第11話 終着点

第十一話 終着点

 

 

 ミラーシティ。三つのルートの終着点であり、敵の最終防衛ライン。人類の第一目標。実態は未だ掴めておらず、現在わかっているのは多数の魔族が守っていることだけ。敵の数も種類も配置も何一つわかっていない。いえば魔境。だが、記録では街について残っており、かつて昔、魔王が現れる前にできた街だという。だが、魔王降臨後、王都から遠すぎたため人類が捨てることとした都市だ。その後は魔王軍によって統治され、全てのルートへの補給基地、および最終防衛ラインとなっている。

「でも、魔族が住んでいるんじゃないんだよね。」

 ホウタを倒したその夜、ソウヤはそう言った。

「魔族の居住地区じゃないのか?」

「ううん、違うよ。魔族の居住地区は魔王城周辺の街で、あそこは補給用の建物とかが立ち並んでいるよ。」

「魔族が持つ都市の中では最大だと聞いていたが……。」

「いや。魔族はこの700年の間にもう街を作っていたんだ。そっちは全く人類には知られていない。」

「じゃあそっちも制圧しないとな。」

「う〜ん、別にしなくてもいいなじゃない?」

「どうしてさ。」

「その魔族のいる街、フォルスは魔王城からまた離れている。北側の海岸線に近いからね。」

「北側の海岸線ってそこが大陸の最北端じゃん!魔王城も最北端じゃないの⁉︎」

「近いけど海上にフォルスは作られているけど魔王城は陸地に接してる。フォルスができたのは400年前って聞いているけど魔王城は680年前くらいにできたからね。かなり年季も違うよ。」

「魔族の住まう海上都市か……。ワクワクするけど行きたくないな……。」

「どうして?」

「ああ〜……、わかる。」

 シオンがそう言うとそれに応じるようにソウヤもそう言う。

「お前も嫌なの?」

 ユーリがソウヤに聞く。

「だってあそこ……寒いし潮風で色々なものがダメになるし何より嵐の日は家から出れない!」

「生活水準は悪いってことか?」

 アキラが聞く。

「魔族には清潔感っていう言葉があまり浸透してないしね。暮らせればどこでもいいんだよ。」

 魔族の生活水準はピンキリだ。位の高いやつほど清潔感がある。だが、一部には大貧民のような魔族もあり、貧民街もフォルスの中でできている。

「何より老朽化が進んでいるし、魔王軍の幹部もこの数十年は入れ替わってない。その結果、格差はひらいていっているんだよ。」

「人間の世界とそう変わらないってわけか。」

 そうだ。人間の世界と同じなんだ。やっぱり似た者同士なんだ。

「まあ世の中そんなに甘くないしね。」

「そういうお前はどこで暮らしてたんだよ。」

 ソウヤに今度は質問が飛ぶ。

「確かにお前はどこで何をしてたんだ?」

「自分はフォルスで生まれた貧しい魔族だよ。」

「珍しいな。どんな魔族よりも発生(スポーン)確率が低いのに。」

「フォルスに居た時の記憶は残っているけど……。」

「けど?」

「思い出したくないな……。」

「そんなになのか?」

「ああ、ひどいもんだ。」

 少し沈黙した間が流れる。

「そこから逃げ出したんだけどやっぱり無理でね。最終的にカムラの支配下になったんだ。あれからは逃げられん。」

「そうか。あいつ一応霊媒師だったしな。」

「逃げても逃げれない……か。」

 アキラが言う。

「お前にもそういう経験があるのか?」

 ソウヤがそう聞く。

「いや……借金した時と同じだなって……。」

「それはお前が悪いだけだろww!」

「そんなあ〜!」

 そうしてその夜はふける。星は綺麗に瞬いていた。これから起きることを感じさせないくらいに。

(でも、こういうのが一番だよ。)

 ソウヤに罪はない。だが、宿命として逃れられないものがある。これがほんのひと時だけのものかもしれないが、彼にとっては永く、永い時間だ。永遠ではないのに……。

 

 

その夜

 シオンの脳内に誰かが呼ぶ声が響き、その世界へと誘われる。

「……。」

 複数の色がある世界。だが、天も地もない。ただ、不思議な世界に立っている。

「ここに来るのは……初めてだったよな。」

 声に反応し、声が聞こえた方を振り向くと、

「顔を見ながら話そうじゃないか。新鮮でいいだろ?」

 もう一人の自分——ではなく、別の人物がいた。

(コイツが、俺の中にいたヤツ⁉︎全く俺とは別人じゃないか!)

 似ても似つかぬやつを目の前にして彼は心底驚いた。

「そうだよな……。全然わからないよな。」

 相手はゆっくりと話すと、自分に近づいてくる。

「安心しろ。俺もわからん。」

 近くにくると彼は指を鳴らす。すると、近くに二つの椅子が出てきた。

「……座ろうか。落ち着いて話がしたいだろう?」

 そう言って二人は座る。

「ここはどこだ?」

 シオンはいきなり質問をする。相手の人物は間髪入れずに、

「おそらくお前の精神世界……ってことだろうな。俺はいつもここにいる。」

「現実とは違う、お前の住む世界ってことか。」

「ああ、天地もなく、理もなく、ただ続いている。だが、お前や俺以外の人物は居ない。そして腹も空かん。」

 相手は冗談混じりの返答をした。

「俺の……精神……。」

「そうだ。といっても危害は加えられないし、他人に見せたくないものはここでも見る事はできない。よかったな、プライバシーの権利があって。」

「ないようなもんでしょ……。」

 シオンはため息まじりにそんなことを言いながら頭をかく。

「それで?何のために呼んだの?」

「ああ、この先に行くのなら知っておいたほうがいいと思ってな。」

「?」

「そんな顔をするな。気楽にいこうじゃないか。」

 シオンは急なことに少し緊張していたが、それを安心させるようにする。

「単純な話だ。ここから先は命の保証はできんというだけだ。」

「命の保証なんて旅に出た瞬間からないでしょ。」

「そういう意味ではない。」

 相手は手を振りながら言う。

「おそらくだが、この先はレベルが違う。ミラーシティのヤツはホウタの二倍以上の強さがあるといった。こういう時はおそらく強さ的に五倍以上はあるだろう。魔法の練度自体も跳ね上がるだろう。」

 相手は淡々と述べる。

「それだけじゃない。勇者キラーがいつ来てもおかしくなくなっている。こうして安心して休めるのも今日が最後だろう。」

 彼のいう事はシオンもわかっていた。

「そのぐらいはわかってる。」

「まあそうだろうな……。それと……。」

「そういえばあのホウタに聞いた質問の意図って何?」

 相手が詰まっている間にシオンが質問する。

「それを話そうとしていたんだ。」

 相手も乗り気になって身を乗り出す。

「いいか、よく聞けよ。今から言うことは決して嘘ではない。だから安心しろ。」

 そう忠告して、間を空けてから話す。

「俺は1300年前に魔王と戦った勇者だ。」

「せ……1300年前⁉︎」

「そっちに目がいくか。まあそうだな。ほとんど記録も残ってないだろうが……一応話すか。」

 そう言って思い出すように話す。

「今から1300年前、魔族と人類の総力戦があったんだ。名を——」

「魔人大乱(まじんたいらん)……。」

 シオンの口から思いもしない言葉が出る。

「ハッ……、そうだ。まさか知っているとはな。」

「伝説じゃないんだ……。」

「なるほど。伝承として伝えられたものか。」

「うん……どちらかというと伝説だと思ってた。」

「まあそうだろうな。実際にあったことを伝説として語り継がせるのは人類の得意分野だ。」

 そう言って彼は上を向く。

「その魔人大乱では激しい戦闘が行われ、俺はそこで主力級の勇者だった。」

「……!」

「人数は魔族の方が上。技術は変わらない。でも統率力で力の差を見せつけていた……。でも、そんな中、敵のボスが現れたんだ。」

「ボス?」

「ああ、魔王だ。」

「その時代から居たんだね、魔王。」

「そいつは次々と味方をも巻き込んで虐殺を始めた。その行動に人間だけでなく魔族の恐怖した。」

 あのおぞましい光景。血飛沫が飛び交うあの戦場。その屍の上に立つ魔王。

「自分も止めようとした。でも、力の差がありすぎた。」

 下を向いて言う。

「結果的に俺はそいつに殺された。無様にもな。」

「……。」

「その時相手が使っていた魔法が斬撃の魔法だ。切れ味が鋭く、しかも見えない。魔力探知で場所はわかるがそれ以上に速い。しかもそれだけではなく、複数の魔法を使ってくる。」

「そいつが、魔王なんだな?」

「ああ。でもこうなっているってことは魔人大乱は俺らが勝ったのか?」

「いや。違う。伝承では負けってことになってる。伝承によるとそれによって人類の戦力は壊滅し、魔族に支配された暮らしになったって。」

「やっぱりか……。」

 相手はそう言う。

「そうだよな……。俺以外にアレを止めるのは無理だよな。」

「そこまで強いの?」

「ああ、比べものには——」

「いやそうじゃなくてお前が。」

 その言葉に相手は不意打ちを喰らったように止まっていたが、その後微笑み、

「この世に強いなんてないさ。それも他人から見た相対評価だ。」

「じゃあその時でいい。お前は強いの?」

「強い弱いで言われたら強いだろうな。」

「やっぱ強いじゃん。」

「俺が気をつけたいのがそいつだ。今の状態でヤツと殺り合ったら間違いなく死ぬ。でも俺の勘が言うには多分そいつは魔王とかにはなっていない気がする。」

「どうして?」

「ヤツは元々有名だったんだ。殺し合いを求める最凶最悪の魔族。そんな奴が前線を退いてそんな位に就くとは信じられん。」

「じゃあもう死んでる?」

「それも低いだろうな。不意打ちでも殺せないだろう。そうなったら前線に極力出てる奴になる。その中で可能性が一番高いのは……。」

「勇者キラー……。」

「いや、それだけじゃない。」

 シオンの言ったことを遮りながら言う。

「確かにその可能性もある。だが、ヤツは殺す……つまり殺害に執着している。強いヤツとの戦いは望んでいない。そう考えるとミラーシティを守護しているヤツ……。そいつが一番なんじゃないかと思う。」

「確かに話の筋は通るけど……。」

「そうだよな。全くもって意味がわからん。一度奪われた世界を取り戻せるはずがない。」

「それ以外にも情報が少なすぎる。そんなヤツならもっと殺しにきてる気がする。」

「その通り。該当するヤツが実際いない。でも死んでいるとも考えにくい。」

「あ。」

 シオンが何か思いついたようだ。

「倒すのが無理でも封印とかで何とかしたとか?」

「……!」

「流石にかな……。」

「いや、充分あり得る。というかそれが一番の候補かも……。」

「まさかね……。」

 少しの間が空いた。

「でも俺は嬉しかったよ。」

 シオンが急に口を開く。

「お前のことが知れて。」

「そうか……。ならよかった。」

「お前のやることはその魔人大乱でお前を殺した魔王を殺すことだ。」

「……そうだな。あとお前を助けること。」

「!いいのか?」

「どうせお前がそいつにたどり着いてくれないと殺せねえしな。ここからはプライドを捨てて、生きるためには俺を頼れ。人に頼ることは一番いいことだからな。」

「分かってる。頼りにしてるよ。相棒。」

 そう言われて相手も少し嬉しそうだった。

「そうだな。相棒。」

 

 

次の日 ルート終着点近く

 

 

「見えたぞ。」

 彼らは無屋の荒地を抜け、街と対面する。

「ここが……ミラーシティ‼︎」

 

 

「フフフ、もう少し……もう少しで……!」

 魔王城では、不気味な笑みがこぼれ落ちるのだった。

 世界の終わりは近づきつつある。そして、彼らが真実へ辿り着く時も……。

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