第25話 繋がりと途切れ

第二十五話 繋がりと途切れ

 

 

「何をしておるのだ。」

 体を両断された勇者の後ろから一人の魔族が出てくる。その魔族は見覚えがあった。

「オマエは……!」

 シオンが言う。

「いや……本当にアイツなのか?」

 シオン達3人は半信半疑だった。相手はマントをなびかせながらこちらに来る。服も豪華であり、黄色と紅色のラインが黒地の布に入ったお洒落な服だ。そして後ろには2本の斬撃を模したような紋様が入っている。

(でも、魔力が同じだ……!つまり……同じヤツ……!)

 シオンがこう言う。

「死んでなかったんだな。それとも亡霊かい?」

 すると相手はこう返した。

「安心しろ。」

 こちらを向くと、目を見て言う。コイツは間違いない。魔王城で彼らの前に立ち塞がり、3人によって殺された、あの魔族——勇者キラーだ。

「元気いっぱいだよ。」

 そう言うと、彼は腕を横に振る。シオン達は咄嗟にジャンプする。すると、

「ザンッ!」

 後ろまで斬撃が一直線に放たれた。

(なんだこの範囲と威力は!魔王よりも圧倒的に殺傷力が高い!そして……。)

 着地し、相手を見る。

(とんでもねえ魔力量だ……!)

 彼からは全身から溢れる魔力が立ち昇っていた。直感でも魔王の3倍はある。

「残念だが魔王は死んだぞ。」

 シオンがそう言う。

「別に良い。俺は弔い合戦をしに来たのではない。」

 そう言い放つと、魔族が集まってきた。

「おお、ハルト様!よくぞ来てくれ——」

 そう言おうとした魔族は彼の背中から伸びた触手に絡めとられていた。

「返事がまだだぞ。」

「〜〜‼︎」

 相手は話せないようだ。

「もう一度言う。何をしておるのだ?」

 そう言い放つと彼を離した。

「この役立たずどもが。何をこんなに手間取っている?全員殺せばいいだろう?」

「です——」

 口答えしようとした魔族は彼の触手に貫かれた。

「口答えは必要ない。やれと言ったらやるんだよ。」

 魔族にも戦慄が走る。圧倒的恐怖が彼らを支配する。

「無理なら俺がやる。全員皆殺しにしてやるよ。」

 そう言ってマントを脱ぎ捨てる。

「これで俺らの勝ちだ!」

「やっちまえ!ハルト様!」

 周りでは魔族が何か言うが、すると、ハルトは言う。

「何を勘違いしておるのかは知らんが言わせてもらうぞ。」

 そう言って振り向くと、魔族に対して斬撃を放つ。

「魔族も人間も“皆殺し”だ。」

「……。」

 全員が恐れおののいた。コイツと関わったら死ぬ!

「シオン!部が悪い!俺らは退くぞ。」

 ユーリがなんとか体を起こしながらシオンに言う。

「でも……。」

 反対しようとした時だ。後ろから大量の勇者たちが次々と彼に向かっていく。

「ここは任せろ!オマエ達は回復するんだ!」

 一人の勇者がそう言う。

「…………!すまない……。」

 シオン達3人は後ろに下がっていった。彼はそれを見ると少し面倒臭そうな顔をした。だが、もう周りは勇者パーティ達に囲まれている。まさに一触即発だ。

(……正直怖え。今までの魔族とは全く違う別物……。別格の強さ。そして……味方まで殺す残酷さ!)

 極限状態での共喰いならあり得るが、彼は気のおもむくままに殺している。互いの一挙手一投足が、命取りになりうる状況だ。

「……。」

 勇者パーティが集結していっているのを確認すると、彼はニヤッと笑い、魔力を練る。手を組み、掌印を作る。

絶死領域ぜっしりょういき 虐阿虐阿ぎゃあぎゃあ

 結界がすぐに展開される。スピードもテクニックも今まで以上だ。

「ドッ……!」

 一番近くにいた勇者の首あたりから出血する。

(なんだ……⁉︎何が起きている⁉︎)

 絶死領域。単純に言うと、必中必殺の領域技。絶死のその名の通りに必ず内側に入れた人を殺すようにできている結界。だが、彼はさらにその必殺性能を上げるため、必中対象を生物だけでなく、結界内の全てのものに拡大している。そのため、範囲が広く、狙いが定まらないのを縛りに、火力を底上げして、殺傷力を高めている。

「ド、ドババババババババ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 結界内のあらゆるところが爆ぜ、爆発が起きる。それは人間もだ。だが、爆発の範囲は小さい。一撃で殺すほどの威力はなかった。だが、爆発が多すぎる。そして早い。

「ドドドドドドドドドドドドド‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 次々と爆発が起きる。

(進めない!ダメージを喰らい続けてしまう……!)

 次々と勇者達は倒れていく。倒れた者は、身体中が爆発によって欠けており、骨まで爆発していた。

「ウハハ、ウハハ。ウハハハハハハハ!」

 ハルトはそう言いながら結界内を素早く動き回り、次々と勇者達の顔をもぎ取っていく。

「オマエ達は!この結界を破れん!その時点で、オマエ達は死んでいる!」

 結界のことも一向にわからず、次々と起きる爆発。そして彼による虐殺。まさに地獄絵図。

「この程度か⁉︎人間‼︎」

 そう叫び、彼は残った人間を全員征討するのだった。

 

 

 シオン達は離れたところで治療をしていた。

回復魔法キュアー

 まほなの回復魔法でなんとか傷を癒す。だが、大きくダメージを喰らい、いつものようなパフォーマンスはできないだろう。

「くそっ、殺したはずなんだけどなあ。」

 ユーリが言う。

「どういうこと?」

 まほなが言う。

「アイツは俺らが“勇者キラー”と呼んでいる魔族だ。俺らは一度魔王城まで行ってからここに来たんだけど、その時魔王城内で戦闘したのがアイツだ。」

「でも殺したんでしょ?」

「だからおかしいんだ。しかも魔法が違うし、魔力量も全くの別人だ。」

「“本当”に殺したの?」

「……。」

 その問いに彼は言葉を止める。

(確かにアイツは体が崩れて死んだのを確認したわけじゃない。でも……。)

 理屈では言い表せないことがあった。だが、

「確かにそうなのかもしれない。ヤツが生きていてもおかしくはないかも。」

 そう結論づける。

「そう。なら、どうにかして今度はアイツを殺さないとね。」

 そう言うと、まほなは後ろを向く。

「オルランド、少し移動しましょ。」

「おい……。」

 シオンが何か言いたげだが、それを静止するように付け加える。

「この状態で戦うのは部が悪いわ。怪我人もいるし、体勢も整ってない。このまま挑んでも、確実に負けるわ。」

「……、わかった。なら一旦ここを離れ——」

「ドンッ!」

 地を響かせる轟音が轟き、彼らは驚いた。

「なんだ……?もうこんなところまで?」

「まほな!転送魔法で一気に退くぞ!」

「はい!」

 そう言って、杖を振ると、魔法陣が展開され、そのまま彼らを包み込む。

転送魔法ワープホール

 魔法が発動した。

 

 

 彼がその場に来るのは少し後だった。

「おや、もう逃げていたか。」

 彼は息一つ乱しておらず、手には人間の生首を持ったままそこに立っている。

「……転送魔法か……。相変わらず、姑息な真似を。」

 そう言って辺りを見回す。

「……一旦、あちらに標的を変えよう。」

 

 

同刻 高良こうりょうの森

「ここまでくれば……。」

 まほな達は、王都から役5キロほど南に離れた山中の森の中まできた。

「王都は……どうなっている?」

 シオンは山の中腹から王都側を見る。王都は無惨な姿を見せているが、まだ耐えているような感じでもあった。

「まだ、耐えているみたいね。少し休んでから行きましょ。」

 彼らはそこに腰を落ち着かせた。すると、

「そんなに悠長な姿勢ではダメだ。」

 シオンの口の横に、もう一つの口が現れた。全員、それに対して驚く。中には剣を持つ者もいた。

「そんなに殺気立たんでいい。俺はオマエらの味方だ。」

「どの口でそれが言えるんだよ。」

 そう言ったのは紛れもないシオン本人だ。

「急に出てくるからびっくりしたじゃん。自己紹介ぐらいしろよ。これじゃあ俺が魔族みたいじゃねえか。」

 そうシオンが言うと、その口はゆっくりと言った。

「手短に言うぞ、二度は言わん。俺は士怨シオン。遥か昔の勇者だ。」

「……信じれるかよ、そんなこと。」

 ユーリがそう言う。

「シオン、これは一体どういうことだ?」

「……。」

 シオンは黙り込んでいる。他人に殺意の刃を向けられると、自然と誰でもそうなるだろう。

「シオン!」

「どっちに言ってるかはっきりさせてくれないか?わかりずらい。」

 名前が同じなので、発音がわからないのだ。

「本体の方だ。」

 ユーリがそう言う。

「何て言うんだろうな……。俺が物心ついた時から一緒だったヤツだよ。でもこんなことができるのは初めて知った。」

「それは俺もだ。まさか人に口を二つ作れるなんてな。」

「……。」

 彼らが黙りこくると、士怨はこう告げる。

「ヤツに今の状態で挑むのはやめておけ、全員死ぬぞ。」

 そう冷たい声で言う。

「全員の実力を知らないくせに、生意気なこと言うなよ……!」

「オマエ達だけでの話ではない。全員だ。総じてアイツ……ハルトには勝てん。」

「どうしてそう言い切れる?」

「私は彼に殺されたからだ。」

 そう宣言する。

「どうやったかは知らんが、なぜかこの時になって私の魂は彼と同棲している。無論、体の主導権はシオンにあるがな。」

「ならその口でしゃべるのやめてくれる?体渡すから。」

 そう言うと、二人は入れ替わった。目を瞑り、精神の世界と現実の世界を入れ替える。

「……よし。入れ替わったな。」

 士怨は言った。

「話を続けてもいいかい?」

 士怨は全員を見回してから言う。

「……くだらなかったら殺すからな。」

「別にいいけど、シオン死ぬよ?」

 そう淡々と言い放った。

「じゃあ話を戻そうか。知っていたら説明してくれ。遥か昔、今から約1300年前だ。その時、魔族と人間の大きな戦いがあった。それを——」

魔人大乱まじんたいらん……!」

 まほながそう言う。

「なんだ?それ。」

 周りの人が聞くと、

「1300年前に実際に起こったとされる、魔族と人間との天下分け目の決戦のことだよ。」

「その通りだ。魔王率いる魔族側と、王の人間の軍。それらが戦い、最初は人間側が優勢だったんだ。」

 彼は思い出すように語る。

「でも、たった一人の魔族でそれは変わった。それがその時の魔王であり、最強最悪の魔族、ハルトだ。」

 聞いている人も全員唾を飲む。

「彼は敵味方問わず、殺傷しまくった。結果、人間は彼の操る力に勝てず、私は、彼に止めをさされた。」

 さらにこんなことを言う。

「正直、彼は死んでいたと思った。なぜなら、あの状況で彼に勝つのは不可能だからだ。もし、彼がまだ生きているなら、こんなに均衡した世界にはなっていなかったはずだからね。」

 全土を掌握できる力があるなら、もうとっくに平安な世は消えている、ということだ。

「でも、これだけは言える。アイツは間違いなくあの時のハルト、そいつに間違いない!でなきゃあんな斬撃は撃てねえ!」

「ああ、あの見えない斬撃か。」

「ああ。あれはアイツの代名詞だ。それほど強く、また、見せしめで殺すときにも使ってたからよく覚えているよ。」

「それ以外にはないのか?」

 ユーリが聞く。さっきまでの警戒心は無くなったようだ。

「あとは……とにかく火力が高い技が多かったよ。だけど一番使ってたのはあの斬撃、名を“一傷いっしょう”って言ってたよ。」

一傷いっしょう……。」

「もし彼が今現れたのなら、この状態で挑むのは無理がある。私だって死んだんだ!アイツの斬撃で右腕を落とされてから死んだ!」

 思い出す。あの時を。急に遠くから飛んできた斬撃に右腕をズバッと斬られ、その後に見た世界。

 おぞましいものだった。魔族と人間の死体の上に乗っている魔族。それがハルトだ。こちらを見つめると、そいつは急に襲ってきた。無論、反応はしたが、腕からの出血でそこまで戦えなかった。でも、それでもわかる。圧倒的な実力差がある、と。

「……でも、これを証明できなきゃ意味ないだろ。」

 ユーリが言う。

「そうだよな……信じきれないよなあ……。」

 シオンがそう言うが、

「……いや。」

 まほなが口を挟む。

「……証明はできるかも。」

「!本当か⁉︎」

「うん。そのために少し時間を貸して。私の家のところにある本ならそれを証明できる。」

「家っていってもどこにあんだよ。」

 ユーリがそう聞く。

「東側よ。東ルートの開始地点、ジルにあるわ。そこのはずれだし、多分攻撃目標にはされていないと思う。」

「でもあれだろ?東側って魔族が大量に来たところじゃないか。どうやってあの中を潜り抜ける?もし辿り着いたとしてもどうやって戻ってくる?」

 そう一人の勇者が言う。

「そこは賭けよ。でも賭けなきゃいけない。もう一つ気になることもあるし……。」

「でも……。」

 すると、

「それなら任せてください。」

 急に全員の前に二対の外向きに曲がったツノが生えた金髪の魔族が降りてくる。いや、急に飛んできた、といっても過言ではない。

「今度は魔族だ!殺せ——」

「待て!」

 士怨が大声で言う。

「殺すな。」

 全員を睨みつけ、動きを止める。その視線は、人間でさえも超越したようなものの目だった。

「お気遣い、感謝する。我々としても戦いは望んでいない。ですよね、ヴァルプ。」

 そう呼ばれた女性の方を見る。彼女は右目に眼帯をしている。

(私が撃ち抜いたから?)

 まほなはそう思ったが、何も言わなかった。

「その通りだ。我々には戦う理由はないわ。」

 そうヴァルプと呼ばれた者が言う。

「遠くから魔弾をいくつも撃って殺しまくってたヤツが何言ってんだか。」

 そうあきれたように別の勇者が言うと、

「我々もアイツを殺したい。」

 そう金髪の魔族、イアが言う。ちなみに彼はこんな名だが男性だ。

「実際にアイツが我々の陣営に来て、魔族を千体以上虐殺した。」

「まあ、アイツにとっては全員が殺戮対象だからな。」

 士怨が言う。

「俺らは仲間を殺されたんだ。ヤツに復讐したい。ヤツはもはや魔族じゃねえ。悪魔だ。」

「……だからなんだ。」

 ユーリがそう聞くと、

「魔族と人間で協力してヤツを倒したい。実際に魔族でもアイツを相手するのは無理がある。」

「……良いね。それが多分最善だと思う。」

 そう言ったのは紛れもない士怨だ。

「現段階での戦力は乏しい。でも、二大戦力を合わせれば勝てる可能性もあると思う。しかもそこの魔族、やられたんでしょ?」

 そう言ってヴァルプに話題を振る。

「ああ……この傷はヤツにやられた。」

 あの後のことだ。魔族の大本営に彼が来て、攻撃を仕掛けてきた。ヴァルプ達も無論応戦したが、圧倒的な実力差があった。ヴァルプは“一傷いっしょう”で目を潰され、回復しようとした瞬間に、“かい”で完全に眼球を破壊されたのだ。

「傷が治らないのか?」

 士怨は言う。

「治らない……と言うよりかは再生が極端に遅い感じだ。相当細かくダメージをいれられたんだと思う。それか、再生する細胞自体を止めているかだな。」

 ヴァルプはそう告げると、こう付け加える。

「いい加減剣を納めてくれないか?落ち着いて話せねえんだ。」

 彼らの周りには複数人の勇者がジリジリと近づいていた。

「そうだな。剣を納めろ。」

「だが——」

 士怨の言うことに対して反論しようとした時、低い声でこう告げる。

「冷たい死体が増えるよ。」

 短くそう言うと、勇者達も流石にビビったのだろう。剣を納めた。

「ただで平和が手に入るならいいじゃん、それで。」

 士怨はそう短く付け加えると、

「ヴァルプ。イア。我々の持つ情報とそちらの持つ情報を共有して一度体勢を整えたい。魔族を一旦退かせてくれないか?」

「それなら大丈夫だ。もうすでに魔王軍は撤退して、ビックリバーシティまで後退している。なんならそこに来ないか?」

 イアはそう提案する。

「ジルにも行きたいならそれが最善だろ?」

 前の会話を聴いていたため、それも付け加える。

「GOODだ。向かうよ。」

 そう士怨は返事をした。

「すでにビックリバーシティにはリヒュウが待機していたんだ。一応全軍彼の指示で動いているよ。」

「あの吸血鬼か!」

 ユーリがそう言う。

「戦闘はするな。貴重な戦力を失うことになる。」

 士怨がそう静止するが、

「絶対に……殺——」

「ユーリ!」

 士怨が声を上げる。

「大丈夫だ。その代わりと言っちゃあなんだが、ヤツには前線で体を張ってもらおうじゃないか。それでいいな?」

 士怨がそう悪魔的な発言をする。すると、後ろから彼を揶揄する言葉が聞こえる。

「オマエ……やっぱ魔族だよ。」

 ヴァルプが言う。

「え?」

 士怨が驚き、後ろを向くと、

「そういう意味じゃない。性格が魔族みたいだってハナシさ。」

 ヴァルプは軽く伝えると、その時急に轟音が響いた。

「……始まったか……。」

 イアが言う。

「王城への総攻撃が。」

 

 

同刻 王城 ミューシクル城にて

 王城は遠くからの魔弾の射撃によって攻撃を受けていた。魔弾と言っても、魔力を固め、丸くしたそれっぽいものを撃っているだけだが。だが、その射出スピードと、エネルギーでその不完全さを補い、なんならヴァルプの魔弾を遥かに超える威力を叩き出している。

「出てくるまで炙ってやるよ。」

 ハルトは少し離れたところから魔弾を撃っていた。手で何かを丸めるような仕草をし、それを手で弾き出す。すると、紫の弾丸が王城めがけて飛んでいって、着弾した。

 よく見ると、王城から大量の衛兵が出てきた。

「さて、殺るか。」

 彼はそこから飛び降り、衛兵の前に立ち塞がった。

「オマエら、死ぬ気でかかってこい。」

 

 

ビックリバーシティ

 彼らはやっと到着した。すると、

「ヴァルプ様!なんとか説得しましたよ!」

 そう言って近づいてくるのはチガネだ。

「全く、何を命令したか分かってます?」

 少し不機嫌そうなのはクーゲルだ。

「どうかしたのか?」

 イアが聞く。

「ああ、私が協力を願い出るから、それをリヒュウに認めさせるようにコイツらに言ったんだ。」

「ああ、そういうことね。」

 イアは納得すると、勇者達の方を振り向き、

「まだ魔族のほうも今までのわだかまりが残ってるはず。君達に危害を加えないとは言えない。だからここらへん一帯を君達の場所にするよ。反対側が俺ら魔族だ。そして……。」

「ああ、わかってる。そこの集会所が話し合いの場所だろう?」

「理解が早くて助かる。早速だが、情報交換をしよう。いつここに攻めてくるかはわからんからな。」

「それなら少し待ってくれ。まほなが到着してからにしたい。」

 士怨がそう提案すると、

「わかった。我々は先に行っているからな。」

 そう言って集会所に入っていった。

「さてと……。」

 士怨は急にそう言うと、

「俺も疲れたから一旦戻るぞ。シオン、残りは頼むぞ。」

 そう言うと、再び人格が入れ替わり、元に戻る。

「……戻ったか。」

 シオンはそう言って自分の体を見る。そして、動作が正常だと確認すると、全員に対してこう言う。

「魔族とは決して殺らないように。それぞれの勇者パーティの首脳は後で来てね。作戦の確認とかもしたいから。じゃ、まほなが来るまで各々体を休めててね。」

 シオンはそう指示すると、ユーリ達の方を見る。

「大丈夫だよ。」

 シオンはそう言うと、

「案ずるよりかは……か。」

 ユーリはそう言って天を仰いでいたが、すぐに振り返り、シオンにこう話す。

「なんでここまで言わなかったんだ?」

「えーっとね……。それは単純に言っても意味がないかな〜って。」

「そういうのは最初に話しとくもんでしょ?全く、びっくりしたじゃないか。」

 ユーリがそう愚痴を漏らすが、

「でも……いつもと変わらなくて安心したよ。で?これからどうするんだ?」

 ユーリもいつもと変わらない雰囲気に戻り、会話を続ける。

「万全の状態でヤツに挑むよ。そのためにリヒュウと話をつける必要がある。相手が有利な状況を作ってるのは確かだけど、今はそれに賭けるしかない。あとは王都が落ちるスピードかな。」

 シオンは考えを回す。すると、

「遅くなった!」

 そう言ってまほなが戻ってきた。

「飛行魔法か。万能だな。」

 士怨も口を発現させ、横槍を入れる。

「オマエさあ、出る時は出るって言ってから話して。めんどくさいんだけど。」

 そう士怨に注意すると、

「それよりも、だ。まほなの守備はどうなんだ?」

 士怨が聞くと、

「ばっちりよ。行きましょ。」

 そう言って彼らは集会所へと入っていった。

「初めまして……かな。」

 集会所に入ると、いきなり一人の魔族が話しかけてくる。背中にコウモリのような翼が生えており、鋭く尖った歯を持つ魔族だ。

「まずは疲れただろう?椅子に座りなよ。」

 吸血鬼——リヒュウは静かに喋りかけてきた。

「オマエがリヒュウか?」

 ユーリが前のめりで聞く。

「そうだ。一応臨時の時の全軍指揮を任されている、魔王が配下、赤血のリヒュウだ。以後よろしく。」

 相手はそう言うと、握手を求めた。

「リヒュウ。あまり失礼のないように。」

 ヴァルプがそう言うと、その意図に気付いたらしく、腕を引っ込めた。

「……不愉快かもしれないが言わせてくれ。これまでのことについては申し訳ない。この場をかりて、お詫びするよ。」

 そう言うとリヒュウは頭を下げた。

「もとは我々の仲間だ。彼は我々が全力で戦わせてもらおうと思っている。それの方が効率的だろう?」

 リヒュウがそう提案する。

「ああ、それについては同意見だ。我々よりも戦闘経験が多く、戦い慣れている魔族そちらの方が、前線に出るべきだと思うよ。」

 シオンはそう答える。

「決まりだな。」

 リヒュウはそう言うと立ち上がった。

「待て。それだけでは足りない。」

 士怨が口を出現させて言う。

「⁉︎」

 リヒュウも驚いたように口を開けている。

「すまないがこういう者なんだ。理解してくれ。」

 そう士怨が付け加えると、

「受肉体か?」

 リヒュウがそう話す。

 受肉体とは魔王ファジツのやっていた肉の中の魂をそのまま器となる者に入れて生まれる。彼も、器となる体に魂を宿している。その可能性もあるだろう。

「いや、私は受肉していない。受肉するにはその人の一部が必要になるが、私にもシオンの記憶にも、そんな経験はない。」

「バグ……みたいな感じなのか?それとも……。」

 また、受肉する肉には魂が宿っていなければいけないので、特別な作業を行う必要がある。だが、彼はそれもしていない。また、ヨネットやラリスのように魔王の力で受肉をしていたが、あれは彼の能力あってだ。具体的にどうすれば受肉ができるのかは、明かされていない。魔族でさえも、その情報はまだ見ぬブラックボックスだ。

「今はいいか。それで?何が足りないんだ?」

「ヤツにはいくつかの対処が必要な技がある。」

 そう言ってさらに説明を始める。

「ヤツの見えない斬撃、膨大な魔力出力によるガード、類を見ない再生能力、極め付けは結界術だ。」

「それだけじゃないでしょ?」

 そう口を挟んだのはまほなだ。

「まだ対策を立てるには早いわ。最初は分析からしないと。そのための史料も持ってきたんだし。」

 そう言って彼女は持っていた大きな古びた本を机の上に置く。

「……随分と古い本だな。」

 リヒュウがそう言い、本に近づく。そして、表紙についていた埃を払う。

魔王見聞録まおうけんぶんろく……。」

 表紙にはそう書いてあった。

「……魔王見聞録ってあのデタラメな史料だろ?あんなのが役に立つわけ……。」

 そう一人の勇者が言う。

「しかもほとんどの物が偽物で、本物は残ってるはずがないって言われているんだぜ?これも同じく……。」

「……って思うでしょ?」

 まほなはそう言うと表紙をめくった。そこに書いていたのは——

「魔王印……!」

 紛れもない、あの場所で見たものと同じ魔王印だった。

「魔王印は復活を示唆するものでも偽造でもなんでもない。本当に魔族の歴史に関係のあるものだけに王がつけるように命じた、本物の証よ。」

 時は昔。ある王は、全ての歴史を後世へと伝えるため、現在残されている魔王の遺物、そしてそれらの歴史を全てまとめるよう指示を出した。また、それらが本物であるという証拠を残すために魔王印を作り、それらに全てつけるように命じたのだ。

「長い時間が経ってそれのことは忘れられようとしていた。でも、私の一族はその魔王見聞録を管理する役割を持っていたことで、その真実を失わず魔王見聞録を代々受け継いできたのよ。」

 そうして彼らは魔王印をみる。

「……ってことはまだ残されているものは全て……。」

「ええ、本当の証。全て残されたものよ。」

 そうして彼女はこう付け加える。

「早く読みましょ。この中に色々役立つことがあると思うから。」

 そう言うと、シオンも話す。

「そうだな……。」

 シオンは少しそう喋ると、本の内容に集中した。

「じゃあ、開くわね。いくつか虫食いがあるけど、そんなに破損はしていないはずだから。」

「これって一体何年前にできた代物なんだ?」

 イアが聞くと、

「諸説あるけど大体1000年前かしらね。でも歴史書の内容は300年ぐらいあるわ。」

「1300〜1000年前までの歴史か……。一体何をまとめたらよかったんだろうな。」

 そうして彼らはページをめくった。そこには驚きのことが書かれてあった。

 

 

 そして明かされる、彼の全てが——

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