第10話 天からついてきた者
第十話 天からついてきた者
(俺は昔からもう一つの声が聞こえた。)
これはシオンの独白。
(具体的に何歳からとかは覚えてない。けど、妙に大人な声で気色悪かったのは覚えてる。)
その声はいつでもついてきた。
(他の人には聞こえてないし、話せない。でも、自分だけにはわかる。)
そいつはずっと人前でも構わず話してくる。前々からうざったらしい。
(でもそいつの言うことはいつも正しかった。嫌になるほどに。でも不思議に変な気は起きなかった。)
マジで妙だった。もう人生を歩んだ後のように。
(そいつは頼りにはなったし、何より強かった。折れない心を持ってた。)
いつでもそばにいて頼れた。勇者になってからも時々声は聞こえた。でも不思議と声色が優れなかった。
(最近になって体を変われだの、俺が出るだのそんなことを言うようになった。いきなりなんなんだろな。)
勇者になって、旅に出て、ようやくそいつの正体が掴めた。
(多分、こいつは……。)
良い。
『魔突閃‼︎‼︎‼︎』
赤黒く光った魔力を纏った拳がホウタの胸を直撃する。ホウタはモロに喰らった影響で遠くまで吹き飛んだ。
(ノってた。今まで以上に!)
ようやくいい感じになってきたね。その状態なら私のスピードを維持できるんじゃないか?
(あれでも本気じゃないくせに……。)
流石だ、我が半身。……いや、相棒(パートナー)よ。
「まさか……このタイミングで出すとはね。」
ホウタは吹き飛び、岩にぶつかっていた。ようやくそこから出てきた。
「腰が折れそうだよ。正直けっこう効いたよ。」
そう言って彼は仮面を外す。
「もう勝つためには出し惜しみはしない。最高級の道具を使って、君を殺す。」
そう言って彼は鬼のような顔をした仮面を被る。
『魔法道具 鬼神の仮面‼︎』
能力は単純な身体能力の底上げのみ。だが、その上げ幅は常軌を逸している。
「ビュッ。」
(え。疾……。)
「ガアン‼︎」
その瞬間に相手の拳を受け、吹き飛ばされていた。しかも相手のターンは終わっていない。
(もう止まらない!攻撃の連続で回復する時間も、攻撃する隙も、全て失くす!)
攻撃を受けて吹っ飛んだ先でも、ホウタは追撃してくる。
「俺、陸上選手になれるかなあ!」
そう言いながら再びスピードが乗ったまま、拳でシオンを殴る。頭から血が出た。
(ダメージはある!このスピードで殴ればあと数発で潰れる!)
彼のスピードは先の戦闘の時の勇者キラーぐらいあった。そのスピードが乗っているのだ。その状態での殴りなら、確実にダメージはあるだろう。
(不味い!攻撃の暇がない!つけ込めない!)
大丈夫か?一度変わってやろうか?
(ごめんけど、そうしてくれ。)
「やれやれ、困ったものだね。」
再び入れ替わる。
(二撃目!)
ホウタは既にシオンの背後へと回っている。そして二撃目を放とうとしていた。だが、
「なっ……!」
その拳はシオンに受け流され、体の軸がブレた。その瞬間、体のバランスが崩れ、足の筋肉が裂傷した。
仮面によって身体能力が上がったと言えど、実際に体がそうなったわけではない。仮面の魔力によって一時的にそうなっているだけなのだ。そのため、過度な運動をしたり、体に負荷をかけずぎると、体がそれについていけず、体に異常が出る。
「ガアアアア‼︎」
ホウタの言葉にならない叫びが響く。
(クソッ!筋肉が裂けた!これは再生には時間がかかる!)
外傷、特に切り傷やかすり傷などは再生がしやすく、たとえ腕を切断されるなどしても、時間もそんなにかからないし、再生にかかる魔力も多くない。
だが、骨折、内出血、筋肉の裂傷、肉離れなどは体の内側で起こるため、外傷と違って傷ついた部分が露出しない。そのため再生が難しく、どんな個体であっても治癒には長い時間を要する。
「お前の身体強化は強力さ。でも、それにお前の体がついていけるかは別だ。」
シオンは彼を見下しながら言う。
「実に滑稽だな。自らの最終兵器で自らを死地に追い込むとは。いや、それが最終兵器なのか?」
(クソッ、コイツ!俺をコケにしやがって!)
「許さん!」
その瞬間、マグマが二人の乗った地面を持ち上げた。
「ここで!俺がお前を確実に殺す!」
なんとか立ち上がって、そう宣言する。
「盛大に火葬してやろう!骨も残さず!」
そう言って地面に手をつく。
「消えろ!」
『山の怒り(ボルケイノ)‼︎』
彼らを乗せていた地面が爆ぜ、シオンを巻き込んだ。よく見るとマグマを噴き上げ、シオン達のいた地面を貫通させたようだ。
「シオン!」
アキラがそう呼びかける。だが、なんとか爆炎の中から飛び出してくる。
「まだくるぞ!全員備えろ!」
そう言って振り向く。
「相手さんがお怒りのようだ。」
上を見上げるとホウタがそこにはおり、後ろには大量に打ち上げられたマグマがあった。
「これが正真正銘、私の最大火力だ‼︎‼︎」
『大地の怒り 最大火力 炎葬(えんそう)‼︎‼︎』
丸まったマグマが、そのまま地面に叩きつけられた。マグマの球体はそのまま広がり、大地を覆った。あたりは灼熱に包まれ、地面がゴウゴウと燃えていた。
「はあ、はあ……。これならタダでは済むまい。」
地面の下から露出していたマグマも少なくなってきた。
「“大地の怒り”の出力も落ちている……。もう大技は使えぬな。」
周りを見渡すが、誰もいない。
「フフフ、ハハハ、フハハハハハハ!」
ホウタは笑う。
「やはり!私の前に等しく皆敗れ去るのだ!」
(私はあの魔王からも実力を認められている!そうだ、この程度で終わるわけがないのだ‼︎)
「さて、死体でも確認しようか。最大火力を出させた“人間”はお前達が初めてだ。その勇姿は、俺の脳にしっかりと焼き付けねばな。」
「死んでいればな。」
この声は。
「まさか……。いや、そんなことはない!」
「残念ながら、そんなことはないことはない。」
そこにはシオン達の姿があった。
「どうやって避けた。」
ホウタは疑問の眼差しを向ける。
「タネはない。単純に逃げた。それだけ。」
シオンはホウタに近づきながら言う。
「あの技の炸裂前にみんなで逃げた。無論、逃げるのは難しかった。だから使わせてもらった。」
魔法道具、簡易防御機構(シェルター)。これは発動させるとその場に防御結界が30秒のみ展開される。無論、機械なので破壊される可能性もあった。だが、これは元々災害、地震や台風、特に火山の時に使うものだった。そのため耐火能力が優れており、この場には適していたのだ。
「そうか……、もはや対策済みだったのか……。」
「まあ、ここで使う気はなかったけど。」
シオンは軽く言い、剣を向ける。
「もう魔力も残ってないでしょ?それはこっちもなんだけど。」
「わかった。殴り合い……ということだな。」
「そういうこと。」
シオンはホウタに近づいていく。
「ここからは完全な真剣勝負だ。勝ちにいくからな。」
「それはこちらもだ。やるからには全力でいく。」
相手も歩み寄り、攻撃体勢に入る。互いに一触即発だ。
(もうアイツには頼らない。最後は俺の剣で決める。)
そうだな。ここまで俺はお膳立てしたんだ。必ず決めろ。
心の声も同調する。先に動いたのは——
「オリャア!」
ホウタの方だった。だが、拳を受け流し、腕を逆方向へと回す。その動きは、入れ替わった時と変わらない。
「やはりか……。」
ホウタは気付いた。コイツは何かが違うことを。
腕を受け流した隙を狙って剣で斬り裂く。確実に命中し、突き出した腕は落とされた。
(魔力のレベルも上がった。コイツは戦いの中で学習し、進化したのだ。それを今の今まで気付けなかった……。)
落とされた腕すら再生できる体力はない。もう全て出し切っている。……。いや、そうではない。
(まだ。)
「私は!これしきでは終わらぬ!」
ホウタは急に言う。
「私は魔王様直々に会いに来られたような偉大な魔族だぞ!こんなところで負けはしない。」
少し聞きたいことがある。変わってくれないか。
急に心の中で声が響いた。
(わかった。でももししょうもないこと聞いたら一瞬で変わるからな。あとシメは俺だから。)
そう言って変わった。魔力量が若干変わった。
(⁉︎なんだ?まさか此奴……。)
「どおりでレベルが変わるはずだ……。」
相手も何かを悟ったようにものを言う。
「さて、オマエが本当に魔王から会いに来られたのかは置いといてだ。」
シオンはそう言って続ける。
「それは本当にお前の実力か?」
「何?」
「オマエには覇気がない。溢れるような強さを感じない。」
「……。」
相手は黙って聞いている。
「その感じ、オマエもわかってるんじゃないか?自分の立場ってやつをな。」
「何を……。」
「今まで聞いたやつはもっといろんなことをやってる。リヒュウにしろ勇者キラーにしろ、魔王にもな。」
「……。」
「アイツらとはレベルが違いすぎたんだ。でも自分もそうなれると。オマエは結局、自分に自信が欲しかっただけなんだよ。」
「……。」
ホウタは黙っていた。自問自答でもしているのだろうか。
「そう……なのかもな。」
やがておもむろに口を開く。
「結局私は誰かの背中しか見ていなかった。対象と自分をいつも比べていた。終わりのないことだ。力というものは時に残酷だ。どんなに願ってもその力は与えられないことが多い。だが、世の中には願わずともそういう力を持った奴もいる。一体何故だろうな。」
「知らん。そんなの勝手に調べてろよ。」
「それにたどり着いたらどんな気持ちになると思う?」
「ああ、そういうことか。もう“たどり着いていた”んだな。」
「そうだ。とっくの昔にな。」
相手は空を見上げ、こうつぶやく。
「虚しいな……。これが“世の中”というものか。」
「違う!これが“世界”だ。」
シオンの言葉には重みがあった。
「もはや私は誰かに背中を押してもらいたかったのかもな。」
「一応問答は置いて、だ。」
シオンは話に区切りをつけるとこう告げた。
「オマエらの魔王は斬撃の魔法を使うか?」
「?」
「魔王とあったことがあるならわかるだろ?」
「フッ……そこまで見抜いていてわからぬか。」
「?」
「魔王とあったのはいいが、実際に手合わせ、なんてのはできん。やるとしたら……魔王軍幹部のごく少数だろうな。」
「そうか。わかった。」
そういうと彼は再び戻る。
(もういいのか?)
充分だ。残りは自分で結果を出す。
「さて、そろそろ決着をつけようか。」
残った魔力を搾り出す。正真正銘、ここが最終決戦だ。
「いくぞ!」
二人は取っ組み合い、互いに体をぶつける。
(剣の方がリーチは長い!やつの一撃は当たるとかなりまずい。なら、リーチの差で近づけさせん!)
だが、相手もそれに気付いていた。
(剣で間合いを取っている。この状況で確かに一発でも当てることができたら私の勝ちは濃厚。それを防ぐのは当然か。だが!)
相手は魔力を練り上げる。体ではなく、脳に!
(まさか……。)
『岩礁!』
シオンの足からいくつかの尖った岩が突き出す。
(さっきの魔力がないと思わせるのは嘘か!ここまでされるとは!だが!)
その時ドンッと背中に衝撃が走る。
「な……⁉︎」
背後にはユーリがいた。
『ダブルスレイヤー!』
「グアァッ!」
(コイツ!さっきの会話の間に味方を背後へ回していたのか!これはまずいね。)
シオンは既に岩礁を全て避け、攻撃体勢である。
「良き。」
シオンの剣が、ホウタの体を斬り裂いた。
「勇者(おまえ)の名はなんだ。」
相手は体が崩れながらもこちらに話しかけてきた。
「シオンだ。」
「そうか、シオンというのか……。実に楽しかった。実力の拮抗したやつと、死に際の戦闘を行うのも悪くはないのだな。」
相手は戦闘を振り返りながら言う。
「持っていくといい。」
そう言ってアキラに複数個のものを投げる。
「これは……。」
「見ていたならわかるだろう?仮面だ。」
ホウタは彼らに仮面を託したのだ。
「別にこれはどうというものではない。くだらんものだろう?」
「いや、かなりの値で売れそうだな。」
「そんな寂しいことを言うな。それは私の魔力がこもっている。少しは貴様達に力を与えてくれるだろう。」
「でもいいのか?お前のやっていることはほぼ魔王への反逆だろう?」
「だからだ。私が及ばなかった奴らをそれをつけて倒してくれ。」
敵の最後の願い。ここまできたら踏みにじる気もなかった。
「わかった。だが、それまでに死ぬ可能性もあるからな。」
「だが死ぬ気もないだろう?」
ホウタはそうかまをかけるように言う。
「だが一応言っておく。ミラーシティにいるヤツは私の二倍は強い。」
ミラーシティはこれまで何度か話したが、敵の最終防衛ラインであり、ここを落とせば魔王城は目と鼻の先である。
「ミラーシティにいるヤツはかなり前から不動だった。私が知る時でも300年間は居座っているだろう。」
「300年か……。」
気の遠くなるような年月だ。それをあっさりと生きているのが信じ難い。
「ああ、少なくともな。実際の年齢はそれ以上だろう。」
敵もそろそろのようだ。
「まあなんとかしてくれよ。勇者ども。」
崩れていって顔だけになったホウタは最後の言葉を述べる。
「あまり早く来るなよ。私を殺したんだからな。」
そう言うとホウタの体は完全に崩れ去り、風に乗って何処かへと消えていった。
補足 技についての賢者の説明
技が分かりにくくてどれが魔法でどれが応用でどれが戦闘術なのか分かりにくいでしょう?そんな時は魔法を基に考えるといいですよ。魔族は自分の生得魔術しか使わないという習わしがあるのでね。例えばホウタであれば大地の怒りです。それ以外の地面を操るものは全て魔法の応用技です。
ちなみに天下無双流は戦闘術の中の剣術(斬術とも)と言われるもので、断魂刀についているエンチャントでの攻撃は分類分けが難しいですが、一応戦闘術と魔法の応用の融合、ということになるので具体的には分類はできません。ですが、単純なエンチャントでの攻撃は魔法攻撃なので、そこだけは分類可能です。
以上、賢者の説明でした。
……賢者って誰だよ。
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