第21話 魔王と魔弾と

第二十一話 魔王と魔弾と

 

 

 「さあ、かかって来い。」

 「…!!」

 緊迫した雰囲気。全員の緊張が高まる。

 「…っ!」

 ユーリが剣を振り下ろす。が、

 ガキンッ

 「やっぱ魔王だしな〜…」

 相手のサーベルにあっさり受け止められた。その時、

 ドガァン!

 「おわっ…!」

 ユーリの体が後ろにのけぞり、

 「痛っった!何をしてんの!?」

 ユーリの体を、殴られたような痛みが襲う。

 「やばなーい?」

 「やばいやん…」

 その時、

 チュドォオォン

 「!!」

 魔王の後ろから魔法攻撃が飛んできた。が、魔王も間一髪でかわした。

 「大丈夫ですか!」

 シオンとユーリ、そしてアキラも両手で丸を作り、頭の上に掲げる。

 「ならよかったです。」

 声のした方を見ると、別の勇者パーティーがいた。

 「あんた何者ー?」

 シオンの問いかけに、それぞれ若い男が、

 「僕は勇者のルドール。」

 おっとりした魔女服の女性が、

 「私は魔法使いのニチアです。」

 壮年の男が、

 「私は僧侶のポロンです。」

 そして弓矢を持った男が、

 「私は狩人のイリアです。」

 自己紹介をした。その時、ふとイリアが呟く。

 「この姿…見たことあるな。」

 そこに、ポロンが続ける。

 「確か、有名な傭兵の“菫色すみれいろ慟哭どうこく”でしたね…」

 その聞き覚えの無い名前に、シオンが突っ込む。

 「いや、“菫色すみれいろ慟哭どうこく”て誰ー?」

 「いや、ほんと誰?」

 ユーリも乗り込み、呆れた様子のポロンが彼らに教える。

 「“菫色すみれいろ慟哭どうこく”…ある地方にいる人狼の傭兵で、実力が高いことからこんな異名がつくほど有名なんですよ。」

 「へー。」

 そこに、カツカツと足音を立てながら、魔王が近づく。

 「いかにも。私が“菫色すみれいろ慟哭どうこく”を殺した。」

 「!!」

 シオン達以外の、ルドール達のパーティー全員の顔が青ざめる。

 「ま、まさか…あの…」

 ニチアは震え上がり、

 「“菫色すみれいろ慟哭どうこく”が殺されるとは…」

 ポロンは悲しそうに呟く。だが、

「敵前でこの様子とは…愚かな。」

 「なっ…」

 魔王はルドールに剣を突き立て、

 「オゴッ…」

  ドガァン!!

  衝撃波を撃ち込んだ。

 「ル、ルドール!」

 パーティーの全員、そしてアキラも叫ぶ。だが、

 グサッ

 「!!」

 ルドールは魔王に剣を突き立て、呟く。

 「みん…な…逃げ…ろ…」

 仲間ルドールの命がけの忠告。だが、ここまできた彼らに逃げるという選択肢はなかった。

 「…っ、ボルファイザー!」

 チュドォオォン

 呪文を唱えたニチアの杖から、炎のビームが放たれる。だが、

 「甘い。」

 魔王にはかすりもしなかった。

 「くぅっ…」

 唇を噛むニチアの横で、

 「ネルグアッパー!」

 ポロンが味方全員に呪文をかける。すると、

 「あ、な、なんだこれ!すげえ!」

 「おお、いけんじゃね?」

 「おー、いっちょ行こうか?」

 全員の体に力が沸いてくる。

 「さあ、早く!」

 「おお!」

 

 矢をつがえ、

 ギリリッ

 イリアが力いっぱい弓を引く。

 ぱっと手を放し、

 バシュンッ

 素早く矢を放つ。

 「少々速いが…まだまだだな。」

 矢を造作もなくかわしたその時、

 「ウインリーパー!」

 ビュオオオオオオ

 「!!」

 ピシッ

 風の刃が魔王を切り裂く。

 「ふむ、なかなかやるな…」

 ダメージは通ったものの、致命傷には至らなかった。

 「今回は俺もいるよー。」

 ユーリが前に出て、剣を振り下ろす。

 キンッ

 受け止められるが、

 スッ…

 素早く相手のサーベルから剣を放し、

 ピッ

 「チッ」

 左腕の一部を傷つける。

 「おりゃっ!」

 その時,背後からアキラが棍棒を振りかざすが、

 コンッ

 右腕で受け止め,

 ドガァン

 「グアッ!」

 衝撃波を撃ち込む。

 「剣が必要というわけでは無い。」

 その言葉に、シオンが閃く。

 「もしかして、魔法?」

 「ああ。その名も、“呼哭アンプリート”。」

 「よっしゃ当たったー!」

 シオンは予想が的中し、露骨に喜んでいる。

 「だが…呼哭この魔法の使い方はこれだけではない。」

 サーベルを地面に突き立て、

 ドゴオッ

 そこから衝撃波を流し込む。

 バキャッ バキッ

 「うわうわうわっ!」

 地面がひび割れ、シオンの体が落ちかける。

 「大丈夫か?」

 ガシッ

 ユーリがシオンの腕を掴み,引っ張り上げる。

 「あー、助かるわユーリ。」

 「よっしゃ行くぞ!」

 魔王に剣を振り下ろし、

 バシュッ

 その隙を突いてイリアが矢を放つ。

 「なるほど…」

 魔王は剣をかわし、

 バスリッ

 矢を体に受けた。

 「俺の攻撃全然当たらんやーん。」

 その時、

 「ラシールウィップ!」

 メギギギギギッ

 地面から太いツルが生え、魔王に向かって伸びる。

 「なるほど…だが…」

 突然、魔王の姿が赤いマントとガントレット、雄牛のヘルメットをかぶった姿になった。

 「!!」

 すると、

 ボオオオッ

 ガントレットから炎を放ち、

 ジュウウ…

 「そんな…」

 ツルを全て焼き尽くしてしまった。

 「ダルーグスラスト!」

 ポロンが、呪文で全員の防御力を強化する。

 「ナイスゥー!」

 「いけんじゃねコレ?」

 「今度こそ!」

 シオンが勢いよく突っ込み、

 ザシュッ

 「…!」

 魔王の胴体に横なぎの傷をつける。だが、

 「離れろ。」

 ドガッ ボオオオッ

 「うぐあっ!」

 燃えたぎるガントレットで殴られ、

 ドサッ ゴロゴロッ

 吹き飛ばされてしまった。

 「ヴィルタゲイン。」

 ポウッ

 ポロンの魔法で、傷が光に覆われ、みるみる治っていった。

 「ありがとー。」

 「まさか、“彼”までやられていたとは…」

 ポロンが落ち込んだ様子でつぶやく。その時、

 ズドンッ

 「カフッ…」

 ポロンの体が、突然飛んできた紫色の弾丸に貫かれた。

 

 「目標に命中!次!」

 山の中、豪勢な服の人狼が叫ぶ。

 「はいあいさー!」

 同じ銃を持って紺色のクロークをまとった人狼が持っている銃からエネルギーを放つ。

 ズダァン!

 「うっ…」

 もう一度、ポロンの体が貫かれる。

 「ヴァルプ様、命中しました!」

 「よくやった、クーゲル。」

 「おいチガネ!次弾の準備は?」

 別の人狼が銃に魔力をを込めながら話す。

 「バッチリです!ヴァルプ様!」

 

 それを見て、魔王が呟く。

 「…遅かったな。」

 「大丈夫ですか、ポロンさん!」

 タッタッタッ

 ニチアがポロンの元に駆け寄る。

 「プルヴォエール!」

 ポウッ

 ポロンの体が優しい白い光に包まれ、少しずつ傷が治っていく。

 「ありがとう…ございます。でも、私はもう助からないでしょう。」

 「…!」

 「気をつけてください。“彼”も…やられて…」

 ポロンが息絶える様子を見届けたニチアが魔王の方を眺める。

 「彼って?」

 「ああ…こちらもまた別の傭兵、“菫色すみれいろ慟哭どうこく”と同郷どうきょうの“くれない闘牛とうぎゅう”ですね。」

 「まじか…。」

 それを知ってシオンが驚いたその時,

 「あがぁっ!」

 「今度は何?」

 イリアの悲鳴が聞こえた。見ると、体が火に包まれていた。

 「プルヴォエール!」

 ニチアの魔法のおかげで、体の火が消えた。

 「はぁ…助かった。…矢まで燃えてるな…」

 イリアが燃えずに残った矢をつがえ、

 ギギ… バシュッ

 魔王に向けて放つ。その時、

 ダァンッ!

 「!!」

 放った矢が何者かに撃ち落とされた。

 (まさか…)

 イリアが反対に向き直し、

 ギギ…

 矢をつがえる。そして、

 バシュッ

 放つ。だが、

 ダァンッ!

 またしても撃ち落とされた。

 「間違いない!敵方にも射手がいる!」

 イリアが矢をつがえ、射手の注意を引き付けている隙に、

 「お前らは魔王に集中しろ!」

 「オッケー!」

 シオンとユーリが魔王に向かって走りだす。

 「ユーリ…」

 「どうした?」

 シオンとユーリが小声で話す。

 「俺が正面行くから、お前は右を。」

 「オッケー。」

 話し終えたと思うと,

 「なるほどな…」

 魔王まで残り半分くらいのところで二手に別れた。

 「だが…」

 キュイイイン

 両手に紫色のエネルギーをチャージし、

それぞれ射出する準備を終えたその時、

 「おりゃっ!」

 ボゴッ

 背後から打撃をくらう。それにペースを乱され、

 スッ…

 手にチャージされたエネルギーが霧散した。

 「!!」

 「よっしゃ作戦成功ー!」

 シオンが喜びの声を上げる。

 「やったなユーリ!」

 「やっぱシオン頭いいわ〜。」

 「なるほど…油断しすぎだ。」

 チュドォンッ

 手から紫色の光の球がシオンに向けて放たれるが、

 「おわっ!」

 シオンはギリギリでかわす。

 「くっ…」

 (やっべー…マジで危なかった…)

 魔王の圧倒的な強さに、シオンが声を上げる。

 「どうするこれー?」

 「…さぁ?」

 

 イリアの活躍により、シオン達に射撃が飛ぶことはなかった。

 (くっ…矢の残りが少ないな…)

 「クソッ!」

 攻撃を矢に引き付け、味方に被害が及ぶのを防ぐことはできたが、有効打は与えられないまま、矢だけが減っていった。

 「弓の射程じゃない…まさか…」

 ダァンッ!

 遅すぎた推理、あるいは自らに届かない射撃をあざ笑うように魔力の弾丸が飛ぶ。

 「ううっ…やっぱりか…」

 その弾丸は、イリアの腹部に突き刺さり、

 ドゴンッ

 爆発した。

 

 「命中!次!」

 山奥で、弾丸を放った人狼達が話す。

 「ヴァルプ様〜、あいつウザいですね…」

 「ああ…早めに当てられてよかったよ。だがチガネ、愚痴ぐちっても状況は変わらないぞ。」

 「あんな腕利きがいるとは…想定外でした。」

 「クーゲル、さっきはよくやった。」

 狙撃をしていた人狼達が、山の中で話しだす。

 「はぁ…全員始末できるか?これ。」

 リーダー格らしきヴァルプがため息をつく。

 

 「ハァ…俺ももうダメか…」

 血を吐きながら、イリアが弓を構える。

 ギギ…

 矢を全力で体に引き付け、

 バシュッゥ!

 今までで一番速い矢を放つ。

 

 「ヴァルプ様,矢が!」

 「分かった!撃てぇ!」

 ズダダダッ

 矢に照準が合わせられ、放たれた弾丸が集中的に浴びせられる。

 

 だが、イリアは満足げだった。

 「これでいいんだ。」

 そして,仲間達に向けて叫ぶ。

 「ニチアとそれから…シオン、だったか?あとは任せた!」

 「イリアさん!」

 振り返ったニチアが叫ぶ。

 

 「くっ…」

 キンッ

 「ちょっと硬くなーい?」

 ピシッ

 「全然ダメージ通らんやーん。」

 ドガッ

 シオン達が魔王に攻撃するも、なかなか有効なダメージが通らない。それどころか、

 「邪魔だ。」

 ボオオオッ

 「うわっ!」

 炎を放たれ、強気に攻められなくなってしまった。

 

 「…稼いでくれたこの時間…決して無駄にはしません!」

 キュイイイン

 ニチアの杖に、魔力が充填じゅうてんされていく。

 「リーニングシャイン!」

 白く輝くビームが放たれ、

 「危なっ!」

 ユーリの掛け声で全員が横に飛び退く。

 チュドォオォン

 地面がえぐられ、魔王にも命中した。だが、

 シュウウウ

 「…!!」

 煙が晴れたとき、魔王はまだそこに立っていた。

 「なかなかいい攻撃だな。」

 キュイイイン

 魔王が元の姿に戻り、手にエネルギーをチャージする。

 「ボルファ…」

 魔法をぶつけ、攻撃を相殺しようとするも、

 シン…

 杖はなんの反応も示さない。

 「ねえ!動いてよ!」

 ニチアが叫ぶ。しかし、杖の様子は変わらない。

 (まさか、魔力切れ…)

 チュドォオォン

 魔力が切れ、攻撃のできないニチアに魔王の攻撃が命中する。

 ドサッ

 生身の体にはとうてい耐えられない威力。たまらず息絶えた。

 

 「おい、居たぞ!」

 「マジか!すぐに行く!」

 別の勇者パーティーが、2つ、3つとシオン達の方に向かっていく。召集を受け,この王都トレスクエアへと集ったのだ。

 

 「魔王がいたって!」

 「マジで!行こう!」

 ある勇者パーティーが、ガレキの山が点在する街の中を駆ける。だが、

 「彼らから始末するか?クーゲル。」

 「それが良いかと。チガネは?」

 「ま、片付けれるのは片付けちゃお?」

 山の中で、あの人狼の射手達が話し合う。

 

 彼らが魔王の方に向かってしばらくして。

 「撃て!」

 「了解しました。」

 ズダァン!

 クーゲルが狙いを定め,引き金を引く。

 

 バスッ

 「!!」

 突然、魔王ファジツを目指そうとした勇者の腹部に風穴が開く。

 「大丈夫!?キョウ!」

 「ああ、大丈夫だ…お前らは先に行け…」

 キョウと名乗る勇者が、血を吐きながら呟く。だが、

 「目標に命中!次!」

 「はいあいさー!」

 ズダァン!

 もう一発、弾丸が放たれる。

 「危ない!」

 「グラン!」

 戦士の男が勇者キョウをかばって銃弾を受けるも、

 ドゴォンッ

 「うぐあっ!」

 弾丸は爆発し、彼ら全員を巻き込む。

 

 「目標命中!次弾用意!」

 「了解しました。」

 「おっけー。」

 

 僧侶がキョウ達を回復させようとするが、

 

 「たまには私も撃ちたいんだ。」

 指で銃の形を作り、その先端に魔力を蓄積する。そして、

 ズドォンッ

 狙いを定めて放つ。

 

 「ゴホッ…」

 弾丸を受け,腹部が撃ち抜かれる。

 「そんな…」

 

 「ねーねーヴァルプ様ー。」

 「どうした?チガネ。」

 「最後さー、全員で潰そー?」

 まるで任務を娯楽か何かだと考えているような様子だが、

 「いいな。総員、準備!」

 「了解!」

 全員が承諾しょうだくし、魔力を蓄積させる。

 

 「私じゃ回復が追いつかない…」

 魔法使いのリンが慌てふためき、僧侶のエルヒを治療する。その時、

 

 「総員、発射!」

 ズドォンッ

 ズダァン!

 バァン!

 3人が同時に、蓄積した魔力を解き放つ。

 バスバスバスッ

 「…!!」

 撃ち抜かれたリンはそのまま息絶え、すでに虫の息だったグラン達もリンを貫通した弾丸にとどめを刺された。

 

 彼女らは魔弾の射手。魔力を弾丸にして放つ能力を持っている。彼女らは銃を撃ちたくてたまらないという衝動、いわゆるトリガーハッピーを持っており、同胞を大量に射殺したときに噂を聞きつけた魔王にスカウトされ、直属の部下となったのだ。

 

 「こ、これが…魔王ファジツ…」

 「おい、もう戦ってるやついるぞ!」

 魔弾の射手達に襲撃されなかった勇者パーティーが3組、シオン達の元に到達した。

 

 「お、別の勇者パーティーやん!」

 「助かるわー。」

 シオン達がやってきた援護に安堵あんどする。

 「お前らの名前は?」

 やってきた勇者が名前を聞く。

 「俺はシオン。」

 「俺ユーリ。」

 「俺はアキラ。」

 3人全員が名乗りをあげる。

 「分かった。俺はヘンリー。こっちは戦士のツネヒト。」

 「よろしく。」

 「魔法使いのケインです。」

 「僧侶のリンプと申します。」

 最初に話しかけてきた勇者パーティーのメンバーが自己紹介をする。そして、もう一つのパーティーも自己紹介に入った。

 「私は勇者のウォック。」

 「俺は戦士のナッチ。」

 「魔法使いのワンドです。」

 「シーフのバンディだ。」

 自己紹介が終わったところで、ヘンリーが問いかける。

 「お前ら、どんな感じだった?」

 「なんか色々武器持ち替えてたし…姿も変わった。」

 シオンがした魔王の実態を知る者からはおそらくざっくりでは済まされないであろう説明。そこに、ユーリが補足する。

 「別の勇者パーティーと一緒に戦ったんすけど、なんか姿見て“菫色すみれいろ慟哭どうこく”とか“くれない闘牛とうぎゅう”とか言ってました。」

 「そうか…なんつー奴だよ…」

 それを聞いた勇者パーティー達が、急に怖気付く。

 「どうした?この姿がお望みか?」

 魔王の姿が、能力を使用しない通常時からシオン達が最初に戦った槍と銃を背負い、メイスや刀を腰に帯びた姿に変化した。

 「あ、ああ…」

 「お、俺達、終わりだ…」

 この姿を見た勇者パーティー達の顔が青ざめる。誰がどう見ても、絶望しているようだった。

 「どしたん?」

 アキラが問いかけると、一人の勇者が口を開く。

 「あ、あの姿は…お前らと戦った“菫色の慟哭”達のところで最強と言われる傭兵、“鈍色にびいろの木枯らし”だよ…」

 「最強ってマジ?」

 「ああ…」

 

 鈍色の木枯らし。“菫色の慟哭”や“紅の闘牛”の出身である人狼の集落・ヴィルカシアの傭兵で、外部からの侵略など争いが多く、そこで傭兵達が活躍している。鈍色の木枯らしはその中でも別格の強さで、“最強”の称号を欲しいままにしている。傭兵達が生まれては消えていくヴィルカシア《この場所》で名を轟かせるなら、圧倒的な強さか高い指揮能力とカリスマ性が必要だ。

 

 「来ないのなら、こちらから行こう。」

 「くっ…」

 ヘンリーが剣を構えるが、

 サンッ

 魔王が刀を抜き,

 タッ

 「!!」

 ヘンリーと距離を詰める。

 「くっ…」

 ヘンリーが剣を振り下ろそうとするも、

 カンッ

 素早い太刀筋で受け止められてしまった。

 「速い…!」

 そして、

 ズパァッ

 勢いよく足元を切り裂かれた。

 「ううっ…」

 鋭い切れ味、そしてとてつもない速さ。どれを取っても脅威だ。

 (この技量…間違いない…)

 「大丈夫ですか?」

 「ああ…大丈夫だ…」

 ケインが近づき、

 「プルヴォエール。」

 ポウッ

 魔法でヘンリーの傷を癒す。

 「ああ、助かった…」

 傷が治ったヘンリーが立ち上がり、

 「オラッ!」

 ガキンッ

 傷を治している間に魔王と攻防を繰り広げるツネヒトの援護に入る。

 「大丈夫か!」

 「ああ!」

 「うっ…」

 攻撃を逸らされ、体勢を崩したツネヒトに振り下ろされようとしていた刀を

 キンッ

 「大丈夫か!」

 「お前こそ!」

 剣で受け止める。

 

 一方、ウォック達のパーティーは、

 「くっ…」

 ボガァンッ

 ドゴォンッ

 魔弾の射手達の狙撃に苦しめられていた。

 「ワンド、撃てるか…?」

 「ええ…リーニングシャイン!」

 キュイイイン

 杖にエネルギーをチャージし、

 チュドォオォン

 そこから放った光線で弾丸を消し飛ばす。だが、

 ズダァンッ

 「くっ…相手までは…仕留められませんでした…」

 「そうか…」

 攻撃は止まなかった。

 

 ヘンリーが魔王の刀を止めていたその時、

 ズバァッ!

 「!!」

 魔王の背中に切り傷が走る。

 「ハーッ、ハーッ…」

 見ると、そこにはシオンとユーリが立っていた。

 「くっ…」

 不意を突かれた魔王が悔しげに見つめる。だが、何かを思いついたかのようにニヤリと笑う。

 

 ダッダッダッダッ

 「いたぞ!」

 「仕留めて俺たちの手柄だ!」

 また別の勇者パーティーが2つ、3つとこちらに向かってくる。

 「くうっ…」

 ズバァッ

 剣を弾かれたヘンリーの胸元に傷跡が走る。すると,

 「おい、他にも味方がいたぞ!」

 「早く魔王倒そうぜ!」

 背後から2つほどの他の勇者パーティーの声がした。だが、

 「おい…あれって…」

 「間違いねぇ…」

 彼らも鈍色の木枯らしの姿をした魔王に怖気付いているようだ。その時、

 バァンッ!

 「…!!」

 攻撃に加勢しようとしたヴァンディの体が、魔王のスナイドル銃から放たれた銃弾に撃ち抜かれる。

 「大丈夫か!?」

 「来る…な…ウォック…」

 ダァンッ!

 今度はリボルバーで撃たれる。そして、右手に三節棍を持ち、ヴァンディの方に突進する。

 ドガッ

 「ううっ…」

 先程駆けつけた勇者パーティー達の方に弾き飛ばし、

 ジャラ…ビシンッ

 その勇者パーティー達の戦士2人もろとも三節棍で打ちすえる。

 「うぐっ…」

 「ぐはぁっ…」

 そして、三節棍それを槍に持ち替え、

 ビュオンッ ビタンッ

 上から叩き付ける。

 「うっ…」

 まとめてシーフや僧侶3人ほどが昏倒こんとうさせられる。だが、その中にはケインもいた。追加で来た2組の勇者パーティーの魔法使い1人が、立ち位置が悪く、頭を割られた。だが、まだ終わらない。

 グウォン

 腕にうなりを付けてメイスを振るう。

 「くうっ…」

 「ぐっ…」

 ガキンッ

 勇者2人が、なんとかメイスを剣で止める。

 「生意気な…」

 ガンッ

 「ぐあっ!」

 少し力を込め,剣を弾く。そして、

 バキャッ

 その隙を突いてメイスを打ち付ける。打撃の衝撃で肋骨がひび割れる。

 ドゴッ

 そのまま、近くにいた戦士の頭にブラックジャックを打ち付ける。そして、

 ズバァッ

 「!!」

 近くにいたリンプの脇腹を斧で切り裂く。そのまま刀に持ち替え、

 ザザザザンッ

 何度も切り裂く。

 「う…ああ…」

 そして、

 ダァンッ!

 バンッ!

 スナイドル銃とリボルバーで素早く2発の銃弾を喰らわせ、

 ザンッ

 新しく来た勇者パーティーを刀でまとめて切り捨てた。

 「え、援護が…」

 「大丈夫か、ヘンリー?」

 「ああ…」

 さっきの攻撃で生き残ったのはシオン達とヘンリー、ツネヒト、ワンド、そしてウォックとナッチだけだった。

 「俺たちがやるしかないやん…」

 「どうする…」

 「やばくね?」

 シオン、ユーリ、アキラの全員が事の重大さをひしひしと感じ取る。

 絶体絶命。高まる緊張。

 「オラッ!」

 シオンが剣を構えて立ち向かう。しかし、

 「やはり甘いな。」

 ガキンッ

 あっさりと止められた。しかし、

 「えいっ!」

 ズバッ トスッ

 「うっ…」

 ユーリがその隙に剣を、アキラが投げナイフを叩き込む。だが、

 ドオンッ

 「うわっ!」

 呼哭アンプリートとも違う紫色の衝撃波を周りに放ち、それに吹き飛ばされてしまった。

 

 「アイツらは?」

 「わからん…」

 一方、少し引き離されたウォックとヘンリーもすぐにシオン達の援護に向かおうとした。しかし、

 ズダァン!

 「ゴホッ…」

 ヘンリーの腹部に風穴が開く。

 

 「命中!次!」

 ヴァルプ達が次の射撃の準備に入る。

 「了解!次は…コイツですね!」

 チガネがウォックに狙いを定め、

 ダァンッ!

 引き金を引く。

 

 「ヘンリー、だったか?大丈夫か!?」

 ヘンリーの方に駆け寄ろうとしたその時、

 ダァンッ!

 「なっ…」

 ウォックの体にも弾丸が撃ち込まれる。

 

 「さ、最後の仕上げだよ〜。」

 パチンッ

 チガネが指を鳴らして合図をする。

 

 ボカァンッ!

 「な、何が…」

 ウォックの体が爆ぜ、肉塊が飛び散る。だが、

 「ウォック!!うぐっ…」

 駆け寄ったヘンリーも巻き込まれて虫の息となった。

 

 「とどめと行こうか。」

 「3人でやろ〜よ〜。」

 「待て。ヴァルプ様の指示に従え。」

 「はーい。」

 チガネがクーゲルの注意で不満げに口を尖らせる。

 「私にもとどめを刺させてくれよ。」

 ヴァルプが銃の形を作った手の人差し指の先に,魔力を込める。そして、

 ズダァンッッ!

 ヘンリーに狙いを定めて放つ。

 

 「ハァ、ハァ…、アイツらはまだ…戦ってるんだ…」

 ヘンリーが這ってでもシオン達の元に近づこうとした時、

 ズダァンッッ!

 「ああっ…」

 腹部を大きく貫かれた。既に手傷を負わされた状態。その上腹部まで貫かれたのだ。無事でいるはずも無く、そのまま息絶えた。

 

 一方のシオンは、ガクリと気絶し、そのまま動かない。

 「おいシオン!」

 「動けよ!」

 ユーリとアキラが叫ぶも、シオンは目を覚まさない。

 「まあいい、ここで終わらせるか。」

 刀を構え、シオンに振り下ろそうとする。


同刻ーとある山中

 「あの勇者、気絶したぞ。」

 「ならば、片付けてしまいましょう。」

 ヴァルプとクーゲルがシオンを片付ける準備に入るが、チガネもこっそりと準備を始める。

 「おいチガネ、お前も混じるのか?」

 「もっちろん。」

 ヴァルプ達も気づいたが、別に止めなかった。

 「せーの、で行くぞ。」

 「はーい。」

 「了解しました。」

 キュイイイン

 全員が魔力を込め,

 「せーの!」

 ズダァンッッッ!

 一斉にシオンに狙いを定めて放つ。

 

[このままでいいのか?]

 シオンに,内なる声が語りかける。

 (良いわけないだろ。)

 シオンがキッパリと否定する。

 [なら体を貸せ。手筈は整えてやる。]

 (…分かった。)

 

 「…シオン!!」

 「逃げろぉぉおお!!」

 迫る魔弾に気づいたユーリとアキラが叫ぶ。未だ動かぬシオン。金があれば復活できるアキラがかばおうと向かうが,もう間に合わないところまで魔弾が迫っていた。

 「…手間取らせおって。」

 魔王の刀も首筋に届こうとしたその時、

 バキンッ

 「!!」

 「ユーリ、また“アレ”だ!」

 「マジか…」

 シオンが素手で刀を砕き、

 バシュウウウウ

 魔弾を腕でぎ払い、消滅させる。

 

 「なっ…」

 「…嘘だ!」

 「どういうこと…」

 あまりにも衝撃的な光景に、ヴァルプとクーゲルがうろたえる。

 

 (何だ…この魔力量は…)

 魔王も驚きを隠せない中、

 「お前は、俺が止める。」

 魔力をまとったシオンの刃が魔王に迫る。

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