第13話 平面上
第十三話 平面上
いきなりカシイとシオンは激しくぶつかり合った。アキラはユーリの手当てをしているので援護はない。
「今度は仲間の援護なしだぞ。いいのか?」
「別に仲間の援護がないと戦えない、なんて言ってないぞ。」
カシイの挑発に、ことごとく言葉を返す。
「じゃあ、俺も上げてくぜ!」
相手の魔力のギアが一段階あがり、攻撃にもキレが出てくる。
(魔力量が多い。こちらもしっかり魔力防御をしないと……。)
相手の拳を魔力でガードする。
「基本はできてるようだな。」
カシイは大ぶりでシオンを一旦退かせると、後ろへ駆け出す。
「まさか……!」
(やっぱりか!)
彼は家を触り、画面に入れる。
「よいしょお!」
それをこちらに向かって投げてくる。だが、
「アブねっ!」
なんとかスライディングで隙間を潜り抜ける。
「死ぬとこだったじゃねえか!」
シオンは少しキレながらも相手に剣を押し付ける。少し出血した。
「こういう戦い方が僕は好きなんでね。」
相手もシオンの剣でついた傷を再生させながら戦う。
(今のを数回続ければ潰れるだろ。そうすれば残りは容易い。あの盗賊が少し面倒そうだが……、前線に出てこないということは接近戦は弱いな。)
カシイはそう考えながらゆっくりと腕を回し、シオンを抱くように手を回す。
(触られる!)
シオンはそう思ったが、反応するより早く、相手の手が触れた。
「ヴンッ。」
画面に入れられ、相手はそれを肘で叩き割る。
「ガシャアン!」
画面が割れ、シオンは飛ばされる。だが、全然大丈夫そうだ。
(魔力でガードしていたか。少しずつ慣れてきているな。)
触られることを事前に察知していたシオンは受ける直前に魔力でガードしていたのだ。お陰でダメージは最小限に抑えられた。
(魔力でガードすれば、あの程度の殴りは全然怖くない。どちらかというとあの無生物を画面に入れて飛ばしてくる方が随分と怖い。)
ダメージ的にはそちらの方が大きいからだ。
シオンは周りを走りながら攻撃のチャンスをうかがう。カシイもそうするシオンの方を見ながら間合いをとる。
(現状相手にリーチでは負けている。そこまでヤツの剣技には警戒していないが、ヤツの魔力の扱いは上手い。綺麗に剣に魔力が乗ればかなりのダメージも出せるだろう。そう考えるとヤツの剣を受けるのはマズい。適切な距離を取りつつ、攻める場所で攻める!)
急にカシイは近づき、近接戦に持っていく。シオンは剣で応戦する。
「随分と捨て身だね。」
シオンは剣を相手に振りながら言う。
「剣士相手にはそうするしかないでしょ。しかもこっちは再生能力があるし、その強みを活かさないとね。」
シオンの剣が触れ、傷ついたところが瞬時に再生していく。
(再生スピードはそこそこ。でも今までで一番だな。)
敵の再生を見ながら考える。どこを攻撃すれば相手に大きな打撃を打ち込めるのか。
(やはり腕か?腕を斬り落として魔法の発動手段を奪う。そうすれば連撃を叩き込める!)
シオンは剣を構え、一気に斬りかかる。相手の拳をかわし、懐に入ると、急いで剣を振って右腕に当てる。
(腕を狙ってきたか!)
だが、シオンの想定以上に腕は硬かった。
「クッ……!」
シオンは一旦離れ、相手の出方をうかがう。それにしても硬かった。合金に剣を当てているようだった。それぐらい硬かったのだ。
(腕の硬さが尋常じゃない。単純な魔力と筋肉量。それで腕をものすごく硬くしている。)
「そんなナマクラじゃ僕の腕は斬れないよ。」
「残念だけどそこんそこらの剣じゃないんでね。」
「ふーん。」
相手も剣に何か思ったらしい。
「ねえ、なんか刃毀れしてない?」
「えっ!」
シオンは驚いて剣を見る。だが、そんなことは全然なかった。その時シオンはハッとした。
(騙された?)
「ヴンッ。」
「へへ、甘すぎだろ。」
そのままシオンの入った画面を地面に叩きつけ、粉々に砕く。
(殴られてない!地面にぶつけられた!)
シオンは周りの状況をすぐに理解したが、すぐにまた腹を触られ、画面に入れられる。
「ヴンッ。」
画面に入れられたシオンを見ながらカシイは言う。
「この画面に入れられてる間は何もできないからねえ。実質時が止まっているみたいだよね。まあ多分そんな感じなんだろうけど。」
そう言うとカシイは思いっきり画面を投げる。今度は建物にぶつけた。
「グワシャァン!」
シオンはバラバラに砕けた画面の中から出てきた。
(連続で決められた……。ダメージはそんなにだけど、アレ、最悪何回もコンボできるよな……。)
シオンはゆっくりと立ち上がる。すると、今度は敵が積極的に攻撃を仕掛けてくる。
「危な!」
相手の攻撃を後ろに退がって回避し、息を整える。
(落ち着け。相手がコンボをしてくるならそれに対応していけばいい。大丈夫。ヤツのスピードにはなんとかついていける。それならいけるはずだ!)
相手はさらに追い討ちをかけてくる。だが、なんとか逃げながらそれを避ける。
(随分とタフだな。)
攻撃を続けるカシイは思う。
(さっきから何度も攻撃を当ててるけど、スピードが全く落ちない。それどころか少しずつ上がってる気がする。)
人間であれば傷を受けると体はなまり、動きは鈍くなるはずだ。だが、彼はどんどんスピードを上げている。
(成長スピードが速い。これはゴタゴタしてるととんでもないことになるな。)
カシイは早めに彼を倒すことに決めた。
「さっさと殺すか。」
そう言って彼は手袋をはめる。それはスパイクがついており、殴られたらそれが刺さり、ダメージを負う仕組みになっている。
(武器を使ってきたか……。ここからが本番だ。アレをどのくらい喰らわずに戦えるか。)
シオンも覚悟を決める。
「耐えてみせろ。」
カシイがそう言うと一気に近づいてくる。
「援護!」
こちらにくるカシイを見ると、シオンがそう叫ぶ。カシイはハッとし、周りを警戒する。だが、いっこうにナイフは飛んでこない。
(まさか!)
「嘘だよ。」
そう言ったシオンの剣が腹を大きく斬り裂く。
「魔力での防御も背中に振ってくれてありがとね。お陰で前面がガラ空きだわ。」
大きなダメージを負ったカシイは一旦離れる。
「だ、騙しやがって……。」
「オマエだって騙しやがったくせに。これでお互い様だろ?」
シオンは真面目な顔でそう話す。
(なんでも使ってやる。敵を倒すためなら……!)
シオンはそう覚悟を決めている。正々堂々なんて言葉は綺麗事だ。実際世界はそんなもんじゃない。
「いいだろう。こちらも全力でいかせてもらうぞ。」
「逆に今まで本気じゃなかったのかよ。」
シオンの冷静なツッコミを無視してカシイは攻撃してくる。
「ヴンッ。」
足元にあった石を画面に入れ、すごいスピードで投げる。
「速いね。」
「重量ゼロだからね。」
シオンはそれらを軽々と避け、画面に入った石は、何か別のものに当たると自然と画面が砕け、中から出てきた。
(急に質量が出てくるのか……。画面のヒットと中身のヒットで2回のダメージがある。気をつけようっと。)
シオンは敵の攻撃をマークすると、逆に近づいていった。
「いいぜ!近接戦闘しようぜ!」
カシイも乗り気になって駆け出す。するとカシイの脇腹に何かが猛スピードで突き刺さる。
「何……だ?」
脇腹にはナイフが刺さっていた。
「ここで真打登場さ。さあシオン、倒せ!」
そう言うアキラに気を取られたカシイにシオンの剣撃が刺さる。
「チッ!」
相手は舌打ちし、なんとか離れようとする。だが、反対から魔力をかんじた。
(これは……戦士の魔力!)
『天下無双流 戦鎚!』
重い一撃がカムラの背中に入った。
「ぐあっ……!」
ひとたまりもないと思ったのか、カムラは急いで近くの家の屋根へと逃げた。
「はあ、はあ、やるな。」
カシイはこちらを見ながら傷を治している。するとカシイはユーリの傷が治っているのに気がついた。完全に治癒はしていないが、出血は止まっており、傷口も完璧に塞がっている。
(どういうことだ?魔法使いなどは居なさそうだったが……。)
「大丈夫か、鎮守府将軍。」
「五月蝿い。黙っとれ。」
生意気な口を聞くユーリを黙らせる。
「少し上手く作戦が決まったからといって調子に乗るなよ。」
相手はこちらを睨みつけながら言う。
「怖いねえ。その目やめてくれる?」
それでも生意気なことを言うユーリに対して彼は並々ならぬ思いを抱いた。
「……オマエから殺してやる。」
そう言うと一気にユーリに近づく。
「ハッ!簡単に挑発に乗りやがった!」
「頭悪いな、オマエ!」
そう言って全員でユーリに寄る。
(しまった!罠だったか……。)
カムラは急いで近くにあった木屑を拾うと画面に入れる。そしてそれをシオン達の近くで割った。画面の破片がカムラへの追撃を許さなかった。
「チッ。上手くいったのによお。」
ユーリは舌打ちしながらカシイと距離を取る。
「危なかった。作戦にハマらなくて良かったよ。」
カシイも負けじとそう言うが、敵は全く挑発に乗らない。
「……やっぱり実力で行かないとか。」
そう言って腕に力を込める。ビキビキ、と血管が浮き上がり、彼の体が強力な魔力に覆われる。
「作戦変更だ、みんな。」
シオンが仲間に対してそう言う。
「ここからは全員でヤツに挑むぞ。皆、心してかかれよ!」
「おう‼︎」
全員で反応し、シオンは敵に攻撃を仕掛ける。
(もうここまで来たんだ。出し惜しみは必要ない!)
そう言ってアキラはユーリに虎柄の仮面を投げ、自分は鬼の面を被る。
「!」
彼らがつけた仮面はカシイも見覚えがあった。
(アレはホウタの……!)
「見覚えがあるかい?そう、これは鬼神の仮面と強襲の仮面さ。」
「畜生め!」
カシイはそう叫び、シオンと対面する。
(あの仮面、結構嫌だったんだよ!一度手合わせしたけどめっちゃめんどくさかったし!……そう言うことか!アイツ、その中の治癒の仮面で回復したな!)
(相手もこっちが治癒の仮面を持ってることに気づいたな?さて、どうするか。)
ユーリも相手の心を読み、なんとか攻撃態勢に入る。
「オイ、いい加減集中したらどうだ?」
「!」
シオンから急に話しかけられ、カシイは前を向く。するとシオンの剣が彼の首をかすめた。
(危なっ!余所見厳禁だな。)
そう頭の中で自分に言い聞かせ、シオンとの戦いに集中する。
(相手の注意を俺が引き受ける!その間に!頼むぜ……。)
シオンも作戦を立てていた。
「オラッ!」
カシイの拳が彼の近くに来る。だが、シオンは難なくかわした。すると、シオンの股下からナイフが飛んできた。
『バウンドナイフ!』
「は?」
カシイはなんとか触るが、画面に入らず、そのまま顔に刺さった。
「ギャアアッ!」
その瞬間、シオンは違和感を感じた。
(なんでコイツ触ったのに魔法が発動しなかった?)
確かに今まで思っていた。コイツの魔法は強いのに魔法の発動条件が簡単すぎる。もう少し複雑でも良さそうなのだが……。でもそうはならない。けど、今本当にわかった気がする。
全ての疑問が一つに繋がった。
「……やっぱ嘘ついてんじゃねえか。」
シオンが急にそう言う。
「?」
相手は知らんぷりをしている。
「今までオマエは俺らに魔法を使う時、平手で俺らを触ってた、だろ。」
「……!」
その言葉にアキラとユーリもハッとする。
「……そうだよなあ。明らかに魔法の発動条件が単純すぎる。そんなわけないと思ったんだよね。」
シオンが続ける。
「オマエの魔法は“5本指で触れた相手を画面に入れる”魔法だろ?」
「……。」
しばらく相手は沈黙していたが、やがておもむろに口を開く。
「……やるな。当たりだ!」
「よっしゃあ!」
シオンは自分の答えが当たりだということを知ると、飛び上がってガッツポーズをした。
「俺の魔法は“5本指で触ったものを画面に閉じ込める”魔法。“二次元(バーチャル)”だ。」
(魔法の情報を開示してきた!やっぱり当たりだったのか……。)
ここまできたらブラフ、ということもないだろう。ついに相手の魔法の全貌が明かされた。
「やっとだぜ。やっと対等に戦えるな。」
シオンがそう言い、剣を構える。
「5本指で触れなきゃなんねえんだろ?常時指一本落としてやらあ!」
ダッと駆け出し、一気に距離を詰める。シオンの剣と相手の強化された拳がぶつかり合う。
(もう、ここまで来たらいいかな……。これを使うとは思わなかったけど……。)
カシイはさらに何か考えがあるようだ?
(これに反応できるかはアイツ次第だ。)
カシイは覚悟を決めた。ここまで来たらやるしかない。
一旦奥に退がり、距離をとる。
(よし、ここなら邪魔されない!)
そうして前に手を持ってくると、腕を交差させ、手を裏返して握った。
(なんだアレは。)
シオンは初めて見る動きに興味を持った。だがその時声がした。
[まさか……掌印⁉︎]
そして掌印は組まれた。準備完了だ。
[マズいシオン!退がれ!オマエではアレは無理だ!]
(どういう……。)
ことだよ、と聞くよりも早く相手の技が発動する。
「反応できるか、見せてくれよ。」
そう言って能力が展開される。四角い箱のようなものに自分達が入れられる。
「なんだ……なんだこれは‼︎」
全員はじめての技に困惑する。それに対してカシイが冷静に話す。
「結界術だ。」
「!」
「習得するの、難しいんだからな。とくと味わえよ。」
『——拡張領域(かくちょうりょういき) 二・五次元(メタバース)‼︎』
彼の最強の奥の手が顕現する。
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