第14話 進化した世界
第十四話 進化した世界
結界術とは何か。それは座標を指定し魔力を練ることで発動できる、周りと自分達を区切る、いわばフィルターである。
本来結界術は、自分達を守るためや、建物や街、一部の地域を他の種族や魔族から守るために使われるものであり、攻撃のために使用するはずではなかった。
だが、防御だけでは先へ進むことはできない。そのため、ある魔族はこう言ってこうした。
「確かに結界術は自分達を守るためにはかなり、いや最高の手段だ。だが、敵を攻撃するには足りない。なら、こうすればいい。“結界効果を反転させて、自分を守る、から、敵を攻撃する、”に変えればいい。そうすれば結界術で敵を閉じ込めてダメージを与えることができるはずだ。」
そうして初期の結界術、敵にダメージを与えることに特化した結界術が誕生した。しかし、進化はこれにとどまらず、最終的には結界効果に魔法を付与することで魔法の潜在能力を引き出し、敵にダメージを与えるようにまで進化を遂げた。
だが、誰でも使えるというわけではない。魔法と結界術。その二つに知見があり、魔法の方はかなり極めていなければ結界術に魔法を乗せることなど不可能だ。また、結界術は基本でも難しい。結界で世界を区切り、別次元を展開する、というのは頭の中でも難しい。イメージが掴みにくい。単純な魔法の詠唱とは違い、高度な魔力の運用と、繊細な魔力操作が求められる。また、単純に運用に多量の魔力を消費してしまうので、一回の戦闘で二度と展開するのは難しい。結界術を保つのでさえ膨大な魔力が必要になる。
そのため得られる恩恵は莫大だ。習得できれば魔法の潜在能力を引き出すことに加え、最悪必殺の場合もある。時間制限付きではあるが、結界を閉じれば相手は逃げれない。
『拡張領域 二・五次元(メタバース)』
拡張領域。単純に結界に魔法を乗せて運用する技。これが基本的な魔法と結界術の融合であり、一番多用される。火力はまあまあだが、運用の仕方によっては異常な強さを発揮できる。また、魔法のポテンシャルを最大限引き出すこともできる。
「なんだ……これは。」
ゆっくりと結界が展開され、彼らを中に閉じ込める。
[結界術だ。おそらくこれは拡張領域だ。]
シオンに解説をしながら状況の把握に努める。
(結界術と相手の能力の相性はあまり良くないように見える。そう考えると相手も相当追い込まれているのか。)
さらに思考を巡らす。
(展開までのスピードが異様に遅かった。あまり結界術は上手く扱えないようだな。)
[シオン、安心しろ。そこまで相手の結界術は脅威じゃない。今はただ相手を狩ることだけに集中しろ。]
そう言って相手と向き合わさせる。
(本当は結界の中和術式があるんだが……。おそらく今の状態では使えまい。今回は見守るしかできん。)
結界術を防ぐ方法は主に二つ。
一つはそのままでこちらも結界術を展開し、相手と結界の押し合いを挑むことである。だが、これはほぼ魔族のやることだ。僧侶や魔法使いの一部もできないことはないが、やるのは至難の業だろう。
もう一つは結界の中和術式というものを使って結界の効果を無効化することだ。結界の中和術式は、習得してしまえば気軽に使うことができ、少しの間ではあるが結界効果を完全に相殺することができる。また、練度が上がれば上がるほど持続時間は延びる。
だが、生憎彼はその両方ともに習得していない。一応内側のやつは習得しているようだが……。
相手はゆっくりと掌印を解き、自分達の方を向く。
「……まさか、まさか使うことになるとは思ってなかったよ。」
カシイはゆっくりとこちらを見ながら話す。
「僕はあまり使わないんだよね。こういうの。あんまりタイプじゃないし。」
「じゃあなんで使ってるんだよ。」
アキラがそう聞くと、
「使うには充分だと判断したからだ。」
そして一つ間を開けてこちらに話す。
「僕は使えるものならなんでも使うんだよ。魔法、体術、魔具、そして結界術……、使わなくて負けるよりも全部使ったほうがいいでしょ?」
「……確かにそうだな。」
ユーリはそう言って剣を構える。
「で?どんな効果なんだい?」
「単純にこれは僕の魔法“二次元”を最大限応用するための道具に過ぎないんだよ。でもこれで最高のパフォーマンスができる。そんな感じさ。」
そう言って相手は踏み込む。
(((来る!)))
全員身構え、相手を凝視する。
『二次元』
相手はいきなり目の前に腕を突き出す。だが、そんなもの当たるはずがない。そう思った時だった。
「ヴンッ。」
急に目の前に画面が現れる。だが、中には何も入っていない。
(なんだ?何を入れたんだ。)
すると次々とそれが複製されるように自分達の近くまで順々にできていく。
「ヴンヴンヴンヴン!」
目の前まで急に魔法が発動した瞬間、
「バガアンン‼︎」
全ての画面が急に爆ぜ、自分達を吹き飛ばした。そしてその感覚から、何が一体内側に入っていたのかを察する。
(中に空気が入ってたんだ!画面の中に圧縮した空気を、画面から解放することによって衝撃波を出している。しかも魔法が遠隔で発動した。つまり5本指の条件が消えたってことか?)
結界術ならば、自分の魔法を結界内で必中にすることも可能である。だが、そうするとなぜ彼は最初から使ってこなかったのか。しかもなぜ自分を画面に入れなかったのか。
(まあいいや。少しずつ全貌を解明していこう。)
シオンはそう決めると相手に近づく。相手もそれに気づき、近接戦を仕掛けてくる。
(こうしてくるってことは生き物に対しては遠隔で発動はしないようだな。)
そう、彼の結界術は無生物であれば遠隔で魔法の発動ができる。だが、生物に対してはそれができないのだ。
「あんまり活用できてなくないか?」
シオンは敵の拳を剣で防ぎながら言う。
「五月蝿い。」
そう言って相手はさらに早く動き、シオンの腹を触る。
「ヴンッ。」
「ガシャアン!」
早業で彼にダメージを与えていく。さっきよりも動きにキレができている。
(さっきよりもスピードが速い!しかも攻撃に磨きがかかった!結界効果か?)
結界術によって起こるのは魔法のポテンシャルを引き出すことだけではない。単純に結界を持続させるため、五感や体の能力が研ぎ澄まされるのだ。そのため彼は一時的にだが“ゾーン”に入った状態となっている。
「ギンギン!」
刀と拳が鈍い音を立てながら、火花を散らす。
「くっ……!」
かなりキツい状態だ。さっきの一撃が予想以上に重かった。魔力での防御もうまくいかなかった。
「少し鈍いんじゃない?」
再び触り、魔法を発動する。
(クソッ!またか!)
すると今度はカシイはそれを上に投げ、下から突き上げるように殴り砕いた。
「がはっ……。」
思い切り彼は腹を殴られ、痛みに悶絶する。だが、高さでいったらコイツだろ、という男が駆けつける。
『クロスナイフ!』
空中でシオンとカシイの間に割って入り、ナイフを振るった。カシイは部が悪いとみて、一旦地上に降りた。シオンとアキラも着地する。
「悪い、助かった。」
シオンは腹を押さえてその場にしゃがみ込んでいる。
「それよりも大丈夫か?さっきから連撃を受けていたが。」
「それについては大丈夫だ。」
そう言いつつも、彼の口からは血が出ていた。
「……少し休め。そのぐらいの時間なら保たせられる。」
そう言うとアキラはカシイの近くにいく。
(きたか!)
そしてカシイは待っていたかのように魔法を発動する。
『二次元』
すると、彼の持っていたナイフが画面に入れられた。
(マジか!)
「遠隔で発動できるの、忘れないでね。」
そう言ってカシイは突っ込んできたアキラを殴る。アキラはその拳の重さに口から鮮血が飛び出る。
(強制的に武器をしまわされる!ほぼ武器の使用は不可能!)
アキラはなんとか離れ、画面に入ったナイフを見る。彼はそれを叩いてみたが、壊れる気配は一向にない。
「ああそれ、俺だから破壊できるけど、君たちは無理だよ。」
カシイはゆっくりと近づきながら言う。
「あの勇者の子はどこかい?」
「少し休養だって。」
「ふーん。じゃ、見舞いにいこうか。」
(来るか!)
そう感じて彼は身構えるも、カシイはその行動に驚いたようだった。
「ああ、自分が行くんじゃなくて、別の奴に行ってもらうってこと。」
『分身傀儡(アバター)』
すると、どこからともなくいくつかの人型の何かが出てきた。皮膚はところどころ爛れており、とても人とは言い切れない。
そのうちの複数体が一気にシオンの方へと向かう。
(そういうことかっ……!)
アキラはなんとか止めようとするが、相手の数が多過ぎて、そこまで手が回らない。
(ちくしょう!向かわれる!)
こうなった以上、全員倒すしかない。
「ユーリ!シオンの方を頼む!」
そう言い、自分はなんとか拳で複数体を殴る。だが、そこまでダメージはないらしい。
(あんまり素手での攻撃は得意じゃないんだよな……。)
「集中が、」
横からカシイの声がする。
「そっちに行き過ぎ。」
「ヴンッ。」
すると、出現した傀儡も一緒に攻撃する。
「バリンッ!」
勢いよくアキラは画面から解放され、飛んでいく。さらに傀儡が追い討ちをかけてくる。
「くそっ!」
アキラはなんとか持ち味の足の速さを発揮してその場から退く。
(結界がこれだけ広くてよかった。せまかったら逃げ道がなかったぜ。)
この結界は街半分をすっぽり覆う形で形成されている。つまり内側もそれなりの範囲があるということだ。
「ふう、少しは楽になったか……な?」
シオンがそうして立ち上がると、目の前から複数のゾンビのようなものが現れる。
「敵……だよな。」
そう言って刀を構え、一気に二体斬り裂く。だが、背後からも一体来ていた。
「マズいっ!」
だがその時、
「ズバアン!」
その傀儡は脳天から股間まで真っ二つに斬られた。
「はあ、はあ、なんとか間に合ったな。」
そこにはユーリがいた。
「急いで戻るぞ。アキラが一人でヤツと戦ってる。流石に長くは持たないぞ。」
「分かった!」
シオンとユーリは急いで戻るのだった。
「ぐあっ……。」
アキラはかなり重傷を負っていた。全身に切り傷を負い、ところどころから出血している。
「随分一人で持ったね。これだけの数相手にここまで粘れたならいい方でしょ。」
そうカシイの言った後ろにはまだ多くの敵がいた。
「くそっ、無限湧きなのかよ……。」
「というよりも結界効果で大量に出せるって感じ。これも大きな恩恵だよ。」
「……。」
アキラは必死に今の状況を打開するための策を考えていた。だが、どうしても思いつかない。
「じゃあそろそろいいかな。」
そして、相手の拳が振り下ろされる。その瞬間、
「ザクッ!」
背中にいくつかのナイフが刺さった。
「コイツら……。」
なんとか振り向き、反撃をしようとしたが、アキラがなんと足を蹴って、体勢を崩す。
「マズ……!」
(全身の力を込める!この一撃に!)
『天下無双流 奥義! 神鬼滅殺‼︎』
素早く剣が動き、敵を斬り刻んでいく。
(まだだ……!まだだ!相手が死ぬまで!)
(最後までとことん!)
(追い込んでやる!)
3人で最後の追い討ちをかける。相手は反応できないようだったが……。
「でも、ここでやるのが、僕らしいよなあ。」
そう言うと、彼の周りに大量の画面が展開される。
(これは!空気の入った……!)
「爆ぜな。」
「ドドドオオン‼︎」
全ての画面が同時に爆散し、彼らはものすごい衝撃を受けて、建物にめり込んだ。
「ぐっ……。」
シオンはかろうじて体を起きあげるが、うまく左腕が動かない。
(クソッ、骨折かよ……。)
よく見ると、腕が変な方向に曲がっていた。近距離での攻撃から身を守るため、咄嗟に左腕を出したが、それが仇となったようだ。
(左腕はもう役に立たない。大きなダメージも喰らった……。もうさっきのような機敏な動きは到底できない。)
ここまでか、と諦めそうになった。だが、内なる者がそれを許さない。
[ここまで来て諦めるとか許さんぞ。]
(でも、これ以上……。)
[出来んなら変われ。]
そういつにもなくぶっきらぼうな返事が返ってくる。
[俺ができるということを証明してやる。]
そうやって半ば強引に彼は肉体の主導権を変わった。
(確かに状況は絶望的。左腕は折れ、全身は打撲している。到底この状況でコイツに勝つのは無理がある……か?)
そいつはその仮定を問う。
(はたしてそこまで受けた傷は重傷なのか?本当に立ち上がって攻撃することはできないのか?)
そう自分に言い聞かせ、立ち上がる。
(体は全身打撲で重い。でも、やれないわけじゃない。)
ゆっくりと目線を上げ、相手の方を向く。アキラもユーリも動いていない。だが、生きているのを本能的に感じる。そう信じるしかない。信じて、自分が出来ることを、するだけだ!
シオンは無言で相手に近づく。しかも1番のトップスピードで。
(コイツ、急に!)
いきなり速くなったシオンを驚愕の表情で見る。あれほどの傷を負ったものが、さらにスピードを上げてくるなど、にわかには信じがたかった。
(いや、相当ダメージは入ってるはず!ここで決める!)
「ヴンッ。」
再び彼の周りにいくつもの画面が展開される。だが、シオンはその間をくぐり抜け、カシイに近づいた。
(ウソだろ⁉︎)
シオンの拳が命中する。武器はさっきの画面化で取られたからだ。
(遠隔で発動できるんだったな……。なら武器は意味ない。なら!近接特攻一択でしょ!)
そうして、画面を爆破させる隙を与えず、攻撃を続ける。
(起爆のタイミングが合わない!攻撃できん!)
次々とシオンの拳が身体中に当たり、ダメージが蓄積されていく。
(このままではマズい!何もできない!)
カシイは既に召喚していた一体の傀儡を呼ぶ。すると、シオンに近づいていったが、シオンはそれに気付くと、カシイを思いっきり殴って吹っ飛ばし、そちらの対応に移る。
(今だ。)
画面が全て爆ぜ、あたりに衝撃波が発生する。だが、シオンはそれを傀儡の体で防いでいた。
「マジかよ……。」
驚きが隠せていなかった。声に出てしまった。
(何をしている!攻撃を続けろ!)
自身にそう言い聞かせると、技を使う。
『分身傀儡(アバター)‼︎』
傀儡を出現させ、シオンへ攻撃させる。
(傀儡の召喚術か。数は……十体!)
的確に数を把握すると、次々とその傀儡に対して一撃で仕留めていく。
(はあ⁉︎オマエ左腕折れて機能しねえはずだろ⁉︎なんでそんな簡単にしかも速く殺せるんだよ!)
カシイは思いもしなかったことに憤る。
(もういいわ。全力で腹に一発入れてやる!それで終いだ!)
カシイもシオンに近づき、攻撃体勢に入る。
「ドドドドドドドド!」
二人の拳がぶつかり合い、互いに相殺していく。だが、左腕が機能しないため、カシイは左側から攻め、シオンの腰の部分を触った。そして、画面に入れたものを砕く体勢に入る。
(これでお終いだ!この一撃が決まれば全てにかたがつく!)
そうして殴ろうとするが、
「……。」
「⁉︎」
「⁉︎」
二人の予想もしなかった魔法の効果が、ここにきて出てくる。
(なんで魔法が発動しない——?)
カシイは自分の魔法のことを全て知り尽くしたつもりだった。さらに結界術まで覚え、完全にこの魔法を自分のものにしたと思っていた。だが、そうではなかった。
この魔法には魔法が適用されない例外がある。それは——
“自分が画面に入れたそのものの状態を想像できなければならない”ことである。
例えば水や建物、空気などが画面に入った場合、どのように表されるのか、それを想像出来ていれば二次元は発動可能である。だが、想像できていなかった場合は魔法の発動条件を満たしておらず、魔法は発動しない。だが、そのことを彼は知らない——。
(なんか知らんけどラッキー。なんか魔法、)
「不発したみたいやん。」
シオンは思いっきりカシイを殴り、連続で拳を叩き込む。
「ごはっ!」
流石にカシイにも限界が近いのか、吐血する。
(ダメージは確実に入ってる!このまま打ち込み続けてこの結界を保てなくさせる!)
彼は、カシイの結界の維持に対する意識を削ぎ、結界を崩すことを決めたようだ。しかも結界の発動時間を考えるともう魔力はほとんど残ってないはずだ。勝てる兆しが見えてきた。
(やっぱりダメだ!魔法が発動しない!)
性懲りなく、まだシオンを触り、魔法を発動させようとしていた。
(こんなことはこれで3回目だ!一体なんでなんだよ‼︎)
今まで彼はシオンのそのままの姿を画面に入れた時の想像はできていた。だが、骨が折れた状態の人を入れた時、の想像ができていなかったのだ。これが、条件を満たしていないと判定されてしまった。
(だが!)
なんとかカシイはシオンと向かい合い、拳を突き出す。
「オマエももう限界なんだろ⁉︎」
そう言って拳をシオンの腹に叩き込もうとするが、
「ヒュン、グサッ!」
「いっ⁉︎」
急に飛んできたナイフに気づかず、不意打ちを喰らった。
「集中しすぎなんだよ!周りに気を配ろうね!」
アキラが顔から血を出しながらナイフを投げていた。
「この野郎……!」
「シオン!」
アキラはこちらに向かって何か叫ぶ。
「あとは頼んだぜ。」
そう言ってアキラは倒れ、シオンは仲間の思いを背負う。
(絶対倒す!)
急に体が変わる。
[いいタイミングだ。見せてやれ!コイツの目に物を!]
そう言うと彼は本能のまま拳を振るう。重なった仲間の想いが、彼の力を上げる。彼に力を貸す。
[いいじゃん。できるじゃん。]
『魔突閃‼︎』
「ゴハアッ‼︎」
カシイの体の前面を削り、大きなダメージを与える。
(まだだ……まだ!)
再び渾身の一撃を放つ。
「オラアッ!」
『魔突閃‼︎‼︎』
さっきよりも乗った彼の一撃が、カシイを吹き飛ばし、結界の縁にぶち当てた。そうして、結界は、
「パキン!」
崩壊した——。
「ダンッ!」
カシイは地面に手をつき、辛そうにしている。
「はあ、はあ、はあ……に、二連続だと……?」
カシイはシオンの二連続の魔突閃が相当入ったようだ。
「ぐっ……結界も……。」
予想もしなかったダメージを受けたことで、結界の維持まで魔力を割けなくなり、結界は崩壊した。
「そんなっ……バカなっ……!」
カシイは相当キツいようだ。シオンはなんとかかろうじて立っているが、ほとんど前は見えていない。
(クソッ、ここまでかよ……。)
シオンはもう限界を迎えていた。倒れようとすると、
「任せろ。」
シオンの体を支え、仮面をつける奴がいた。
「遅れてすまない。いつもいつも。」
——ユーリだった。彼は持っていた治癒の仮面で体を治し、駆けつけたのだ。そしてシオンにも治癒の仮面をつける。
「シメは俺がやる。俺が殺す。」
剣を構え、攻撃のチャンスをうかがう。
「コイツら……!」
カシイはなんとか立ち上がり、フラフラと足元がおぼつかないようだが、こちらをしっかりと見る。相手は吐血しており、もう体力はなさそうだった。ユーリは目をつぶる。
(ここまで……ここまでみんなで繋いできたんだ。)
感じる。みんなの暖かみが。
「これで終わりだあ!」
カシイが近づいてくるが、
「ザクッ!」
背中を何者かに刺される。
「なん……だと?」
後ろを振り向くと幽霊がいた。
「俺、最終盤まで気づいてもらえんかったし、結界にも仲間外れにされたんやけん、そのお返したい。仲間外れにして楽しいかッ!」
後ろから隙を見てソウヤがナイフを刺していたのだ。カシイは最後まで、ソウヤの存在を知らなかった。
「コイ……この裏切り者めがあ‼︎」
カシイは後ろを振り向き、ソウヤを攻撃しようとする。だが、
「決めちゃって〜、ユーリ。」
「勿論だ。」
『魔突閃‼︎』
赤黒い魔力を纏った剣が、カシイの体を、両断した——。
(まさか……まさかそんな……。)
カシイは体がどんどん崩れていき、死へと近づいていく。
(私がここで戦ったのはたったの3回だ。)
そう自分の中で言う。
(“あの方”が先に倒してしまって、俺はそのおこぼれを全て殺しただけに過ぎなかった。私よりもあの方の方がこの役には相応しかった……!)
彼は悔しい気持ちを噛み締める。
(戦闘経験も何もかも劣る私がここにきたのが間違いだったんだ……。私はでしゃばりすぎたんだ……。)
彼は崩れながらも涙を流す。
(ずっと魔王軍の中核を担っているのはほんの少しの魔族だけだ。あの少数で敵を壊滅まで持っていける……!私はその足元にも及ばなかった……!)
あの屈辱、あの劣等感。とてももどかしかった。あと少しで手が届きそうに見えて。そう信じていた。でもそうじゃなかった。
(いつもいつも僕たちは損な役だ。殺され続け、結果的にいい感じに捨てられる。弱い奴だけが殺されていく……。)
ああ惨めだ、と感じた。仕方のないことといえど流石に寂しかった。
(どうしてなんだ……どうしてなんだ!どうしてこうなる、どうして殺される……!)
体が崩れ、涙を流すことも出来なくなる。
(もう、全て巻き戻したい……。生まれてきたことから全て……。でも、こうなるのが天命だったのかもしれない……。)
今から地獄に行く。苦しみを味わう。
(いやだ。私は悪いことをしていない!ただ、認められたかったんだ!あの方に‼︎そうすれば全て楽になれると思った……。ああ、なんというおとぎ話だ……。悲しい、悲しい……。)
そうしてカシイの体は無数のチリとなった。
「……。」
無屋の荒地の近くを通りかかった魔族が、魔族が死ぬのを感知する。
「死んだのか……。」
そう言ってその魔族は上を見上げる。
「大丈夫さ。君の命は無駄にはしない。また逢おう、カシイ。」
そう言って上を見上げる魔族は、勇者キラーだった。
補足 カシイについての賢者の説明
カシイはミラーシティを守る専属の魔族でした。だけど、本当は形だけで、本来は勇者キラーが全員殺してしまうため、それのおこぼれを殺す形にしていました。
彼は今までミラーシティで2組の勇者パーティと戦っていました。ですが、その時はなんとか勝ったのですが、この時も魔法が発動しない、ということが起きてました。なんで改善しなかったんだ……!
ちなみに彼は空気を四角として想像していました。あれは形がないのでどう想像しても正解です。空気が想像できて骨の折れた人が想像できないのなんか変じゃね?と思った人のために補足しときます。
カシイの魔法は万能なため条件がありました。こういうタイプの魔法もあるので知っておいてください。以上です。また会いましょう。
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