アリスのもう1つの夢

アリスのもう1つの夢(1)

 アリスの父親が勤めている、佐々木出版社は大手出版社。10階建てのビルの8階に、マンガ雑誌編集部はあり。少年マンガ編集部、少女マンガ編集部の2部屋があり、更に細分化された部署がある。


 アリスは、父親から編集部での仕事内容や出版社とはどういう会社なのか、中学生の頃から教わっている。極端な言い方だが、編集者としての技量をもっていると同じ意味になる。このことは、人事部長も知っている。

 実務経験はないアリスだが、実は、正社員として採用が決定していた。しかし、採用通知電話をアリスは自分の部屋で受け取り、ものすごく嬉しいが、テストをして欲しいと言った以上、そこは曲げられないアリスなりの決意ということで、採用を断っていた。このことは両親と妹には教えなかった。

 

 アリスは、少女マンガ編集部によく見学に来ていて、ここのみんなはアリスのことをよく知っている。わざわざ紹介する必要はなかったが、こういったことはきちんとするアリスの父親、滝沢編集長は、アリスを紹介するためにみんなを集めた。

「みんな、おはよう。知ってのとおり、今日からうちのアリスが1ヶ月間のテストを受ける。私の娘だからと言って気を使わないで欲しい。テスト内容だが、編集者としての技量を見ることになっている」

 その時、滝沢編集長の挨拶の途中で、隣にいたアリスがいきなり手を挙げた。

「編集長、そのテスト内容ですが、社長の許可を得て変更します」

 突然の変更、社長の許可、滝沢編集長はなんのことだかわからない。

「アリス、ちょっと待て、そんな話聞いてないぞ」

「編集長、私、そこにいらっしゃる、宮本真由美さんと勝負がしたい。許可をお願いします」、深々と頭を下げた。


 この挑戦的な発言に編集者たちは驚き、ざわつき始め。滝沢編集長は困惑し、私に相談なしに、どういうことだ。礼儀はわきまえているはずなのに、いや、そういう問題でない。副編集長の宮本真由美をフルネームで名指しした。まさか、そういうことなのか。


 そんな中、宮本副編集長は平然とし。感のいい宮本副編集長は手を挙げ。

「滝沢さん、あなたもしかして、夢先生の担当になりたいから、私と勝負をしたいって言うの!?」

「さすが、副編集長ですね、編集長が一目置いているだけのことはあります」

「いいねー、その度胸、その目、いいでしょう、で、勝負方法は?」


 この状況に滝沢編集長は、アリスにとってまずいと思い。

「ちょっと待て、宮本、勝負してどうする!? 私は認めないからな」

「編集長、お言葉を返すようですが、それはこの子に対して失礼、そう思いませんか? あの度胸に、私は敬意を表します。どんな勝負かは知らないけど、私は負けませんよ」

 宮本副編集長は、アリスを凝視し。

「滝沢さん、あなたがどんな想いでこの勝負に挑むのかは知らない。けど、私から夢先生を奪得るものなら奪ってみなさい。度胸だけは、私に勝てませんよ」


 宮本副編集長のその態度、6年間、夢先生を担当してきた実績と夢先生との絆を感じさせていた。

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