第15話 ワールドクラッシュ

第十五話 ワールドクラッシュ

 

 

「大丈夫か⁉︎」

 カシイを倒したユーリはシオンに駆け寄る。

「あ……ああ。それよりもアキラは……。」

「大丈夫。俺がもう治療したよ。」

 そう言ってソウヤが包帯を取り出し、シオンの体に巻く。

「なんとかなったな……。」

「ああ。一時はどうなるかと思ったが。」

「そういえばお前、どうやって傷を治したんだ?」

「あの強力な衝撃波で吹き飛ばされたあと、なんとか持ってた治癒の仮面をつけたんだ。それでしばらく安静にしてたってわけ。もし、あの仮面を画面に入れられてたら終わってたけどね。」

「アキラは?」

「俺の体がひと段落したところであいつにも少しの間、仮面をつけた。それで立てるようになってたから驚きだよ。」

「今回はかなり援護に頼った戦い方だったからな。なんやかんや言って1番の活躍をしていたのはアキラだよ。」

 そうシオンは言った。

「じゃあ今回のMVPは俺ってことで。」

 そう言いながらアキラがこちらへやってくる。かなりの傷を負っているが、致命傷にはなっていなさそうだ。

「聞いてたのかよ。」

「地獄耳だからね。」

「全く……。」

「それよりもこれで……。」

「ああ、ルートを完全に封鎖できる。」

 ルートの終着点を抑えたことにより、魔王軍の南下および勢力の拡大を防ぐことができたと言っても過言ではないだろう。

「漸くだね。」

「ああ、長い道のりだったな。」

 今思えば……、あの時から始まっていたのかもな。

「いや短いでしょ。そんなに経ってないし。」

 ユーリが冷静にツッコむ。

「でも……魔族の数が少なくてここまで進めてきたのはあるかも。」

 ユーリの言葉で彼は振り返る。

「確かに……今回の戦いでも敵に増援はいなかった。」

「それだけじゃない。他の場所で戦った敵も、ほぼ孤立無援で戦っていた……。」

「魔王軍の数は意外と少ないのか?」

「中央ルートを食い止めるために多数の魔族が赴いたことは知ってるけど、ここまで少ないことはないはずだよ。」

 どうやらソウヤもその理由に心当たりはないらしい。

「まあとにかく、これで残りは……。」

「うん。魔王城のみだね。」

 

 

「おかえりなさいませ。」

 そう言って魔王城の入り口で一人の少女が誰かを出迎える。

「わざわざ来てくれたのか……。というかお前は召集されなかったんだな。」

 そう彼女に返す男は勇者キラーだった。

「はい、貴方と共にここをお守りしろとのことです。」

「そうか……。」

 彼らはゆっくりと城の中に入っていく。

「カシイが殺られた。」

 不意にそう勇者キラーが呟く。その言葉を聞き、そばに付き添っていた少女、いや魔族は目を大きく見開いた。

「……こんな時にですか?」

「ああ。どうやらそのようだ。」

 淡々と会話をする。

「そうであれば次はここですよ。私たちじゃどうにも——」

「なるさ。」

 彼女の話を遮り、彼が言う。

「なるさ。なんたって私が直々にここの守護を命じられた理由、わかるか?」

 彼の問いに少女は少し悩んでいたがこう答える。

「貴方が……強いから?」

「そうだ。あの方が留守の間、ここを確定で守ることができる、そう判断されたからだ。」

「であれば、その期待に応えないといけませんね。」

「その通りだ。」

 城の奥へと進み、さらに会話を続ける。

「それよりもどうだったんですか、遠征は。」

「順調だよ。」

 間髪入れずにそう答える。

「グラスは殺したし、道中の敵もあらかた片付けておいた。残りの少数ぐらいは簡単に殺れるだろう。」

 そう言って、彼女の顔を見る。

「私は上に上がり連絡を取る。カシイが殺られたこと、そして準備が既に完了したこと。」

「私は……。」

「君にはすまないが王城の入り口付近を警護してくれ。敵を発見し次第、報告に戻るか殺せ。」

 そう命令する。

「わかりました。終わったらまた。」

「ああそうだな。よろしく頼むよ。」

 そう彼女に言うと、彼女は来た道を引き返していった。

「始まるのか……。」

 彼は天井の明かりを見る。ほの薄暗い 光が彼を包み込んでいる。チカチカッ、と明かりが点滅した。

「私も覚悟を決めなければな……。」

 そして彼は部屋に入った。彼が出てくるのはそれから数分後である。

「よし、行くか。」

 彼はマントを着て、上へ向かった。そして玉座の間まで歩く。玉座の間にくると、玉座に一礼し、前を通り過ぎ、隣の部屋に移る。ガチャ、とドアを開けると、内側は明かりがついておらず暗かったため、彼は明かりをつけた。でもそんなに変わりはなかった。

「ようやく光にありつけるというのに……。」

 そう言いながら、部屋の真ん中にある机へ近づく。そして机の上に乗っていた銃弾のようなものを拾い上げる。そして、それに向かって声をかける。

「準備、完了しました。」

 そう言うと彼は机に置いてあった銃を手に取り、窓を開けた。そのまま銃口を天に向け、照準を定める。フーッ、と息を吐き、撃つ。

「ドガアン!」

 銃口が火を吹き、銃弾を轟音と共に撃ち出した。

 銃弾が天に消えるのを見ると、彼はきびすを返し、銃を机の上に置くと、部屋から出ていった。

 

 

同時刻 東ルートにて

 

 

「うむ、そうか。」

 豪華な輿に乗った男は配下と思われる者からの報告を聞いてそう言ったあと、ニヤリと笑った。

「……ここまで七百年……七百年だ。」

 そいつは感動か何かで奮いながら言う。

「長かった……長かった……。ようやくその時が来たのだ。」

 そう言って立ち上がる。

「これで全ての時は満ちた!」

 目の前の大量の軍勢——魔王軍に向かって言い放つ。

「この世界を壊す時が来たのだ!」

 両手を広げ、かかげる。

「この戦いに勝利をすれば我らの世界が実現する!全てのしがらみにケリをつけるのだ‼︎」

「オオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 猛き叫びが地に響く。

「この戦いにおける手柄は一攫千金だ!そうなれば末代までの栄誉となろう!皆、命を惜しむでない!」

 そうして進軍は開始された。魔王軍、総勢十万。これほどまでの大きな軍団を形成したのは初だ。つまり想定外のはずだ。

「フフフ、お前たちにも働いてもらわんとな。」

 そう言って男は横を見る。

「はっ、もちろんであります。」

 斜め後ろにはリヒュウをはじめとするおそらく魔王軍幹部が一堂に揃っていた。

「期待に応えられるよう、死力を尽くす所存であります。」

 リヒュウがそう言い、相手は頷いた。

「この魔王!全ての敵を滅ぼすことを誓う!それに力を貸してくれ‼︎」

 その問いかけに、大軍は声で返す。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 リヒュウも雄叫びをあげ、彼らは命を捧げて戦うことを誓った。

 そうして、人類と魔族の戦争は、もう間近に迫っていた。だが、人間たちがそれに気付くのは、まだ少し先である……。

 

 

「あれから1日経ったな。」

 シオン達はミラーシティを後にし、さらなる旅路を歩んでいた。

「魔族も全く居ねえし一体どうなってんだ。」

 街道はよく整備されており、何度も行き来した跡はある。だが、今日昨日に限って人通りが全くない。生物の気配が全くしないのだ。

「逆に気持ちが悪いぜ。こんだけ誰もいないとな。」

「ソウヤはホントに心当たりがないんだな?」

「ああ、そうだったらもっと早く言ってるよ。」

「だよなあ。」

 そうしてシオン達は魔王城とミラーシティを繋ぐ街道を歩いている。

「そういえば、傷は大丈夫なのか?」

 ソウヤが唐突に聞く。

「一応傷は昨日一日治すのに専念したから少しは良くなってるが、まだ本調子ではないな。」

 シオンがそう言うと、

「同じくだ。今の状態では上手くは動けんだろうな。」

 ユーリもそれに呼応しそう続ける。

「第一一日だけの休憩はあまり意味がないよ。もう少し休もうぜ。」

 アキラがそう言うと、

「お前はただ休みたいだけだろ。」

 ユーリが的確にツッコみ、笑いがドッと起きる。

(こうして笑っていられるのって、幸せなんだな。)

 そうシオンは感じた。戦争は既に始まっている。でも、今この時間だけは、楽しみたかった。思いっきり笑っていたかった。自分が幸せであり続けるために。

 

 

 そうして彼らの一向は傷のこともあり、普段より休憩を多めにとりながら道を進んだ。魔王城に近づくにつれ、雲が紅くなっていった。

「なんか、空が変わってきたね。」

「これは魔族の力を増長させるためのものだ。」

 ソウヤがそう答える。

「これは単純に日光を遮り、吸血鬼を行動可能にするほか、単純に瘴気を出して魔族の本能を引き出す役割もある。」

「ふーん。」

 一向はソウヤの説明を聞き流していたが、ソウヤが忠告するように続ける。

「いや、わかっとる?敵が強化されとるんよ⁉︎今まで以上に気をつけんといかんとよ⁉︎」

「わかっとるよ。」

 シオンはソウヤの説明をうざったらしく言う。

(……確かにここの空気は以上だ。体が重い。いつもの動きは傷のせいで最初からできないけど、それにさらにプラスしてこれか。)

 ヤバい空気を肌で感じながら進む。そうしていると街に出た。

「……着いたよ。」

 ソウヤが言う。そして前方を指差した。

「あそこが魔王城。そしてここは……。」

「魔王城の城下町ってところか?」

 アキラがそう言う。

「そうだよ。主にここには市があったり、魔王軍幹部の高官が住んでいたりするんだ。フォルスには及ばないけどね。」

 ソウヤはそう付け加える。

「じゃあ、行こうか。」

 そうして彼らは街へと足を踏み込む。ちらほらと赤い雪が降り始めた。

「紅雪(こうせつ)か。不吉だね。」

 ユーリがそう言うと、

「幸運の兆しじゃないの⁉︎」

 と、アキラが驚愕する。

「何でもかんでも、いつもと違ったらそれは不吉のサインなんだよ!」

「え〜、でもこういう時にはモノがよく売れるって聞いたよ。」

「それは知らん!」

 ユーリがこれ以上は何を言っても無駄だと判断し、無理矢理切り上げた。

 すると、近くの建物の隙間から複数の幽霊が出てくる。

「よかったなソウヤ!お迎えのようだぜ。」

 そうユーリが言う。

「気をつけろよ。瘴気で強化されてるから。」

 ソウヤがみんなに注意させる。

「迎えはどうする?」

 ユーリがそう聞くと、

「う〜ん、めんどいから突破しよ。」

「ハハッ、酷えなあ!」

 そう言った瞬間、幽霊が足元に飛びかかってくる。いとも簡単に避けれたが、ぶつかった地面は大きくへこんだ。

(強化具合がハンパないな!ここまで強化されてんのか!)

 強化率に驚きながら、次々と魔力を纏った攻撃で次々と殺していく。そうして1分もしないうちに、敵は全員死んだ。

「……これでよかったんだよな?ソウヤ。」

 シオンはそう聞く。

「大丈夫だよ。こうなった時にもう腹は決めてる。」

「そうか……。あんま無茶すんなよ。」

 シオンがそう言ったが、ソウヤは無言だった。

 それ以外にも何度か魔族の襲撃にあったが、どれも小規模なもので、彼らを止めることはできなかった。

「やっと敵の本拠地らしくなってきたな。」

 敵の人狼から剣を抜いてそう言う。

「そうだな。敵の数が増え始めた。」

「でももう王城の前だよ。」

 アキラが心配そうに言う。

「オイ、ビビんなよ。ここまで来たじゃねえか。」

 そうユーリは言って彼の緊張をほぐそうとするが、

「ソ、ソウダネ。」

 アキラは完全にビビってしまっているようだ。

「この橋を渡ったら王城の入り口か。」

 魔王城は切り立った島の上に建っている。そのためそこまで橋を渡らなければならないのだ。橋の下は海があり、荒波が岸に打ちつけている。

「ここまで来たら、後には引けないな。」

 ユーリも覚悟を決め、橋の前に立つ。

「わかったよ。行けばいいんでしょ。」

 アキラもしぶしぶ橋の前に立った。

「じゃあ、行こうか。敵の総本山に!」

 そうして四人は橋を渡り始めた。

(怖え!途中でトラップ仕掛けられてたらどうしよ!)

(絶対ヤバいよ……死んじゃうかも!)

(ハア……ハア……過呼吸になっちまう!)

 3人は独自の恐怖に駆られていたが、シオンは全く動じない。なぜなら、

(もうここまで来たし、普通にいこうぜ。)

 底なしの場違いだからである。どんなところでもふざけて、場違いなことをやる。でも、やる所ではやる。そういうメリハリをつけている。だから彼は今まで幾度となく訪れたピンチを回避できたのだ。

 そうして四人は橋を無事、何事もなく渡り終えた。

「なんも仕掛けられてなかったんかいっ!余計な心配したわぁ!」

 ユーリは渡り終わるとそんなことを言う。

「確かにそれは危なかったな。」

 シオンもそれに反応し、後ろを振り返る。さっきまでいた城下町が少し小さく見えた。

(もう、戻れない。……いや、戻らない‼︎)

 強い思いを心に秘める。そうして全員に言う。

「……行くよ。着いてこいよ。」

「あたりめえだ!」

 ユーリがそれに呼応する。

「魔王をここで——!」

 そう言って魔王城の扉を開ける。

「ブチ殺す!」

 そう言って扉が大きく開き、彼らは王城へと足を踏み入れる。すると、その瞬間、

「ヤアッ!」

 一人も少女が大きな斧を持ってこちらに襲いかかってくる。

「うわっと危なっ!」

 なんとか四人は避ける。

「侵入者、全員殺します。」

 その少女の目は、こちらに鋭く、向けられていた。

「いいぜ。これが初戦だ。あげていくぜ!」

「オウ!勿論だ‼︎」

 こちらも相手を睨み返し、互いに向き合う。

「全ては、あの方の安寧のために——」

 

 

 壊れた少女の、悲しき刃が彼らを襲う——。

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