第29話 死の唄 〜転調〜

第二十九話 死の唄 〜転調〜

 

 

 彼の本当の姿。それは生来の肉体であり、本来の姿。それを隠し、今まで戦っていたのだ。

 彼の手は四本に増え、腹部には巨大な眼球が現れた。だが、その眼球はネコのように瞳孔が縦長であり、虹色の瞳だった。

(……魔力が回復している……。)

 彼が姿を戻してから、彼から立ち昇る魔力の量は少しずつ増えている。

(おそらく魔力の上限のリミッターを解除したんだろう。でもそれでも今までの削りが全部ムダだったと思うと嫌になるなぁ。)

 シオンはそう思い、頭をかく。すると、その時気付いた。側にいた異聞天にも、同じように腹部に巨大な眼球が出現している。

(どうして魔王眼がアイツにも⁉︎ていうかそれはめっちゃ困るんだけど。)

「単純な話だ。眷属というのはかなり縛りに近くてな。見返りが必要なのだ。そのため俺は、“魔王眼を使用する時、眷属にも魔王眼の使用を許可する”という条件で眷属化した。」

「だからアイツにもついたのか……。」

 シオンが納得していると、彼は虚空こくうから正八角形の物体を取り出す。真ん中には“五行”の文字が。

 彼はそれを掲げると、キイイン……、という音がした。咄嗟にまほなは防御魔法を展開する。

「ドドオオオオン‼︎」

 物体から圧縮された高エネルギーレーザーが照射され、辺りを焼き払った。

「な、なんちゅう威力だ……。」

「ハアッ、ハアッ。」

 まほなは息を乱している。

(出力が高すぎる!あの一撃をポンポン連射されたら対処が追いつかない!一発で手一杯なのに……。)

 強い出力の魔法に対しては、強い出力の防御魔法が必要となる。そのため一発を止めるだけに、かなりの魔力を消費してしまうのだ。

「実に良い一撃だろう?これを自己で補完してくれるのだからな。これ以上に良いことはない。」

 さらにこのレーザーはこの魔法道具マジックアイテム自体の魔力を消費する事で撃つことが可能であるため、全くのデメリットが存在しない。撃つ前と撃った後に多少の時間が必要だが、それ以上のコスパの良さ。それがこの武器の一番良いところだ。

「いくぞ。」

 彼は瞬時に移動し、シオンたちのところまで来る。ユーリの剣とアキラのナイフが交錯するが、彼は二本の腕でそれらを受け止めると、持っていた剣を一振り。当たらなかったものの、厄介さは充分解った。

(攻撃を受け止めながら残りの手で攻撃ができる。武器を二本持ってもなお両手が余る。近接戦闘においてこれ以上に大きいアドバンテージとなっているな。)

 彼は魔王眼による圧倒的な魔力量と魔力効率。四本の腕による無敵の近接格闘能力。多彩で強力な眷属。極限まで研磨された魔法。そして、全てを焼き尽くす八卦炉はっけろ、なんでも斬り裂く魔剣、ジークソウルブレイド。これらを用い、ほぼ単騎で魔人大乱に勝利し、全土掌握を成し遂げた。まさに生まれながらの、最凶最強

 彼は剣を出し入れしながら戦っている。さらに八卦炉も消えている。

(あの武器は不完全顕現なのか……。だったらまだどうにか……、いや。)

 シオンは思考を巡らせる。

(その分自由に動ける腕が増えるからな。さらに途中で武器を出されたりしたら反応できない……。)

 ハルトは異聞天の方を向いて話しかける。

「異聞天。」

 そうして彼は指を横に振る。

『一傷』

 異聞天の体に一文字に斬撃が入る。

「は?」

 あまりの突然の奇行に一同は声を失った。彼らが見ている間も彼は斬撃を入れ続ける。

『一傷』

 ザンッ、ザンッ、と次々に斬撃が体に入る。痛そうな様子ではあるが、避ける気概はなさそうだ。

『一傷』

 さらに一撃。すると。

『一傷』

「キンッ……。」

 斬撃が体に入らなくなった。硬くなったのか?彼はそれを見届けると、

「よし。ではゆくぞ。」

 そう言って異聞天と共に向き直る。

「俺がコイツらを始末する。オマエは……解ってるよな?」

 そうハルトが言うと、異聞天は高々とジャンプし、シオン達の頭上を越えていく。

(しまった!)

 彼の意図が理解できた。

(異聞天で魔法使いたちを全滅させるつもりか!)

 異聞天は持ち前のスピードを活かしてどんどん離れていっている。

「待て……。」

 そう言って追いかけようとした時だ。

「ボグッ。」

 ハルトの拳が突き刺さる。

(速い!さらに精度も……。)

 そして思い切り殴ると、そのまま地面に殴りつける。

「ユ、ユーリ!行け!」

 なんとか殴られながらもそう伝え、ユーリはその言葉の意味を瞬時に理解した。そして異聞天の後を追う。

「やらせねえからな。」

 シオンの執念の瞳が、彼を睨みつけた。

 

 

 異聞天はすごいスピードで魔法使いたちに接近していた。そしてその後をユーリが追いかける。が、

(速え!追いつけねえ!)

 全く距離が縮まらない。逆に離されていく。

(このままじゃマズい!)

 そう思った時だ。

「ドドドッ。」

 異聞天の体に側面から紫色の弾丸が飛んできて命中する。

「ヴァルプ様!命中したよ!」

 チガネがそう言うと、

「次弾装填!どんどん撃ち込んでやるよ。」

 ヴァルプが次の弾を装填し、発射した。

「ドドドッ!」

 脇腹に魔弾が次々と突き刺さり、異聞天は出血する。

(合わせる!)

『天下無双流 瞬天!』

 だが、

「キイン!」

 体が硬すぎて、鈍い音を返した。

った!なんで喰らわないんだよ。)

 そして、剣を振り終わる瞬間に、異聞天の裏拳がユーリを打ち付ける。すると、

『ボルファイザー』

 噴き上がった炎が異聞天を包み込む。魔法使いたちが魔法を結集して放っていたのだ。

「すごい火力だ……。これなら……。」

 だが、炎の中から異聞天が飛び出してくる。だが、さらに魔法使いたちは杖を振り、

『ボルファイザー』

 結集した魔法を放つ。その炎は異聞天を再び包んだ。

「二回か……。これで……。」

 しかし、意外な方法でこれを防いでいた。

「——!」

『防御魔法』

 異聞天は自分の体を覆うように防御魔法を展開していた。

(今のを防ぐ出力って……相当だな。)

 その時全員気付いた。異聞天の周りに本が二冊、惑星の回るように回っていることに。

(さっきまでなかったよな、アレ。つまり……少しずつ本気を出してきたってわけか!)

 すると左側にあった本が輝くと、

『ボルファイザー』

 異聞天も同種の魔法を使ってきた。しかもさっき異聞天に向けて放ったものと同じぐらいの火力のものを。

「マジ⁉︎」

 放った炎は瞬く間に辺りを焼き尽くした。かろうじて魔法防御で防いだためダメージはなかったが、最悪直撃すれば即死だろう。そのレベルのボルファイザー。

「バケモンじゃねえかオマエ!」

 ユーリが背後から攻撃を仕掛ける。異聞天はそれにいち早く気付き、振り向くが、その瞬間にユーリの蹴りが、異聞天の頭を捉えた。

(よし!この体勢なら入る!)

『天下無双流 雷槍一天らいそういってん!』

 思い切り剣を振り下ろす。スピードは今までのどの技よりも速い。

「ガキイン!」

 異聞天の腕についた剣が飛び出し、剣を受け止める。

(その剣、いつでも取り出せるのかよ。)

 そう思いつつも、剣をさらに振り下ろそうとする。すると、

「シャキン。」

 剣が直り、ユーリは地面を斬りつけてしまった。“さっきやられたように”。異聞天は再び剣を出し、ユーリめがけて振り下ろす。

「ドドドッ。」

 その時再び魔弾が側面から命中し、異聞天が体勢を崩した。それを見届けると同時にユーリも剣を横薙ぎする。

『天下無双流 屠薙ほふりなぎ‼︎』

 異聞天の左足が、切断された。

(よし!まずは一撃!)

 だが、流石は天下の大魔族。切断面が斬られた足に吸い付くように再生し、ほぼ1秒経たずに再生した。

(この流れだ!この流れを繰り返せば……。)

 そうしてユーリは再び剣を構える。

(必ずほふれる……!)

 異聞天の魔王眼が、こちらを見つめて不気味に笑った。

 

 

「ドドオオン!」

 一方のシオン達の方は、苦戦が続いていた。

「まだまだだぞ。早くこっちに来い。」

 ハルトは顕現させた八卦炉から何度も高火力レーザーを放ち続け、一方的に攻撃していた。

「それにしてもよく避けるなぁ。少し火力を上げてみるか?」

 すると彼は手を前に突き出し八卦炉を空中に固定する。すると八卦炉の周りに魔法陣が出現する。

(アレがくる!)

「ドドドドドオオオオンン‼︎‼︎‼︎」

 シオン達を狙い、極太レーザーが照射される。荒野にレーザーの痕がついた。

「ジュワアアアアア……。」

 地面が焼けただれるほどの熱量。マトモに喰らえば即死なのは馬鹿だってわかる。

「マジで何なんだよ、その武器は。今まで見てきた魔法道具マジックアイテムの中で一番キモいんだけど。」

「まあ最大火力で山一つ焼き払えるからな。」

 八卦炉の最大火力は山を削り、地形を変えるほどだ。彼はまだその力を完全権限ではないため使えないが、それができる時は……来るのかな。

「遠距離武器は限られてるし……。仕方ない、早いけど出番だよ。」

 そう言ってシオンは強襲の仮面を被る。

「上げてくぞ、オマエら。ついてこい!」

 そう言ってシオンがハルトに近づく。

(先刻よりも動きが速くなった。この仮面のせいだろうな。)

 そう考えつつもシオンの攻撃に対応する。シオンの拳がことごとく受け止められる。

「見えているぞ、全てな。」

 彼はシオンの腕を掴むと、瞬時に腕に斬撃を入れる。

(俺の腕を切断するつもりか!)

 近距離のため放てる斬撃はたかが知れてるが、腕を落とすのには十分だ。

「腕が斬れるぞ。」

 ハルトがそう言うも、彼は逃げれない。異常な力で握っているからだ。

 その時、アキラが背後から狙う。それを察知していたハルトは腕を背後に回す。そして、



「断罪 処刑 魔門の開」

 

 

『十傷』

 範囲の広い斬撃が思い切りアキラに命中する。魔力防御で致命傷にならずに済んだが、彼に入ったダメージはすぐには回復できない。

「オマエらも終わりだ。」

 その時だ。

「ドンッ!」

 ハルトに衝撃がぶつかり、彼が弾き飛ばされる。

(ラリスか?いや、今の魔法……。)

「残念だが、コイツらは殺させねえよ。」

 そう言ってたちはだかったのはオルランドだ。

「オ、オルランド……。」

「シオン、いい。オマエは回復しろ。治癒の仮面はあるだろ。」

 オルランドがそう言って、シオンはその指示に従うことにした。それを確認すると、ハルトの方を見た。ハルトはニヤニヤと笑っている。

「いいのか?孤軍奮闘だぞ。」

 そう言って彼は八卦炉を取り出す。

「いい。というかオマエを殺すのは俺でありたい。」

「何のつもりかは——」

「グラス。」

 オルランドの口にした名前を聞くと、彼はばつが悪そうな顔をした。

「やはりオマエか!俺の“兄”を殺したのは!」

 オルランドは激昂し、今までにない怒りを見せている。

「ああ、俺が殺した。」

 ハルトは隠すことなく、冷ややかに話した。

「思いのほか弱かったな、アイツは。実にくだらんやつだった。」

 ハルトは殺人鬼のように淡々と述べる。

「オマエだけは……必ず殺す!」

 オルランドはそう言うとハルトの近くに近づく。ハルトはカウンターを狙い、拳を突き出す。だが、

「バキイイイン!」

 その拳に強烈な衝撃が発生し、ハルトを吹き飛ばした。

(今のは……打撃じゃないな。おそらく……。)

「空間を歪ませる魔法か。」

「!それに関しては流石だな。そう俺の魔法の名は歪曲ドヴォルザーク。言った通り、空間を歪ませる魔法だよ。」

 オルランドは再び彼に近づく。ハルトは剣を出現させ、直撃を防ごうとする。

(さっきまでの衝撃はおそらく歪曲による歪みをバーストさせているのだろう。空間ごとだから防御が出来ないなら、極力直撃を防ぐしかない。)

 そして剣をオルランドは握り、歪曲させる。そのエネルギーを、放射する。

破曲ヴィヴァーチェ!』

「ドンッ!」

 凄まじい衝撃が、彼を襲った。

「なるほど……。」

 彼は顔面が半分削れた状態で立っていた。眼球の神経が少し見えている。

(ダメージは意外と高いな。少しは抑えられると思ったんだが。)

 意外なダメージ量に彼は頭をかく。

(空間が歪むなら最悪斬撃も弾かれるな。魔法の拡張しだいでもあるが……。)

 彼は八卦炉を出現させ、エネルギーを溜める。そして、

「ドドオン!」

 レーザーを発射する。だが、レーザーの軌道は、グイイイ……と曲がり、ハルトに戻ってきた。

「バガアン!」

 レーザーの直撃を喰らったハルトは片腕が飛んでいた。だが、今ので気付いたことがある。

(さっきの衝撃……アレに違和感を感じてたんだ。だが今それが解った気がする。)

 そうやって彼はしゃべる。

「オマエ……嘘ついたろ。」

「!」

「図星か。」

 片腕を再生させながら続ける。

「さっきのレーザー……あれで少し解明しようと考えたんだ。確かに空間を曲げるなら、ああいうことも可能だ。だがな、その前に受けた数回の打撃。アレだけは変な感じだった。」

 彼は剣で拳を受け止めていたにも関わらず、体ごとダメージを喰らったのだ。空間を操るならばそんなことは出来ない。

「何か裏があると思ってな。さっきのレーザーはそのためだ。」

「で?何が解ったんだ?」

「オマエの魔法……ドヴォルザークとかいったか?それ、“空間”じゃなくて“もの”を歪ませる魔法だろ。」

「!」

「クックッ、レーザーをつかんで軌道を変えるとは、随分と大胆なことをやってくれるじゃないか。」

 さっきのレーザーは、オルランドが間接的じゃなく、直接掴んでいたため、空間が歪んでいたのではなかったのだ。さらに……。

「さっきの打撃も、腕を歪曲させてそのエネルギーを炸裂させてたんだろう?随分と応用範囲が広いじゃないか。」

「……。」

(もうバレたか。バレたなら仕方ない。こうなったら……。)

 そう考えると、オルランドは地面を握る。そのまま引っ張り、地面を歪ませる。そして、

歪曲衝撃インパクト‼︎』

 歪んだ地面をそのまま弾き、波を発生させ、ハルトを吹き飛ばした。

「地面を歪ませ、それによって生まれる衝撃を放ってきたか……。だが、この程度で止まると思うなよ。」

 ハルトは地面に着地すると、すぐに逆に近づいてきた。

(コイツの弱点は近距離戦!弾かれようとも何度も近づいて致命傷を与えてやる!)

 ハルトはそのまま近づき、剣を振る。だが、剣を歪めて避けてくる。

「応用範囲が広いな。」

「自分の心配をしたらどうだい?」

 そう言った瞬間、歪んだ剣がそのまま戻り、その歪みのエネルギーが放射される。

破曲ヴィヴァーチェ‼︎』

 彼は弾かれ、宙を舞う。そしてその隙にナイフを投げる。だが、

「甘いんだよ。」

 彼は宙を蹴り、それを避ける。そして、

『一傷』

 斬撃の雨が降り注ぐ。

「たとえ斬撃だろうと!私の魔法の前には意味をなさない!」

 そう言うと、地面を歪ませ、自分を覆うように被る。斬撃はそれに当たるが、全くもって傷がつかない。

(なるほど……。歪んだことによるエラーで歪んだものには干渉出来ないのか。歪んだものにはダメージを与えられないと踏んで攻撃を仕掛けるしかないな。)

歪曲衝撃インパクト‼︎』

 着地の瞬間に歪みのエネルギーが彼を吹き飛ばす。そして、転んだ時に、オルランドは近づき、攻撃を仕掛ける。ハルトは近づいてくるオルランドをすでに把握していた。だが、反応は遅れる。

破曲ヴィヴァーチェ!』

 腹に衝撃を打ち込む。

「グハッ……。」

 流石にダメージが入ったようで、吐血する。そのまま拳を腹に押し込む。

(このまま心臓を潰す!最低でも魔王眼を削る!)

 魔王眼の中心に拳を押し込む。次は本気だ。

破曲ヴィヴァーチェ‼︎』

 凄まじい衝撃により地面が陥没する。だが、

「この程度か?」

 2発目の方が威力は高いはずなのに何故か余裕そうだ。

「チッ。」

 オルランドは部が悪いと判断し、一旦下がった。ハルトもゆっくりと立ち上がる。

「充分だ。もういいぞ。」

 ハルトはそう言って手を振る。

「何がだ。」

「充分わかったって言ってんだよ。実力は把握できた。これ以上もこれ以下ではないよ。」

 そう言うと、彼は背を向ける。

「逃すかよ!」

 オルランドは逃すまいと攻撃を仕掛けてくる。だが、

「だからな……だからくだらんのだ。」

 ハルトは背後に斬撃を放った。

「別にどうだっていい。俺もそろそろ合流したいんでな。オマエだけはフっておかなければな。」

 斬撃をもろに浴びたオルランドは傷口を押さえる。だが、すぐに立ち上がると、ハルトに近づく。

「馬鹿が、じゃあ死ね!」

 彼は振り向き、オルランドと向かい合う。先に技を当てたのは——

破曲ヴィヴァーチェ‼︎』

 魔王眼に向けて1発。だが、ダメージはないようだった。

(当たる場所を察知されて直前に魔力を集中させられた⁉︎そんなバカな……。)

「オマエが魔王眼を狙うのは判っていた。だから直前に魔力を厚く覆った。予想通りだったな。」

 彼の右手が斬撃の方向を指定しようとしていた時、何かが飛んできた。

「グサッ……。」

「ザンッ!」

 ナイフが突き刺さり、腕が飛んだ。

(魔法の暴発⁉︎)

「残念だがな、やらせねえよ。」

 シオンたちがいつのまにか戻ってきていた。オルランドは一度距離を取り、回復する。彼は腕を瞬く間に再生させると、不機嫌そうな顔でこちらを見る。

「どうした?何か不満がお有りのようで。」

 シオンが煽るように言うと、

「少々手荒だが、許せよ。」

 そう言うと、背中から大量の触手が出現する。触手は脊椎のように骨が連なったような造りになっており、当たるとかなり痛そうだ。そして、肝心の本体は移動を始めた。

「逃げんなあ!」

 シオン達が追おうとするも、大量の触手がそれを邪魔してくる。

(この触手、全部に魔力がある!お陰で……。)

 アキラが戦鎚で触手を叩くも、ガキイン、と鈍い音を出す。

「硬え!」

 その触手は異常な硬度を持っていた。スピードもさながら、攻撃力だって馬鹿にはできん。

(このままじゃマズいぞ……。)

 異聞天との接触まで残り時間は、少ない。

 

 

 一方少し戻り、ユーリ達魔法使いの一派も苦戦を強いられていた。さっきから魔法を連続して撃っているが、全て防御魔法で防がれる。まるでフルオートでミサイルを落としているようだ。

『天下無双流 断天……』

 だが、それすら打つ前に弾かれる。

(どんどん戦いに順応していってる。このままじゃジリ貧で負ける……。)

 すると、異聞天の右側の本が輝くと、異聞天が今度は攻撃を仕掛けてきた。そして、ユーリに剣を当てる。ユーリはその剣を受け止めたが、あることに気付いた。

(魔力が剣に載っている!)

 そのままユーリは剣ごと吹っ飛ばされたが、かろうじて受け身をとる。

(いったいどうなってる?さっきまで出来なかったことができるようになっていくじゃないか。実際に俺の剣技を全て先読みして攻撃を打ってきやがる。)

 すると、異聞天は大きく息を吸った。そして、

「ブオオン‼︎」

 咆哮とともに大きく吐き出し、ユーリを彼方まで吹っ飛ばした。異聞天は邪魔者がいなくなったのを確認すると、魔法使い達に駆け寄る。そして剣を振り下ろした。

「ガン!」

 魔法防御によって剣は受け止められた。しかしこれだけでは止まらない。

「ガガガガガガガガガガガ‼︎‼︎‼︎」

 幾度も剣をぶつけ、激しい音を出す。

「意味のないことを。」

 カウンターとばかりに魔法を打ち込む。

『リーニングシャイン!』

 異聞天に命中し、異聞天はよろめいた。しかし、異聞天には心底どうでもよかった。なぜなら、もう彼は止めれないのだから。

『イッtジョウ』

 その瞬間、ひとりの魔法使いの腕が飛んだ。

(今のは……斬撃⁉︎)

 異聞天が斬撃を飛ばしたのだ。ハルトと同じ、一傷だ。

「何故⁉︎何故その技を⁉︎」

 突然のことに驚いていると、異聞天はさらに腕を振った。すると、

「ザンッ!」

 確かに斬撃が飛んできた。斬撃は直撃ではなかったものの、威力だけではハルトと並ぶような気がした。

(このままじゃ……。)

 そう思った時だ。

『天下無双流 雷槍一天‼︎』

 異聞天の背後に剣撃を叩き込む。しかし、背面についていた本がそれを挟んで受け止める。

(この本……なんだ⁉︎破壊できない!)

 そのまま異聞天は体をひねり、ユーリを吹っ飛ばした。

「クソッ、どうなってる。」

「ユーリ!」

 まほなが言う。

「コイツは多分喰らった技を使えるのよ!さっきアイツの斬撃を放ってきたわ。」

「その為の……!」

 先程彼が斬撃を異聞天に当て続けた理由。それはこれだったのだ。

「……やってくれんじゃねえか。」

 異聞天はこちらを見ると、不敵な笑みを浮かべた。ユーリは近づき、ふところに入る。

「ガン!」

 異聞天の剣とユーリの剣がぶつかり合う。

(パワー勝負では勝てない!なら……。)

 ユーリは途中で蹴りを入れ、無理矢理体勢を崩した。

(今だ!)

『天下無双流 鬼門きもん逢魔おうまとき

 異聞天に連続斬りを入れる。それは確かに異聞天の意表を突いたようで、異聞天の身体に傷をつけた。ユーリはそのままの勢いで攻撃を続ける。

『天下無双流 戦鎚!』

 現れた魔王眼を狙って斬る。だが、硬く、全く削れなかった。

「ボンッ!」

 ユーリはまた吹き飛ばされた。

(あの咆哮!すごい風圧で一瞬でぶっ飛ばされる!今回は低弾道で飛んだけど、上に飛ばされると本当にマズい!)

 ユーリはそのまま地面を転がりながら吹っ飛んでいった。異聞天はここぞとばかりに魔法使い達に攻撃を仕掛ける。斬撃を放つのではなく、やはり剣での攻撃に徹している。

「キンキン!」

 防御魔法で攻撃は防げるが、このままではジリ貧で押し負ける。なんとかして状況を打破する必要がある。

(カウンターで……。)

 剣をずっと受け止めていた魔法使いがそうしようとした瞬間、

『『ボルファイザー‼︎』』

 両方ともに炎を放った。

(合わせられた⁉︎マズい!)

 異聞天の方が火力が高く、一瞬で押し負け、その魔法使いは消し炭になった。

「凄まじいな。」

 一瞬の駆け引きで勝利を掴んでくる。その賢さは1番の厄介なところだと思った。異聞天は再び技を放つ。

『リーニングシャイン!』

 光のレーザーが飛んでいき、地面をえぐった。

「!」

(やっぱり……技をコピーしてくる!)

 喰らった技を自動的に分析して、おそらく攻撃してくるのだろう。

(確かにこれは厄介ね。これこそが七大魔獣としての能力……!)

 すると、異聞天が構えをとる。

「全員!魔法防御を展開して!」

『イッショウ!』

 ズバアン!と地面ごと斬撃で削り、辺り一面を吹き飛ばす。

(単なる斬撃じゃない……。ものすごい出力を瞬時に出してる!パフォーマンスでいけばハルトに並ぶ……。)

 それを受け止められるのを見ると、異聞天は再び剣を振り下ろす。

「いくら攻撃しようとも!防御魔法さえ有れば……。」

 そう言った時だった。

「バリイン……!」

 防御魔法が粉々に砕け散った。

「バカな……どうして⁉︎」

 その言葉と共に、異聞天の剣が一薙ひとなぎし、魔法使いの体を両断した。

(防御魔法を貫通させてきた⁉︎でもいったいどうやって⁉︎)

 ユーリも戻ってきてその状況を見ていた。

(そんなこともできるのかよ!マジで異常じゃん!)

 すると、異聞天の背中の本がペラリとめくられたのが見えた。

(そういえばあの本、あれはなんなんだ?)ユーリが背後に回り込み、見てみると、そこには文字が書き込まれていっていた。ペンもないのに一人でに。

(情報か何かを書き込んでんのか?一体なんの……。)

 その瞬間閃いた気がした。でもすぐに否定する。そんなことをできるはずがない。すると、

 

 

「断罪 処刑 魔門の開」

 

 

『一傷!』

 斬撃が飛んできて、異聞天とユーリを引き剥がす。

(合流された!)

 ユーリはハルトと向かい合う。触手は依然伸びている。

「能力は……学習か?」

 ユーリがハルトに言う。

「何のことだ?」

「異聞天の能力のことだ。」

 ハルトは少し黙っていたが、やがて口を開き、

「ご名答だ。異聞天には三つの無限が盛り込まれている。」

 彼は触手を伸ばしながら言う。

「無限の知識、無限の学習能力、無限の進化だ。」

 異聞天の脳内のデーターベースはとても広く、一度憶えたことは二度と忘れない。さらに研磨された学習能力によって、あった知識に結びつけて、見た、体験した事象をすぐに学習して解析を始める。そして最後に解析によって見つけた穴を突くように体組織や攻撃法を変化させ、最終的に事象に完全に進化を遂げる。

「まあ一言で言えば一回見た、喰らった攻撃は二度と効かなくなるってことだ。」

 ハルトはそう言うと、異聞天を見て、

「よくやった異聞天。十分だ。」

 するとハルトは魔法使いに近づく。攻撃を防ぐために防御魔法を出すが、

「ムダだ。」

 その言葉とともに防御魔法はバラバラに砕けた。

『一傷』

 掴んだ拳を広げ、内側にあった魔法を放つ。

「どうして……どうして破壊できる⁉︎できるのは異聞天のみだぞ!しかも今やっと解明できたんだ!」

「残念ながら異聞天と俺は魔王眼を通して繋がっている。つまり異聞天が得たものは俺のものでもあるんだ。」

「?」

「つまり、進化したのをそのまま使えるってことだ。」

「やべえなぁ、そりゃあ。」

 触手を大体斬り払ったシオン達がくる。さっきの話が聴こえていたようだ。

「チッ、追いつきやがったか。」

 ハルトは不愉快そうに言う。触手はすでに消えており、少しの間は出せないはずである。この状態で多勢を相手にするのは部が少々……

「いや、良い。」

 そう言うと前とは違う詠唱を始めた。

 

 

「転生 地獄 鬼畜の所業」

 

 

「離れろ!あの技はマズい!」

『万傷』

 各所に斬撃が飛び交い、辺り一面を斬り裂く。

 万傷。指定した範囲に一万の斬撃を浴びせる。範囲が広いほど斬撃の密度は下がるが命中率は高くなる。逆に範囲を狭めれば斬撃の密度は上がる。

「〜っ!」

 今回のはそんなに斬撃は広範囲ではなかった。だが、それでも威力は高い。

「これ以上させるかよ!」

 オルランドが前に出て、ハルト達と向かい合う。

「異聞天。」

 ハルトは異聞天とスイッチすると、ハルトは魔法使いを狙う。オルランドはそのまま魔法で異聞天をぶっ飛ばそうとする。だが、

「オルランド!コイツは魔法をコピーしてくるわ!打ってはダメ!」

「何っ⁉︎」

 だが、それで判断が遅れた一瞬の隙を、見逃すほど異聞天は甘くない。

『ボルファイザー』

 左側の本が輝き、炎が出現した。

「クッ。」

 避けるために仕方なく魔法で炎の軌道を変えた。ハルトは相変わらず魔法使い達に遠慮無く斬撃を浴びせる。

「バガガガガガガガガガガガガガガガガガ!」

 防御魔法で防ぐが、魔力が切れたらこの斬撃の雨が降り注ぐと考えると恐ろしい。

『スターフラッシュ!』

 強烈な光でハルトの目をくらます。だが、

「残念だったな。」

 ハルトは八卦炉を構えていた。

「ドウッ。」

 エネルギーが放射され、一気に吹き飛ばされた。

「殺せたのは3人程度か。まだまだだな。」

 すると、異聞天が飛んでくる。ハルトは振り向いた。

(……確かにあの四人とらせるのは確かに相性が悪いな。)

 そう決断すると、元通り異聞天に魔法使い達を任せる。すると、

『ジャスティススター』

 聖なる魔法が飛んでくる。異聞天とハルトに命中するも、少ししか削れなかった。

(これで聖なる魔法にも適応できるな。これで聖なる魔法も怖くない。)

「くっ、ごめんなさい!外した!」

 まほなが謝るが、

「当たったから良い!畳み掛けるぞ。」

 全員で畳み掛ける。

「異聞天、全力でいくぞ。」

 すると、

「バガン!」

 地面から大量の触手が飛び出し、地表ごと空中に飛ばした。

(地面ごと吹っ飛ばせんのか!応用範囲は一傷いっしょう以上!)

 空中で触手が狙ってくる。

「ビビッ。」

 小さい凹凸が体を削る。だが、そこまでのダメージはなかった。それを見てハルトは、触手を変えた。触手の連結部分、そこを開くと、そこから大量の弾幕を放つ。

「ドドドドドドドドドドドドドドド……。」

 辺りを爆撃しまくり、シオン達が攻める隙を与えない。

(でもこれなら異聞天も動けないはず……。)

 そう思ったユーリの目の前に異聞天が拳を振り上げていた。

「残念だが、異聞天はすでにこの弾幕に適応済みだ。」

「ドゴン!」

 振り下ろした拳がユーリを地面に叩きつけた。アキラは弾幕の隙を掻い潜りハルトと対峙する。ハルトは八卦炉を構え、アキラはナイフを投げる。先に攻撃したのは——

「バキッ。」

 ハルトの触手だった。触手を鞭のように振り回し、アキラを打ちのめす。シオンがさらにそれを掻い潜って攻撃しようとする。だが、

「ドドオン!」

 今度は構えた八卦炉が火を噴いた。だが、

「オルランド!」

 オルランドは魔法でその軌道を変え、異聞天にぶつけた。だが、異聞天にはそこまでダメージはなかった。

(くそッ、これも適応済みか!)

 オルランドは悔しさを晴らすためにハルトに魔法をお見舞いする。

破曲ヴィヴァーチェ!』

 だが、それも読まれており、カウンターを受ける。

「ぐっ……。」

 すると、ハルトは遠くで魔力を溜めている者がいることに気付いた。

(またアイツか。)

 まほなが魔力を溜めている。

(異聞天で受けてカウンターで仕留める。)

 何の技が飛んでくるかの判断は正しかった。だが、放たれた瞬間気づいた。

「異聞天!」

 そう言うもすでに遅く、異聞天の腹に聖なる魔法が命中し、異聞天の魔王眼は一瞬で吹き飛んだ。

(しまった……。異聞天がこれは適応できないイレギュラーな魔法だった!)

 異聞天の適応には範囲がある。何故範囲を設けているかというと、ハルトの支配範囲から外れないためである。体組織を変更するということは魔族ではなくなることに等しい。その場合、眷属としての立場があやふやになり、支配範囲から逸脱する可能性があったのだ。そのため異聞天は、“魔族である範囲”での適応を可能としていた。

 聖なる魔法に対しての異聞天の対応法は魔族という殻を捨て、別の何かになることだった。だがそれは、彼の誓約によって不可能となり、適応出来なかった。

「異聞天……。」

 異聞天は少しずつ身体が崩れていった。彼にとっては忘れ形見とも言えるものだ。それを今、目の前で自分のせいで失った。

「ズズズズ……。」

 ハルトの魔力の出力ギアが上がる。

「殺す。」

 そうシオン達を睨みつけた時だった。

「なっ⁉︎」

 顔を上げると彼は雲の上にいた。

(これは……転送魔法か!)

「しゃらくさい!」

 ハルトは凄いスピードで自由落下していく。雲を抜けると、下には街並みが見えた。王都とは違う街並みが。ハルトは落下の瞬間に八卦炉を下に向けて撃ち、その反動で着地した。

「ここは……。」

 見慣れない街並みに彼が戸惑っている時だった。

「ドドドドドド!」

 鳥が飛んできてハルトに当たった瞬間、全て爆ぜた。ダメージはそこまでだが、数の多さで皮膚が焼ける。それを再生させながら思考を巡らせる。

(よくできた魔法だな。今のは全て式神か?それにしても俺を遠くにまで飛ばしたようだが一体何の——)

 そう考えている時、地面が盛り上がり、ハルトを宙に浮かした。そして、さっきの鳥が飛んでくる。

『一傷』

 飛来する鳥を落としながら敵を探る。魔王眼が全てを見通す。

「そこか……。」

 奥にある大きな建物。そこから一際大きい魔力を見つけた。

傷千しょうせん!』

 斬撃を束にし、旋風となって飛んでいき、その建物を粉々に破壊した。ガラガラ、と崩れる建物に彼は近づく。すると、

「ビッ。」

 崩れた建物から一筋の光が飛び出す。彼は咄嗟にそれを躱し、建物を見つめる。

「わかっているぞ。生きていることぐらい。」

 だが何も応答はない。

「なら、仕方がないな?」

 そう言ってハルトは斬撃をものすごいスピードで建物の残骸に放った。すると、上空から何かが来ていることに気づいた。

魔隕弾メテオ‼︎』

 巨大な隕石が彼のすぐ真上まで迫っていた。だが、彼は冷静に、


 

「転生 地獄 鬼畜の所業」

 

 

『万傷!』

 隕石をバラバラに破壊し、目の前の敵に集中する。

「出て来い。」

 そう言うと、建物の瓦礫の中から一人の男性が現れた。

「さすがは天下の大魔族だ。一筋縄じゃいかんな。」

 その男は杖を持っており、凄まじい魔力を携えていた。服装はいかにも仙人のようで、神秘的な様だった。

「上空に吹き飛ばし、さらに隕石で潰そうとは……とんだ余興だな。」

「これくらいしなければね、失礼かと思いまして。」

「へえ。」

「ですが……安心しました。」

 そう言って杖を振ると、杖の先に魔法陣が出現し、魔力が充填される。

「手加減する必要がなさそうで。」

『拡張領域!』

幻想郷ユートピア

 彼の背面に巨大な寺院が構成される。おそらく結界の象徴なのだろう。

「はっ、幻想か。確かに後ろにあるのは、その役割をよく果たすな。」

 ハルトは笑いながらその結界を分析する。

「だがそれにしても、何だそれは。タージマハルか?」

 よく見るあの周りにある柱。中央にある一際大きい宮殿のような建物。それはこちらの世界でいう、タージマハルによく酷似した建物だった。

「……これだけは言っておきましょう。」

 そう言って杖をハルトに向ける。

「私の名前はミチフサ。最強の魔法使いですよ。」

「いいな。嫌いじゃない。」

 大量の触手を出現させ、臨戦態勢だ。

らば、最悪の生物。」

 その瞬間、彼は確信した。再び千年前の戦いが始まると!

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