第28話 死の唄 〜宴初〜

第二十八話 うた 〜宴初うたげぞめ

 

 

「随分と結界術の対策をとるじゃないか。」

 ハルトは付いた血を払いながら言う。

「だが、甘い。おそらく俺と結界術の押し合いを行なっていれば、まだ勝負は分からなかったな。」

 そう言って幻影から現れた剣を握る。

「まずは聖なる魔法からだ。」

 しゃがんで踏み込むと、バキバキバキバキ……と筋肉がものすごい音を立てる。

「いくぞ。」

 その声が聞こえた瞬間、彼が自分の目の前に来る。

(早……。)

『天下無双流 鬼門・逢魔が時』

 なんとか反応し、剣を振るが、それよりも早くハルトの拳がユーリに到達した。

「ドガアン!」

 大きく吹き飛ばされ、近くの岩にぶつかった。

(畳み掛ける。)

 ハルトはユーリに目標を定めると、ユーリに向かって駆け出した。このまま押し切るつもりだ。

(アイツの剣戟はここ数十年見てきたヤツよりもレベルが高い。先に殺しておいて損はない。)

 だが、

「行かせねえよ!」

 複数人の勇者が出て、彼の行く手を塞ぐ。だが、その時彼の持っていた剣が黒く光り、ぶった斬る。

『魔突閃!』

 追い詰められた状況、絶望的な人数差、そして先の結界術の成功。極限にまで引き上げられた彼のパワーが炸裂した。

(来た……来た……!)

 魔突閃を一度出すとその人はゾーンに入った状態となる。だが、彼のこの状況の場合では、聖なる魔法のデバフが全て飛び、いつも通りに戻った。だが、これだけでは止まらない。

「くっ……これ以上は……!」

 さらに目の前に立ち塞がる人がいる。それらに対して一太刀ずつ浴びせる。

『魔突閃!』

「まずは一人だ。」

『魔突閃!』

「二人。」

『魔突閃!』

「3人!」

『魔突閃‼︎』

「四人だ!」

 赤黒く染まった魔力が辺りを駆け巡り、敵を斬り裂く。

 彼の今の状態は凄いことになっている。連続で四回、いや五回出した魔突閃の影響によって、彼の出力は普通の5倍以上に跳ね上がり、過剰な出力に、体がついていけなくなっていた。

(過剰な出力だな……。逆にこれでは魔力を無駄に浪費してしまう。効率と、魔力の供給を上げるか。)

 そして再び掌印を組み、魔力を練る。

(結界術か⁉︎ここではまずい!)

魔素増幅加速機コライダー

 地面から発生する微弱な魔力を加速させ、増幅させるだけでなく、魔力の効率も自動で上げる。これで足りない部分の魔力を補い、効率を爆上げする。

「試してみるか。」

 そう言って手刀をこちらに向け、魔法の詠唱を始める。


 

断罪だんざい 処刑しょけい 魔門まもんひらき

 

 

『一傷!』

 地面を抉り斬る、巨大な斬撃が飛ぶ。地面に谷が出来るほど強力だ。

(これが詠唱有りでの彼の“一傷”……。)

「威力が桁違いすぎる……!」

 その場が凍りつくほど、圧倒的だった。

「驚いているヒマはないぞ。」

 シオンとアキラの間に急に現れ、攻撃をしてくる。だが、彼の剣をナイフで止めたアキラをハルトは見ると、彼はニヤリと笑った。

「……その程度で防げるとでも?」

 その瞬間、剣がナイフを二つに両断し、アキラの肩を斬った。

「ぐっ……。」

 肩を押さえてうずくまるアキラをハルトは足で蹴り上げる。シオンはハルトにガッチリ押さえつけられており、身動きがとれなかった。

「がっ……。」

 恐ろしい威力の蹴りが、アキラの腹に打ち込まれる。体が違和感を感じた。

(肋骨に……ヒビが入った……!)

 蹴りは胸板を強く圧迫し、肋骨にヒビを入れた。

「まずは……だな。」

 そう言って剣を振り下ろす。だが、

『天下無双流 瞬天!』

 ユーリが振り下ろされる剣を弾く。そして、アキラを掴み、彼から引き離した。

「クーゲル!アキラを頼む!」

 そう言うと、背後にクーゲルが転送魔法で飛んでくる。

「任せな。」

 そう短く返事をすると、彼女は一瞬で消えた。

(そうか……この短時間で魔法使いたちがいる場所まで行って戻って来れる理由……、クーゲルの転送魔法で一瞬で移動し、また同じように戻ってきているのか……。)

 それなら十分この時間で行き来可能だ。

「いつまで押さえとくつもりだ?」

 シオンはハルトに押さえつけられており、身動きはとれない。だが、逆にシオンも彼の片腕をしっかりと掴んで止めている。

(俺がこう押さえている間は掌印は結べないはず。この状態で仲間の援護を待つ!)

「お待たせ。」

 そう言って彼は腕を無理矢理ねじり、ズンッと踏み込む。一瞬の力の緩んだ隙を作り、腕を解放する。

(剣は振れんか……。)

 すると、

『天下無双流 戦鎚!』

 ユーリが剣で削ってくるが、ダメージはほとんどないようだった。

(手応えが鉄斬ってるみてえだ!硬すぎる!)

 膨大な魔力出力によって、纏った魔力の量も増える。それによって鉄壁の防御になっている。

(恐れるな。攻撃を続けろ!いつかはきっと・・・・・・!)

 だが、シオンを巻き込むように攻撃を放つ。

円傷えんしょう

 波紋のように斬撃が広がり、シオンたちを斬り裂く。そして、斬撃によって怯んだ一瞬の隙に、彼は剣を振った。

「がギュイイン!」

 武器同士がぶつかり、激しい音を立てる。

「クククッ、こんなものか?」

 その時、横から強い光が飛んでくる。それを見た彼は、体を反って避けた。

『聖なるジャスティススター    法』

 聖なる魔法は空を切り、当たることはなかった。

「あれで避けるの?」

 まほなは驚愕する。

(聖なる魔法はかなり魔力を使う。しかも溜めに大きな時間がかかる。これ以上無駄撃ちするのは避けたい・・・・・・。)

 すると、彼の虹色の瞳がこちらを向く。そして再び手刀を構えた。

 

 

「断罪 処刑 魔門の開」

 

 

『一傷』

 まほなに向かって高密度の斬撃が飛ぶ。ドドオン・・・・・・と音を立てて、岩が崩れ去る。

「死んだか?」

 だが、反撃するかのように、煙の中からユーリが煙を切り裂いて現れる。

『天下無双流——』

 だが、技を使用する前に相手の剣が襲い掛かる。

「ピッ……!」

 肩に掠るが、その程度では止まらない。

『鬼門・逢魔が時‼︎』

 素早い連続斬りだが、彼に受け流される。

(膨大な魔力で攻撃を受け流してるだと⁉︎だが!)

「こっちが本命だ!」

『ダブルスレイヤー‼︎』

 二撃の斬撃が彼の虚を突き、傷をつけた。

(まずは一発!このまま畳み掛ける!)

 だが、

「すでに技のクールタイムは過ぎているぞ。」

(マズ……。)

「ビビビビビビ……。」

 大量の斬撃が彼に飛んだ。連射のスピードは前より上がっていた。

(これ以上は……。)

 全身に受けた傷は深く、動けば傷が広がり、致命傷になる可能性もあった。だが、そこに割り込んだのは——

「ユーリ!下がれ!」

 シオンが飛び出し、彼に殴りかかる。

「来たか。」

 後ろからは大量の勇者がいた。ユーリは言われるままに下がっていった。それを見ると、彼はニヤリと笑う。

「面白い。試してみるか。」

(ここまで興がノったのは久しぶりだ。アレ、も使ってみるか。)

 

 

「断罪 処刑 魔門の開」

 

 

『一傷‼︎』

 再び強力な斬撃が放たれる。そして、その軌跡に、赤黒い火花が舞う。

(今の……!煙でよく見えなかったが……おそらく魔突閃……!普通、魔法攻撃では起きないはずだが……いや、ヤツにとっては、それは非常識なのかもしれんな。)

 オルランドは的確に彼の斬撃が魔突閃を出していたのを見逃しておらず、おかしい点を出した。

(問題なのは……。)

 そう考えた瞬間、こちらを向いた虹色の瞳と目があった。

「一傷」

 そう短く言うと、斬撃が放たれ、それをなんとか剣で受け止める。だが、その普通の一傷でさえも、異常な出力であり、オルランドは遠くまで吹っ飛ばされた。

(魔突閃によって生まれた暴力的な出力だ‼︎)

 彼はあれから、ほとんど自分のペースで戦いをすすめている。アキラやシオン、ユーリたちですら反応しきれていない。

(出力は通常の10倍程度……‼︎この状態なら……。)

「ククッ。」

 相手は面白そうに笑う。そして、再び魔法の詠唱を始める。

 

 

「断罪 処刑 魔門の開」

 

 

(またあの強力な斬撃か!これ以上は……。)

 シオンは攻撃の隙をうかがいながら考える。だがそうではなかった。

「⁉︎」

 彼はゆっくりと掌印を結んだ。今までのものとは違う、複雑なものを。

 

 

転生てんせい 地獄じごく 鬼畜きちく所業しょぎょう

 

 

天災てんさい 堕天だてん つみ刺青いれずみ

 

 

 今までにない、長い詠唱。極限を超えるほどの魔力の練り。明らかに今までとは違った。

『絶死領域』

(このタイミングではマズい!急いで範囲外に……。)


打首獄門うちくびごくもん!』

 

「ビッ——!」

 結界の生成と同時にシオンの首に斬撃が入る。鮮血が斬撃にのって飛んだ。

(どういうことだ⁉︎)

 士怨は驚いた。

(結界が閉じていないのに、結界効果が発動している‼︎)

 彼の言う通り、結界は閉じておらず、そのままハルトの後ろに結界の象徴と思わしき、刀や斧が刺さった門が出現していた。

「ビビビビビビビビビビ……。」

 次々と体に斬撃が入る。さっきの虐阿虐阿とは比べ物にならないほど早く、強い。異常な出力でどんどん削られる。

『結界中和術式 簡易防御結界!』

 結界中和術式を発動するも、

「ゴリゴリゴリゴリ……。」

 またしても異常なスピードで剥がされていく。

(どんな結界だよ!斬撃が広範囲、そして異常に強化されている。ほとんど結界中和術式が機能していない!)

 彼の最終奥義、絶死領域“打首獄門”。これは、彼が何十年も鍛錬したものであり、その中で彼が身につけたすべての結集である。

 結界を閉じずに領域を使う。つまり相手に逃げ道を与える、通常の結界よりも維持に多量の魔力を使うことなどを“縛り”とし、結界効果範囲を半径350mとし、結界の出力を異常なまでに格上げした。その結果、この結界は押し合いにも強い。

 結界効果はさらに単純で、範囲内のすべてのものに、絶えず斬撃を浴びせるというもの。彼の領域内では、大きいものには万傷ばんしょう傷千しょうせんなどの密度の高い斬撃、それを受けて一定の大きさまで小さくなったものをさらに百傷ひゃくしょう十傷じゅっしょうでさらに小さくし、最後に一傷いっしょうで完全に消す、というようになっている。

 これだけ強力な結界が故に、デメリットも存在する。それは先程も述べた通り魔力の消費が絶大なこと、発動までには大きな溜めが必要で、掌印、詠唱が長いこと。だが、なんといっても最大のデメリットが、今の状態では自身がその強力な出力に追いつけず、結界の展開から60秒後に、自動的に結界が自壊することである。

 だが、今回は違う。コライダーによる出力の上昇、魔突閃による一時的なゾーン状態。この状態なら、彼のこの結界は90秒ほど、保つ。彼も同じ計算で結界を展開した。

「ビビビビビビビ……。」

 各地に斬撃が放たれる。結界の生成から10秒ほど経過した。ほとんどの結界中和術式が、剥がされていた。

(このままじゃ全員殺られる!仕方ないが……。)

「全員、一時撤退だ!俺がヤツを足止めする!」

 士怨が大きな声で言う。

「させるとでも?」

 ハルトは斬撃が飛び交う結界内を自由に動き回る。そして、士怨の静止を振り切り、逃げる人間たちを追おうとする。だが、士怨が体をぶつけ、無理矢理止める。

(行かせん!)

 だが、これも計算の内だった。

「ドガッ!」

 士怨を思い切り殴り、少し遠くまで飛ばす。魔法使いが待機している方向に!

(結界術を展開している時、アイツは常に回復し続けていた。つまり見える範囲にいる、ということだ。なら、そいつらも巻き込んで殺す!)

 彼に吹き飛ばされた士怨は、思考を巡らせる。

(?なんのつもりかは知らんが、これで俺も逃げられる。すでに殆どが退避——)

 立ち上がって前を見ると、目の前に結界の象徴があった。

「え。」

「ビッ!」

 斬撃が深く喰い込む。

(マズい!)

 魔力を厚く覆うことで斬撃のダメージを最小限に抑えていた。だが結界を出ていると誤認していた彼は、魔力を弱めてしまった。そこを突かれた。

(斬撃が思ったよりも深く入ったな……。)

 再び結界中和術式を使えるようになったので、それを使いながら敵を見る。ハルトは門の上に乗り、掌印を結んだ。

(なんでだ?結界範囲から出たと思ったのに。)

 そう考え、さらに下がろうと体を後ろに下げた瞬間、後ろにあった岩が一気に削れた。

(?)

 違和感だ。明らかな違和感。だがそれが何かわからない。すると、ハルトの背後からユーリが近づいている。斬撃をもろに喰らいながら。

『天下無双流 瞬天!』

 だが、彼はその剣を手で握った。

(バカな……完璧な不意打ちのはずなのに……!)

「残念だが結界内でのものの動きは手に取るようにわかるんだよ。だからオマエの動きも見えていたぞ。」

 そして蹴りを入れた。打ち込まれた蹴りの威力は想像を絶するものであり、ユーリは遠くまで飛んでいった。


 

「断罪 処刑 魔門の開」

 

 

『一傷!』

 再びあの最強の斬撃が放たれる。士怨は、そちらに集中している間にハルトに近づき、近接戦闘を仕掛けた。

「ドガガッ、ガッ!」

 魔力を厚く覆ってるのでダメージはないはずだった。だが、

(重い!)

 確実に打撃でのダメージが入っていた。

(これが魔突閃後のゾーン状態か!なるほど、これは厄介すぎる‼︎)

「ドゴッ!」

 重い一撃が士怨の拳を通り抜けて腹に刺さる。

「グハッ……。」

 そのまま士怨を掴んで、ハルトは遠くに放り投げた。

「これで……。」

 彼にはある算段があった。

(うまくいけば、邪魔なやつを一気に殺せる……!)

 そして彼はその後を追っていった。

 士怨は斬撃を空中で受けながらもなんとか着地した。ズキッ、と腹が痛む。

(くそっ。思った以上にダメージがでけえ。でもここまできたら結界効果の範囲外のはず……。)

 だが、それでも斬撃が続いていた。

(なぜだ?なんでこんなことに……。)

 その時、まほなが斬撃を受けながら近づいてきた。何かを言いたげにして。

「さて、何人削れるかな。」

 ハルトはすでに彼の近くまで来ていた。戦いのペースは完全にあっちが掴んでいる。

『結界中和術式 簡易防御結界』

 士怨とまほなは同時に展開し、ハルトに対応する。そして、まほなは士怨に近づき、こう告げた。

「あなたが結界の中心よ!士怨!」

 突然告げられたことに彼は驚きを隠せなかった。背後ではハルトが舌打ちをする。

「あなたが動くと、連動するように結界が動いたわ。実際にほら!」

 気づくとまた同じように結界の象徴が彼らの目の前にあった。

「彼がやろうとしているのは、どさくさに紛れた状況での、後方支援の抹殺よ。」

「!」

 全く気づかなかった。確かにヤツは俺を後方支援で待機させている魔法使いたちの方に投げていた。それはこれが目的だったのか!

 彼は結界の生成時、士怨がずっと自分につくことはわかっていた。ならばそれを十分に活かすため、士怨を結界の中心とし、結界の座標が動くように設定していたのだ。このまま行っていたら、間違いなく魔法使いたちに高密度高火力の斬撃が降り注ぐことになっていただろう。

「……まあ、バレたところで、だけどな。」

 彼は再び掌印を結び、結界の強度を上げて、二人の結界中和術式を剥がそうとしてくる。その時だ。

「キンッ——」

 甲高い音が響き、ナイフが空中にとぶ。後ろを見ると、アキラが全身に斬撃を浴びながら立っていた。だが、よく見ると傷がそれ以上深くならない。

 ハルトは興奮していた。彼を超えるほどの才能の原石に。

(自ら回復を回している……。)

 アキラは回復の魔法を回しており、傷はついていっているものの、それをカバーするほどの再生速度を見せつける。そして、

「!」

 戦鎚を取り出した。

(魔法の複数同時併用……!)

 魔法を同時に二つ使うことは脳の構造上ほぼ不可能だ。だが、彼はそれをやってのけた。魔法の才能が開花してから十日程度の人間が、だ。これに興奮しない方が珍しいだろう。

「実に面白い。」

 そういうと、指を横に振る。すると、

「ビビッ。」

 アキラの体に斬撃が刻まれる。だが、その傷もすぐに再生している。

「ククッ、こいよ。」

 手を広げて招くような仕草をする。だが、士怨がそれに合わせるようにハルトに襲い掛かる。だが、

「オマエではない。」

 そう言って士怨を弾き飛ばす。

「邪魔をするな。折角興が乗ってきたんだ。」

 アキラの方を向いた瞬間、アキラが目の前まで迫っていた。

「ドゴッ。」

 瞬時にハルトを殴る。その一撃には、確かに魔力が乗っており、彼は不意打ちではあったが、初めてまともなダメージを負った。

(なるほど。アイツもこれを成功させるのは初めてか。覚醒直後のゾーン状態……。油断すると出力で押し負けるな。)

 そして、彼は出力をアキラの付近に集中させた。斬撃の密度が上がり、回復速度を超える。だが、それに対応するようにアキラも回復の出力を上げてくる。

「いいぞ。もっとだ。」

 ハルトは少しずつ出力を上げていく。だが、隙はない。まほなと士怨は彼の隙をうかがっているが、全くと言っていいほど隙を見せない。アキラに、全てを託すしかない。

何時いつぶりだろうな。人間に興味を持つのは。」

 ハルトはそう言いながら掌印を結びながら結界の出力を上げていく。しかし、それに対応するようにアキラが回復していく。

 そして、アキラが斬撃を受けながら立ち上がり、武器を構える。ハルトと彼の間に緊張が走る。そして、彼は一気に距離を詰めた。ハルトはそれを受けてカウンターへと回った。

(何の攻撃かわからん以上、後手に回るがカウンターが確実だ。)

 そして、アキラの戦鎚が、ハルトに突き刺さる。赤黒い稲妻を纏って。

『魔突閃‼︎』

 絶対的なピンチ、自分の二次覚醒、強敵との対峙。全てを乗せた、彼の全力が、ハルトの体に突き刺さった。

(こ、ここでか……。)

 彼は結界の象徴である門にもたれかかると、門がガラガラ、と音を立てて崩れ落ちた。まさに月に叢雲むらくも花に風。——結界が崩壊した。

「ダン!」

 ハルトは地面に手をついた。思った以上にダメージが大きかったらしい。

(まだ……まだだ!今までの時間は60秒!まだ30秒は展開できるはず……!回復したらすぐに……!)

 背後からの士怨の攻撃をさらに体を低く保つことによって躱し、一旦下がる。

(結界で大体50人は殺した!だが相手の主力級メンバーには刺さらなかった……。相手にとってこの状況は最高のパターンだ。……だが、そう思わせといて再び技を出し、カウンターで30秒以内に一人でももってってやる!)

 そして、士怨たちの追撃を振り切ろうとするが、アキラが真横にピッタリつけてくる。そして、ナイフを放つ。

「チッ!」

 腕で防ぎながらアキラと距離を取る。だが、すぐに詰めてくる。

(さっきの大ダメージでゾーン状態が終わってしまった!しかもその影響でコライダーまで壊れてるな。出力が一向に上がらん。)

 そして、前からユーリが飛び込んでくる。

(ここでか!)

 彼はやむなく彼らと戦闘になる。互いに体をぶつけ、ダメージを負い合う。だが、ユーリの攻撃は簡単にいなせるが、アキラがずっと的確に体を突いてくるのは厄介だった。

(このままではマズいな。)

 ユーリの腕をハルトは掴むとそのまま引っ張ってアキラに投げた。そして、その隙に少し離れる。

『絶死領域』

 掌印を結び、結界を展開しようとするが……。

「ピリッ。」

 ハルトの頭に電流が流れるような痛みを感じた。結界的に体勢を崩し、掌印がずれて展開が出来なかった。だが再び掌印を結ぶ。

『絶死領域』

 すると、

「ポタ……。」

 頬をつたった血が地面に落ちた。彼は自分の顔を触る。感覚でわかる。彼の右眼の眼球から、出血していた。そして、鼻血まで出てくる。

(おかしい。掌印は結んで、魔力も十分溜まってるはずだが……。)

 そう言って彼は自分の頭に神経を巡らせる。すると、彼は思いもよらない事態に陥っていることがわかった。

(脳に……傷ができている!)

 彼の脳の、結界術を操る部分。そこが激しく損傷しており、ダメージを負ってダウンしていたのだ。

(……再生が遅すぎる。これじゃあ結界を展開できねえな。)

 再生スピードは経験によって速くなる。彼は脳を治したことは一回もない。かつ、脳の中での再生は全くイメージが掴めないのだ。さらに魔族の脳と人間の脳は構造が違う。何度も殺して見飽きた人間の脳と同じようには扱えない。

(魔突閃を喰らった時に、結界構築に使ってた魔力が暴発して、脳細胞を傷つけたのか……。)

 彼は解析を終えると、掌印を結ぶことをやめた。

「オイ、どうしたんだ?」

 ユーリが言う。

「これで終わりか?」

「ああ、残念だが結界術でのお遊びはここまでだ。俺の脳が傷ついて、使い物にならなくなったからな。」

 彼は隠さずに伝えた。

「そんなことで俺は少し休憩させてもらう。」

 相手はそう言うと、魔力を高める。

魔門開放ヘブンズゲート

 彼の近くに、再び門が現れた。だが、何処かに繋がっているようで、門の内側は異世界のようになっていた。

「知っているかい?自分達の住む人間界と、平行に存在している世界のことを。」

 彼はゆっくりと話し、門の側による。

魔界まかい、と呼ばれている場所だ。コイツはそこで手に入れた。」

 門へ周りの空気が吸い込まれていく。

「魔界の七大魔獣ななだいまじゅうの一つ、それを召喚する。もちろん、俺の眷属としてな。」

 彼は魔王の座を捨てた後、魔界と人間界を往復していた。その中で、彼は魔界の複数の魔族と契約し、眷属化させた魔物がいる。

 だが、コイツはそれよりも前に、もう一人の魔眼の継承の魔王と協力して手に入れた代物だ。

「その名を——」

 門の中から咆哮が聞こえたのち、門を破って出てきたのは——

天上天下異界異聞天てんじょうてんげいかいいぶんてん

「グオオオオオオオ!」

 黒く、所々に白のラインが入った人型ではあるが異形の姿。頭の上には剣のようなものが刺さっており、5mはあろうかという巨躯。まさに七大魔獣、といった容姿だ。

「こ、これが……魔界で最強と謳われる、七大魔獣の一角……。」

 士怨が言う。

異聞天いぶんてん、あとは任せるぞ。」

 そう言うと、彼の体が異聞天の影の中に沈んでいく。

「待ちやがれ!」

 そう言って沈む前に何とかしようとユーリが動くが、

「バキイン!」

 剣を異聞天が腕で弾き、接触を阻止した。

(コイツは……異常だ!)

 明らかに雰囲気が違った。今までの魔族とは違う。完全な魔。圧倒的な邪悪の気配。全てを飲み込まんとする威圧感。全てに置いて圧倒された。

「シオン!」

 アキラの言葉にシオンは正気に戻る。

「やるしかないよ!もう、召喚されてしまったんだから!」

 その言葉に呼応する様に異聞天がシオンに腕を振り下ろす。ドゴオン!と轟音が響き、周りの岩が吹き飛ぶ。だが、その拳はシオンを捉えていなかった。

(……今の……。わざと外した?)

 こちらを見ながら異聞天は口のない顔をこちらに向けた。すると、

「グチュグチュグチュグチュ……。」

 そう顔面が変化していき、口が出現した。そして、そこから吐息を吐いた。

「キモすぎだろ。どうなってんだよ。」

 ユーリからそう突っ込まれる。すると、頭の上に刺さっていた剣を握ると、そのまま引き抜いた。白い刃が露わになる。そして、

「ユーリ!」

 一瞬で近づき、ユーリに向かって振り下ろした。

「ギギギギギギギギ……。」

 かろうじて何とか受け止めたが、少しずつ押し負けている。

(な、何ちゅう力だよ!馬鹿力じゃん!魔力なしでこのパワーかよ!今の絶対反応してなかったら地面ごと真っ二つだったな!)

 ユーリは少し興奮しつつも剣をずらし、異聞天の剣を避ける。異聞天の剣には魔力は乗っておらず、完全なその肉体のパワーだった。

(よし、これで……。)

 異聞天は体勢を崩し、カクッと倒れるようになった。そこをユーリは狙うが、

「ドンッ!」

 異聞天の腕がそれを許さない。左腕に大きく打ちのめされたユーリは、遠くに飛んでいき、岩を貫通した。

(今のを裏拳で、しかも絶対本気じゃない!)

 シオンは冷静に分析していたが、今度はこちらを目標に定めたようで、シオンに一気に近づいてくる。

(この図体でこんなに速えのかよ!)

 5mはあろうかという巨躯なのにとても動きが俊敏だ。一瞬で目の前まで迫ってきた。そしてそのまま剣を振り下ろす。

「うわっと!」

 シオンはギリギリで横に避け、剣を躱したが、振り下ろされた場所には大きな陥没した跡ができていた。間違いなく、アレに当たったら即死だ。

(しかもこれを魔力なしで、ってどういうことだよ⁉︎何でこんなことができる⁉︎)

 異聞天はこちらを見ると、複数人が集まっていることに気づいた。そして、背後から近づいていたアキラに気づく。後ろに大きく腕を振る。

(コイツ、気づいて——)

 アキラの持っていた戦鎚を砕き、アキラごと吹き飛ばす。

「痛ってぇ〜。」

 かなり重い。ひょっとしたら体術のレベルはハルトを超えているかもしれない。どうするかをうかがっていると、影から何かが出てきた。

「う〜ん、治らないなあ。」

 脳を何とかして治そうとしたが出来なかったようだ。影から出てきたハルトは異聞天を見ると、何か言いたげだったが、彼は前を振り向き、こちらを見る。

「仕方がないけど、ギアを上げるよ、異聞天。」

 そう言って彼は溢れ出した魔力に覆われた。魔力の上限を解除したように魔力が全身から溢れ出す。

(気にはなっていた……。)

 シオンは魔王見聞録の挿絵を思い出す。

(見聞録の挿絵と彼の姿が違うことに……。だが、考えないようにしていた。案じても仕方がないからな。だがマジかよ。やっぱり隠していやがったか、本当の姿を。)

 溢れる魔力に包まれた後、彼の姿は——

「久しぶりにこの姿になるなあ。やっぱりこの身体の方が馴染むわ。」

 腕が4本あり、腹部に巨大な眼球がついた異形の姿になった。

「ククッ。さあ、どこまで俺を、楽しませてくれる。」


 

賢者の、掌印紹介コーナー!

 

 

 というわけで今回は今作で色々出ている掌印のやり方について説明するよ。それじゃあ行ってみよう!

 

①虐阿虐阿

 まずは合掌をします。そのあと、指の付け根から下をくっつかないようにします。以上です。めっちゃ簡単でしょ?

 

②誅凰戴波

 まずは手を横にして、親指、中指、薬指を折り曲げます。人差し指と小指は伸ばしてね。そのあと、それをもう片方の手でしてくっつけてね。親指は中指の側面にくるようにしてね。くっつける時は中指と薬指の第一関節から第二関節までがもう片方の同じ部分にくっつくようにしてね。これで完成!

 

③メタバース

 まずは両手で拳を握ってね。そしたらそれを立てて、親指以外の指の第一関節から第二関節の部分がもう片方の手の同じ部分にくっつくようにしてね。はい、完成!

 

④打首獄門

 

 痛いし難しいからできない人はやらなくていいよ。じゃあ始めるね。まずは両手で無量空所のポーズを作ってね。できたらその状態で人差し指と中指をもう片方の手とくっつけてね。そして薬指と小指は第一関節から第二関節をくっつけて、親指はそのまま指先同士をくっつけるよ。人差し指は爪の先が触れるようにしよう。はい、完成です!詠唱までしないと発動はしないけどね(笑)。

 

 

 他にも多数の結界術はこれから出てくるから、その時はまた紹介するね。以上、賢者でした!……戦いの準備しないと(焦り)……。

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