さんざんな俺らの魔王討伐記

第23話 限界突破、完全開放‼︎

第二十三話　限界突破、完全解放‼︎

　「ハァ、ハァ…」

　(今，出すしかない‼︎)

　３人の思考が重なる。全員が全員、追い込まれ、体に力が入る。ここでやらなければ、終わりだ。

　「ここで…決めるっ‼︎」

　ユーリの拳を、赤黒い魔力が覆う。今やらなければ死ぬという緊張感。ここで勝ち、魔王を倒すという使命感。追い込まれた危機感。これらが一体となり、拳に赤黒い魔力を纏わせる。

　(出た‼︎これなら、勝てる‼︎)

　勝利を確信して、力を込めて拳を構え、

　「魔突閃‼︎」

　ドガァンッ‼︎

　ヨネットを殴り付ける。

　「素手なら…これで…」

　ガキッ

　サーベルで受け止めようとするも、

　「‼︎」

　パキンッ

　ヨネットが目を見開く。受け止めるのに使ったサーベルが、砕け散ったのだ。

　メリリッ…

　そのままユーリの拳が腹部に食い込む。

　「あぐあっ…」

　ドガァンッ‼︎

　魔突閃で威力が跳ね上がった拳は鋭く、

　「くぅ…」

　ズザザッ

　後方に押し出されてしまうほどだった。

　「ケホッ…甘く見すぎたわね…」

　こぷり、と血を吐きながら拳を構える。

　「一気に決める！」

　ユーリが拳を構え、

　ドドドドドドッ

　「ううっ…ぐっ…」

　素早いラッシュを叩き込む。

　「ハァ…、私も少し、暴れようかしら。」

　ヨネットも拳を構え、

　「フーッ、フーッ…」

　息を整える。

　スタッ

　一旦後ろに飛び退いて。

　(一旦この距離から…)

　拳を構え、

　「呼哭（アンプリート）」

　ドォンッ

　衝撃波を打ち出す。

　(来る‼︎てかそんな使い方もあるのかよ‼︎)

　ユーリが打ち出された衝撃波に気付き、

　ズザザッ

　「‼︎」

　(そう来るのね…)

　スライディングでかわし、自分の間合いに持ち込む。そして、

　「りゃあっ‼︎」

　ドガッ

　「うっ…‼︎」

　腹部を勢い良く蹴り上げる。

　ズザッ…

　「結構…やるわね…」

　ヨネットが少しふらつきながら拳を構え直す。ヨネットの拳に魔力が集まる。

　(来るか…？)

　ユーリが攻撃しようとした時、

　「ハァッ‼︎」

　拳を突き出し、

　ドガッ

　ヨネットがユーリの打撃に合わせて拳で相殺する。そこに、

　「ふふっ」

　ドガァンッ

　「うッ…」

　衝撃波を打ち込む。

　バキャッ

　「ううっ…」

　(マズい‼︎骨が…)

　ユーリが顔をしかめるが、すぐに再び戦う体勢を整える。

　「お…りゃああぁっ！」

　体をひねり、

　ドガッ

　全力で脇腹に蹴り込む。

　「くっ…」

　(厄介ね…速いから呼哭（アンプリート）でのカウンターも間に合わない…)

　ユーリが逆転し、逆にヨネットが押されている。

　(あと少し…ここで…勝つ‼︎)

　ユーリの拳に，一層力がこもる。

　「俺が…やらなきゃ‼︎」

　アキラの棍棒が、赤黒い魔力に覆われる。

　「！！」

　それを見たポーテが動揺した様子で目を見開く。

　勝たなきゃ死ぬというその緊張感。勝って魔王を倒すという使命感。追い込まれた危機感。これらが一体になり、棍棒に赤黒い魔力を纏わせる。

　(出た‼︎これで…勝てる‼︎…いや、勝つ‼︎)

　勝利を決意し、確信する。力を込めて棍棒を構え、

　「魔突閃‼︎」

　ドゴォンッ‼︎

　力いっぱい振り下ろす。

　「来るか…」

　ガギッ

　ガントレットで受け止めるも、

　ビキキッ

　「なっ…」

　ポーテが目を見開く。

　ピキッ　パキンッ

　ガントレットの方がへこみ、ひび割れたのだ。

　ミシシッ…

　「うぐっ…」

　腕に棍棒が食い込み、骨がひび割れる感触がした。

　「くっ…危ねぇな…」

　ジジ…ボウッ

　両方の拳に炎を纏い、構える。

　「ハアッ‼︎」

　ビュンッ

　ポーテが勢い良く拳を突き出すも、

　「来た‼︎」

　スッ　スカッ

　素早くかわし、難なく相手の懐に入る。

　「チッ、すばしっこい奴め…」

　しびれを切らし、

　シュオオオオ

　下に構えた拳に炎を集め、

　「獄秀車（リンボユール）‼︎」

　ゴオオオオオッ

　地面に向けて炎を放つ。

　「うわっ！！」

　攻撃をかわし、

　「僕が…やるしか…ない‼︎」

　拳を構え、力を込める。

　「！！」

　炎が当たったところを見ると、

　ジュウウ

　地面が少し溶け，赤熱していた。

　「でりゃあっ‼︎」

　全力で剣を振るうも、

　「速い…だが…」

　ガキンッ

　あっさりハンマーの柄で受け止められる。

　(強い…このままじゃラチが空かない…)

　そんなことを考えているうちに、

　「素早しっこいな…」

　一瞬、隙ができた。

　(今しかない！)

　シオンが身をかがめ、魔王を急襲する。

　サンッ

　「‼︎」

　足を少し切り裂くも、

　「生意気な…」

　ドゴォッ

　ハンマーの柄の端をシオンに打ち付け、

　ビィイイイン

　「ううっ…」

　シオンの体を震わせ、ダメージを蓄積していく。

　ストッ

　着地し、シオンが体をプルプルと震えさせながらも立ち上がる。

　「ここで…お前を…倒さないと…」

　しかし、

　「ああ、無謀な奴だな。」

　ドギャッ

　「あがはっ…」

　ハンマーが打ち付けられ、

　ドサッ

　シオンの体が地面に崩れ落ちる。

　「っ！！」

　ドゴッ

　「…ッ、やるわね…」

　ユーリがヨネットのみぞおちに拳を打ち込む。

　(クソッ、剣がないとダメか…全然致命傷にならない…)

　予想以上の実力を察知したヨネットも、傷の大きいユーリも、互いに焦っていた。

　(あれは…ユーリ‼︎)

　(剣は…折れてる。なら…)

　ズズズ…

　剣を生成し、

　「何をしている⁉︎」

　「でぇいっ‼︎」

　ビュンッ

　ユーリの方に投げる。

　サクッ

　その剣が，ユーリの足元に突き刺さる。

　(これは…剣⁉︎まさか…)

　何かを察し、アキラの方を振り向く。

　(大事に使えよ…)

　アキラと目が合い、コクンと頷く様子を見た気がした。

　「おう‼︎」

　シャキン

　その剣を手に取り、

　『天下無双流　屠薙（ほふりなぎ）！』

　ズバァ

　大きく横に薙ぎ払う。

　「ゲホッ…流石に…やばいわね…」

　受け止めるサーベルもなく、最大限の魔力を纏い、防御に転じるも、強化された剣技の前では無力に等しかった。

　「ハァ…剣を持たせる隙があったなんて…私も落ちぶれたわね…」

　血を吐きながら、ヨロリと立ち上がる。

　「一気に…畳み掛ける‼︎」

　棍棒に魔力を纏わせ、手に力を込める。

　「ハァッ‼︎」

　(速い…こうなったら…)

　『獄秀車（リンボユール）‼︎』

　ポーテの右腕に魔力が集まり、

　ゴオオオオッ

　広範囲を焼き払うように炎が噴き出る。だが、

　(見える…今がチャンスなんだ！)

　ズサッ

　スライディングでかわし、

　「フンッ！」

　ドゴッ

　「うっ…」

　足元を棍棒で殴り付ける。

　ミシッ… ピキキッ…

　骨がひび割れる感触はあったものの、完全に折ることはできなかった。

　(まだだ、まだ…足りない…)

　一気に立ち上がり、

　ドギャッ

　「がほっ‼︎」

　顎を下から打ちすえる。

　(思ってたよりガツンと来るな…あまり大振りに攻撃してもマズいな…)

　ポーテが後ろに飛び退き、

　ズズズ…

　右足に炎を纏わせる。

　(拳に炎がない…けど…)

　警戒しながら近づき、

　ギリッ…

　棍棒を構える。脇腹に振りかざさんとしたその時、

　(来た‼︎)

　グウォンッ

　ポーテが勢い良く右足を振り上げ、

　ドグォッ

　「うぐうぁっ‼︎」

　アキラを蹴り付ける。しかし、

　「だあぁっ‼︎」

　ドゴッ

　「‼︎」

　空中に浮かせられたこのチャンスを活かし、頭部を全力で殴り付ける。

　「うぐ…ば、馬鹿な…」

　額から血を流しながら吐き捨てる。

　「まだだ…ここで、お前を…」

　シオンが地面に震える手をかけ、ガリ…と土を引っ掻く。

　「ああ、まだ息があったか。」

　シオンが立ちあがろうとするところを見計らい、ハンマーを構える。剣を支えに立ち上がる。そして、

　ザァンッ‼︎

　 精一杯剣を横薙ぎに振るうも、ピシッ

　 「…ここまでの力を残していたか。」

　 一筋のかすり傷しか付けられなかった。

　 「しかし、もう終わりだ。」

　魔王がシオンの背中に向けてハンマーを振り下ろそうとする。

　「シオン‼︎」

　ユーリとアキラの叫ぶ声が重なり、

　ダッ

　同時にシオンを庇うために駆け出す。しかし、

　グラリッ…

　「なっ…」

　「どうして…」

　先にアキラが、少し遅れてユーリが、

　ドサッ

　地面に倒れ込む。

　(どうして…まさか…)

　アキラが全身に広がるズキズキと痛む火傷を、

　(クソッ…こんな時に…)

　ユーリが衝撃波に砕かれた骨を見渡して気付く。自分たちの身体はもう限界なのだ。そして、

　「存外に苦労させられたな。」

　ゴギャリ

　目の前でシオンに向けてハンマーが振り下ろされる。

　「ああっ…」

　「シオン…シオン…」

　地面に横たわる二人が繰り返し呟く。

　(あれ…ここは…)

　真っ白な空間でシオンが目を覚ます。すると、カムラやホウタと戦った時と同じ声が話しかけてきた。

　『ああ、気付いたか。ここは…まあ…そうだな…お前の精神世界、とでも言えば良い。前も来ただろ？』

　(ああ、じゃあどうして…)

　『簡潔に言うと、お前は瀕死だ。どうする？ここで諦めるか、まだやるか。』

　(そんなの決まってる！)

　ここまで旅をしてきたシオンにとって、答えは決まりきったようなもの。しかし、その声がまだ語りかける。

　『ここで諦めて、俺が変わる事だってできる。まあ、“シオン”としてのお前は死ぬ。』

　ここでこの誘いを飲めばここで魔王は倒せる。しかし、それでは今まで旅をしてきたユーリやアキラと永遠に別れることになる。

　(魔王は倒したい。それが勇者の使命。でも…)

　そうして、シオンの答えが決まった。

　(決めた。俺はまだや…)

　シオンが話している最中に、視界が晴れる感覚がした。それと同時に、

　『ああ、もう助けが来たか。早かったな。』

　その声も消えていった。

　「ああ、別の勇者パーティーか。」

　シオン達の元に、別の４人組の勇者パーティーが集まった。

　「瀕死じゃないか…息は…まだあるか…」

そのパーティーの勇者がシオン達の様子を確かめる。

　すると、突然そのパーティーの魔法使いが前に出た。

　「こいつら…もしかして…」

　「おい、どうした？」

　倒れているシオンの顔を見つめ、

　「やっぱり…」

　何かを確信した。そして、杖をシオンに向ける。そのまま、

　「ど、どうかしたのか、まほな‼︎」

　『…超回復（メガキュアー）』

　呪文を唱えた。

　ポウッ

　シオンの体が優しげな光に包まれ、傷が消えていく。

　「まほな…急にどうし…」

　「ああ、オルランド。顔見知りだったんです…最初にパーティーを組む時に出会ったんです…」

　「そうか、なら止めないが…」

　オルランド、と呼ばれた勇者も彼女の言葉に引き下がった。

　超回復（メガキュアー）。強力な回復魔法で、下位魔法に回復の魔法が存在する。だが、その分魔力の消費も大きい。

　アキラの方に近づき、

　『超回復（メガキュアー）』

　再び呪文を唱える。

　ポウッ

　光が体を包み、

　「あれ…火傷が…」

　あれだけ大きかった火傷が全て、最初から何もなかったように消え失せた。

　その時，事情を汲んだそのパーティーの僧侶が、

　「さあ、これを…！」

　ゴキュリ

　瓶に入ったポーションをユーリに飲ませる。

　「う、腕が…」

　すると、折れ曲がっていた手足が元の形に戻り、軽く傷が残る程度になった。

　「まほな，こいつは少し治しといた。『回復の魔法（キュアー）』で十分足りる。」

　「ありがとうございます、ルマーニュ。あとは私がやります。」

　「了解。」

　ルマーニュ、と呼ばれた若い男の僧侶が後ろに下がる。

　まほながユーリに杖を向ける。そして、

　『回復の魔法』

　ルマーニュの言っていた呪文を唱える。すると、

　ポウッ

　シオンやアキラの時より弱いものの、優しげな光が包み、ユーリの傷が消えていく。

　傷が治ったのを確認した時、そのパーティーの戦士が声を掛ける。

　「まほなは下がってな。魔力を温存しとけ。」

　「分かった。頼むよ、リナルド。」

　「傷が…治って…」

　よろり、とシオンが立ち上がる。

　「よかった、まだノッてる…」

　どうやら死にかけたとはいえ、まだ魔突閃の効果は残っていたようだ。

　「誰が治してくれたんだ…？」

　辺りを見渡すと、駆けつけたであろう勇者パーティーが目に付いた。

　「あいつらが治してくれたんだ…感謝感謝。」

　「傷が治った…一気に決める‼︎」

ユーリが立ち上がり、剣を構える。もう後には退かない。ここで終わらせる。

　「治してくれた奴に会ったら、礼をしないとな。」

　「治った…今なら、いける‼︎」

　アキラが立ち上がり、

　ギリッ…

　棍棒を力強く握る。

　「治してもらった訳だけど…金取られないといいな…」

　心なしか、シオンが振り返った時にあのパーティーの魔法使いと目が合い、その魔法使いがにっこりと笑った気がした。

　それを見て、

　「私も危ないかもね…」

　ヨネットも拳を構え、

　「ここまでしてやられるとはな…」

　ポーテも魔力を手足に纏わせる。

　「さあ、この辺で終わらせないとな。」

　魔王もひび割れるようにハンマーを持った姿を打ち消し、元の姿に戻った。

　三者三様、臨戦態勢に突入した。そして、傷も治り，魔突閃でシオン達もゾーンに入った。これにより、

シオン，ユーリ、アキラの全員が限界を超えた１２０％、いや、それ以上のパフォーマンスを発揮する‼︎