグドラシルの中で召喚されてからというもの、ゲヘナデモクレスのテンションは常に高かった。


「だ、だがあの鎧ではなく、我が装備されたいぞ! 主の温もりを、また感じたい!」


 あの時ジンに装備してもらったことを、ゲヘナデモクレスは忘れられない。


 その時は心を落ち着かせるのに、苦労したくらいだ。


 故に我慢した反動からか、ゲヘナデモクレスは誰にもはばかることなく、感情を解き放っているのである。


 そうした出来事があったものの、時は進み、現在。アンデッド軍団との戦いを迎えた頃まで、話は進む。


「凄いぞ主! これならば、我を倒す日・・・が近そうではないか!」


 最早ゲヘナデモクレスは、自身が負ける前提で妄想を膨らませていた。


 けれどもそれは、あくまで近そう・・・である。


 あの戦いを見てもゲヘナデモクレスは、現状負けると全く思ってはいない。


 これは見栄や誇張ではなく、事実だった。


 故にジンにはもっと強くなってもらいたいと、ゲヘナデモクレスは考えている。


「む。国境門を通るのだな。こうしてはいられない。我も行かなければ!」


 そしてジンを追うように、ゲヘナデモクレスは国境門へと向かう。


 だが途中で、ゲヘナデモクレスはあることを思いつく。


「良いことを思いついたぞ。あの愚民どもに主の凄さを喧伝けんでんしておこう。このままでは、あの屑木に良いところを取られてしまう」


 するとゲヘナデモクレスは早速行動に移し、ジンと話していたダークエルフの代表の元へとやってきた。


「ひぃ!? あ、あなたはいったい!?」

「我は主、ジオス様一番・・の配下である! 主は自身の功績を話したがらぬ故に、我が伝えよう。ここでその証拠を、見せようではないか!」


 ゲヘナデモクレスはそう言って、全知の追跡者の能力で立体映像を展開する。


 ちゃっかり映像を編集して、違和感の無いようにジンの姿をカオスアーマーにしていた。


 またいくつかの台詞や映像なども改変して、結果ゲヘナデモクレスは見事なプロパガンダ映像を作り出す。


 更に村全体へと見えるように、上空にも映し出した。


 ゲヘナデモクレスは、全知の追跡者の隠し効果をいくつか発見していたのである。


 ちなみにジオスと名乗った事を知っているのは、全知の追跡者で音や匂いも含めて覗いていたからだ。


 そうしてこの出来事は村中が知ることになり、後の伝説となる。


 気がつけばジンは、ダークエルフだけではなくエルフをも救った英雄となっていた。


 加えてゲヘナデモクレスが気を利かせて何時でもこの映像が再生できるように、布教用の水晶玉をいくつか創り出して渡していたことも影響している。


 更にユグドラシルからも事実だと後々確認も取れたことで、それは加速していった。


 またユグドラシルがジン、ジオスは自身の旦那であり、世界を救う旅に出たと脚色までされる始末。


 ユグドラシルとジオスが恋に落ち様々な困難を乗り越え、この大陸を救ったという本が作られると、演劇にもなり始める。


 エルフの吟遊詩人ぎんゆうしじんも村々を練り歩き、こぞってこのユグドラシルとジオスの詩を歌った。


 結果宣伝も十分になされ演劇は熱狂的な人気をはくし、作家によって次第に尾びれや背びれ、胸びれまで足されていく。


 そうしてジオスという存在は、最終的にユグドラシルと並んで神と崇められることになるのだった。


 この壮大過ぎる事実に、ジンが果たして気がつく日はやって来るのだろうか。


 またユグドラシルとジオスジンが夫婦になっている事をゲヘナデモクレスが知ったとき、どのような反応をするのか、それはまだ誰も知らない。


 ただ現状一つ言えることは、同じ神を信仰し始めたエルフとダークエルフの関係が、想像以上に改善され始めたことだろう。


「ふふ、旦那様。私、何千年、何万年でも待っているわ。でも、途中で飽きちゃったら、その時は……」


 どこかでユグドラシルが、そう静かに呟いた。


 ___________


 これにて、第四章は終了となります。


 今話のタイトルが最終回に見えますが、まだまだ物語は続きます。(笑)

 

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


 詳しいあとがきは近況ノートにて、書いています。


 また第五章のプロット製作のため、少しお休みを頂きます。

 <m(__)m> 


 遅くても7月の半ばには、更新を再開すると思います。


 そしてもしよろしければ、☆や応援を頂けると励みになりますので、最後にポチっとして頂けると助かります。


 引き続き、モンカドをよろしくお願いいたします。 


 乃神レンガ

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