私には秘密がある。実はショタコンなんですが豆腐小僧に命を狙われてます!

只野誠

私には秘密がある。実はショタコンなんですが豆腐小僧に命を狙われてます!

 私は森田和美。

 新人の社会人。俗にいうところのOLって奴にこの春からなったんだけど、就職する先を間違えた。

 ブラック、超ブラック会社だった。

 先月の残業何時間だと思う? 百四十七時間よ?

 休日出勤含めての時間だけどね。

 死ぬ。やってられない……

 そう思いながら、私はとぼとぼと土砂降りの雨の中、自分の家に向かい帰路についていた。

 こんなはずではなかった。

 そう思うんだけど、会社を辞める気力すら今はない。

 今はただただ日々を生活していくだけで他のことを考えられない。

 もし転職するなら、次は事務職を希望しよう、なんてふと考えたりしたけど、事務職だから残業がない、とは限らないのよね。

 私、事務職何てしたことないから実態をそもそも知らないし。

 去年の今頃は、就職活動そっちのけで創作活動を勤しんでいたはずなんだけどなぁ。

 そ、そのせいで今、この有様になったのかしらね?


 なんてことを考えて歩いていたら、珍しい物を見た。

 いや、変な、と言うよりも、異様な物。

 この時代に唐傘だよ、唐傘をさしている人がいるのよ。

 しかも、子供。更に言ってしまうと着物を着た子供。多分男の子。

 今は深夜よ? 午前様を回ってるのよ?

 こんな時間に……

 と、思ったけど、ちょっと足を止めて見つめてしまう。

 小さい男の子、好きだから。仕方ないわよね。

 何も実際に襲ったりはしないわよ。想像の中で留めるのが私と言う存在だもの。


 でも、まあ、ない。


 だって、かわいくないもの。

 私は美少年が好きなわけで、鼻を垂らしているような美しくもないガキは守備範囲外なのよ。

 そう思って目線を外そうとすると、その唐傘をさした子供が私に気が付いた。

 そのガキは私のところまでやって来て、

「ねえ、お姉さん、僕の持っている豆腐の角に頭をぶつけて死んでくれませんか?」

 と、のたうち回りやがった。

 その瞬間、私は悟りました。

 これは夢だと。

 働きすぎで夢を見ているのだと。

 私はしばらくその子供を無言で見つめる。

 確かに豆腐を持っている。

 高そうな豆腐で、モミジの葉が浮き出た豆腐なんかを持ってやがる。

 それを確認した私は、とりあえずその子供を無視して帰路についた。

 だって、夢だし、土砂降りだし。


 次の夜も真夜中だと言うのに土砂降りだった。

 梅雨の季節とはいえ、降りすぎだろう、なんて思いながら今日も傘をさして暗い夜道を歩いていると、昨日、夢を見ていた場所に差し掛かる。

 そして、そいつはまたいた。

 私は思ったね。また夢だと。

「あのお姉さん、僕の……」

「失せろガキ」

 ドスのきいた低い声で被せる様にそう言ったら、その子供は二、三歩後ずさった。

 私は歯牙にもかけない。

 だってこれは夢だから。


 これで三日目だ。

 今日も土砂降りで午前様だ。

 そして、やっぱりいる。

 流石に私も少し調べたよ。

「あの……」

 と、唐傘を持った子供が私に話しかけてくるのと同時に、やはり被せる様に私は言う。

「おまえ、豆腐小僧とか言う妖怪か?」

 私がそう言うと、豆腐小僧は少し驚いた様子で私を見た。

「え? はい、そうです」

 しかも、なんか嬉しそうに返事をしてきやがる。

「その豆腐食べると全身カビまみれになるっていう?」

 たしか、ネットではそんなことが書かれていた。

「いえ、なりません。おなか壊すくらいです。これはもう腐ってるので。カビと言うのは後付けされた設定です……」

 そう言って、豆腐小僧はしょぼんとした表情を見せる。

 あ、ちょっとかわいいかも……

 いやいや、相手は妖怪。隙を見せたらダメよ。

「あ、そう…… じゃあ、そう言うことで。これ以上、私に絡んだら妖怪ポストに手紙を毎日百通出すからね?」

 こう言っておけば、どんな妖怪も私と関わり合いにならないでしょう。

 うん。妖怪ポスト、どこにあるか知らないけど。

「えぇ…… でも、お姉さん」

「なによ」

「お姉さん、どちらにせよ死相が出ているので近いうちに死んじゃいますよ? なので、僕の豆腐の角で死にませんか?」

 豆腐小僧にそう言われて……

 私は反論できなかった。

 確かにこのままでは死ぬ。それは確かに私自身そう思えた。

「死相…… いや、まあ、このまま働いてたら確かにそれはそうね」

 間違いなく過労死だ。

「ですよね! だったら、僕の豆腐の角で!」

 いや、そもそも豆腐の角に頭をぶつけて死ねるのか?

 死ねない代名詞だろう?

「嫌よ。やっと仕事辞める決意が出来た、とりあえず次は事務職目指すわ、事務職! やったことないからどんなのか知らないけど!」

 そうね、次は技術職じゃなくて事務職を目指すわよ!

 ご時世的に製薬会社の事務職何て良さそうね! 知らないけど!

「えー、そんなんで死相は消えませんよ」

 呆れたように豆腐小僧はそう言った。

「なら、明日もここに居なさい。見せてやるわよ」


 まあ、今日も土砂降りよね。

 きっとあの豆腐小僧のせいね。

 今日もしっかりと同じ場所にいるし。

「で、どうよ?」

 憑物が落ちた顔で私はそう言ってやる。

 今の私は無敵だ。

「え? うそ…… 死相が消えてます…… あんなに色濃く出てたのに」

 豆腐小僧がそう言って驚いている。

 この妖怪はある意味私の命の恩人ね。

「今日、退職願を出してやったわ! ゴネやがったけど労基に行くって言ったら渋々認めやがったよ」

「残念です……」

 泣きそうな表情をしちゃって……

 ちょっと、タイプじゃないんだけど、こう、来るものがあるわね。

 時間が取れるようになったら、創作活動の再開もいいかもしれないわね。

「なんで私を殺したかったの?」

「妖怪としての拍を付けるためですよ、僕、人畜無害な妖怪として知られていますし……」

 なるほど、そう言うことか。

「つまり、人畜無害じゃなくなればいいのね?」

「え?」

「なら、本当に豆腐食べれば全身カビまみれにすればいいじゃない」

 死なない程度に、割とえぐい能力よね。

「そんな妖力僕には……」

「ねえ、知ってる? 水虫もカビの仲間なのよ?」

「え……」


 その後、豆腐小僧がどうなったのかは私は知らない。

 もしかしたら、巷で水虫が流行っているのは私のせいなのかもしれないが、私は気にしない。

 だって、私は刹那を生きる女を目指すんだから。

 

 けど、不思議なことに、しばらくすると私は豆腐小僧のことをまったく思い出せなくなっていた。

 妖怪ってそう言うものなのかもしれないわね。


 そんな私が無事製薬会社に転職出来て、その数年後に魔法少女になるなんて秘密、誰も知らないわよね。




2024/01/15 13:10[-END-]





▼ついでに森田和美さんが魔法少女として出て来るお話

https://kakuyomu.jp/works/16817330666193407344

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