第33話 死の唄 〜終曲〜

第三十三話 死の唄 〜終曲フィナーレ

 

 

 ハルトは歩いてくるシオンを見る。どうやら姫蟲の猛攻を受けきったらしい。

「本体は殺せたのか?」

「抜かせ。オマエ本体出してねえだろ。」

「バレていたか。」

 ハルトは姫蟲の本体を出さず、生み出した偽物に戦わせることで圧倒的な物量を作ることができるのだ。

「……饕餮とうてつは?」

 その時、背後の木がボキッと折れ、そこから饕餮とユーリが出てきた。ユーリに饕餮は鋭いかぎ爪で攻撃する。だが、帝王剣を持っているユーリからしたら、そんな攻撃、怖くもないようだ。

「ズバッ!」

 饕餮の体を斬り裂く。だが、タフというだけあって、まだそれでも動いてくる。その後、饕餮は大きく腹を見せる。すると、そこには大きな口があり、それを最大まで広げた。だが、

『天下無双流 瞬天』

 一瞬で斬られ、ドシャッと倒れた。

「殺したぞ。これで終いだな。」

 饕餮の体が消えていく。だが、ハルトは特に気にしていないようだ。

「全然平気そうだな。怒りはないのか?」

「怒りを持ったところで、何も変わらんということを、私は嫌というほど知っているからな。長年生きていると、何にしても情熱は沸きにくくなるんだよ。」

「そうか。じゃあ今の戦いに情熱は沸いてるか?」

「それは……。」

 ハルトは一瞬言葉を失ったが、すぐに前を向き、こう言った。

「沸きまくりだよ!死にそうなぐらいにさ!」

 八卦炉を出し、火力砲を撃つ。だが、アキラの魔法符スペルカードが相殺する。

(やはり武器は効かんか。だったら!)

 ハルトは両手の武器をしまうと、ついに魔法での決着に挑む。

「こっち使うしかねえなあ。」

 日はすでに傾き始めている。戦いが始まってから3時間以上が経過している。これだけ戦場が泥沼化していれば、戦意を失う者も出てくるだろう。これ以上の長戦は不利だと、全員が判断した。

魔陰弾まいんだん!』

 黒い球体が幾つも放たれ、次々と建物に穴を空けていく。ユーリはその技をくぐり抜け、ハルトの間合いに入る。

『天下無双流 瞬天殺しゅんてんさつ‼︎』

 今までよりも強い剣戟。だが、ハルトは超次元で防いできた。でも少しの手傷を負った。

(超次元での守りは今までよりも硬い!なら、さらに強く魔力を纏い、強い剣戟を打ち込めばいいこと!そうやって俺は、今まで戦ってきた!)

 ユーリの剣を受け流しながらハルトは周りを確認する。ほぼここにいるのが人間たちの最高戦力。そして最後の主力級戦力。これを倒せば勝ちは堅い。同時に、彼らは似た境遇の下、戦っている。

「もう大した技も残ってねえんだろ⁉︎だったら怖がることなんかねえよ!」

 ユーリがそう言うが、ハルトはそれに応答する。

「これでもか?」

 そう言ってハルトが手をスライドさせると、ユーリの体がフワッと浮き、そのまま飛んでいった。

「重力操作なんてワケないさ。」

 ハルトは重力の方向と強さを変え、ユーリを遠くに吹き飛ばした。だがその瞬間、別の魔法が彼を襲う。

「ヴンッ。」

 画面に入ると、それをシオンはアキラに投げる。そしてそれに合わせるようにアキラが画面を叩き割る。

 ハルトは体勢を立て直しシオンの方を見るが、シオンはすでにハルトの横にいた。

(“体現インプット”で最大限に動きを作っているな……。今までのスピードとはまるで違う!)

 ハルトはシオンの蹴りをガードしながら受ける。さらにアキラが背後から攻撃する。だが、武器の方が壊れてしまった。

「仕方ねえなあ。相場5億はくだらんやつで相手してやるよ。」

 そう言ってアキラが取り出したのは三節棍さんせつこんだ。

「成る程……“三里さんり”か。」

「知ってるとはね。驚きだよ。」

「昔の友人が作ったものだからな。付いていただろう?魔王印。」

 三里さんり。三節棍タイプの武器で、強い魔力がこもっている。故に重く、一振りで大岩を砕き、三里の道を作ったという伝説からその名がついた。だが、本来はハルトたちの仲間の継承の魔王が持っていたものだが、戦利品として回収され、人間たちの手に渡ったものだ。

(武器の核となる魔法が刷り込まれておらず、単純な魔力の塊……。故に火力が他の武器とは比べ物にならない至高の一品……。俺が振ったらどうなるんだろうな。)

 アキラはそれを持ってハルトに近づいてきた。ハルトに対してこれを振る。ハルトは避けたが、三節棍から凄まじい魔力が放たれ、ハルトの腰を打った。

(直撃ではないのにこの威力!まさに武器としての最高級品!その名と伝説は伊達じゃないな。)

 すると、シオンの手がハルトに触れる。

「ヴンッ。」

 アキラに集中していて超次元の展開が遅れた。そのままシオンは画面を飛ばし、アキラがそれを叩き割る。振った衝撃で当たりに爆風が起きた。ハルトはなんとか抜け出すと、退こうとするが、そこをユーリが狙ってくる。

『天下無双流 ざん!』

 ただの剣を振り下ろす攻撃だ。だが、故に連撃がしやすい。

『天下無双流 戦乱華扇!』

 だが、それはハルトの超次元によって受け止められた。すると、ハルトは周りに黒い球体と虹色の球体を出現させる。

「くるぞ!」

 球が交わり、仮想の質量が生まれる。

超次元ちょうじげんしゅう

 付近を巻き込むように球体が一周し、爆発した。

(あの技は喰らったら即死だ!そうじゃないと……。)

 辺りにあった瓦礫は全て消され、彼らを守る障害物はなくなった。

(こんな更地は作れない!)

 だが、怯まない。だってこれだけじゃないから。

『リーニングシャイン』

 多量の光がハルトに降り注ぐ。だが、ハルトはそれを防御魔法で守る。そこをシオンが狙い、画面に入れ込んだ。そしてそれを空中に投げると、まほなが魔法を放つ。

『ジャスティススター』

 画面ごと消滅し、ハルトは大怪我を負った。だが、なぜか治癒力は落ちていないようだった。

(超次元で私の魔法効果を相殺したのね。かなりの手練れね。)

 ハルトはさらに球体を生み出す。今度は黒い球体単体だ。

『超次元・集!』

 球体が飛ぶが、避けられる。

(あの小さい黒い球は速いけれど、こっちの大きいやつはそこまでだ。大ぶりの動きが必要だが、それでも避けられる。)

 ハルトはシオンの目の前に降り立つと、超次元を纏った拳を突き出す。だが、シオンもそれに対応してくる。

「ドッドドッ!」

 少しずつスピードは速くなり、それに応じて二人の間では衝撃波が発生する。

「ドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

「俺の動きを模倣しているのか。それなら拳が当たらんはずだ。」

 シオンはハルトの動きを正確に模倣し、拳に同じ速度で対応していた。そのため絶対に当たらないということをしていたのだ。

「でも。」

 ハルトは拳のタイミングをずらす。

「“体現インプット”は時間を正確にしなくちゃいけない。そんな速く動きを作っちゃスピードを上げれば反応できないのは当たり前でしょう?」

 ハルトの超次元を纏った拳が炸裂する。シオンはそれを受けると、すごいスピードで飛んでいった。

「超次元は実質的な重さはゼロだけど、仮想で質量を創ることはできるからね。実際よりも重い一撃のはずだよ。」

 ハルトの拳は煙を上げている。おそらく質量を上げたことによる弊害だろうが、超次元はいわばバグ。そこまで気に留めることもないだろう。

「ガンッ!」

 その時、大きな音を立て、ハルトに三節棍が打ちつけられる。

(やはり三里は脅威だな!こちらの超次元を貫通してくる……!)

 ハルトは三節棍を上に弾くと、足での蹴りを見舞おうとする。だが、三節棍で受け止める準備をしていた。だが、それすらも貫通できる一撃があるのを、アキラは知らない。

(俺が集縮できんのは……光や闇だけじゃねえ!力そのものもだ!)

 ハルトは、拳を放つ時や地面を蹴るときに放出されるエネルギーを集縮させ、自分の身体に溜め込むことで、そのエネルギーを保存できる。さらにそれを体の一部から一気に放出することで凄まじい火力を瞬時に出す。さらにこれは本来ロスするエネルギーなので、通常時の打撃の威力を変わらない。つまりエネルギーを完全にロスしない。

発勁はっけい!』

 アキラの三節棍に、今までの超次元のロストエネルギーと共に拳が打ち込まれ、アキラを吹き飛ばし、後ろの地面にぶち当てる。次々と土煙が立ち昇り、その衝撃の強さを物語っている。だが、追撃をさせない。

『ボルファイザー!』

 まほなの杖から炎が出現し、ハルトの行方を阻む。そしてその炎の奥から現れたのはユーリだ。

『天下無双流! 天真爛漫てんしんらんまん!』

 今までよりも速い連続斬り。だが、ハルトはこれを躱すと、

「これは?」

 体からいくつもの張り巡らされた光が放射される。

(光を屈折させて一点に集めることで超高火力レーザーにしてんのかよふざけんなや!)

 ユーリはなんとか避けるが、流石に光速に対応するのには無理があった。かすり傷を負うが、気に留めない。

『天下無双流 戦鎚‼︎』

 だが、それも躱される。そしてまほなが隙を埋めるように魔法を撃ってくる。だが、そちらを向き、火力を調整する。

『超次元・集』

 まほなに直撃するコースで放つ。だが、まほなは空中を飛び逃げる。その時、シオンとアキラが戻ってくる。3人で決め込む!

『天下無双流 破砕刃はさいじん‼︎』

破曲ヴィヴァーチェ‼︎』

 だが、

「ガキイン‼︎‼︎‼︎」

 まさかの3人の攻撃を受け止めた。超次元でユーリの剣を止め、三節棍は2本の腕で掴み、魔法は直撃したが、素の防御力で耐えた。

(これだけ打ち込んでも倒れねえのかよ!)

[シオン!変われ!俺が……決着をつけてやる。]

 その瞬間、シオンから別の魔力が立ち昇る。だがハルトは理解していた。その眼で、人格が入れ替わった、と。

「面白い!」

 ハルトは士怨と対峙する。だが士怨が使うのは——

「シオン。おまえの願い、叶えてやるよ。」

雷電ライボルト!』

 その瞬間、雷鳴が轟き、ハルトの体は高圧電流に包まれた。これは流石に不意打ちだったようで、ハルトは吐血する。

(有効なはずだ。だってこれは普通の雷なんだからな。)

「くっ……やるな!」

 ハルトは瞬時に近くで光を小規模に発散させ、士怨を離す。だが、

「射程距離。」

獄秀車リンボユール‼︎』

 爆炎が噴き上がり、ハルトを包んだ。だが、これは全くと言っていいほど効いていない。

(久しぶりだ……ここまで愉しくなれたのは!)

 ハルトは感動していた。圧倒的な人間の強者。それとの出会いと戦いに。

雷電ライボルト!』

 これはシオンが昔に見た魔法だ。そして、ついにシオンの魔法が明らかになる。

「俺の魔法、わかってるだろ?」

「ああ、“継承スレイブ”……だろう?死んだ者の魔法を習得し、使用することのできるあの魔法だろう?」

 “継承スレイブ”。それは別名、継承の魔法とも呼ばれる。死んだ者の魔法を見たりしていれば、その魔法をその使用者の死と共に使えるようになる魔法だ。ここまで聞くと最強に見えるが、弱点はある。それはまず、継承、というからには味方だと認める必要がある。つまり敵方の魔法は習得できない。さらに、魔法がいくら強くても、その練度や強さはその使用者による。つまり個人のスキルがいつにも増して重要になるのだ。

「俺は今までいやというほどの味方を失ってきたんだ。その想いを!今ここでオマエにぶつけてみせる!」

「やってみろよ……。」

 ハルトは下を向き、笑いながら言う。

「俺に魅せてみろ!その魔法とやらを!」

 ハルトはそう言って士怨に詰めていく。だが、士怨は体現をうまく使いながらハルトを翻弄する。だが、ハルトもスピードを上げ、追いついてくる。流石ってところだ。

『ブラッドスクイズ 血圧砲!』

 ハルトは血液を出し、強制的に士怨の進路を変えさせる。そしてそこを狙う。

『超次元・縮』

 一気に士怨は引き寄せられる。そして、

『発勁‼︎』

 ドスッと重い一撃が士怨の脇腹に入るが、踏ん張って耐える。再生も回して全力で。

(カウンターだ!超次元の術を放った後、すぐには行動できない!)

 ハルトは超次元を活用した技を放った直後、反動と疲労で動きが鈍くなっていた。それを士怨は見逃してなかった。

『血圧砲!』

 顔面の目の前でハルトに血液のレーザーを放つ。ハルトの眉間を貫くように命中したが、ハルトも持ち前の耐久力で耐えている。

「同じくカウンターだ。」

「いや?そうはいかないさ。」

 アキラがいつの間にか背後に立っていた。ハルトを三節棍で打ち、ユーリの方向に吹き飛ばす。

(俺は魔法の才覚はない。)

 自身に着けられた枷。それはよく知っている。だけど、

(それで俺が活躍しないわけにはいかない!俺は!)

「誇り高き天下無双流の戦士、ユーリだ!」

 魔力は赤く、辺りを染める。

『魔突閃‼︎』

 ハルトの脇腹を、帝王剣が、赤黒く染まった魔力と共に斬り裂いた。

「ユーリに続け!この3人ならいけるんだ!」

 ハルトに追撃を仕掛ける。ハルトをアキラが叩き、士怨がそれに応じて顔を殴る。そして、

『天下無双流 戦鎚!』

 重いユーリの一撃がハルトの体を痛めつける。

(マズい……全く超次元の操作がままならない!)

 ハルトは魔突閃により超次元の調整が解け、解除されていたのだ。つまり生身でこの猛攻を受けている。

「オラッ!」

 アキラの三節棍がハルトの肩を強打する。グリリ、とハルトの肩を削った。だが、その時、限界まで体内で集縮した発散のエネルギーが放出される。

『超次元・散!』

 3人はすごいスピードで吹き飛ばされる。

「いいんじゃない⁉︎オマエ達!今度は……こっちが魅せる番だ。」

 ハルトはそう言って詠唱を開始する。

 

 

明暗めいあん 光陰こういん ひかり発散はっさん

 

 

『超次元・発‼︎』

 強烈な光の発散のエネルギーが士怨を撃ち飛ばす。だが、士怨はなんとか耐えた。

(あの直撃を耐えるとは……少しアレしたとはいえ、なぜ普通に受けられる⁉︎)

 ハルトは動揺したが、すぐに切り替える。

 

 

暗黒あんこく 破壊はかい やみ集縮しゅうしゅく

 

 

『超次元・集‼︎』

 一気に残りの二人を巻き込んで攻撃する。だが、

(打ち消せるはず。)

『ジャスティススター‼︎』

 超次元に聖なる魔法をぶつけ、魔法を強制的に破壊した。だが、ハルトの猛攻はこれからだ。

『魔陰弾!』

 周りに機銃掃射のように闇の弾丸が突き刺さる。威力は一発喰らえば最悪死ぬってところだろう。

『G(グラビティ)』

 ハルトがそう言って手を上に向けると大量の岩や石が浮かぶ。そしてそれをまほなに向かって飛ばした。

(重力までも操るか!まさに神だな!)

 ユーリは跳び、ハルトに上から襲い掛かる。だが、ハルトの魔法で場所をズラされると、

「君のことは見直したよ。だから耐えろよ?」

『発勁!』

 ユーリはすごいスピードで地面に叩きつけられ、大怪我を負った。だが、帝王剣が力を貸してくれる。

(俺は……俺は倒れない!託された想いを、無駄にはしない!)

 ユーリは立ち上がり、ハルトに向かってくる。

「良い。」

 ハルトはユーリの攻撃を避けながらそう言うと、拳をユーリの頬に当て、体勢を崩すとそのまま回し蹴りでまほなにぶつける。そして二人とも撃墜した。

「終わりだ。」

 その時二人に異常な重力がかかった。立ち上がれない。

(重力で潰すつもりか!)

「さて、いつまで耐えられるかな?」

 ハルトは試すような口振りで話す。だが、やっとアキラが戻ってくる。少し“集”に巻き込まれ、回復していたのだ。

(俺の魔法は戦闘向きじゃない。でも、この武器とならいけるはず。より高いところに——)

 そこは武の極地——とも言ってもいいのかもしれない。士怨やハルトはそれに到達している。悔しい、がそれがバネになる。目標は未だかつてないほどに近くに見える。その形がわかるほどに。

「俺は!最強の盗賊シーフになる!」

『魔突閃‼︎』

 三節棍の魔力とアキラの想いが伝わり、魔力を黒く染めた。ついに極めた。

(これが……俺の力だ‼︎)

 ハルトは今までになかったほど吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

「いいじゃないか……。」

 ハルトの眼は安心感が溢れているようだった。

「これなら……。」

 ハルトはそう言ったが、すぐにアキラの三節棍が飛んできたため、言葉よりもそれを避けるのを優先した。

(魔突閃が出たなら今まで以上に注意しないとな。最悪一発で殺される。)

 ハルトもアキラの一撃を恐れているようだ。もちろんユーリのあの聖なるエネルギーを持った剣の一撃も強力だが、それよりも強い三里のほうが彼は危険だと判断した。

『G(グラビティ)』

 再び重力を操り、三節棍の質量を上げた。ゴズン、と地面に三節棍が叩きつけられる。

(重っ!こんな細かいことできるんかいっ!)

 アキラが驚いている隙に、ハルトは近づき、アキラの顔面に拳を見舞う。そしてすぐにアキラを向かってきていたユーリに投げる。だが、肉壁がなくなったのをいいことに、今度はまほなが打ち込んでくる。

『ジャスティススター!』

 だが、ハルトは思わぬ方法でそれを弾いてみせた。

(もう俺は掴んでいる。魔力、いや世界の真理を!それを知った俺に、できないことなんてない‼︎)

『魔突閃‼︎』

 魔突閃で聖なる魔法を弾き、ハルトの出力が上がっていく。デバフもつかなかった。

「もう俺は!無敵だ!全員かかってこい!」

 ハルトはそう叫ぶ。

「全力で!俺を止めてみせろ!」

 そう言うと、

「じゃあやってやるよ。」

 背後に士怨が来ていた。そのまま拳を振り下ろすが避けられる。やはりさっきの“発”が響いているようだ。

「ふらついているぞ。大丈夫か?」

 確かに先刻よりも動きが鈍かった。拳にキレが出ていない。

(くそっ、さっきのヤツ、受けなければよかったぜ。お陰で脳を強打して出力と平衡感覚が安定してねえ。)

 士怨の胸に拳を叩き込み、ゴリゴリ削っていく。

(このままだとやられる。その前に!)

 士怨はなんとかハルトを掴むと、遠くに投げた。そして一息吐いてから放つ。

雷電ライボルト

 電撃がハルトを撃ち抜き、ハルトの体組織を焼く。電流が熱に変わり、ハルトを体内から焼いたのだ。

「ぐうっ⁉︎」

 ハルトはなんとか着地する。そろそろそこが見えてきた。

(明らかに疲労してる。技の連発とダメージの補完で、自身の出力を超えているんだわ。)

 まほなはしっかりと状況を整理する。そして導き出した答えは——

「勝てるわ。」

 その言葉と共にアキラとユーリがハルトに襲い掛かる。ハルトは4本の腕で猛攻を耐え忍ぶが、

『リーニングシャイン!』

 まほなの魔法が腹に刺さる。ダメージはあった。

(私の普通攻撃をやっと喰らった!ダメージもある!)

 だが、ハルトは腕をなんとか空け、手の中に球体を作る。

 

 

「明暗 光陰 光の発散」

 

 

『超次元・散!』

 全員をすごいスピードで吹き飛ばす。ユーリとアキラは地面に顔から突っ込んだ。

 士怨はなんとか踏み留まり、ハルトに不意打ちの一発を見舞う。だが、ハルトに隙を見せてしまった。

「これで終わりだ!」

 だが、

「士怨!受け取れええ‼︎」

 そう言ってアキラが三里を投げた。士怨はなんとか受け取ると、

「受け取ったぜ!オマエの想いも!」

 ハルトにそのまま殴りつけ、ハルトの顎を打ち砕いた。口から血が噴き出し、ハルトは狼狽える。

(俺に……限界が近づいている……!)

 おそらく4時間は孤軍奮闘している。だが、彼の体内時計では十時間も戦っているような錯覚に陥っている。ギリギリの命の瀬戸際で戦っているからだろう。

「ドガッ。」

 腹に打ち込まれ、あとずさる。ふう、ふう、と荒い息をする。

(ここまで追い詰められるとは、技を小出しにし過ぎたか。)

 ハルトはしっかりと2本の足で立っているが、彼にはもう、その感覚も怪しくなってきた。

(俺は、託されている!)

 シオンと士怨の想いが重なってゆく。

(俺一人じゃ届かなかった。みんなとだからここにこれた!)

 二人の鼓動と、生きる全ての生物の鼓動が一つになり、一つの音を立てる。

(俺は……時代を切り拓き、あらゆる障害をぶっ倒す、勇者なんだ!)

 その誇りと、重責が彼を押し上げる。さらなる高みへ。

(オマエも来い!)

 二人はついに、完全にシンクロする。二つの人格、二つの魂が共鳴し、互いに同調し合い、魔力の核心を掴む。

『魔突閃‼︎』

 バリリリ……と電気のように駆け巡った魔力が、辺りを吹き飛ばし、ハルトの骨を打ち砕く。

「がっ……。」

 ハルトはあまりの火力に一瞬気が落ちた。明らかに体の限界を超えている。

 超次元をずっと展開し続けるには、脳をフルで回転させることが必要である。光と闇を粒子と仮定し、実際にそう置く。そしてそれに魔力を作用させ重さを創り出し、それを操作する。

 さらにこれを超高速で絶え間なく行う。それによって脳はフルスピードで回転しなければ、超次元のバランスが崩れ、最悪自身を巻き込んで自爆してしまう可能性だってある。

 だが、流石に超次元を使いすぎた。久しぶりということもあったが、使いすぎだ。もう、脳が持ってない。ほぼ脳内で考えることが難しくなっている。せっかく治したのに……。

(そうだ。治せばいいんだ!)

 彼は超次元を脳に集中させ、瞬時に超次元に脳の疲労を肩代わりさせた。それによって彼のふらついた足取りがしっかりとしたものへと変わる。

 それを見た士怨は危険と感じ、さらなる大電流をハルトに流す。

超雷電スパーキングボルト‼︎』

 空を切り裂き、電撃がハルトに直撃する。だが、超次元でそれを防ぐ。そして、

「バリリリリリリリン……。」

 空中に電気を放り投げ、空中で放電させた。

(素手で電気を投げやがった。)

「もう化け物確定だな。」

 アキラがそう言うが、

「もうなんと言われようが関係ない!もう魅せるだけだ!魅せてみろよ、オマエらのその心をよお!」

 それに呼応し、全員でやると決めた。

絶死領域ぜっしりょういき!』

拡張領域かくちょうりょういき!』

超次元展開ちょうじげんてんかい!』

 3人の魔法を極めた一撃が、放たれる。

 アキラはイアと関わりが多かったため、彼から直伝で結界術を教わった。

天与博打てんよばくち‼︎』

 士怨はイアが死んだことで、彼の結界術を操る魔法を手に入れ、それを使用し絶死領域を放つ。

生死継承せいしけいしょう

 ハルトは普通は小規模で展開する超次元を超広範囲に拡張し展開した。これはもう、結界術というより、宇宙の創造だ。故に名前はない。

 3人の三つ巴の結界術。だが、士怨とアキラが挟むように彼の超次元を押し合う。だが、ハルトもバカではない。二人の結界に超次元で生じる重力を押し付け、結界に圧力を加えていく。最大までいけば、結界が耐えられなくなり、自壊するという原理だ。

 この三すくみの結界。どれか一つでも壊れれば、その瞬間に勝負は決する。

 

 

(やはり脳は治癒してたか!流石に使ってくるよな……。)

 アキラはそんなことを考えながら結界を耐えていく。だが、正直キツい。結界にのしかかる重力は、彼に大きすぎるほどの負担を生んでいる。それは士怨も同じだった。

(結界に重圧をかけて潰そうとするとは……!押し合いのため効果は発動しない!これがイラつくなあ!)

 結界効果が発動すれば十分楽になるのだが、そうはさせてくれない。

(もう耐えれる体力が残ってないのはオマエらもだろ。いいじゃねえか、充分伝わったぜ。オマエらの熱い想い。)

 ハルトは最初からこうするつもりだったようだ。かなりリスクのあるものであるのに……。

(……ダメだ。耐えれない!)

(限界が近い!崩れる……!)

 二人は想像以上に苦しそうだ。今までの何倍も苦しそうな顔をしている。

(俺の役割はなんだ?)

 結界の三すくみに、ある異分子が介入する。

(人々を救うこと?)

 違う。

(敵を殺すこと?)

 違う違う!

(俺の役割は——)

 コイツを死んでも、

(戦闘能力を失くすことだ!)

 ハルトの目の前にユーリは飛び出した。結界能力が発動していないからこそ、出来ること。

(これは俺が編み出した、新しい天下無双流の奥義!)

『天下無双流 奥義!』

 魔力をグッと高めて練り上げる。ハルトは驚きなんとかしようとするが、そうするとなると一度結界を解除することになる。それは出来なかった。

王天おうてん‼︎』

 地を割るような轟音が響くと同時にハルトの体を大きく削る。ハルトの腕は4本とも千切れ飛び、ハルトの体にも、一文字に傷が入った。だが、その瞬間にあることが起きる。

 三すくみの複雑な関係。予想外のダメージと異分子の介入。

 ——結界が全て、崩壊する——

 

 

 3人は数秒間、魔法の使用は困難になる。だが、全員がもう限界だった。ハルトでさえも、もうほとんど魔力は残っていない。どれほど魔力効率が良くても、使う魔法が強力すぎると、どうしても魔力切れを起こしてしまう。仕方のないこととはいえど、何か虚しさを感じるな。

「ハアッ、ハアッ。」

 二人は地面に膝をつき、荒い息をしていた。相当消耗しているようだ。

(もしユーリがあの奥義を打ち込んでくれなかったら、間違いなくオレらは死んでいた……。)

 なんとか助かったという事実を噛み締めながらゆっくりと立ち上がる。まだ終わりじゃない。目の前の敵、継承の最後の魔法を殺さなければならない。それまでが戦いだ。

「もう十分だろう?一時休戦としないか?」

 ハルトが話しかけてくる。だが、シオンたちはいたずらっ子のような笑顔で言う。

「イヤだね。」

 いつの間にか入れ替わっている。いつものシオンに戻ったようだ。

[残りは頼んだぞ!]

 士怨からの伝言を受け取り、シオンは戦場に立つ。ハルトも渋々立ち上がり、埃を払う。

「さて、もうここからはね……シンプルなど付き合いだよ。」

 ハルトはそう言って拳を構える。すると、

「シンプル?なわけねえだろ。俺は元気ピンピンだぜ?」

 元気に飛び跳ねるシオンをハルトは見て、笑いが溢れた。だが、その顔はすぐに殺意をもった顔へと変わります彼が突撃してくる。

(眷属もほぼ使えないし、魔法もまだ使えない!ここからは俺はシンプルな殴り合いだ!)

 ハルトは腹を決めると、シオンに殴りかかる。だが、それは躱される。そして、シオンも反撃をするが、それはハルトに受け止められた。だが、

「ユーリ!」

 ユーリが横からハルトを攻撃して削る。確実にダメージを与える。

「アキラ!まだいけるか⁉︎」

「少し休ませてくれ。もう少しで回復する。」

「わかった!」

 全員の状況を確認しながら攻撃を続ける。ハルトの顔面を擦るように殴り、ハルトの鼻から血を出す。そしてその直後に魔法を放つ。

(今なら効くだろ!)

破曲ヴィヴァーチェ‼︎』

 バキッと空間が歪み、彼は大きく吹き飛ばされた。そこをまほなの魔法のレーザーが狙う。

「ドドドッ!」

 空中で命中するが、ハルトはなんとか半身を削られながらも耐えていた。その時気付いた。

(再生できないのか⁉︎)

 ハルトの現在もフォルムでの回復は、超次元があったからこそできたもの。魔法が使えず、超次元が生み出せないならば、回復も当然できない。ここにきて、結界を破壊されたことが裏目に出る。

 さらに、前の時のように、スムーズに回復はできない。なぜなら彼はあの時かなり余裕があり、自分で結界を解体していたからだ。だが今回は余裕もなければ破壊されている。クールタイムは1分を超えているだろう。

(この時間内に打ち込んでやる!しこたまな!)

 シオンは人格が変わると、魔力が変わるだけでなく、クールタイム中の魔法も解除されるらしい。そのため、彼は普通に魔法を使える。

二次元バーチャル

 画面に入れそれを投げる。そして、

「バリン!」

 空中でユーリが破壊し、それを地面に落とす。そしてさらにそれをシオンが攻撃する。コンボの完成だ。これだけでもかなり削られる。さらに体勢を整えようと離れても、まほなのレーザーが飛んでくる。もうどうしたらいいんだ。

(まだクールタイムが終わらないか!早くしてくれ。失血が意外と辛いんだ!)

 ハルトはまほなの魔法を喰らった場所から多量の出血をしている。このままいくと貧血で最悪立って動けなくなる。

(もうこれ以上は限界だろう?もういいはずだ。)

「シオン!俺がヤツを仕留める!」

 ユーリがそう言った。シオンはそれを信じた。

二次元バーチャル!』

 そして、それを投げる。空中に、御膳立てにと、まほながレーザーを打ち込み、ハルトを固定すると、そのまま喰らわせる。

(俺の生み出した奥義は二つ。一つは今さっきの“王天”。そしてもう一つが……。)

『天下無双流 奥義! 牙突流星がとつりゅうせい‼︎』

 ハルトに全力を注ぎ込んで剣を腹の魔王眼に突き刺した。

「あああああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 一気に押し込んでいく。だが、

『超次元・散‼︎』

 ドンッと激しい衝撃が発生し、ユーリとシオン、まほなは吹き飛ばされる。

「ぐっ、ぐぐっ……。」

 だが、刺さった帝王剣の聖なるエネルギーがハルトを極限まで削る。このままでは死んでしまう。

(しょうがない。)

 ハルトはそう考え、虚空から別の武器を持ち出す。それはお祓い棒のような形で加持祈祷を行うときに使われるものとよく似ていた。それをハルトは傷口に突き刺した。すると、

「じゅわあああああ……。」

 少しずつお祓い棒が消えていき、ハルトはなんとか帝王剣を持って引き抜いた。そしてそれをユーリに向かって投げた。怒りの感じられる、そんな投げ方だった。

「これはな……体に打ち込まれた聖のエネルギーを吸収して肩代わりしてくれるんだよ。お陰でなんとか助かったけど、もう次はないな……。」

 ハルトは再生する魔王眼を見つめながら言う。

「簡単なハナシだ。次その剣を打ち込めば俺は死ぬだろうな。確実に。」

 ハルトはもうわかりきっていたが、恐ろしいことを口にした。

「因みに俺も回復したからやるぞ。超次元を使って、最後までオマエらの命を狙う。しつこくな。」

 ハルトは構え、魔力を練り上げる。超次元が生み出される。

「こっちもさ。」

 回復したアキラとともに歩いてくる。

「もうわかってるだろ。最終決戦だって。」

「もちろんさ。出し惜しみなんてするなよ?面白くねえからな。」

「オマエを手抜きで殺せるわけねえだろ。それぐらいわかっとるわ。」

 シオンはそう言って拳を構える。ここからは純粋な勝負だ。結界術はもう使えない。残ってる手札で戦うだけ。そして、俺には最大の手札が眠っている。それを不意打ちで打ち込むだけだ!

 シオンはニヤッと子供らしい笑いを浮かべた。ハルトも表情が和らいだ。そして次の瞬間——

「ダンッ。」

 全員は駆け出し、ついに激突する。ハルトは再び取り出した槍でアキラの三里をまずは弾く。そして槍を仕舞い、八卦炉を出す。そしてまほなのレーザーを相殺し、再び八卦炉を仕舞う。

(完全に読んできているな!ここまでの対応が百点だ!)

 シオンとユーリは同時に攻撃を仕掛け、クロスする様にハルトを攻撃した。だが、ハルトは直撃をなんとか超次元で耐え、技を使う。

『魔陰弾!』

 ドドッ、と二人に二個刺さるが、まだ大丈夫だ。普通に動ける。シオンは魔法を潤沢に使っていく。

雷電ライボルト!』

 電撃を放ち、ハルトにダメージを与えていく。そして、アキラの三節棍がハルトの足を引っ掛け、カクン、と足元を落とした。

(今しかない!)

ユーリは最後の奥義を打ち込む。もうこれが出せて最後の強攻撃だ。これに全てを託す。

『天下無双流 奥義! 神鬼滅殺‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

 だが、

「もうなあ、その技には、」

 ハルトの手の中に球体が出現する。

「見飽きてんだよ!」

 ハルトはその球体を発射し、こねくりまわす。

『超次元・集!』

 ユーリは避けれず巻き込まれ、右手が潰される。そしてそのまま地面に叩きつけられ、完全に沈黙した。

「ユーリ!」

 アキラもそちらに目線を取られ、目の前の敵を見ていなかった。

「アキラ!」

 まほなのレーザーが、間一髪でハルトとアキラの間に入り、二人の接触を妨げた。

「ありがとう!」

 アキラの三節棍がハルトを打ちつけた。

(後でユーリの生死は確認する!まずはコイツを片付ける!)

 なんとかハルトを飛ばすが、もうそこまでアキラも体力は残っていない。流石に威力が下がっている。それをハルトは見逃さない。だが、シオンが必死にカバーする。

呼哭アンプリート‼︎』

 衝撃波でハルトを吹き飛ばす。そして、

『リーニングシャイン!』

 光が彼の体を貫く。ハルトも限界のはずだ。はずなのに!

「ダン!」

 何故彼は立ち上がってくるのか⁉︎

「まだまだ、こんなもんじゃねえだろう?」

 ハルトは口から吐血しながらもなんとか立っている。普通なら立てていない、というか生きていないはずなのに。再生もしている。まだ超次元は健在のようだ。

「見せてやるよ!俺の大技!」

 そう言うとハルトは空中に跳び上がった。シオンもそれを追う。だが、詠唱は始まっていた。

 

 

「明暗 光陰 光の発散」

 

 

「暗黒 破壊 闇の集縮」

 

 

天鳴てんめい 獄門ごくもん 表裏ひょうり狭間はざま 天武てんぶ降臨こうりん

 

 

『超次元』

 白い球体が発生するが、彼はもう一つの白い球体とぶつけていく。

(全ての集縮発散しゅうしゅくはっさんを一つにまとめて、その生まれた莫大なエネルギーを自爆覚悟で周りに放つ!これは絶対的な——)

「必殺火力だ‼︎」

超次元ちょうじげんてん

 全ての集縮発散が一つに収まったことにより、強力な、そして異常なエネルギーが瞬時に発生し、それは瞬時に爆風と化し、衝撃と化し、力となって周りを吹き飛ばした。

「ドガアアアアアアアンンン……‼︎‼︎‼︎‼︎」

 シオンはモロに喰らい、大ダメージを負った。まほなとアキラはなんとか防御魔法でギリギリ回避したが、シオンが動けなくなってしまった。

「シオン!」

 まほなが叫ぶがどうにもならない。ハルトがトドメを刺そうとするのだが、

「ガシッ!」

 その腕を掴んだのは、クーゲルだった。

(転送魔法でここまで近づいたか!でももう遅いわ!)

「今ここに来ても、オマエにできることなどない!」

 ハルトはクーゲルの両手を掴んでバキバキと砕く。そして、口に溜めたエネルギーを放射する。

「ボウッ!」

 クーゲルの上半身が焼け焦げる。だが、それでもクーゲルは諦めなかった。

(みんなが繋いだように……私もつなぐ!)

超回復メガキュアー!』

 シオンを瞬時に回復させていく。ハルトは怒り狂った。

「コイツ〜っ!」

 だが、クーゲルの顔を見た。満足そうな顔だった。ハルトはそのままクーゲルの腹に腕を突き刺し、心臓を鷲掴みにした。だが、

『リーニングシャイン‼︎』

 光のレーザーがクーゲルを守るように放たれる。だが間に合わない。潰される——!

「危なかったぜ。ありがとな!」

 クーゲルを取ってシオンは駆け出していた。

「ううっ……。」

 流石に魔族といえど、心臓を露出されては流石に動けなさそうだ。苦しむクーゲルをそっと置くと、こっちに詰めてくるハルトに拳を見舞う。完全な動きで、速く、正確に!

「ドッ……!」

 ハルトはしっかりと鳩尾に入れられて、あとずさった。

「ぐうっ⁉︎」

 ハルトは痛みに耐えながらもシオンを見る。シオンはまだ傷跡が残っているものの、なんとか耐えて立っている。

(なんでだ?何故あの技を近距離で喰らって生きている?)

 ハルトの脳内に新たな疑問が生まれる。だが、そんなことを考えている暇はなかった。すぐに飛んできたレーザーを避け、そのまま超次元を生み出す。

(これ以上のダメージは限界なんだ!もうあと撃てて二発か三発!)

 ハルトもそろそろ魔力が尽きるようだ。尽きれば超次元は保てなくなり、彼を守る術はなくなる。

「ドゴゴッ!ゴッ!」

 シオンの拳が次々とハルトを狙う。ハルトはそれらを全て受け切り、反撃に移る。ハルトは単純な強化体術に戦術を変更しダメージを与えていく。だが、それを黙って見ているだけではなかった。

(俺もまだ戦える!出し切れ、全部‼︎)

魔符まふ 魔獣咆哮ビーストストライク‼︎』

 魔法符スペルカードを宣言し、札から紫色のレーザーが照射された。ハルトはそれを真っ向から耐えようとするが、

(これは他のカードに比べて消費魔力が多いんだ。だって……)

「防御貫通だぜ?」

 魔力の防御をすり抜け、ハルトに直撃する。腕を燃やし、隙を作る。だがもうハルトは決めていた。

(再生はしない。)

 ハルトは続くシオンの攻撃を受け止める。

(くそっ、まだ耐えるのか!しょうがねえ、俺の最大の一発、撃ち込んでやるよ‼︎)

 魔法符スペルカードを高々と掲げ、宣言する。

天符てんふ アステロイドベルトナイト‼︎』

 その言葉とともにアキラの体の周りに無数の星のようなものが出現し、アキラの周りを回転する。ハルトも横目でそれを確認する。

(これで一気に攻めかかる!)

 アキラは横からハルトとシオンの間に割り込み、三里を振る。だが、ハルトは素手でなんとか弾き、直撃を防ぐ。

(でもな、こっちがある!)

 回っていた星のようなものがハルトを追尾するように発射された。ハルトは辺りを駆け巡りながら避けていく。そして超次元を放ち、次々と落としていくが、

(囲んだ!)

 いつの間にか全方向を囲まれていた。ハルトはなんとか体を守り、星のような弾は、ハルトに直撃し大爆発を起こした。

「!」

 ハルトは半身が焼け爛れながらも生きており、仕方なく再生を回していた。ハルトは突っ込んでくるアキラを見ていた。が、反応はしていないように見えた。

(胴体ガラ空き!狙える!)

 アキラの三節棍がハルトに命中する直前、限界までチャージした八卦炉が火を噴く。文字はもちろん“五行”。全ての属性を結集して撃つ、至高の一撃だ。

「ドウッ!」

 その直撃を真正面から喰らったアキラは上半身を焼かれ、立ったまま気を失った。そしてハルトはアキラを回し蹴りで飛ばし、遠くの瓦礫の山にぶち込んだ。

「ドドドッ!」

 まほなのレーザーがまだ飛んでくる。だが、ハルトも同じく追尾式のレーザーを照射する。集縮度合いで光を屈折させ、強制的に追尾させる。だが、

『防御魔法』

 防がれた。

「ちっ。」

 ハルトは足元を狙ってきたシオンから逃げる。手には三里が握られていた。

(あの威力にも耐え得るのか。流石は八卦炉や俺の槍と同じなだけはあるな。)

 ハルトはそんなことを考えながら遠き日々を思い出していた。だが、ハッと我に戻り、すぐにシオンの攻撃を躱す。だが、ハルトも超次元を生み出すのも苦しくなってきた。まほなとシオンに一発ずつ撃てば終わる。それ以降はコンパクトな魔力操作で凌ぐ他ない。そのため、タイミングを極限まで見定める。

(もうあと一発。一発でも与えれば勝てる可能性が高くなる。俺が、俺が勝つビジョンがもうそこにある!)

 ハルトはこの戦いに臨む前、自分の勝率を計算していた。その結果、彼の勝率は——

「ドガッ。」

 三節棍が地面を抉り、ハルトを狙う。だが、それを弾くと、ハルトはシオンの足を狙う。少し足で触り、体勢を崩す。だが、隣から光が飛んでくる。

『ジャスティススター!』

 ハルトはなんとか宙返りで避ける。

(また外した!もう魔力もそこまで残ってないのに……!)

 まほなもかなり限界が近かった。おそらくハルトとタイマンになった瞬間、負けが確定するだろう。

(シオンと合わせていくしかない。それが一番勝率が高い!)

 まほなはそう考え、シオンの行動に合わせるように動く。シオンもそれから意図を汲み取り、シオンが先導して動く。

(二人で合わせてくるか!いいだろう。)

「二人まとめてこい!同時に殺してやる!」

 ハルトは二人に近づく。拳を振り、シオンを攻撃する。だが、

二次元バーチャル

 画面に入れて空中に放る。

『リーニングテンペスト‼︎』

 今までよりも多い光が画面を貫く。だが、ハルトはダメージを喰らいつつも攻撃を続ける。

(捨て身でくるか!)

 ハルトはシオンに体をぶつけ、よろめかせるとそのまま体術でシオンに攻撃を打ち込んでいく。

「ドゴゴッ、ゴゴッ。ドゴゴガガッ!」

 シオンの口から血が出る。

(まだこれだけ動けんのかよ!攻撃のキレも健在じゃねえか!)

 シオンの体勢が完璧に崩れ、最大の隙ができる。

(受け身は100%とれない。この近距離、外すことはない。)

 完全に決めた。腕を伸ばす。虹色と黒色の球体が生成され、交わっていく。決めるようだ。

(ここで決める。絶対に。)

 球が完全に交わり、全体が白色に変わる。仮想の質量の球体が、シオンに発射される。

「シオン。もうこれでいいだろ?」


 

光星こうせい 虚空こくう 天地てんち創造そうぞう 時空じくう黒渦くろうず

 

 

超次元ちょうじげんしゅう‼︎』

 極限まで高められた多量のエネルギーがシオンの体を包み込んだ。だが、ハルトが次に見た景色は——

(何故——)

 ハルトが見たものは、直撃を耐え、肉の形をそのまま保っていたシオンだった。シオンの指の先に、虹色の球体が出現する。

(なるほど、)

「最大の敵は、自分か。」

 ハルトはフッと笑う。

「面白いな。」

超次元ちょうじげんはつ!』

 ハルトの魔王眼と心臓を貫通し、球体は彼の急所を全て破壊した。

(さっきからダメージがないと思っていたが、それは全てやはり超次元での防御をしていたからか。悪い能力だ。)

 ハルトは全身に力を入れようとする。だが、誰かに耳元で囁かれたような気がした。

「もういいんじゃない。」

「十分だ。」

 その瞬間、彼の力がスッと抜けた。手を下に下ろす。

「シオン……最後に二人で、旅をしないか?」

 ハルトはゆっくりと、今までにないほど優しい声で語りかけてきた。

「旅だと?」

「これから世界を担うオマエだ。伝えたいことが、いくつかある。」

 そう言ってハルトは手を出した。手を握れと言っているようだ。

「……分かった。」

 そう言って手を握ると、周りに超次元が展開される。一瞬で周りを囲まれ、退路を塞がれるが、そのままシオンは手を握っていたままだった。

「俺は知っている通り継承の魔王として、始祖の魔王が召喚した。」

 そう言うと周りの超次元がスクリーンのように景色が展開され、立体映像のように現場を再現する。

「俺は一番攻撃能力が高かったけど、他人と関わるのは苦手だった。強者故に弱者との関わり方がわからんかった。自分と対応に渡り合える者は存在しなかった。」

 ハルトは悲しそうに言う。シオンは彼の傷を見る。明らかに心臓が吹き飛んで即死しているはずなのに普通に立ってここまでの技巧を見せている。本当は——とシオンは思った。

「だからこそ他者を殺し続けたのかもしれん。ただ殺すのには怨恨のようなものもあったと思う。」

 声が震える。

「でも、俺は……彼女がいたからここまでこれた。」

 あの日々が映し出される。そこには人間を助ける一人の魔族の姿があった。

「これが……オマエのペアの継承の魔王か。」

「そうだ。彼女は私が知る中で最弱の魔族だ。」

 ハルトはそう言う。だが、

「でも、心だけは、誰よりも強く、信念は揺らがなかった。たとえ自分が死のうともな。」

 ハルトはそう言った。目は悲しそうだった。

「そんな彼女を失い、私は盲目的に世界を支配した。でも、ある時気付いたんだ。」

 ハルトはシオンの方に向き直り、静かに話す。

「私がすべきことなのは、彼女の仇をとることじゃなく、繋げていくことなんだって。それこそが“継承”だって。」

 ハルトはそう言った。少しずつ映像が乱れていく。ハルトは口から血が垂れてきた。

「治せないのか?」

「無理だよ。俺でも心臓を治すことはできない。」

 ハルトはゆっくりと言う。声が遠ざかっていく気がした。

「俺は継承をする方法を探るために世界を回った。彼女が愛した世界を見て、何を守るべきなのか、それを見定めた。」

 世界を約300年ほど放浪し続けた彼は、いろいろなことができるようになり、最強の魔族の力を手に入れた。でも、それでは彼は満たされなかった。

「でも、俺には見えるものが違った。俺の“眼”は世界を見た。でも彼女は生物を、その目の前のものだけを見ていたんだ。視野が広すぎて、私には彼女と同じ景色は見えなかった。」

 映像がどんどん乱れていく。死が近づいてきている。

「だからこそ想像で彼女と繋がった。どうにかして彼女を知りたかったから。」

 ハルトはそう言って画面に手を伸ばした。

「俺は見せた。想像で自分のすべきことを見つけた。ここまでやったんだ。さてここで君に質問だ。」

 バリン、と超次元が破れ、二人は戻ってくる。

「君は……何を見せてくれる?」

 ハルトの口調には確かめるような、でもどこかで信頼しているような口振りがした。優しさは、受け継がれていたんだ。

「俺は……自分なりの最高の世界を作る。誰も悲しむことなく、誰も差別されない、牧歌的な平和な世界だ。」

 その時ハルトの口元が緩んだ。子供のように笑う。

「そうか……それはいいな。」

 ハルトは安心したように言う。

(もうここいらでいいかな。)

 天を仰ぎ、心の中で話しかける。

「ええ。いいんじゃない?」

 そう返ってきた気がした。ハルトは最後にっこりと笑うと、こう言った。

「君の作る世界を心から願ってるよ。最後にいいものが見れた。満足だ。」

 ハルトはそう言うと、黒い渦と虚空から、それぞれ眷属と武器を出した。おそらく死ぬため仕舞えなくなったのだろう。

「さらばだ。死の後の鳥の鳴く平原で、また逢おう。」

 そう言うと、ハルトは立ったまま事切れた。やはり完全な魔族ではないからか、肉体は崩れなかった。だが、このまま放置すればいつかは土に還るだろう。でも、なぜかそのままには出来なかった。

「やったの?」

 まほなが聞く。シオンは少し間が空いたが、こう答えた。

「ああ、やつは息絶えた。俺たちの……勝利だ……!」

 その勝利の一報は瞬く間に大陸中を駆け巡り、嬉々として伝わった。

 

 

二日後 ビックリバーシティ

「おう、起きたか。」

 シオンはようやく意識を取り戻したアキラの前に立っていた。

「これ、夢じゃねえだろうな。」

 アキラはそう言うが、

「大丈夫だ。俺たちが勝った。世界は救——、いや、変わったんだ。」

 途中で急に言い直したシオンに何か不信感を感じたが、気にしないことにした。

「他のやつは?」

「ユーリはすでに起きてるぜ。クーゲルもな。後遺症は残るが。」

「そうか。」

 アキラは体を起こす。

「オマエも完全に火傷の痕が消えなかった。上半身は少し変な感じだろうが、安心してくれ。」

 アキラは上半身に火傷の痕が残っており、顔は別人のようになってしまった。

「シオン!ユーリが呼んでるよって……。」

 部屋に入ってきたのはまほなだ。でもアキラが起きているのを見て、安心したようだ。

「わかった。すぐ行こう。」

 シオンは席を立ち、部屋を出ていった。まほなはアキラに手を振り、どこかにいった。アキラは唐突に窓の外を見る。小鳥が鳴き、花が咲き乱れている。平和を謳歌しているようだ。それを見て、アキラは微笑み、言う。

「やっぱ平和が一番っしょ♪」

 

 

「ユーリ、呼んだか?」

 シオンは少し離れた場所に来ていた。目の前にあるのは……墓だった。

「……少し意外だったよ。あんな経歴があったなんて。」

 ユーリはそう言って遠くを見つめる。

「俺の右腕を奪ったし、仲間の命もたくさん奪われたけど、奪った量は、こちら側が圧倒的に多かったな。」

 ユーリは、あの技で、右腕を千切られた。その腕は、空間ごと引き裂かれているため、再生も復元も出来ないそうだ。つまり彼の最大の武器が失われたのだ。

「ごめんなぁ、超次元の他人への付与の仕方がわからねえんだよ。」

 シオンは攻撃を喰らい続け、それに適応していた。そう、異聞天の能力、魔法を使って。それによって彼は超次元での攻撃が出来たのだった。だが、他人への付与の仕方や回復のやり方は分からなかった。

「別にいいさ。平和な時代には俺の腕は要らん。そうだろう?」

「そうね。」

 背後にいつの間にかクーゲルが立っていた。クーゲルは心臓の部位に大きなダメージを負い、肺と胃、その機能が半分以下まで落ちてしまった。さらに心臓にもダメージが入り、運動はできなくなった。

「平和な世界に戦争の道具なんて必要ないわ。これからは日常的に使えるものほど歓迎されていくわけだからね。」

 クーゲルはそう言って歩み寄ってきた。

「でも意外だったわ。自分で彼を葬りたいなんて。何があったのかしらね。」

 ハルトの墓を作らせてほしいと言ったのはシオン本人だ。

「大丈夫だ。それを含めて言うさ。」

 ついに戦いが終わったということで、人々に真実を伝えなければならない。そうして一から世界を作り直す。

「楽しみね。」

 クーゲルはそう言い、きびすを返して戻っていった。

「シオン。」

 ユーリが呼び止める。

「終わったんだな。俺たちの戦いは。」

 ユーリは寂しいようだ。シオンも一瞬下を向く。だが、すぐに言った。

「終わってねえよ。むしろこれからだろ。これからは俺らが世界を作るんだ。それまでは終わりじゃないさ。」

 シオンはユーリの隣に立ち、太陽と青い空、そして目の前に広がる大きな荒野を見つめる。

「俺は、世界を作り直す。そういう約束なんだ。」

 その決意に、ユーリも腹を決めたようだ。

「わーったよ。俺も協力してやる。その代わり……。」

 そう言って付け加える。

「なんか美味いもん食わせろよ?」

「その程度でいいなら。」

「あ、やっぱ地位俺の方が上にするも付け加えて。」

「おいおい。」

 急に声がして振り返る。そこにはアキラとまほながいた。そして、真面目な顔でアキラが言う。

「一番はやっぱ金だろ。」

 その一言で場が凍る。

「まあどうでもいいじゃない。」

 まほなが切り出し、青い空を見上げる。太陽が眩しい。

「それにしても楽しみね。」

 空は全てを青く染める。色は変わるが、必ず青に戻ってくる。その必然性は、全てを赦すかのようだ。全てを包み込み、世界の淵を形作る。

「ああ、楽しみだな。」

 アキラとユーリも向かい合い、そう言う。

「楽しくなるに決まってんだろ。」

 シオンは一歩出て言う。

「俺らが、作ってくんだからよ。」

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 最後の!賢者の結界術解説コーナー!

 

 

 最後に、シオンとアキラの結界術を解説するぜ。それでは行ってみよう!

 

 

①アキラ『天与博打てんよばくち』 結界内の相手と強制的に賭博を強制する結界となっている。勝てば武器や魔力などが貰えるが、相手にも同じ効果が出るので、ハイリスクハイリターンの術だよ。掌印は、まず両手でコインのマークを作ってね。それを合掌するようにくっつけるよ。はい、おしまい!

 

 

②シオン『生死継承せいしけいしょう』 結界内ではシオンが継承したすべての魔法が相手に必中になり、また、シオンも同じ影響を受けて、圧倒的に技が強化される。単純に強い。掌印はまず、両小指、薬指、中指をそれぞれ編み込んでね。隙間が窓みたいになるのがベスト。それを立てて、自分の胸の前に持ってくるよ。あとはそれぞれの人差し指と親指をくっつけるだけ!はい、おしまい!

 

 

 ついに終わっちゃったね……。また逢おう!by賢者より、愛をこめて

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