第31話 死の唄 〜悪魔の輪唱〜
第三十一話 〜悪魔の輪唱〜
ハルトは今まで封じていた。生得魔術も、武器も、魔力も、そして本気も。だが、もう躊躇わない。ここから始まるのは、ハルトの本気による、圧倒的な殺戮ショーだ。
「ば……馬鹿な。」
リヒュウは拳の当たった場所をさすりながら立ち上がる。
「ここからが本気だと?」
「そうだ。オマエ達にはまだ本気は出していなかった。その証拠に俺はまだ武器の能力も、自身の生得魔術も使っちゃあいない。」
「何を言ってる。オマエの生得魔術は斬撃魔法だろうが。」
「じゃあ魔法の正式名称はわかるのか?」
ハルトの問いにリヒュウは詰まる。
「残念だが、本来であれば“
「何⁉︎」
「アレは単純な魔力をぶつけているだけさ。ただ、魔力を研磨させて、鋭く尖った状態で飛ばしているだけさ。その証拠にアレが当たった時に魔突閃が出ていただろう?」
確かにこの戦闘でもそれはあった。魔突閃は物理攻撃でしか発生しない。だが、魔力を直接ぶつけているなら、それも説明がつく。
「だが、オマエは詠唱もやっていただろう⁉︎アレは魔法じゃないと出来ない!しかも結界術に至っては……。」
「ああ、確かに不可能だ。だが、俺はその単純な魔力操作を、魔法まで格上げしたんだよ。」
「何……だって⁉︎」
「驚くな。誰でも魔力の核を掴めばできるさ。だがその結果、俺のは魔法と魔力操作、両方の特徴を持つようになったんだよ。」
彼の口から明かされた真実。その恐るべき事実にリヒュウは戦慄した。
「ここからは完全に俺の本気だ。と言っても使うのは七百年ぶりぐらいだからな、まずは軽い手慣らしからいこう。」
ハルトはそう言って剣を握ると、そのまま虚空を斬る。すると、
「バアン!」
物凄い衝撃波が発生し、血の波を押し返した。
(……魔力の量が尋常じゃない。おそらく今までは魔力に制限をかけていたんだ。だが、今は違う。俺と同じく暴力的な質量(魔力)で攻撃を放ってる。火力の上昇幅はさっきの5倍から10倍……!)
「いくぞ。」
その言葉とともにハルトは視界から消える。そして、
「バキッ!」
ハルトの腕がリヒュウの頬を叩く。
(さっきより速く……重い!)
リヒュウは拳を使いハルトに格闘を挑むが、ハルトはあっさりとそれを避け、滑るような動きでリヒュウの攻撃の隙間を抜ける。
(……だが!それも想定内!)
リヒュウは拳の中に血弾を隠していた。それを解き放つ。
『散血!』
だが、ハルトはそれを喰らう直前で消えていた。血弾は宙を舞い、地面を貫通した。
「何故分かった?」
「オイオイ、完全開眼だぜ?今までの魔力感知とは違うんだぜ。俺は単純な魔力を感知できる。身体の中の魔力を見て、攻撃を判断できる。」
「つまりは……未来視か。」
「まあそんなところだ。」
ハルトは魔力の流れを汲み取る事で、擬似的に脳内で次の相手の動きを再現する。採取したデータから百通り以上の相手の動きのシュミレーションを組み立て、その内から少しずつ絞って最終的に辿り着いた動きを対策する様に動く。確かにそれは未来視と言っていいだろう。
「身体の動きは充分だ。それじゃあ、武器も本気を出す頃だな。」
そう言って剣を高々と掲げ、頭上で強く握る。すると、剣の形状が
「それが……その武器の最終形態か……。」
「いや、本来はこちらがこの武器の通常形態だ。俺は死した魂と契約を結んでいてな、それの影響で使えなかったが、もうそれは関係ない。ここからはこの武器達の本当の力を鼓舞しよう。」
そう言ってハルトは八卦炉に溜めていた魔力を解き放つ。同時にリヒュウは血液の波をハルトに向かって飛ばす。血液の波はハルトを飲み込み、流したように見えた。だが、
「メキメキメキメキ……。」
急に大きな木の枝のような草木が生えてくる。ハルトはそれにつかまり、血液の波から上がる。手には八卦炉が、中心の文字がいつの間にか“木”になっていた。
「なるほど……
「その通り、これはその中の
「
「どうなんだろうな。まあどうでもいいっちゃいいが。」
「そんなこんなでこれはその名の通りに五行を操れる。五行の能力を、これ一台で完結させる事ができるんだ。」
「だから木を生やしてそれを避けたということか。」
「惜しいが違う。」
ハルトはそう言うと八卦炉を血の中に落とした。
「五行の思想には相性、というものがある。火は木に強い、水は火に強い、みたいなヤツだ。」
そう言ってハルトは槍を握る。
「五行ではな、水は木を強める相性があるんだ。」
「!」
その瞬間大量にリヒュウが出した血が八卦炉に吸われ、そこから大樹を生成する。その木は大量に枝分かれし、その枝がリヒュウを襲う。
「ビビビッ……。」
血で生成したナイフで切り裂くが、逆に血を吸って効果はない。むしろ逆効果だ。
(結界術と物量作戦を逆手に取られた⁉︎これ以上の血の生産は相手にとって有利に働く。ならば……。)
血がリヒュウにまとまっていく。リヒュウの身体にまとわりつくように付着し、次第に体を覆っていく。
(よりコンパクトに、より簡潔な血の操作に回る!)
『
赤い血で覆われたリヒュウは完全に西洋の悪魔そのものへと変貌する。
「よりコンパクトな魔法の運用へと変えてきたか。だがまだ結界能力は残っているのだろう?」
(バレていたか。)
「俺への攻撃は必中化している。でもいいぜ。」
そう言って槍を構える。それは次第にさらに変化し、槍先が鋭く、真ん中が一番大きく、炎の球体がある。
「焼き尽くせ!“レーヴァテイン”‼︎」
そう言って槍を投げると、槍の飛んだその周りが瞬時に高熱に熱され、蒸発する。リヒュウの血の装備も一部蒸発した。
(投げただけでこれか……直撃では間違いなく死ぬな。)
さらに、その槍を取るようにハルトは動き、素早くリヒュウの裏へと回る。背後で八卦炉を構えながら。
「ドウッ!」
よく見るといつの間にか中心の文字が
(レーザーの威力も上がっている!軽々しく受けれるものじゃない!)
槍を掴むと、再び形状が変化し、今度は槍の先が少し広がったものへと変化した。両端部に刃がついているようでおそらく近距離戦も可能だろう。
「グングニル!」
そう言って投げると、リヒュウの胸へ一直線に飛んできた。スピードは先程以上だ。と言ってもほとんど一瞬で到達するため、意味はない。ボッ!と右腰あたりを貫き、後方へ飛んでいく。
(もはや血のガードがほとんど意味をなさない!これがヤツの最大火力……。)
だが、槍は後方に放ったままだ。今なら近距離で攻めれる。リヒュウは羽の加速も合わせ、ハルトに一気に近づいた。
『散血』
血の散弾がハルトの近くで爆ぜる。だが、ハルトにはほとんどダメージがないようだった。
(魔力防御さえも別格だ!手応えが全くねえ!)
だが、このチャンスをものにするためにはまだ攻撃を叩き込むしかない。
「ドドッ。」
血液を纏った拳がハルトを襲う。だが、4本の腕で次々と防御する。
(八卦炉が消えてやがる!アレは自由に出し入れ出来んのかよ!)
すると、ハルトは急に手を伸ばした。そこは虚空だが。
(何をしているんだ?)
だが、続けて拳を見舞う。意味はないと思っていた。だが、
「ドスッ。」
「は?」
リヒュウの背中に、いつの間にか槍が刺さっていた。
(まさか、あの槍は手元から離れても自由に動かせるのか⁉︎だとしたらあの槍はほぼ必中だ!)
リヒュウは槍を抜き、ハルトめがけて投げる。だが、槍はハルトの直前でピタリと止まり、ハルトはそれを握った。
「流石にか。」
「こんな話を知っているかい。」
ハルトはリヒュウに急に話す。
「西洋に神の兄弟がいた。兄は軍神として、瞬時に戦地を駆け抜ける馬と、必中の槍を持っていた。だが、弟は災いを呼ぶ神で、彼の持つ槍は一振りで世界を灼熱の
「何が言いたい。」
「おかしいと思わないか?」
ハルトは笑いながら言う。
「人々は自らが生態系の頂点に立っているというのに、それ以上の高みを目指し、その存在を神と呼び
「……。」
「だが、我々魔族はそんなことはされなかった。悪と決めつけられ、崇め尊重することもされず、ただひたすらに殺され続けた。何故だろうな。」
「知るか。」
「答えは単純だ。結局認めたくないのさ。自身より優れている者や、才能を。結局人は、自分の事しか考えず、保身の為なら自分の手をも汚す、穢らしい生物なのさ。」
リヒュウは黙って聞いていたが、不思議と変な気は起きなかった。
「自分より劣っている、何者かよりも劣っている、その下らない事実にすがりついているのだよ。だが我々は違う。実力主義ゆえ強さは必須。努力すれば努力した分の結果が蓄積される。この世で一番献身的な生物といっても過言ではない、そう思わないか?」
「結論を言え。」
「ヤツらの下についても、結局仕組みは変わらない。我々は絶滅の一途を辿るだろう。それはあまりにも酷すぎやしないか?」
「……それはこの後の世界の奴が決める事だ。もちろん俺も見守るけどな。」
「賛同が得られないとは。理解ができん。」
「理解など到底できん!結局、殺し合いの負の連鎖はそれでは止まらん!力で解決できるのは、せいぜい数年しか持たぬ!そんなくだらん物に、一生を懸ける気はない!」
「なるほど。それが君の持論か。」
ハルトはそう言うと、再びあの灼熱を放つ槍——レーヴァテインへと変える。そしてそれをリヒュウに先端を向けて構えた。
「じゃあ殺す。あの世で観ているといい。」
その瞬間、炎が槍の縁に沿うように先端に流れ、先端に小さな火球が出来たと思うと、
「ドウッ!」
その火球から、灼熱の劫火が放たれた。リヒュウは血を間に挟み、相殺した。だが、ハルトの八卦炉が今度は剣を射出する。中心の文字は
「チッ!」
リヒュウは血を手元に集め、加圧する。剣を穿ち抜く。
『血圧砲』
剣を貫き、ハルトに命中する。だが魔力防御で防いでくる。ハルトは槍の形を先程の追尾式——グングニルに変え、接近する。
彼の槍は3つの姿を持つ。一つ目は
グングニルを突き出し、リヒュウを狙う。リヒュウはそれを躱すが、槍の先がなんと曲がり、リヒュウの脇腹を傷つけた。
「必中……ということだけはあるな。」
リヒュウは出血した血を爆ぜさせ、距離を取る。すると、ハルトが槍を投げる。それをバク転で避けるが、投げた後の軌道が変わり、ハルトの手に戻った。リヒュウは着地と同時に大量の血液の束を射出する。
『
だが、槍での一閃で弾く。だが、弾かれた血が散り、ハルトの周りに浮遊する。
『
血の手錠。逃げられない。
(渾身の一撃を!近距離で!)
リヒュウは一気に近づき、加圧した血液を解き放つ。
『
身体の構造上、1番の血液を加速させている器官は左心室左心房だ。そこからの血液を、直接手でさらに加圧し、異常なまでのスピードで血液を射出する。反動も凄いが、威力は十分だ。
「ビビビビビビビビ‼︎‼︎」
近距離で腹にモロに入る。ハルトは耐えていたが、やがて、
「ズバン!」
腹を血液が貫通し、穴を開けた。リヒュウはそのまま近接攻撃を叩き込む。赤血紅魔の状態では、俊敏性と
「ドドッ!」
血で生成したナイフを次々と突き刺し、ハルトを出血させる。だが、ハルトは腹に穴が空いたまま、槍を振り回す。炎が散り、槍先の軌道が浮かび上がる。
(再生能力が落ちているのか?何故再生しない。)
ハルトの腹が全く再生する兆しがないのが気になった。その視線に気付いたハルトは説明するように言う。
「この姿は千年前と同じなんだ。つまり初期の姿。その特性は、魔王見聞録を見ているなら分かっているだろう?」
「……再生能力がないのか。」
「まあ昔は、だけどな。」
そう言うと傷が少しずつ再生していき、腹に空いた穴も塞がった。
(再生速度はそこまで。俺と同じかそれ以下だ。ダメージさえ与えればかなり有利に進められる。)
ハルトは再び八卦炉を地面に下ろす。すると、付近の草木が枯れていった。八卦炉の文字が再び“
「草木は……炎を助長する!」
その瞬間、八卦炉から凄まじい爆炎が発生し、リヒュウに襲いかかる。リヒュウは咄嗟に血を射出し防ぐが、その時にはハルトはリヒュウの裏へと回っていた。
「ドドッ、ドドドド!」
ハルトの槍がリヒュウを狙う。リヒュウは羽をたなびかせ、空中へ逃げる。
「させるか。」
その瞬間、八卦炉の文字が“
(ここからならば!)
リヒュウは構える。血液を加圧する。だが、
「ドスッ!」
ハルトの放った槍が、蔓の間を潜り抜け、先にリヒュウに刺さる方が早かった。そのまま槍は、リヒュウを貫通せんとする。
「——!」
リヒュウはギリギリで羽を動かし、槍の軌道上から離れた。だが、その直後に、先に放っていた木が飛んできて、リヒュウを地面に撃ち落とした。ハルトはそれを見ると一気に距離を詰める。だが、
(コンパクトにするのは……得意じゃないんだ。やっぱりこっちが良いよな。)
土煙の中から幾つもの血のレーザーがハルトを囲うように飛んでくる。
「ジュワッ!」
槍の一振りでそれらを蒸発させ、そのまま近づく。だが、土煙の中に入ると、足が動かなくなった。
「⁉︎」
足元を見ると、粘着性の血液がハルトの足を地面と接着させているようだ。そして、周りに尖ったボール状の血弾が浮遊していた。
『
散血よりも威力が高く、尖った血弾が飛び散るためより威力が高い。形状の関係上、範囲はそこまで広くなく、当てるためにはかなり接近の必要性があるが、今ならその心配は要らない。
「ドドン!」
鈍い音が響き、ハルトの身体に穴が空く。そして、リヒュウはそのままハルトの腹に手を当てる。
(ゼロ距離で、この技を当てる!)
『
リヒュウの手の中には血弾があり、それをハルトの腹に押し当てた状態で爆発させたのだ。リヒュウにも多少のダメージはあるが、問題ない。
ハルトは一瞬固まったがすぐに立ち直り、八卦炉を起動させる。文字は……“金”。
その瞬間、ハルトの周りに彼を囲むように剣が地面から生えてきた。
(こんなことが……!)
五行において、土は金を助長する働きがある。地面との掛け合わせでこんなこともできるのだ。
「ヒュヒュン!」
ハルトは槍を回し、リヒュウを離す。リヒュウは空中に飛ぶのを確認すると、ハルトは狙い澄まして一閃。リヒュウの右翼を斬り裂いた。
(魔力を無理矢理伸ばして斬ったのか……。斬撃魔法と同じやり方……!)
リヒュウは翼をやられたため一旦地面に降りる。その瞬間を狙ってハルトも槍を投げてくる。
「ドガアン!」
周りはさらに吹き飛んでいく。リヒュウはゆっくりと歩いてくる。なんとか直撃を耐えたようだ。
(武器だけでここまで押し込まれるとは……。だが大体の能力はわかった。俺はヤツの槍を受けないようにすれば良い。)
『
先程とは違い、完全に身体を厚い血液の層で覆う。そうすることで大抵の打撃を相殺したり、皮膚への直接ダメージを極限まで防ぐ事が出来る。
ハルトは近くまで来ると、拳を振り下ろしてくる。だが、あえて避けない。血液の層に当たった瞬間、
「ザシュッ……。」
血液の層が持ち上がり、ハルトの皮膚に対して垂直に突き立てる。ハルトは少し傷を負ったものの、すぐに宙返りでバックして、反応を見る。
(なるほど……。触れる場所が反応し、反撃できるような造りになっているのか。つまり完全な防御の術……。崩すのは困難?いや、一撃で沈めよう。」
その瞬間、ハルトから魔力が溢れ出す。
「リヒュウ!一撃で決めてやろう!全力で守ってみろ‼︎」
「言われなくても……そのつもりだ!」
リヒュウもそれに合わせ、魔力と血液を合わせてミルフィーユ状にする。血液の層の間に魔力を挟む事でいわば中間層を形成し、連鎖的に崩れるのを防ぐ。さらに魔力で反撃の威力を多少なりとも上げておく。
ハルトは一気に近づいてくる。
(不利になるが……どんな攻撃でも耐える!この防御を破ることはできない!)
リヒュウはそう考え、防御の構えをとった。
(アイツのあの
ハルトの八卦炉が水色に光った。だが、背後でのチェンジなので気付かない。
「ドン!」
間合い内に入る。ハルトは八卦炉を取り出し、放つ。
「バシュゥゥゥゥ……。」
放ったのは水だった。その瞬間、彼の血液の層はなすすべもなく流れていった。
ブラッドスクイズは、自己血を操る魔法だ。だからこそ、自己血の範囲に血液を留めておく必要がある。自己血の範囲はその液体上において、自身の血液組成が60%以上であることだ。だからこそ、常に液体を保つためにヤツの血は水と混ざりやすく、血液の組成が人より複雑になっている。
だが、大量の水と混ざればその対策も意味はない。対策法としてはハルトの血管内に血を入れて操ったように、自己血を多く入れたり、一つの塊にして送り出すことだ。だが、それはすでに液体に色々なものが混ざっていたからに過ぎない。
今回彼の出した水は精製水。何も溶けておらず、血と混ざりやすい。結果、彼は自己血を操りきれず、血装が解かれたのだった。
(もう防御する手段はねえな。あとはコイツを心臓に打ち込むだけだ。)
「吸血鬼は日光などで灰になるが、夜になると復活するらしいじゃないか。完全に殺すためには心臓に杭を打たなくちゃなんねえんだろ?でも俺は生憎それを持っていない。だからな、替わりといってはなんだが、神をも殺す槍、打ち込んでやるよ。」
彼の槍の三つ目の姿。それは——
「殺せ。ロンギヌス!」
「ドスッ。」
彼の槍が、リヒュウの心臓を貫いた。
(こんな傷、死ぬわけが……。)
その瞬間、魔力操作ができないことに気づいた。再生も。ありとあらゆる事ができなかった。
(まさか……。)
「なるほど、必殺の槍か……。」
「その通りだ、リヒュウ。この槍で突かれたものは、何人たりとも確実に死ぬ。」
「ははっ、君らしくないね。」
「だからこれで殺したくはなかった。だが、まだこの後には、面倒くさい
「そうか……。」
リヒュウは口から吐血しながら言う。紅霧の魔法が解け、日光が差し込んでくる。
「俺は……恥じない戦いができただろうか。」
「どうだろうな。だが、来世のために言っておく。オマエは立場に囚われすぎる。いつまで経っても檻の中で動いていた。オマエにはその地位に足りぬ行動が足りなかったのだ。そうすれば、もっとマシな戦況にはなっただろう。」
ハルトは槍を刺したまま言う。
「なるほどな……。確かにそうだったかもなぁ。俺は全部立場に支配された者だったのかもしれん。」
「だが——」
ハルトは急に続けた。
「オマエとサシで
ハルトはそう言ってリヒュウの腹から槍を抜く。
「今まで
その言葉とともに、リヒュウは倒れた。
「あとは天から観ていてくれ。オマエの意志が継がれ、どのような世界が創られるのか。」
リヒュウの身体は崩れていき、服だけになる。
「天の花園で、また逢おう。」
リヒュウ死亡から間も無く、新たな傭兵が戦場に投入される。
「何を思ったかは知らないけれど、リヒュウ、ありがとうね。」
そこに立っていたのはヨネットだった。
「さて、いこうか。」
(菫色の慟哭!受肉体か。)
「どうしてこうも俺は面倒なヤツを相手取らなきゃならんのだ?」
「知らないわよ。でも、」
そう言ってヨネットはサーベルを取り出す。
「その姿なら、本気を出してもよさそうね。」
ビキビキビキ、と筋肉が音を立てる。
(こちらの手札は恐らくほとんど割れているでしょうね。しかもアイツは変身後、一回も魔法を使用していない。つまりポテンシャルはリヒュウ以上!実際にパフォーマンスでも圧倒してたわ。)
冷静に先の戦闘から得たデータを分析する。
(普通ならゴリ押しで押し切るのが良いけど、今回ばかりはそうはいかないわね。でも、私も少しは楽しめそうでよかったっていう体でいくか。)
ヨネットはグググ……と踏み込み、一瞬でハルトの近くに到達する。
「流石はヴィルカシア最強の一角だな!」
ハルトはそう言ってヨネットの腕を押さえていた。だが、
「私はこっちの方が得意よ。」
『
衝撃波がハルトを包むが、彼は普通に立っていた。
(あの直撃を……耐えた⁉︎)
ヨネットが驚いている間に、彼は槍を振り下ろす。ヨネットは慌ててサーベルを抜き、反応させる。
「バキィン!」
鈍い大きな音が鳴り、ヨネットのサーベルが折れた。ヨネットは槍で手傷を負いながらも下がる。
「あの
「でもさっき曲がってたじゃない。」
リヒュウをグングニルで狙うときも確かに曲がっていた。
「故意に、は折れんということだよ。別に折れた所で魔法を使えば良いだけのハナシだ。」
ヨネットは話を聞くと、一つため息を吐いた。
「いいわ。見せてあげる、私の本気。」
ヨネットはハルトに近づいていく。そして途中で、彼女の魔法の最終形態を発動させる。
『
その発動とともに、ヨネットの体がガクガクと小刻みに震え始める。ハルトは咄嗟に拳で拳を弾くが、
「ドドドッ!」
ヨネットと接している部分から振動が打ち込まれ、振動によって鼻から血が噴き出す。
(なるほど……常に体が微振動しているのか……。接しているだけでダメージがくる!)
ハルトは一旦下がると、体勢を整える。その合間に、
「衝動 天鳴 大地の鼓動」
『
今までよりも強い衝撃波がハルトを襲い、瓦礫ごと吹っ飛ばして近くの建物を砕いた。ガラガラ……と崩れていく建物の中から彼が現れると、ヨネットはさらに踏み込んで攻撃をしてきた。拳をハルトに叩きつけ、そのまま振動を打ち込む。
「ドドドドドドドドドドドドドドドド!」
ハルトの皮膚が削られるように拳が振動する。その振動によってあたりは吹き飛び、ハルトは強制的に離れざるを得ない。
(振動を常時体内で増幅させている……。アレによって触れたものを敵味方関係なく攻撃できるのは強いな。)
ハルトは削れた前歯が落ちないようにしながら立ち上がる。
(まあ、別にどうしたというわけだが。)
ハルトは八卦炉から大量の樹木を出現させ、それが鞭のように動いて襲ってくる。
「リヒュウにとっては効果抜群だけど……。」
ヨネットはそう言って、自分に当たる瞬間に、足から衝撃を地面に撃ち、飛んだ。
「私にとっては怖くないわ。」
木の枝の間を素早く移動していく。
(これが……ヴィルカシアの傭兵!その色持ちの実力か!)
ハルトは八卦炉を戻すと、目の前にヨネットが迫っていた。ヨネットは大きく口を開け、こちらに吐息を吹きかけた。だが、吹き出されたものは、そんな生易しいものではなかった。
『
衝撃波が固まった状態で口から高速で発射する。それは綺麗にハルトの右腕を飛ばした。だが、急にハルトはヨネットに近づき、腹を触る。そして、
「ビビビビビビビビ!」
格子状に斬撃が撃ち込まれた。ヨネットはなんとか離れ、傷を癒す。
(コイツ……!斬撃も今まで通りに使えんのか。)
ハルトは腕を元通りにさせ、ヨネットと向き合う。
(ヤツの魔力が尽きればあの振動も消えるだろう。だが、それだけでは足りん。シオン達のように休憩を挟まれたら流石に魔力が保たん。やはり集中して潰すしかない……!)
ハルトは斬撃を放つ。
『一傷』
バババン!と斬撃で物が切れていくなか、ヨネットは近づく。足に振動を蓄積し、一瞬で近づき、体当たりで削る。
『
ハルトは反応できずに大きく吹っ飛ばされる。だが、ハルトは地面に着地すると、地面に向かって斬撃を放つ。
『万傷』
ヨネットと自分の周りの地面を破壊し、陥没させる。だが、ヨネットは空中で衝撃を発射し逃げる。だが、
「想定済みだ。」
空中でヨネットを掴み、そのまま投げた。土煙が次々と上がる。だが、ヨネットは止まらない。
『
ハルトはそれを難なく避けるが、ヨネットは続ける。
「衝動 天鳴 大地の鼓動」
『
ドウッと、煙が舞い上がり、衝撃が飛んでゆく。ハルトはギリギリで飛んで避けた。すると、ヨネットは自分の手を地面に打ち込む。そして、
『
地面がバラバラに割れ、ハルトはなんとか地割れの一部に捕まり、落ちるのを防いだ。だが、地面は大きくひび割れ、底は見えない。落ちればまず登ってこれないだろう。
「随分と大技を撃つじゃないか。魔力の消費も馬鹿にならんだろう?振動を発生させ、その状態を保つ。さらに振動を体内で発生させるため体を魔力で強化し続けなければ体組織が保たんだろう。」
「その通りよ。でも、そんなこと、承知で私はやっているわ。別にどうだっていいのよ。私たち傭兵は、依頼者の命令に従って対象を殺すこと。殺すためには何も惜しまないわ。たとえ私たちの命でもね。」
「いいな、それ。同じ場所に立っていたら、いい関係を築けたかもな。」
「別にアンタに興味も何もないわ。」
ヨネットはそう言い放つが、ハルトは何が不服かわからないようだ。
(コイツは上手くないわね。斬撃は喰らい流していいと思ってたけど、ノーガードだと深いところまで喰い込んでくる。しかも私の魔法も少しずつ対応しつつあるわ。ダラダラしてたら間違いなく後手に回るわね。)
ヨネットは構え、ハルトの方に近づく。ヨネットの拳はハルトの腕を捉える。確かにダメージは入った。だが、そのダメージを耐えつつ、ハルトは斬撃を放つ。
「ギャリリ!」
鈍い音が響き、ヨネットの腰に斬撃が入る。だが、同時にハルトの顔面にヨネットの振動する拳が打ち込まれ、ハルトは吐血する。
(顔面に一発!この一撃は大きいわよ。)
だが、ハルトはぎょろりと目玉がヨネットの方を向くと、腕でヨネットを掴み、そのまま体を起こす。そして、
「ブーッ!」
吐血した血を吐き、ヨネットの目を潰す。
(血で目潰し⁉︎マズい——)
その時、マスケット銃の弾が、ハルトの頭を直撃した。ハルトはふらつき、足がおぼつかなくなる。ヨネットはそれを見て、ハルトを投げ、近くの瓦礫にぶつけた。
「大丈夫か?ヨネット。」
ラリスが、戦場に立った。ハルトはふらつきながらも立ち上がる。弾が直撃したところは頭蓋骨が見えており、相当なダメージが入ったことがわかる。
(マスケット銃……。ヴィルカシアで使われるものか。)
ハルトは回復させながら考える。
(この色持ち二人を相手か……。勝てないわけではないが、正直面倒だな……。)
ハルトはそう考えつつ、とりあえず持っていた槍を投げた。だが、
『
衝撃波で弾き、手前で落ちてしまった。ラリスが拾おうとしたが、ハルトが目の前にいたので、諦めた。
(速いな。4本の腕は二人でなんとかなるが、あの速さは面倒だな。まあ、適度に慣らしながらいくか。)
ラリスはハルトに近づき、ガントレットで殴る。ハルトはそれを受け止めるが、ヨネットがその隙に割り込んでくる。ヨネットは折れたサーベルの先を、ハルトに振り下ろした。
『
ハルトは肩から腕を落とされる。
(超振動刃と同じ原理か。微振動を起こすことで原子レベルで切断している。ほぼ防御不可能!)
ハルトは下がり、一旦回復しようとしたが、今度はラリスの攻撃が腹に入る。入れ替わりにヨネットが次は攻撃を仕掛けてくる。ハルトはヨネットに腕をぶつけながら間合いをとるが、逆側からラリスが無理矢理ヨネットの方に押し込み、振動をぶつける。
「ドドドドドドドドドドドドドド‼︎‼︎」
ハルトは腕にあった槍を力任せに振る。ヨネットとラリスの腕や足を裂き、二人は離れた。
「フーッフーッ!」
ハルトは荒い息をしている。相当今さっきの連携攻撃が効いたのだろう。
「危なかったなぁ、もう少しで身体が削られてミンチになるところだっただろう?」
ラリスが言う。ハルトは傷を治し、二人を見る。
(ラリスはいいが問題はヨネットだな。思ったよりも厄介だ。)
ハルトは息を整えると、広範囲に斬撃を放つ。
『
乱れ打ちの斬撃が飛び交い、ラリス達を襲うが、
「紅蓮 蒼対 戦火の灯火」
『
火炎で相殺し、ハルトを狙う。
(出し惜しみはしねえ!はなっから全力だ!)
『爆炎解放
身体中から炎が燃え上がり、ラリスの身体が一瞬にして炎に包まれる。
(解放してきたか……。)
「面白い!温度を上げろ!生前葬だ‼︎」
ハルトは真っ向から受けるつもりのようだ。
「勝負上等ォ!」
ラリスはハルトに近づき、燃え上がる炎のガントレットをうなりをつけて殴りつける。炎が二人を包み込む。だが、
「その程度か?」
ハルトは普通に耐えていた。
「なっ——⁉︎」
その瞬間、ハルトの斬撃がラリスを遠くまで飛ばす。斬撃はラリスを追尾するように放たれ、ラリスは遠くの建物まで飛び、その建物は斬撃で跡形もなく切り刻まれた。
ハルトの熱耐性は、彼が魔王眼を開眼させるほど、強くなる。この状態ではニュートラルな“
(ま……まさか熱耐性があるとは……。)
建物の残骸が燃え上がり、中からラリスが出てくる。
「自分の皮膚を燃やしているのか。激痛が走っているだろう?」
ラリスの解放は、自身の皮膚を発火点以上に加熱し、燃やし続けることで炎を纏う、というものである。そのため、常時皮膚が燃えるような激痛に襲われる。また、彼は自分の皮膚が燃えると同時に再生させているため、魔力が尽きれば焼き尽くされ死ぬ可能性もある。それだけ危険だが、故に火力は高い——はずだったが、ハルトの熱耐性で全てがひっくり返った。
「……ヨネット。見た通りだ。やるぞ。」
「もちろん。」
ラリスがそう言うと、ヨネットは体当たりをしてくる。
『
皮膚を少し削る。そして、ラリスも狙う。ヨネットがしゃがむと、奥から炎が飛んでくる。
『
顔を包み込んだが、ハルトは皮膚が少し焼ける程度で済んでいる。だが、すかさずヨネットが衝撃を打ち込み、攻撃の隙を埋める。
『
竜の形の炎がハルトを襲う。ダメージは確かだが、それでもヨネットの方が効きが良い。ヨネットはラリスにハルトを投げると、ラリスはそれを受け取り、ハルトと体を密着させる。
『
巨大な火柱が二人を包み込み、辺りを焼き尽くす。だが、ハルトは全身の皮膚が焦げた程度で済んでいる。逆に反撃に移る。ハルトは膝蹴りをラリスに入れ、そのまま腕を捻ってボキボキと曲げると、そのままカバーに入ろうとしたヨネットに放った。
「悪くはない。だが、まだまだだな。」
そう言ってハルトは魔力を溜める。背後に黒い渦が出現した。
「二人まとめては難しいから、使わせてもらうよ。」
そうして、呼び出す。
『
黒い渦から大きなムカデが出現し、ヨネットに襲いかかる。だが、衝撃を打ち込むとすぐに死んで消えていく。
「なんてことな——」
だが、すぐに今度はその十倍以上のムカデがヨネットにかぶりつくように襲い掛かり、ヨネットは一瞬で隠れてしまった。
「ヨネット!」
「余所見、厳禁!」
ハルトはヨネットを心配するラリスに攻撃を仕掛けた。槍を上手く回し、グングニルの必中の技を使いながら、確実にダメージを与えていく。だが、ラリスもそれだけでは終わらない。
『
ガントレットが急に加熱され爆ぜ、ハルトを爆風が襲う。確かにダメージはあり、顔面が少し焼けていた。
(畳み掛ける——)
だが、渦から出たムカデがラリスの体を拘束する。拘束時間は1秒程度だが、このレベルになると1秒の拘束でも大きい。ラリスは逃げようとしたが、ハルトの斬撃が飛ぶ。
『十傷』
ラリスの後頭部を斬り裂き、ラリスは倒れた。
「これは僕の眷属達だよ。異聞天だけだと思った?なわけないでしょ。このムカデ、コスパが良くてね、単純な攻撃しかできないけど攻撃の幅が広いおかげで色々な使い方ができるんだよね。単純な物量で一気に潰したり拘束したり、俺の魔力で強化をすれば、君たちだって太刀打ち出来なくなる。」
ヨネットはなんとか凌いだが、体をかなり削られてしまった。グググ、となんとか立ち上がるが、正直かなりキツそうだ。
「もう終わりさ。あとは同じことを数回続ければ、君たちは落ちる。俺の勝ちさ。」
ハルトはそう言って再び構える。周りから大量のムカデが出現する。
「いくぞ?」
ハルトがそう言うと、ムカデが地を這うように移動してくる。ラリスはそれを焼き尽くし、次々と殺していくが、敵の攻撃が止まらない。その時、ムカデを貫通するように槍が飛んでくる。槍は確かにラリスの肩を捉え、ラリスの勢いが落ちる。その瞬間、
「ギチギチギチギチ……。」
ムカデがラリスを包み込み、体を貪り始める。
『
ムカデを爆発で払うと、今度はハルトが肘打ちをかました。ラリスがふらついた瞬間に、再び手元から放つ。
『姫蟲』
「コイツ!」
どっ、と溢れたムカデがラリスを突き飛ばし、近くの壁に叩きつけ、そのまま貪り食う。その時、背後から何かが飛んでくる。
『
だが、彼はそれを避けると、一瞬でヨネットに近づく。そして、ヨネットの顔面に斬撃を放つ。目が潰され、視界を失う。だが、勘でヨネットは動き、ハルトの腕を弾くと、下がった。
「ヨネット!下がれ!」
ラリスがいつの間にか立ち上がり、炎を構えている。
「いいだろう!最大火力でこいよ!」
ハルトも炎の矢をつがえる。ラリスは手の中に小さな火球を作る。
『
『
二つの炎がぶつかり合い、炎が相殺しあう。だが、
「ギャウッ!」
ハルトの方が火力が高かった。圧倒的な火力差があった。ラリスの炎は一瞬で押し切られ、ラリスに炎の矢が直撃する。
「ドゴオン……!」
ラリスはなんとか耐えていた。だが、もうほぼ動けないようだ。
「ラリス!まだいけるだろ⁉︎」
ヨネットはそう言ってハルトに攻撃を仕掛ける。だが、ハルトはそれを躱し反撃を打ち込もうとする。だが、その時、ヨネットが手を振ると、
「ババアン!」
マスケット銃がハルトの顔面を撃ち抜いた。
(やはり隠れていたか。ヴィルカシアの傭兵ども。)
近くの茂みに隠れている。そこからマスケットを撃っていたのだ。
(別にどうってことはないが、最悪攻撃を受け、そこからコンボを入れられることもある。もう体は馴染んだ。使うか。)
ハルトの右手に回転している黒い球体が出現した。それは彼の手元を離れると、瓦礫を飲み込みながら大きくなる。彼の指がその軌道を指し示し、一気に周りを巻き込みながら削っていく。
「ゴゴゴゴゴゴ……。」
一気に傭兵達が飲み込まれ、潰れるような音がした。瓦礫も一緒に巻き上がり、潰され消滅した。
(間違いない!今のは別の魔法!)
ヨネットは確信する。
(ついに使った……ヤツの本当の魔法!)
だが、詳しくはわからなかった。簡単に言うとすればブラックホールらしいが、それだけで判断するのは危険だとヨネットは判断した。
(使ってきたってことは追い詰めてるってことだけど……。)
ヨネットは周りを見渡す。伏せていた複数隊の傭兵が殺られたのは少し想定外だったようだ。
(こちらの戦力も追い込まれてるわ。ラリスももう少しで起きるでしょうけど、正直ジリ貧ね。)
ヨネットは冷静な判断で相手との間合いを取る。幸いにもハルトはこちらをそこまで気にしていない。
(今の技……間違いなく当たったら致命傷ね。潰される感じだったから、おそらく中心に向かって凄い力が働いているのかしら。範囲とスピードはあれが限界なのかしら?)
ハルトはゆっくりとこちらを見る。すると、
「ガンッ!」
ラリスがハルトをガントレットで殴ろうとするが、ハルトが槍で弾く。ラリスは明らかに再生が終わっておらず、体の至る所から流血している。
「チッ!」
ヨネットは少し予想外だったが、ラリスを見殺しには出来ず、ハルトに攻撃を仕掛ける。
「ラリス!完全に治しなさい!」
ヨネットはハルトの槍を掴んで引き留め、ラリスから引き剥がす。
「すまん。」
ラリスは流血を止めると、ハルトに攻撃を打ち込む。
「紅蓮 蒼対 戦火の灯火」
『
炎はハルトの耳を焼くが、彼にとってはかすり傷だ。
「まだやれるよね、ラリス!」
「もちろんだ!」
ヨネットが逆側から殴り、ハルトをよろめかせると、そこを突いてラリスのガントレットがささる。
「ドゴッ、ゴッ、ドゴゴ!」
ハルトはなんとか受け止めようとするが、振動のせいで動きが上手くできない。
(タイミングと位置がずらされる。受け止めたくても空振ってしまうな。)
ハルトは槍を伸ばすが、それより先にヨネットの肘打ちが顔面にささる。ハルトは再び吐血するが、先ほどの教訓を活かす。
(目潰しをしてくる可能性もある!だから……。)
「顔だ!」
ラリスの炎をまとったガントレットが、ハルトの頭を焼く。
「ぐっ……。」
ハルトは一瞬力が抜けた。ヨネット達がカクン、と落ちるようになる。
(体勢を変えて逃げるつもりか!だがな。)
「甘い!」
ラリスのガントレットがハルトの魔王眼めがけて振り下ろされた。ハルトは魔力で必死に防御する。だがその隙にヨネットが腰にパンチを入れる。そのまま拳を押し当てゴリゴリ削っていく。
「ドドドドドドドドドドドド!」
だが、その時だった。
「ザンッ!」
地面から棘のように尖った針状の土が飛び出て、ラリスとヨネットを貫いた。
「がっ……。」
ラリスはようやく気付いた。地面に落ちていた八卦炉の存在に。文字は“
(さっき体勢を低くした時に落としたのか……。気付かなかった……!)
ラリスとヨネットは針を抜き去ると、一旦距離をとった。だが、遠距離で攻撃する。
『
だが、八卦炉が光り、土壁がせり上がる。ハルトはその上に立ってこちらを見ている。
(土塁を出現させたりさっきみたいに土の棘を出せるのか……。思ったよりも厄介だな。ものによっちゃああの槍よりも強い場合がある。)
ラリスは息を整え、ハルトを見上げる。
(もう解放状態でいれる時間も少ない。)
「ヨネット。決めていいか?」
「わかったわ。いくわよ。」
二人の魔力がたぎる。
「こい。最強の人狼。」
ハルトが手招きすると、二人は同時に駆け出し、土塁を攻撃する。
(まずはそこから落とす!上を常に取られると面倒だからな!)
ラリスがガントレットで一撃で粉砕すると、ハルトは空中に跳び、逃げようとする。だが、
「十分、想定済みよ!」
ヨネットが土煙の中から出てきた。
(ここまで衝撃波で飛んできたのか。)
ハルトの腕を掴み、地面に落とす。地面にはラリスが待ち構えており、炎の力で攻撃する。
(この蓮撃に、全てを賭ける!)
ラリス最大の火力技。近距離で自分もろとも焼き尽くす!
『
炎が風によって巻き上がり、天空まで火柱が立ち上る。まさに天の一撃。
「ジュワアアアアア……。」
ハルトの皮膚が焼ける音がした。ラリスもそれなりにダメージを喰らったが、ラリスは動けた。
(皮膚はできる限り削った。あとは頼んだ、ヨネット……!)
(絶対にここで決める。今の一撃はどれだけ炎に耐性があっても耐えられないわ。その弱ったところを確実に!潰してやる‼︎)
ヨネットは溜めに溜めた魔力を一気に解き放つ。これを撃てば解放状態は強制的に終わる。でも!それほどの価値のある技だ。
『
持っていたサーベルの折れた先を、そのままハルトにぶつけた。凄まじい衝撃波が付近を吹き飛ばし、地面にいくつものひび割れが走ったかと思うと、クレーター状に吹き飛び、衝撃が斬撃を生み、周りを破壊しまくった。土煙が次々と立ち上り、日光を遮った。
「やったか⁉︎」
ラリスは前のめりになって注視する。だが、
「!」
ハルトの手が上がり、手を銃の形にする。すると先に、虹色の光を放つ球体ができていった。
「まだ生きてる!でも今なら……。」
日光が差し込んだ。3人を映し出す。世界が止まったかのようだった。
『
気づけばラリスとヨネットの腹は、彼の生み出した球体によって貫かれ、吹き飛んでいた。
(なん……で……。)
二人はそのまま立ったまま硬直した。ハルトにあれだけの攻撃を撃ち込んだのに、彼は余裕の表情で生きていた。しかも、直撃を免れたように傷が全くない。
「結局……
ヨネットはそう言った。
「別に敗けたわけじゃないさ。俺にこの技を使わせたんだ。功績としては、十分過ぎると思うぞ。」
「はっ……勝てなきゃ意味ねえだろ。」
ラリスとヨネットはその言葉と共に力なく倒れた。ハルトはその
「いつまで休憩してんだ、シオン!」
その言葉と共に人間達が一斉に襲いかかってくる。遂に最終決戦のようだ。
(もうあとはない!残りは全力で!)
(確実に息の根を止めてやる!)
(ここが、最終決戦だ!)
ハルトは全員の顔を見ながら言う。
「一体オマエらに何ができる?」
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