第24話 決着、そして…

第二十四話 決着、そして…

 シオン、ユーリ、アキラの全員が、全力100%を超えたパフォーマンスを発揮できるようになった今、この場の空気が今まで以上にひり付く。

 

 「はあ…ここまでするなんて、もっとお手柔らかにして欲しかったわ。」

 ヨネットが拳を構え、ユーリに付けられた傷口から血を流しながらも相変わらずの軽口を叩く。

 「そんな暇があるなら、相手に気を付けたらどうだ?」

 ユーリが剣を構えて距離を詰める。

 『天下無双流・屠薙‼︎』

 ビュンッ

 力強く横薙ぎに切り払うも、

 『呼哭アンプリート

 ズドォンッ

 足元から衝撃波を放ち、空中へとかわした。

 「危なかっしいわね…」

 ストッ

 空中から降り立ちながらぼやく。

 

 アキラが棍棒を構えて接近する準備をした時、

 「傷も治ったか…厄介だな…ならば…」

 ポーテが詠唱を始める。

 

 『獄秀車リンボユール

 

 ズズズ…

 全身に炎を纏い始め,ガントレットと頭のヘルメットが角の先まで赤熱する。

 「熱っつ…触れられない…」

 距離を取ったこの状態でも、近接攻撃を試みればこちらが危険だとわかるレベルの熱を放っている。

 (どうする…)

 アキラが攻めあぐねる中,

 ザッ…ザリッ…

 ポーテが足で地面を掻く音が聞こえる。

 「フゥウ…」

 前屈みになり、

 ガコンッ

 雄牛のヘルメットが目深に被さる。

 (これは…ヤバいぞ…)

 そして、

 ダァンッ‼︎

 一気に足を踏み込み、

  ギュオオンッ

 こっちに向かって突進してくる。

  「ヤバいヤバいヤバい‼︎」

 すんでのところで

 スカッ

 かわすが、

 ドォオオオオンッ‼︎

 突進したポーテがぶつかった石の壁は、跡形もなく消し飛び、蒸発していた。

 シュウウウ

 ポーテの体から煙が上がる。今なら近づいても大丈夫そうだ。

 『クロスナイフ‼︎』

 (ギリギリだった…金が残ってて良かった…)

 サンッ

 素早く接近し、生成したナイフで切り付ける。

 「くっ…」

 (まだ熱い…攻めにくいな…)

 少し焼けた手のひらを見て、次の一手に思索を巡らせる。

 (でも、このくらいならまだ攻められる!)

 だが、すぐに再度攻撃の姿勢に入る。空中で体をひねり、棍棒を構える。

 「来るか…」

 ポーテが受け止めるように手を構え、じっとアキラに目を凝らす。

 「でやっ‼︎」

 アキラがさらに体をひねり、

 ダァンッ

 棍棒で打ちすえる。だが、

 ガシィッ

 構えていた手で受け止められてしまった。しかし、

 「ぐ…ぐく…」

 ミシシ…

 力づくで押し込み、

 「くっ…」

 ドォンッ

 掴んだ腕を殴り飛ばす。

 ドッ ピシッ

 骨に食い込むように殴り付け、

 トサッ

 反動を利用して着地する。

 「くっ…傷も癒えたとはな…」

 打ちすえられた勢いで、

 ズザザッ

 後ろに押し込まれる。

 (今なら、押し切れる!やるしかない!)

 一瞬、

 「うっ…」

 殴り付けられた左腕を押さえている一瞬の隙をアキラは見逃さず、

 『クロスナイフ!』

 ザァンッ サンッ

 少しでもダメージを与えるために傷跡を狙って切り裂き、もう一度今度はその傷に交差するように切り付ける。

 「ハァッ…、想定外だったな…」

 傷を押さえ、こぷりと血を吐く。

 

 その時、

 (このままじゃヤバいわね…)

 (一旦、退くしかないか…)

 トッ トッ

 「えっ…」

 「お、おい!」

 ヨネットとポーテが地面を蹴り,空中に跳び上がる。

 「何する気だ⁉︎」

 ユーリが叫ぶが、

 「?見ての通りだが…勘の悪い奴らめ。」

 「私達は撤退するわ。」

 彼らは意にも介さずに

 「しっかり掴まってて。」

 「お、おう?」

 『呼哭アンプリート

 バゴォンッ!

 空中へと逃げ去っていった。

 「待ちやがれ!」

 ユーリが追いかけようとするが、あっという間に届かないほどの高さまで逃げられてしまった。

 「クソッ…もう少しだったのに…」

 ユーリが苦々しい表情で飛んで行った彼らを眺める。

 

 「ここら辺なら良さそうね。」

 ストッ

 ヨネットとしがみ付いたポーテが人里離れた森に降り立つ。

 「マジで何なんだアイツら…」

 傷をさすりながら、軽く愚痴る。

 「まあ、久しぶりに目覚めたにしては良い刺激だったと思うわよ?」

 「…」

 あまりにもポジティブなヨネットにポーテが困惑するも、今は彼女に任せるのが賢明だと考え、湧き上がる不満をこらえた。

 

 「さあ、みんな、行くぞ!」

 シオンが他の二人を集め、力強く叫ぶ。

 「おう!」

 「もちろんだ!」

 アキラとユーリも力強く返す。

 「決起集会は終わりか?」

 魔王が振り向き、低い声で呟く。

 「ああ、お前を倒すための心の準備もな。」

 シオンの目配せに応じ、アキラとユーリがコクンと頷く。

 (ここで、決着を付ける!)

 3人の思考が重なる。

 

 「行くぞ!」

 「おう!」

 その声を合図に、全員が別々の方向にばらける。互いに目配せして、

 タンッ

 一気に距離を詰める。

 正面からシオンが、右後ろからユーリが、左後ろからアキラが攻める構図になった。

 「だあっ!」

 ザァンッ

 シオンが横薙ぎに切り払い、

 ギャリィンッ!

 魔王がそれを受け止める。今度は剣ではなく、魔法で防御した右腕だった。

 (硬い!これが本来の強さ…)

 今まで能力を帯びた状態で戦ってきたシオンだからこそ、その力をはっきりと実感している。

 「フ…中々の腕前だ。」

 ギリギリと押し付けられる剣を受け止めながら、余裕げに話す。

 

 『天下無双流・瞬天!』

 ズバァッ

 シオンが止めている隙に、勢いのいい斬撃を叩き込む。

 「ふむ…だが…」

 空いた左腕を回し、

 グギギ…

 (止められたか…)

 魔力で防御して強引に受け止める。

 

 (両腕が塞がってる!今なら…)

 ドグォッ

 アキラが体をひねり、その勢いのまま両腕が塞がってガラ空きになった魔王の体を狙う。鋭い軌道で背中に命中し、大きく吹き飛ばす。シオンとユーリもその衝撃を察知し、

 タッ スタッ

 後ろに飛び退いて着地した。

 「しぶとい上…中々の腕前だ…だが…」

 チュイイイイン

 魔王が紫色の魔力を両手にチャージし、

 ポポポポポポッ

 それを背後に浮かべた複数の球体に変化させ、

 ドドドドドドッ

 一気に周囲全体に向けて放つ。

 だが、

 (来る!)

 全員が同時に気付き、

 スタタッ トッ サリッ

 身をかわし、

 チュドドドドドドッ

 地面を抉るほどの攻撃を受けずに済んだ。

 「ならば…」

 チュイイイイン

 先程と同じように魔力をチャージし、

 ポポポポポポッ

 背後に複数の球体を浮かべる。

 「またあれか!」

 シオンがユーリ達に向けて叫ぶ。またあの攻撃だと踏んだアキラとユーリ、シオンが回避の体制に入るも、

 ビイイイイイン

 「うわぁっ!」

 「痛っった!聞いてないぞ!」

 「痛ったた…」

 なんと球体から光線が放たれた。あまりに想定外すぎる事態。対応して避ける事もできず、特に素早く、この状況を察知できたアキラ以外は直撃してしまった。だが、そのアキラも胴体に光線がかすっていた。

 「この程度も見切れぬとは…拍子抜けだ。」

 ふう、とため息をつきながら魔王がカツカツとシオンの元に歩み寄る。そして、

 ガシッ

 「あぐっ…」

 シオンの顎を掴み上げて問いかける。掴まれた顎の骨が、ミシミシときしむ。

 「お前達はなぜ、我々と戦う?我々は、ただこの世界で平穏に生きたいだけなのだ。」

 もがきながら、シオンはその問いかけに応じる。

 「そんなもん…俺たちだって…安全に…平穏に…この世界で生きたいだけだ!」

 ドガッ

 「…っ!」

 シオンが魔王のみぞおちを蹴り、

 スタッ

 手を振りほどいて脱出する。

 「まあ、おおかたそういうことだとは思ったがな。」

 

 (あの光線…予想以上に痛いな…)

 カパッ

 ユーリが治癒の仮面をはめ,傷を癒す。

 (あと少しで調子が戻る…)

 しばらく物陰に隠れ、治療に専念する。

 

 「でやっ!」

 ドガァンッ

 アキラが棍棒を胴体に叩き付け、魔王をぐら付かせる。だが、

 「…なかなかの腕力だな。魔突閃でも撃ったのか?」

 突然こちらが魔突閃を出したことを見抜いてきた。

 「…!」

 「それも一度ではないな。」

 (こいつ…そんなことまで…)

 アキラが焦りを覚える。

 「その様子だと図星のようだな。」

 だが、それをよそに魔王は悠々と言い聞かせる。

 「戦場でそんな風に隙を見せるな。」

 ドゴッ

 「うう…」

 アキラを蹴り、空中に吹き飛ばす。しかし、

 「お前こそな。」

 『クロスナイフ!』

 「‼︎」

 (なんともタフだな…)

 それを待っていた、と言わんばかりに空中で身をひねり、

 ザシュッ

 胸元を切り付ける。

 「銀ナイフか…良いものを持っているな。」

 (硬い…硬すぎる…これが魔王…)

 浅く傷を付けられたものの、素の防御力が高いせいで浅く、魔力防御も相まって致命傷には程遠い傷しか付かなかった。

 

 「うう…」

 シオンの体が苦痛に震える。どうやら、あの光線の直撃が響いてきたようだ。その時、

 「受け取れ、シオン!」

 ヒュンッ

 ユーリの叫び声と共に、何かが飛んできた。

 パシッ

 受け止めると、それは治癒の仮面だった。

 「分かった、頼むぞユーリ!」

 「任せとけ!」

 ユーリの意図を察して、

 カパッ

 治癒の仮面を付ける。そして、

 バッ

 ユーリが前線に戻ると同時に、入れ替わるようにシオンが隠れる。

 

『天下無双流・断天‼︎』

 ズバァッ

 前線に飛び出すと同時に、ユーリが背後を下から上に切り上げる。

 「ふむ…」

 裂かれた傷を気にかけながら、振り向いてユーリを睨む。

 (相変わらずの威圧感だな…)

 ビリビリと歪む空気を感じながらも、剣を構える。しかし、

 (一人足りない…まさかな…)

 魔王が何かを察し、

「ならば…」

 ブゥンッ

 黒っぽい紫色の魔力を全身を覆うように纏い、

 ドゥンッ

 それを一気に衝撃波として放つ。

 「ぐっ…」

 「ううっ…」

 ユーリとアキラがそれを受けるも、

 ズバッ

 ヒュオンッ

 ユーリは剣、アキラはナイフで切り払い、最小限のダメージに抑えられた。

 

 (なんか来た!)

 シオンも押し寄せる魔力に気付き、

 ザァンッ

 衝撃波を切り裂いて

 「痛っ…」

 ダメージを抑えるが、少しだけ喰らってしまった。

 (でもここまで治ったなら、行けるな…)

 傷が治ったことを確認し、

 カチャ

 治癒の仮面を外し、前線に戻る。

 

 「だあっ!」

 ヒュンッ

 「くっ…」

 ガキンッ

 「どうした?天下無双流の使い手がこの程度か?」

 「っ…」

 技を使わないユーリの剣を難なく防ぎ、

 カランッ

 「あっ…」

 そのまま受け止めていた右手でそれを払い落とす。

 ユーリは急いでそれを取りに行くが、

 キュイイイン

 魔王が光線をチャージし始める。

 「マズい…」

 そう思った矢先、

 ガキィンッ

 「‼︎」

 魔王の腕を剣が弾き、チャージしていた魔力が霧散した。ユーリが振り向くと、そこにはシオンが立っていた。剣で魔王の腕を押さえている。

 「シオン…」

 「いいから…早く‼︎」

 シオンが呟き、その言葉に従い、急いで剣を拾いに手を伸ばす。

 ガシッ

 「よし!」

 急いで立ち上がり、

 ズササッ

 スライディングで魔王の横に回り、

 『天下無双流・瞬天!』

 サァンッ

 シオンに加勢する。

 「ふむ…ここで片付けて、早く帰らねば。」

 右腕に先程付けられた傷を見ながら、軽く呟く。その時、

 スタタタタタッ

 背後から足音が響く。そして、

 トストストスッ

 「ぐっ…」

 魔王の背中に何かが突き刺さる。見ると、

 「アキラ‼︎」

 アキラが走ってきて、ナイフを投げていた。シオンとユーリの喜びの声が重なる。

 「き…貴様ら…」

 背中に刺さったナイフを眺め、魔王が呟く。魔王の声に怒りが混ざり始める。

 タッタッタッタッ

 アキラがこちらに向かって駆け出す。

 ビュンッ

 アキラが跳び上がり、

 ズボッ

 その勢いのままナイフを引き抜く。そして、

 スタッ

 シオン達の元に着地する。今,シオンのパーティーと魔王が、完全に正面からぶつかり合う形になった。

 

 「撃て!」

 「了解〜。」

 ヴァルプの号令に合わせ、

 ダァンッ!

 チガネが弾丸を放つ。

  

 「ルマーニュ、危ない!」

 飛んでくる魔弾を見たリナルドが叫ぶ。

 「‼︎、っ!」

 だが、ルマーニュもそれを聞いて、

 ブゥンッ

 魔法防御のバリアを展開し、

 ガキッ

 その魔弾を防いだ。

 「最小限の面積の防御を貼りました。皆さん、離れないでください!」

 ルマーニュが号令をかけ、それに応えてリナルドとオルランドが動く。

 「オルランド、こっち。」

 まほなが呟き、オルランドに手招きする。

 「お、おう…」

 オルランドが近づくと、まほなの方も

 ブゥンッ

 バリアを展開する。それと同時に、

 ダァンッ!

 銃声が鳴り響き、彼らに命中する直前で

 ガギッ

 防がれる。

 

 「くっ…当たらない…」

 「よほど腕利きの連中かと…こちらとしては不愉快極まりないですね。」

 ヴァルプが苦虫を噛み潰したような顔でクーゲルと話しながら次の狙撃の準備に入る。

 

 「こっちも攻めるよ、オルランド。」

 「おう…でもどうやって…」

 まほなが杖に魔力を収束させ、

 「ボルファイザー!」

 チュドォオォン

 呪文を唱えた。そこから魔弾の飛んで来た山に照準を合わせ、炎のレーザーが放たれる。

 

 「何か飛んで来てない?」

 チガネがクーゲルに問いかける。

 「ふむ…確かに魔力の気配はありますが…」

 「どれ…」

 ヴァルプが様子を見に近づいたその時、

 ドジュウウウウウッ

 「うぐっ…あああっ‼︎」

 彼女の右目に炎のレーザーがかすった。

 「ヴァルプ様!」

 右目を押さえてうずくまるヴァルプの元にクーゲルとチガネが駆け寄る。

 「はあっ…ああっ…」

 痛みに悶えながらも、

 「総員…射撃準備…」

 「…」

 次の攻撃の指揮を取る。

 

 「一気に行くぞ!」

 「おう!」

 シオンが号令をかけ、アキラとユーリがそれに応える。

 「三人で正面から来るとは…かかって来い!」

 魔王がきっと睨み付け、今までにないほどの威圧感を放つ。だが、

 「ここで…お前を倒す!」

 全員が屈することなく、戦う構えを取る。

 「…ならば、こちらから行くぞ!」

 魔王が姿を変え、斧とマチェットを装備する。

 「どうする、シオン?」

 「アキラ、お前は右、俺は左を攻めるよ。」

 「分かった。」

 作戦会議もそこそこに、アキラとシオンが散開し、ユーリはシオンの方に回った。

 

 「ハアッ!」

 アキラが棍棒を構え、それで打ちすえるように構える。

 「甘いな…いや、もしかしたらな…」

 魔王が当然のように斧の柄を構え防ぐ体制に入ったが、アキラはそれを待っていたかのように,

 パッ

 棍棒をしまい、

 ビュンビュンッ

 代わりに追加で2本生成した銀ナイフを投げる。

 「ふむ…斬撃で来ると思ったが、遠距離とはな…不意を突かれたな。」

 手を焼かれながらも,

 カランカランッ

 ナイフを引き抜いて、投げ捨てた。

 「…」

 (あまり効果的じゃないか…?)

 ズササッ

 一気にその投げ捨てられたナイフに近づき、

 サンッ

 残っていた一本のナイフで右腕の傷を裂き、落ちていた2本のナイフを拾う。

 スッ…

 拾ったナイフを消し、

 ズズ…

 先程まで持っていた棍棒を再び生成する。

 

 『天下無双流・屠薙‼︎』

 ズバァッ

 ユーリが前に出て、魔王を切り付ける。今までにも増して力強く振るわれ、

 ギィンッ

 魔王がマチェットで受け止めたが、マチェットの方が刃が薄かったせいで、少しその部分がへこんだ。

 「くっ…厄介だな。」

 ガンッ

 魔王がマチェットを振り上げ、ユーリの剣を弾く。

 「うわっ…」

 ユーリが体勢を崩すが、その隙に

 「だぁっ!」

 ドスッ

 「なるほどな…」

 シオンがガラ空きになった胴体に突きを打ち込む。

 「最初から、そのつもりだったようだな…」

 血が流れる左脇腹を押さえながら呟く。

 

 「ふむ…こちらも行こうか。」

 ダッ

 魔王が斧を構え、近くにいたアキラに近づく。

 「来る!」

 アキラが魔王に気付き、防御の体制に入る。

 「まずは一人…となれば良いがな。」

 ビュンッ

 魔王が斧を振り下ろし、

 「危なっ!」

 ガギギッ…

 それをすんでの所でアキラが棍棒で受け止めるが、棍棒に少し刃が食い込んだ。だが、

 スカッ

 アキラが突然棍棒を消した。斧を通してアキラの棍棒に力をかけていた魔王の体勢が崩れる。斧がかする前に、

 ズササッ

 スライディングでさらに距離を詰め、

 ダスッ

 腹部に隠し持っていたナイフを突き立てる。

「厄介な魔法だな…だが、是非欲しい。」 

 ズボッ

 そして、アキラが腹からそのナイフを引き抜く。

 

 「彼らの相手もせねばな…」

 マチェットを構え、

 カツッ カツッ

 シオンとユーリの方に向かう。シオンとユーリも構えるが、もう少しでこちらに来る。そう思った刹那、

 ダッ

 「‼︎」

 魔王がペースを上げ、一気に距離を詰め出す。シオン達も素早く動く。

 

 シオンが魔王の胴体を横薙ぎに切り払おうとする。しかし、

 ガキンッ

 魔王が黙ってやられる訳もなく、

 ギギギ…

 マチェットで受け止められた。

 

 (この隙を…逃さない!)

 ザザザッ

 ユーリが魔王の右腕側に回り、

 『天下無双流・断天‼︎』

 ザンッ

 下から上に切り上げる。が、

 「甘い。」

 ガギッ

 斧の柄であっさりと受け止められてしまった。

 ギリリ…

 

 だがその時、

 ドォオオオンッ

 「がほっ‼︎」

 魔王の後頭部がグワンと大きく揺れた。見ると、

 「アキラ‼︎」

 「ナイスぅー‼︎」

 スタッ

 戦鎚を持ったアキラが立っていた。

 「俺もいるんだよ‼︎」

 「ああ、忘れてないって。」

 「そうだよ。」

 「…ならいいけど。」

 アキラが心なしか何か不服そうに呟く。よく見ると、銀ナイフも棍棒も消えていた。

 (これを生成して良かったよ。マジでジリ貧になるとこだった。)

 

 「貴様ら…よくも…我々の平穏を…」

 魔王が体勢を立て直し、怒りの混じる声で吐き捨てる。だが、こちらもこの調子だ。

 (きっと…俺たちなら勝てる!)

 彼らは確信した。3人での勝利を。

 各々が、武器に魔力を込める。もう、出し惜しみはしない。

 

 「まずはこちらからだ。」

 ポポポポポポッ

 魔力を球体にして何個も背後に浮かべる。

 (球体の発射とあの光線…どっちだ…まるで判断がつかない。)

 だが、

 (見えた!)

 シオンの目には、球体の形が解けていく様子が見えた。

 「みんな、一気に近づけ!今からあの光線が来る!」

 シオンが力いっぱい叫ぶ。

 「…分かった。」

 「了解。」

 ダッ ビュンッ

 二人が一気に魔王の懐に入る。

 「…っ‼︎」

 「でぇいやっ!」

 ドォンッ シャキィンッ

 アキラとユーリが同時に攻撃を叩き込む。

 (ここで!勝つんだ!)

 (ここで…俺たちの使命を果たす!)

 戦鎚に、剣に今まで積み重ねて来た思いが、勇者パーティーとしての使命感が、今やらなければ死ぬという危機感が、全て込められる。

 「これは…」

 「また来たかも…」

 二人が目を合わせる。

 『魔突閃‼︎』

 魔力が赤黒く変わり、

 ドゴォオオオオオンンン‼︎

 攻撃が3倍以上の威力に跳ね上がる。

 「ぐっ…魔突閃か…どうやら、見くびっていたようだな。」

 

 (俺もやらないとな。)

 アキラ達が攻撃で開いた隙を突き、シオンが突撃する。

 「はあぁッ!」

 ドスッ

 剣を突き立て、

 「ぐうう…」

 ギリギリと力を込める。

 「うぐっ…」

 深く刺さったところで、

 ズボッ

 勢い良く引き抜く。その勢いで魔王がよろめく。だが、

 「普通に殴り合うのも、たまには良いだろうな。」

 魔王の手足が突然金属の装甲に覆われる。すると、

 ドシュウウウウ

 「‼︎」

 (確かに…“紅の闘牛”の能力は受肉で失ってる。なら、これは何だ?)

 そこが赤熱し始めた。

 「ふむ、使い勝手がいいな。」

 ドゴッ

 素早く構え、拳を突き出す。だが、

 (急に動きが変わった。今は見切れる。でも相手にギアが入ったら…)

 スカッ

 シオンにとって、避けることはそう難しくなかった。その時、

 ドガッ

 「うっ…」

 「腕だけではないぞ。」

 シオンの脇腹に回し蹴りを打ち込む。

 ドジュウウウ

 「熱っ…」

 赤熱した装甲が、シオンの脇腹を焼く。

 (マズい!この能力をなんとかしないと…まともに攻められない!)

 その時、ふとシオンの脳内に今まで能力を無効化した時のことが浮かんだ。

 (“鈍色の木枯らし”の時は刀を折ったら消えて…鉤爪の別の鈍色とか言われてた奴も鉤爪を壊したら消えた…それにあのホルンだって…という事は…)

 何かを思いついたのか、

 ガギンッ

 右腕を狙い、剣を振り下ろす。

 「ふむ、何を…まさかな。」

 もう一度剣を構え、

 「らあっ!」

 ブンッ

 横薙ぎに切り付ける。

 (ここを何とかして、勝つんだ!皆で!)

 魔王に触れようとした時、仲間との思い出、勇者としての使命、ここで勝つ決意が、それら全てが剣に乗り、

 「来た!」

 魔力を赤黒く染める。

 『魔突閃‼︎』

 バギィンッ

 全力の込められた斬撃が3倍以上の威力に跳ね上がり、

 ガギギギギッ…

 剣が魔王の右腕に食い込む。

 「くっ…」

 吹き飛ばそうと魔力を解放しようとしたその時、

 バギッ ガシャンッ…

 「間に合わなかったか…」

 金属製になった魔王の右腕が地面に落ちた。それと同時に、魔王の姿がぱきん、と音を立てるように元に戻る。

 (やっぱりだ!あの能力で作った武器は、完全な機能を失うと使えなくなる!)

 

 魔王ファジツの魔法・模倣解析ミミクライズ


 魔王ファジツの能力。それは、倒した相手の能力を奪い、使用するものだと思われていたが、殺害した対象の魔法及び武器を解析し、顕現させる魔法である。また、その能力を肉体の一部に保存し、他者に摂取させて元の対象を蘇生することもできる。だが、この魔法で顕現させた武器は鈍色の木枯らしの時のように刀だけが折られた、などセットの状態の武器でも完全な機能を失うと二度と顕現させることは出来なくなる。

 


  「ここまで追い詰められるとはな…」

 魔王の姿が元に戻ったが、右腕は切り落とされていた。

 「そっちまでシンクロしてんのか。」

 シオンが言い放つ。だが、さすがは魔王。マリアほどでは無いにせよ、高い再生能力でもう回復が始まっていた。

 「しょうがない。もうこうするしか無いようだな。」

 「‼︎」

 魔王の雰囲気が明らかに異質になる。まるで一人分の肉体に強引に複数人を押し込んだような雰囲気に、姿が2種類別々の姿を叩き割ってその破片を繋いだような姿に変化する。先程マチェットを持っていた青いツナギ姿と、似たようなオレンジ色のツナギにチェストプレートを身に付けた姿が混ざり合う。マチェットの反対の手には、小刻みに輝きを放つサバイバルナイフを大型にしたような見た目の剣を持っていた。

 

 (こいつはヤバいかもな…でも、やるしか無い!)

明らかに異様な雰囲気。だが、シオンも覚悟を決めた。

 「ならば、こちらから攻めようか。」

 ダッ

 魔王が一気に駆け寄る。その時、

 キィイイン…

 小刻みに輝く剣の方から不快な音が響いた気がした。あと少しで互いの間合いに入るその時、

 ガキンッ

 剣を振り下ろし、シオンの方から仕掛ける。魔王はマチェットで止めるが、

 スパッ

 一瞬出来た隙を突いて左手に持った輝く剣で脇腹を切り裂く。

 「うわっ!」

 急な痛みに驚き、後ろに下がる。

 (あのパワー、あのスピード、それにあの装備…特にあのナイフみたいな剣。どれを取っても厄介だな。)

 傷を見ると、ガタガタに裂かれていて、綺麗に切られた場合より強く痛みを感じた。

 (もしかしてあの剣…振動してるのか?ハンマーの奴みたいな変な音もしたし。)

 「おい。」

 「どうかしたのか?」

 その勘が当たっているかを確かめるため、魔王に問いかける。

 「その剣、振動してるだろ?使いづらくないのか?」

 「ああ、お前は半分正解で、半分不正解だ。振動はしているが、切れ味もよく使いやすいぞ。」

 シオンの問いに、当然のように応える。

 「そうか。でも、どうでもいい。」

 「フッ、聞いておいてその反応か。」

 魔王は鼻で笑い、気にすることなく構え直す。


 魔王の持つ輝く剣。正式には振動刃と呼ばれ、持ち手に仕込まれた振動する魔法道具マジックアイテムのおかげで名前の通り刃を振動させている。その振動が、刃の切れ味を何倍にも高めている。

 

 魔王の剣の秘密が分かったが、シオンには未だに疑問が残っていた。

 (どうして急に武器を2個も?それにあのいびつな姿は?)

 だが、魔王は攻めの手を緩めない。

 ダッ

 足を踏み込み、一気に距離を詰める。

 「来るか…」

 シオンも構え、

 ガンッ

 魔王の攻撃を止める。

 ブゥウウウン…

 「うう…」

 今度は振動刃の方を振り下ろしてきた。そのせいで、シオンの手にブルブルと振動が伝わる。


  (早く弾かないと…)

 シオンは、このままでは剣が折れてしまう、そんな気がした。だから、

 「だっ!」

 ドンッ

 魔王の腹部に前蹴りをかまし、

 「はぁ…」

 強引にでも距離を取る。

 トッ ストッ

 互いに距離を空けて着地する。その時、

 『天下無双流 九段くだん蒼陽対そうひつい

 バスバスバスッ

 「…っ!」

 魔王の体の九箇所に傷がつく。見ると、

 「ユーリ!」

 「俺もいるんだぞ。てか魔王のその姿何なんだ?」

 魔王の背後にユーリが立っていた。

 「俺もわからん。ただ可能性としたら、使ってる力が一人分じゃないのかも。」

 「つまり、別々の二人の力を同時に使ってる、ってことか?」

 「多分ね。」

 シオンが立てた推測、それは魔王が自分の肉体に2人以上の能力を同時に顕現させているというものだ。その証拠に、魔王の今使っているマチェットは、もうシオン達も目にしたものだった。

 

 「魔王さん、こういうのもどう?」

 「む?」

 突然丸い何かが魔王の足元に転がり、

 「シオン、ユーリ、急いで離れろ!」

 「まさか…」

 アキラの叫び声が聞こえる。それに従ってその場を離れると同時に、

 ドオォオォオオォオオオン‼︎

 大きな爆炎が上がった。

 煙が晴れると、

 シュウウウ…

 そこにはマチェットの刃が根元から折れていながらも、服が焦げ、軽い火傷を負った魔王が立っていた。

 (マズい!全然効いてない!)

 「この能力は気に入りだったのだがな。」

 魔王の身に付けていた青いツナギがシュウ…と溶けるように消え、代わりにあのチェストプレート付きのオレンジ色のツナギに変わった。

 (やっぱり…同時に顕現させてたんだ…)

 シオンの中で、疑問が氷解した。だが、魔王がまだ生きていることには依然変わりない。ここが正念場、全員がより一層気合を入れる。

 

「なら、これを混ぜてみるか。」

 魔王が少し意味深に言い放ち、煙管きせるの付いた片手鋸かたてのこに白いシャツの姿をあの青いツナギのあったところに顕現させる。

 「…ふう。こちらも、ギアを上げていこうか。」


  煙を吸い込み、ぷかりと吐き出す。おそらく自己強化用の成分だろう。だが、魔王は煙管付きの鋸を振るい、

 モワッ…

「ケホッ…何をしてんの!」

「うわっ、煙たっ!」

「うえっ…最悪。」

 シオン達の方にも煙を撒き散らす。

 (何が目的だ?何がしたい?)

 煙を撒き散らした意図も掴めず、ただ煙を吸い続けてしまった。それが後々恐ろしいことになるとも知らず。

 

 その時、シオン達はあることに気がついた。

 「なんか、行ける気がする。力が沸いてきた。」

 「お、俺もだ…」

 「今なら…行けんじゃね?」

 全員が戸惑いながらも湧き上がる力を感じる中、シオンの頭の中に声が響く。

 [待て。ただの強化用の成分なわけないだろ。なら、お前達に吸わせる理由がない。]

 「ならどうして…」

 [おおかた副作用でもあってそれをこっちに起こさせて有利になるのが狙いってとこだろうな。]

 「なるほど…」

  

  その時、

 「お喋りは済んだか?」

 ダッ

 魔王がこちらに向かってきた。

 キィイイイン…

 (来た!)

 刃の震える音がユーリの耳に届く。

 ガンッ

 ユーリが振りかざされた振動刃を受け止める。振動は感じるが、攻撃を止めるのに影響するほどではなかった。だが、

 ツー、ポタ…

 「…‼︎」

 ユーリの手から、地面に血液が落ちた。

 (俺は何をされた?アイツは何をした?)

 ユーリの脳内に疑問が駆け巡る。そうしているうちにも、

 「どうした?何かおかしいことでもあったか?」

 ギリリッ…

 「ぐっ…」

 (早く…この出血のカラクリを暴かないと…)

 振動刃の押し付けられる力はどんどん強まっていく。

 

 「ユーリが今は魔王を止めてる…なら俺が…」

 ズズズ…

 棍棒を生成し、応戦する準備を整える。そして、

 タッタッタッ

 魔王の左側に向けて走る。魔王に気付かれぬよう静かに、それでいて素早く近づく。すぐ近くまで近づき、

 ビョンッ

空中に跳び上がる。そしてそのまま、

 ドンッ

魔王の頭部を横薙ぎに打ち付ける。 だが、

 「甘いな。」

 スカッ

 「チッ…」

魔王も頭を横にかしげ、あっさりとかわされてしまった。だが、彼は外したことを悔やんでいる様子はなかった。

 (今だ!行け!)

 ダッダッダッダッ

 アキラが響く足音に目をやると、シオンが剣を構えて魔王に向かって駆け出していた。

 「えいっ‼︎」

 ズバァッ

 シオンが剣を振り下ろす。すると、

 (何だ?いつもより力が入る!)

 「…っ」

 煙を吸う前より深く剣が食い込んだ気がした。相手が脆い、というよりこちらの力が強くなった気がした。だが、

 ピシシッ

 「いっ…」

 手に痛みが走る。おそらく骨にヒビが入ったのであろう。

 (なんで…まさか!)

 ー[おおかた副作用でもあってそれをこっちに起こさせて有利になるのが狙いってとこだろうな。]

 さっきのあの声が言っていたことだ。そのおかげで、シオンは気付く。これは煙のせいだと。

 「みんな、あの煙を吸うな!」

 シオンが叫ぶ。すると、

 「チッ…もう気付くとはな。」

 魔王が舌打ちをしながら、白いシャツと片手鋸を溶かすように消し去る。

 (タネが割れた以上、この作戦は使えんな…)

 

 先程の煙。正式には強化煙と呼ばれるもので、ヴィルカシアでよく使われている物だ。吸引した者の身体能力を強化する効果がある代わりに、肉体の耐久性を下げる副作用がある。よく使われるヴィルカシアでも副作用のせいであまりメジャーではないが、副作用の無効化手段も一応は確立されており,その強力さ故に一部から根強い人気がある。

 

 「みんな、奴の武器を壊せ!」

 シオンが脆くなった喉で叫ぶ。

 「‼︎」

 その声にアキラとユーリが気付く。

 「どうして急に…」

 「そしたらあの剣を封じられる…」

 「なるほど、わかった!」

 魔王の能力のタネを、ユーリ達に伝える。

 「…」

 魔王は沈黙するが、明らかに動揺しているのがわかる。

 「行くぞ!」

 「…うおおお!」

 シオンの号令で、全員が雄叫びを上げる。

 (あの厄介な剣…早いこと封じないとマズい…)

 振動刃を見ながら、どう破壊するか、思考を巡らせる。

 (全員で散開して回り込むか…いや…いっそのこと…)

 剣を破壊する。その目的のため、どう動くか、それを決めないとあの振動刃に切り刻まれるだけだ。だが、

 「一気に行こうぜ!」

 「…アキラ!…ああ。」

 アキラの提案で、

 ダッ

 全員が剣を狙って一直線に走る。

 「ふむ。まとめて斬られに来たか。」

 魔王が振り向き、剣を構える。ブゥン…と振動音が響く。

 「俺が先陣、切らせてもらうぜ!」

 ガギィンッ

 ユーリが振動刃を受け止め、そこをアキラとシオンが狙いに行く。

 「そう来たか…なら…」

 魔王の体の周囲に紫色の魔力が集まる。そして、

 ズドォンッ

それを一気に周囲へと放つ。

 「うおっ!」

一番近くにいたユーリが気付き、

 ドッ

魔王を蹴り飛ばして距離を取る。

 ザァンッ

全員がそれぞれ放たれた魔力を切り払い、攻撃を防ぐ。

 「防がれたか…だが…」 

 もう一度振動刃を構え直し、

  タッ

シオン達に迫る。

 「来るぞ!」

 シオンが

 ガギッ

 振動刃を止め、

 「二人とも、今だ!」

 アキラとユーリを呼ぶ。

 「ああ!このチャンス、無駄にはしないぜ!」

 アキラが空中から飛びかかり、

 ゴンッ

 振動刃に棍棒を打ち付ける。

 「そう来るか…」

 ミシミシと振動刃が音を立てる。そこに、ダメ押しのように

 『ダブルスレイヤー』

 ユーリが攻撃を打ち込む。

 「ぐっ…」

 ピシシッ

 振動刃から異音が響き、

 「行っけぇええ!」

 それを見逃さずにシオンが剣を押し込む。アキラも、ユーリもそれに呼応するように力を込める。そして、

 パキンッ

ついにその時が来た。

 シュウウウ…

「くうっ…」

あのオレンジのツナギとチェストプレートが消え始める。そこを逃さず、

 ガスリッ

シオンが腹に剣を突き刺す。

 「…⁉︎」

 魔王は目を見開くが、すぐに冷静になった。

 「良いだろう…全て、お前らにぶつけてやる。」

腹に剣が刺さったままニヤリと笑い、

 ビキビキビキッ…

肉体を異形に変形させ始める。 

 「…何をする気だ?」

 すると、薙刀や刀、メイスなどの多種多様な武器を構えた腕が背中から何対も生え、目も8つ程に増えた。姿も、色々な人物の物だったであろう物が全身にツギハギになっていた。

 「こ、これは…」

 『ワ私の持つスベての力をオマえらにブツけてやル…』

 今まで奪って来た力の元の人物複数人の影響を受けているのか、意識が混濁してきているようだった。

 (ここで勝てば、ついに終わるんだ…)

 空気がビリビリと震えるような圧倒的な力を感じる。だが、ここさえ乗り切れば。勝って平和を掴める。そう確信した。

 「みんな!ここで決めるぞ!」

 「おお‼︎」

 シオンが叫び,全員に気合いを入れていく。

 全員が別々の方向から魔王に飛びかかる。だが、

 『あマイ!』

 ズドドドドドッ

 「うっ…」

 背中から伸び、武器を構えた手が、彼らを襲う。しかし、

 「…不規則だな?」

 今までと違い、狙いも定まらず、ただ闇雲に振り回しているだけのように見えた。

 (このぐらい隙があれば…)

 距離を取って、ユーリが魔王の腕をじっと観察する。しかし、

 ガショションッ

 「…‼︎」

 突然何本かの腕が銃を構え出し、

 ズドドドドドッ

 「うわっわっわっ!」

 ただひたすらに乱射し始めた。一発一発自体は狙いも定まっておらず、避けることは容易だった。だが、彼らを

 「うっ…」

 「ぐふっ…」

 数発の弾丸が傷つける。定まらぬ狙いを、圧倒的な物量でカバーしているのだ。

 『ふム…一人ドコかに消エたか…』

 意識が少しずつはっきりしてきたのか、8つの目を全てギョロギョロとうごめかせ、シオン達を見つめる。ふと横を見ると、ユーリの姿が消えていた。

 (一体どこに…)

 その時、

 『天下無双流 奥義!』

 力強く、聞き馴染みのある声が頭上から聞こえた。

 『神鬼滅殺‼︎』

 剣が大きく唸りを上げ、人の域を超えたスピードで背中から生えた腕に突っ込んでいく。

 『ソんなバかな…』

 銃身と銃を構えた腕がバラバラに切り刻まれる。

 カランカラン…

 ボトッ…

 切り刻まれた銃身と腕が地面に散らばる。

 「…一気に…決めろ!」

 ユーリが上がった息で叫ぶ。

 「…」

 シオンもアキラも、無言で頷き、それを返事とした。

 シュッ シュバッ

 魔王の上の方を目指し、斜めに跳び上がる。アキラは棍棒とナイフを消し去り、戦鎚を構える。シオンもそのまま剣を振り上げる。

 グルンッ

 アキラが宙返りを決め、

 ダァンッ

 腕の塊に戦鎚を打ち付ける。ボキボキと骨が折れ,打ち付けられた腕が変形する。そして、

 「後は任せろ!」

 サァンッ

シオンがそこを狙い、剣を振り下ろす。

 「うあ…ア…」

 切り裂かれた傷から血が溢れる。

 

 ーああ、私は何をしたかったんだ?そうだ、思い出した。私は知りたかったんだ。平穏を手にする方法を。そして、平穏な世界を作りたかった。そのために、与えられた魔法を使いまくって…殺して…取り込んで…いつの間にか、壊しすぎていた。守りたかった魔族も、忌々しい人間も。私が魔王になる前、ただの一介の魔人だった。そして、何度も何度も魔王の伝説を聞いた。私は彼…偉大で、力強い魔王に心酔し、自分もそうありたいと強く願った。その願いが届いたのか、空白の魔王の座を手に入れるチャンスを得た。最初は動揺したし、驚いた。あまりにも急すぎたんだ。だが、すぐに今がチャンスだと思った。私は空いた魔王の座についた。すると、一人の魔族が姿を見せ、私の前に膝をつき、忠誠を誓ってきたのだ。私は迷うことなく承諾した。…全ては、平穏な世界を作るために。

 

 「ああ…私は…」

 シオンをはっきりと見つめる。

 「なんだ?」

 「壊しすぎた…何をしたいかも分からなくなってきた…」

 「…」

 シオンは沈黙したまま、刃を突き立てる。

 「…決着をつけよう。」

 「ああ。」

 魔王が一言だけ呟くと、シオンも距離を取り、互いに構え直した。

 ダッ ズササッ

シオンが距離を詰め、他2人が空中から攻める。

 サンッ

シオンが正面から切り込み、アキラが

 ダンッ

戦鎚を打ち付ける。

 (出し惜しみはしない…)

『天下無双流・戦鎚!』

 ユーリもアキラの攻撃に合わせるように、斬撃を叩き込む。その部分が大きく凹み、血飛沫が舞う。

 「私は壊しすぎた…だが…私は、もう…止まれないんだ!」

生やされた腕が刃を構え、

 ズザドドドドッ

数多の刃が地面に叩きつけられる。

 ビシシッ…

地面の石畳がひび割れ、破片が散る。喰らえばひとたまりもないことは明らかだった。

 (でも、このぐらい隙があれば…)

 一瞬の隙を縫い、ユーリが

 『天下無双流 九段・蒼日対』

 突きを差し込む。

 「がっ…」

 着実に腕の間を突き刺し、傷を付けていく。傷が増え、

 それに比例して武器が砕け、腕も減っていく。それに比例してか、

 サンッ

「あっぶなっ!」

 攻撃の精度も上昇してきた。

 (ああ、今までの私は…臆病で…脆弱だったのか…)

 自我を取り戻しつつある中、刃を構える。揺らぎそうな自我をぐっと抑え、息を整える。

 (だから、他者の殻に執着していたのか…)

空中のユーリとアキラに向けて、

 バスバスバスッ

「‼︎」  

 鋭く尖った槍を突き立てる。

 「いっ…」

 アキラの脇腹を掠めるが、それ以外はただ空中を突くだけに終わった。

 「アキラ、大丈夫か!」

 「痛いっちゃ痛いけど…まあ、治癒の仮面でなんとかなるでしょ。そこまで酷くないし。」

 アキラは傷を負わされたが、あまり気にする程のものでも無かったようだった。

 アキラ達が構え直したそこに、シオンが割って入る。

 「アキラ!傷の治癒に集中しろ!ここは俺が!」

 「…わかった!」

 アキラとユーリが引き下がり、シオンと魔王が相対する。

 「終わらせようか…」

 「ああ…恨みっこなしだ。」

互いに覚悟を決め、刃を構える。

 「はあっ!」

 ギィンッ

刃がぶつかり合い、火花が飛び散る。

 

 「アキラ、これ付けとけ!」

 「おう。」

 アキラがユーリから治癒の仮面を受け取り、装着する。

 「ここは俺が引き受ける。お前は傷を治せ。」

 「…頼んだよ。」

 アキラが物陰に隠れ、体を休める。

 

 「我々は…平穏を…手にするんだ…」

 「…俺たちだってそうだ。お前らが人間を襲うから戦うんだ。」

 互いの信念が、刃がぶつかり合う。金属音が鳴り響き、熱気が漂う。

 「平和を掴むのは…悪いが俺たちだ。」

 シオンが魔王の刃を弾き、

 『天下無双流 奥義!』

 『神鬼滅殺!』

 そこに合わせるようにユーリが残った腕を切り払う。

 「今だ!やれ!」

 「おう!」

 ユーリの合図に合わせ、今までの思い出、ここで終わらせるという決意、死んでいったソウヤの思いが刃に込められ、再び、いや三度みたびか、魔力を赤黒く染め上げる。

 『魔突閃‼︎』

 全身全霊、今までの旅の全てを込めた刃が、魔王にぶつかろうとする。だが、魔王もーファジツもそれをかわそうとはしなかった。

 (ここで…終わるのか…まあ、当然だ…壊しすぎたから…)

 ギギ… ブシュッ

魔王の体に触れた刃が押し込まれ、脇腹を裂いていく。

 「これで…終わりだぁあぁっ‼︎」

 魔王の表情は死を恐れて絶望するでも、苦痛に顔を歪めるでもなく、安らかだった。

 「…生まれ変われたら…平和な世界でまた会おうよ…君のことを…もっと知りたい…」

 絶えかけた息で呟く。

「…会えたらな。」

 シオンも、その言葉を否定するようなことはしなかった。ファジツの体が崩れ出し、風に散っていった。

 

 「すまんシオン!遅くなった!」

 ユーリがアキラを連れて駆けてきた。アキラが目の前の光景を見て思わずツッコむ。

 「シオン、もう終わったの?」

 「…ああ。」

 「マジか。」

 あまりに衝撃的な真実。二人とも事態が飲み込めず、遅れて歓声を上げる。

 「やったぞぉおおお‼︎」

 「勝ったぞおおおぉおおお‼︎」

 その声を聞き、ぞろぞろと移動中の勇者達が駆け寄ってくる。

 「魔王を倒したのか⁉︎」

 「すげぇな!」

 自分の獲物を盗られた。そのような発言をする者はもはやいなかった。無理もない。彼らのおかげで、戦いから離れた平穏が約束されるのだ。

 だが、

 「ドッ…」

 彼らの平穏は、全てを切り裂く魔法によって破壊された。

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