中編
休日のお昼時。潤と舞子はレストランで食事をしながらお互いに向き合って座っていた。
「・・・なぁ、舞子。舞子は俺のこと好きか?」
「えっ?」
唐突な潤のその言葉に思わず、舞子は手に持っていたフォークとナイフをその場に置いた。
なにやら悲しい表情で俯く潤に向かって、舞子はそっと手を伸ばした。
「当たり前でしょ。それに、好きじゃ無い人とデートなんかしないよ?」
「・・・そうだよな? ごめん、今のは忘れてくれ!」
潤の顔を見つめながら舞子は軽く微笑むと、再び食事を再開した。
いつもは、舞子との楽しいデートのはずなのに、潤の心は昨日の夜からずっとモヤモヤしていた。
『もっと自分のことも大事にしなよ』
美乃から言われたその言葉が、ずっと頭から離れない。
自分のことも大事にしてみると、美乃には言ったものの、自分のことを大事にするという意味が潤にはよく理解できていなかった。
相手を大事にすることは、理解出来る。
相手のことを尊重し、相手がベストだと思うことに自分が合わせれば済む話だからだ。
二人は付き合ってからは、定期的デートは欠かさずしている。
週に一度の回数から、今は二週間に一度に減ってはしまったものの、それでも潤には不満は無かった。
舞子は潤に比べて男女関係なく友達の数が圧倒的に多い。
その為、潤との時間以外でも、友達との付き合いを大切にしたいと付き合った当初から言われていたのだ。
もちろん、その言葉に対して潤は首を縦に振った。彼氏だからといって、彼女の舞子の時間と交友関係を縛る権利は無いと理解している。
だけど、時が経つに連れて、舞子には言えない寂しさを潤はどこか抱くようになっていた。
(本当はもっと舞子と一緒に居たい。でも、それを伝えたら舞子は一体どう思うだろうか・・・)
「舞子、この後の予定なんだけど──」
「あ、ごめん潤君。私、この後友達と予定があるんだ」
「え?」
その後の舞子の話は、潤には全く聞こえていなかった。
ただただ、周りの景色が真っ白になっていくだけだった──。
「じゃあね、潤君!」
「あっ・・・うん。じゃあ」
舞子はそう言ってひとり駅のホームへと歩いて行く。だけど、潤はその拳を握り締めながら、意を決して口を開いた。
「なぁ、舞子!」
「ん? どうしたの?」
振り返る舞子の顔を見つめる潤だが、喉に詰まるその言葉を口から出すことは出来なかった。
「・・・ううん。気をつけてな」
そう言って再び駅へと向かう舞子の後ろ姿を、潤はただ眺めることしか出来なかった――。
ひとり、
いつもは笑顔で帰っていたこの道も、今は全くその頬を緩めることが出来ない。
白い吐息と共に、潤は大きなため息を吐いた。
「・・・あっ、冴えない男がいる」
ふと、声の方に視線を向けると、そこには美乃が立っていた――。
二人は近くの公園のベンチへと腰を下ろした。
「どうしたの潤。いつも以上に顔が暗いよ?」
「なんだよいつも以上にって。俺は普段そんなに暗い顔なのか?」
「まぁね・・・・っで、何かあったの?」
「いや、さっき舞子とデートしたんだけどさ・・・」
すると、美乃は険しい眼差しと頬を膨らませながらその場に立つと、潤を睨んだ。
「あーあ、心配して損した。じゃあまたね」
「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
「なんだよー。私はリア充の
そう言って美乃は冷たい目で潤のことをじっと見る。
「昨日、美乃が自分を大事にしろって俺に言ってくれたろ? それで、俺ずっとそのこと考えてたんだけどさ・・・」
「それで、その答えは見つかったの・・・?」
潤は首を横に振ると、軽く苦笑いをした。
そんな、潤の顔を見た美乃は再びベンチに腰を下ろした。
「なぁ、美乃。相手を大事にしつつも、自分のことも大事にするって出来ると思うか?」
「んーどうだろうね」
「俺さ、正直どうしたらいいか分からないんだ。だから、やっぱりこのままの方がいいんじゃないかと思ってて・・・・・・」
そんな潤の態度を見ながら、美乃は大きくため息を吐いた。
「・・・ねぇ、潤は私のこと大事だと思ってる?」
「え? それは、その・・・うん。そりゃあ昔からの幼馴染だからな! 美乃は俺の大事な友達だ!」
「じゃあさ、私に今まで何か遠慮したことある? 遠慮しなかったら幼馴染の関係が終わると思ったことはあるの?」
「いや・・・そんなことは思ったことないけど・・・・・・?」
「だったら答えはもう出てるじゃん」
ポカンとした表情をしながら見つめる潤に向かって、夕日に照らされながら美乃は微笑んだ。
「私はね・・・本当にお互い大事なら、自分の気持ちはちゃんと伝えるべきだと思うよ」
美乃の言葉に、潤は思わず頬を赤くした。
そして、美乃の手を思わず、潤は掴んだ。
「なぁ、美乃・・・もう少し、俺の傍に居てくれないか?」
だが、そんな潤を美乃は悲しい眼差しで返した。
「ごめん潤。私は、潤の彼女じゃないから――」
そう言って立ち去る美乃の後ろ姿を、潤はまた、ただ眺めることしか出来なかった。
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【あとがき】
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