勝負の行方(3)

 宮本副編集長は、困惑の渦の中。気まずい雰囲気の2人。

 そんな中、挨拶なしに、夢先生は仕事場に2人を連れて行くことに。

 玄関を開けると、正面に現れたのが、アリスが1番好きなアニメ、『少女アリスの異世界探求』のポスターが飾ってあり。アリスは、このアニメの主人公とダブって見える。


 ここ1階は、漫画を描く作業場で40畳くらい広さに、机が5台、規則性はなく置いてある。フルデジタルで漫画を描き。机上には個々の趣味思考が見え。本棚には、漫画の本などがたくさん並び。整理整頓が行き届き、シンプルな部屋に4人の女性アシスタントを雇い。この1階には、応接室、休憩室、キッチン、ダイニングテーブル、お風呂、トイレ。仮眠室には、2段ベッドが2台ある。


 夢先生は、2人を応接室に連れて行き。テーブルを挟んで向かい合わせのソファーに、アリスと宮本副編集長が座り。その向かい側には夢先生が座った。

 すると、突然前置きもなく、夢先生は、今から6年前の話を始めた。

 

 今から6年前。夢先生は、漫画新人賞を受賞し。当時、編集長に就任したばかりの滝沢編集長は、ミーティングルームで夢先生に専属契約の話しを持ちかけていた。

 夢先生は、契約に悩んでいると。滝沢編集長に、異世界は本当に存在すると思いますか、といきなり質問し。その真剣な表情に滝沢編集長は、異世界は存在すると即答した。

 この時、夢先生は、私と同じ考えを持つ者がいる、そのことに嬉しくて、嬉しくて。このあと、1時間くらい異世界の話しで盛り上がり。滝沢編集長の異世界に対する熱い想いを聞き。ここなら専属契約をしてもいいと夢先生は思い、専属契約が決まり。担当編集者は、滝沢編集長みたいな人を夢先生は期待していた。

 この当時、宮本副編集長は副編集長に就任しておらず。夢先生の担当編集者は、宮本に決まり。夢先生は宮本のことが気になり。本人に直接聞いた、異世界は本当に存在すると思いますか。

 その答えは、ファンタジーは大好きだけど、異世界とは漫画やアニメの世界だけ、異世界は存在しないと断言した。

 夢先生はこの答えに、正直に言えば、滝沢編集長に担当になって欲しと言いたかった。しかし、担当者は選べない。何も言えない。

 

 この話しを聞かされた宮本副編集長は、何も言えず、そういうことか、この勝負、すでに決まっていたのかと思い。


 アリスは、夢先生の言動に困惑し。なぜ、今その話をするの。夢先生と約束したはず、1ヶ月後に正当な評価をし、合格したら話すと。


 アリスの約束を破った夢先生は、手に持っているポーチの中から2通の手紙を取り出し。宮本副編集長に渡し、読むように言った。


 アリスはその封筒を見て驚いた。あれは、私が書いた手紙。


 宮本副編集長は、その封筒の重みに、いったい何枚書いているのと思い。15分くらいで読み終え。ため息を一つし、手紙をテーブル置き。

「いいでしょう、わかりました……。夢先生のお気持ち。そうですねー、仕方ありませんね。この勝負、私の負けです。負けた気はしませんが」

 宮本副編集長は、突然立ち上がり、隣に座るアリスの方を向き。

「滝沢さん。今日からあなたが、正式に夢先生担当です……。私は、夢先生の想いに負け、あなた想いに負けた……。しかし、私は編集者として、あなたに負けた訳ではない。私は、あなたを夢先生の担当者としては認めない。だから、夢先生の担当者として、私を認めさせてみなさい」


 この状況の中、アリスは、そんなつもりで手紙を書いたんじゃない、計算もしていない。ただ、夢先生への想いを伝えたかっただけ。冗談じゃない、この形で勝敗を決めて欲しくないと思っていた。

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