秘密
だら子
第1話
「君とこんなことしてるなんて、絶対に秘密だよ」
川口くんは視線を動かさずわたしに言う。
「可愛い…本当に神ってる」
その言葉に素直にうなづいた。
身体を動かして心を動かしてわたしたちは別々のペットボトルに口つけた。
少しぬるくなった水を一気に飲み干す。
「お互いに好きなところを会うたびに話すなんて職場のみんかが見たらドン引きだろうな…」
「うん…そうだよね…ね、お腹減った…。ご飯でも食べにいこうか!?」
急に恥ずかしくなり話を変えるように、わたしは立ち上がった。
「絶対に秘密」
この言葉がどれほど意味のないものか。
みなさんもご存知かと。
むしろ、広めたくなる。
「本当、出会えて、生きていてよかったと思うよ。そしてこんなに共感しあえるって奇跡じゃない!?」
楽しい時間がずっとつづけばいいのに。
そして…ついに秘密がバレる時が来た。
それは会社の飲み会だった。
「ね、あんたたち2人のコト、私知ってるよ!?」
川口くんと私の目を交互に観ながら先輩は言う。
「言ったのか!?」
川口くんが顔面蒼白になる。
「いやいや言ってない。匂わせたかもしれないけど!」
「それじゃ秘密にならないじゃん」
「でも広めたいんだよ…」
先輩がまあまあと言った手つきで半分立とうとするわたしたちをなだめながら言った。
「そんなに好きなんだね………推しのこと」
「当たり前です!!ジューシージューシーのミキちゃんは世界一かわいいんです!!」
わたしたちは、推し活を秘密にしていた。
ライブDVDを一緒に見ながら身体を揺らし声を出す。
推しについて語る時間はなんて尊いんだろう。
川口くんとはずっとこんな関係でいたい。
男と女だから、周りに色々言われるのを意識して秘密していたけど…
そんなの関係ない!!
小島よしおも言ってる。
楽しいんだもん!!
先輩にも推しのよさをわかってもらいたい。
わたしは冷たいビールを流し込み一気に語りだした。
秘密 だら子 @darako
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