第9話 幻

第九話 幻

 

 

『大地の怒り(グランドレイジ)!』

 相手の猛攻は留まるところを知らない。攻撃範囲が今までのと比べて格段に広く、一発のダメージも上がっている。

(一旦ここまでで整理をするか。)

 シオンは攻撃を避けながら解析を始める。

(まずは普通の魔法攻撃。あの地面を操る魔法だ。これはそこまで威力はない。だが、攻撃の起点になることが多い。なんにせよ注意が必要だ。そしてさっきの地面の波。あれが現状、相手の技で一番強い技だ。避けるのは至難の業だ。攻撃自体を読んで避けるしかない。そしてあの地面から出る針。あれは相手が地面を触った1秒後ぐらいにくる。殺傷力はやや高めってことだろうか。着地の瞬間や攻撃後のインターバルに注意だな。)

 そしてホウタを見る。

(さらにあの魔法道具だ。現状わかってるのは治癒力上昇、攻撃力上昇、防御力上昇の三つだ。これ以外にも複数個ぐらいはありそうだ……。あとそうだ。多分、幻影を出す技か道具を持っている。それが相手に先手を取られた理由。それはあの幻影のせいだ。そしてそうだ。もう一つ。最初にはめていたあの魔力を抑える仮面。それぐらいかな。)

 現状、相手の手札は少ないが、それでも劣勢にある。

「同時に攻撃を叩き込もう。そうしないと多分ダメージを与えられない!」

 ユーリがそう提案する。

「そうしたいのはやまやまだが、いかんせん相手の技の範囲が広い。二人で近づくとなると……。」

「じゃあ俺らが道を作る!」

 ソウヤが一気に敵に近づきナイフを刺す。

「今のうちに!」

 二人もそれに合わせて近づいていく。

「やっぱり嫌だね。魔族と戦うってのは。」

 ホウタはそう言うとナイフを触る。確かに深くまで食い込んでおり、ダメージはあった。

 ソウヤはさらに攻撃を叩き込むが、それを魔力で覆った腕で防ぐ。

「いつまでも敵対しないと思わんでね。魔力での攻撃ならお前にも入る。」

 ホウタはソウヤに攻撃をしようとするが、

「背中がおろそかだぜ!」

 二人の剣がホウタの背中を傷つける。

「グアッ……!」

 だが、やはりあの仮面のせいで上手くは削れない。

「やっぱ硬えなあ。剣での攻撃がこうも入らないとは。」

 背中から出血はしているものの、こんなものは魔族にとってはかすり傷だ。すぐに再生してしまう。

(でも、普通だったら入らなかった……。背面はもしかしたら弱い?)

 ユーリは手応えに違和感を感じていた。背面ならそこまで力を入れずとも斬れたのだ。

「多分背面が弱い。俺が全力で叩き込んでみる。」

 ユーリがそう言うと、今度はアキラが飛び出していく。ナイフを投げ、気を引くようだ。

(これは……。)

 さっきのナイフとは違う、魔族に対する特攻性を持ったナイフ。

「銀ナイフか。君も相当の数寄者だね。」

 いくつかは弾いたものの、いかんせん数が多く、いくつかは刺さった。

 銀という物質は、古代ヨーロッパでは悪魔、特に吸血鬼に対して特攻がある、と云われていた。そのため吸血鬼狩り達は銀製の物を使っていた。さらにイギリスでは昔、銀の弾丸が使われていたほどだ。

 アキラのナイフは銀製であり、魔族に対して特攻がある。そのため魔族は引き抜くにもダメージを受けてしまう。特に吸血鬼にとっては触るだけで体が融解するほど、危険なのだ。

 ナイフの刺さった部位は治るどころか傷が広がっている。よく見ると、傷口が少しずつ溶けながら広がっている。

「しかもかなりいい物だな。普通であれば銀ナイフで私の傷が広がることなどあり得ない。」

「そうだよ。」

 そう言ってアキラはまた複数本のナイフを取り出す。

「銀の配合が特殊な物でね。吸血鬼じゃなくてもかなりのダメージを与えられる。まあ数は多くないけどね。」

 実際にこの銀ナイフは特注品であり、かなりの値がする。そのため10本しかない。

(今投げたのが8本……。回収すればいいけどいくつかは刺さったままだ。そう考えると回収したとしても手元にあるのは5本程度……。近接でいくか。)

 アキラは今度は両手にナイフを持って近接戦闘を仕掛ける。

「もうストックがないのか?」

「金がね!ないんだよ!」

 近距離でナイフを振りかざし、体に傷をつける。

(“鋼鉄の仮面”をつけていてもこれか!ほぼ防御貫通攻撃だと思った方がいいな。)

 ナイフが刺さっていた傷口が大きくなりすぎて、ナイフがカラン、と落ちる。

(近距離ではあまり戦わない方がいいか。)

 ホウタは距離をとり、再び地面を触る。

『岩礁!』

 地面から尖った岩が飛び出し、貫通せんとする。だが、簡単に避けられ、傷口から落ちたナイフを再び投げた。

「クッ!」

 ナイフが手の甲に刺さり、皮膚を溶かしていく。手の傷に一瞬気を取られ、戦いへの集中が途切れる。その瞬間をユーリは見逃さない。

(今しかない!)

 背後から一気に近づき背中を狙う。

(背面の強度が低いのはわかった!ならそこを狙うまで!)

『天下無双流 鬼門・逢魔が時‼︎』

 ホウタの背中に正確に剣が叩き込まれた。

「がっ……。」

(クソッ、俺としたことが!全く気付かなかった!)

「だが!」

 ホウタは振り向き、魔力を溜める。

(溜め動作?)

 魔法、特に強力な魔法発動直前には魔力のためが必要である。そのためには少しでも動作をそれにあった動きへとしなければならない。彼は強制的に彼に術をぶつけるため、少し無理矢理溜め動作を作ったのだ。普通溜め動作はわからないように作る。なぜなら相手に技を予知されるからである。だが、これは範囲攻撃。

「わかったところで、ってハナシだよな。」

『地獄針山(じごくしんざん)‼︎』

 地面から大量の針のように尖った石が、ホウタの周りから生える。かなりの範囲だ。今から走って範囲外へ逃げることは不可能だ。だが、その隙を埋めるかのようにシオンが合わせる。

『残魂解放!魂の刃動(ソウルソニック)!』

 刀に残った魂をそのまま剣の形に収め、それを一息に解き放つ。

 刀から刃の形の蒼い斬撃が放たれた。それは一気に針を次々と斬り、ホウタの首元に迫った。だが、

「ガキイイン!」

 流石に首は硬く、弾かれてしまった。だが、そちらに気を取られたおかげでユーリに針は当たらなかった。

(クソッ、術の発動を遅らされた。そのせいで誰も持っていけなかった。)

 その時、右手がズキッと痛んだ。

(ナイフもかなりの痛手だな……。手袋でもしてくればよかった。)

 魔族特攻の銀のナイフのため、引き抜くことはできない。故に持続ダメージを受けなければならない。

「……仕方ない。使いたくないんやけどな。」

『全魔力解放』

 一気にブアッと魔力が跳ね上がるように解放される。

(何かしてくる‼︎)

 全員で身構える。いつでも避けられるように。

「いくで。大地を怒らせた、その代償を知りな。」

 その瞬間、大地が芽吹き、その本性が現れる。

『原始の世界(マグマオーシャン)』

 大地から轟音が響き、至る所からマグマが噴出する。

「これが、俺の最終段階や。眠っていた大地を呼び覚ます。」

 地が割れ、灼熱の業火に燃やされる。

「地形は変わり、全ては無に帰る。流石に全土は無理やけどな。」

 ゴゴゴゴゴ、と音を立てながら、マグマが彼らに襲いかかる。

「マグマまで操れんのか⁉︎」

「いや、それは無理だ。魔法の適用範囲を超えている。マグマを操るには別の魔法が必要だ。」

「あくまで大地を変貌させるだけか。」

 シオンがそういい、ホウタに近づく。

「あ〜……、でも……。」

 そう言いかけた時、地面が爆ぜ、ホウタが乗っていた地面をマグマが持ち上げた。

「火山のミニ噴火、みたいなのはできるぜ。」

『マグマスプラッシュ』

 地面が次々に爆ぜ、足場を奪われる。

(こんなに広範囲でかつ、強力な攻撃!あの地面の波の攻撃以上だ!)

 相手は高台から見下ろしている。

(あくまでマグマの噴出はアイツの攻撃の副次効果……。でもそれでも必要以上に俺らの足場を奪う。)

 無理なら変わるぞ。

(またあの声か……。)

 脳の中に響く声。マジで鬱陶しい。

(じゃあお前ならいけんのか。)

 だが、今回は逆に問い返してみた。

 ああ、この程度、なんら問題はない。

(じゃあ10秒だけ変わる。その間にヤツを倒せる状態まで持ってけ。)

 はいはい、ご注文が雑ですね。

 シオンはダッと駆け出し、マグマによって分断された足場を乗り継ぎながらホウタの元へ向かう。

(急に速くなった?なんなんだ。)

『マグマスプラッシュ』

 マグマを噴き出させ、焼き尽くそうとするが、

(当たらん!)

 いとも簡単に避けられ、逆にどんどん近づかれる。そして、ホウタの眼前まで迫った。

(刀は持ってない。単純な殴り合いってことか。)

「いいぜ!」

 ホウタとシオンはお互いの拳をぶつけ合う。だが、

「ごめんけど、それが目的じゃない。」

 素早く相手の背後へ回る。

(速い!真っ向勝負と見せかけての転身、そして華麗なステップ!私よりも数段優れているだと……!)

 シオンは背後に回ると膝蹴りを見舞い、そこからさらにたたみかける。

(い、威力さえも違う!私は仮面の効果で防御力が極限まで高められているんだぞ!それなのに!)

 確かな重みがあった。でもこれは彼の素の力。それがどうしてもホウタには信じられなかった。

(八……九……時間がもうない!)

 シオンの体はあと1秒で入れかわる。入れ替わった瞬間にこれでは流石にまずいだろう。そうなるのを防ぐには……。

 彼は急にホウタの服を掴むと、そのまま投げて、マグマへと落とした。

「な……に?」

 ドボン、とホウタの体はマグマに落ちた。

(……十‼︎)

 約束の時間だ。注文通り、簡単に倒してやったぞ。

(倒せ、って言ったんじゃなくて、倒せる直前までもってけ、って話だったんだけど……。まあいっか。)

 その時、マグマが急に持ち上がり、柱のようになった。その先端からはホウタが現れた。

「やってくれたな!このやろう‼︎」

 ホウタは皮膚の一部が焼けただれていた。逆にこれだけで済んでいるのが奇跡だ。

『マグマスプラッシュ』

 シオンの地面を狙う。だが、あっさり避けられる。

(やっぱり体が違う。魔突閃を出した時と同じような感じだ。)

 体はその人に応じて対応する。そのためまだ彼の時の余韻が残っているのだ。これを常時保てたら良いのだが……。

(今はノってる。それを極限まで活かす。)

 一気に近づく。魔力を込めて拳を振るう。

「ドンッ!」

 ホウタの目の前の地面に着地し、拳をぶつける。既に魔力は高まっていた。

(極限なる集中!ここでの追い込み!これは……。)

 魔力は赤黒く変色し、全てを壊す。

『魔突閃!』

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