第7話 嘘と誠
第七話 嘘と誠
——突然だった。いきなりの訃報に生きている全員が驚いた。それは——
「号外!号外!勇者ランキング一位、不動のグラス!何者かによって葬られたし!」
先日起こった戦闘での結果だった。
「結局殺されたのか……。」
「あんなところで増援を待つから殺されるんだ。」
「しかも知ってるか?あの噂!」
「あれだろう?謎の火柱。」
彼らの言う謎の火柱とはニカワの街で確認された無屋の荒地付近で立ち昇るのを確認された火柱である。正体はグラスを殺した勇者キラーによって放たれた“爆”によって発生したものだが、彼らはそれを見ておらず、何によって引き起こされたのか、全くもって分かっていない。だが、後に調査した部隊からの報告によると、爆心地付近と見られる場所では、大きなクレーターが発生し、地面が焼け焦げていたという。
「俺は絶対勇者キラーのだと思うね!」
「でもあれだろ?アイツの使う魔法は斬撃、なんだろ?」
「だーかーら、習得した魔法なんだって。逆にそれ以外で納得する理由が浮かばないよ。」
「でも魔王直々に来たって噂もあるぜ。しかも今まで使わなかったものをいきなり使うか?」
「威力が高すぎるからでしょ。流石に本拠地で試すわけにもいかないじゃん。」
「でもそれにしてもなあ……。」
そうやって1日がすぎる。もう残された時間は少ないというのに。
「え⁉︎グラスやられたの?」
全員がその事実に驚いていた。
「そうらしい。あのあっただろ?デカい火柱。」
「ああ、アレね。」
ニカワの街で確認されたため、彼らにもそれは見えていたのだ。
「誰がやったんだろうね。まだ掴んでないんでしょ?」
「そうだよ。まあ多分勇者キラーだと思うけどね。」
そういうふうに話しながら彼らは西ルートを進んでいる。彼がやられた今、どうにかして悪い流れを変えなければ。
「でも西ルートでも少しは通らないといけないだろう?例の無屋の荒地。」
どのルートでも最終的にたどり着くところは同じミラーシティなので、その手前の無屋の荒地もどのルートであっても通らなくてはならないのだ。彼らの進んでいる西ルートではそろそろ無屋の荒地だ。
「そうだね。どこかにいるかも。」
「じゃあ最悪戦う可能性もあるってこと⁉︎」
「まあそういうこと。」
「まだ死にたくないよ!引き返そう!」
「でもどうする?引き返す途中で出逢うかも。」
「それも絶対に嫌だ!」
「こんな時のためにソウヤがいるんだよ。どうだった?」
「魔族はいないよ。中央ルートも落ち着いてきたみたい。」
「よし、それじゃあ行こうか。」
ソウヤは性質上、物体を通り抜け、移動することができる。また、気配を感知しにくく、隠密機動にはちょうどいいのだ。そのため、彼らは安全に進むためにソウヤに周りを偵察させ、安全性を確保してから進んでいたのだ。
「爆心地はどうだったの?」
ソウヤに尋ねると、
「結構ひどかったよ。多分あれは勇者キラーのやつだろうね。」
「なんでそう言い切れる?」
「単純に爆発の痕だけじゃなくて、斬撃の痕が残ってた。」
「勇者キラーの魔法ってことか?」
「そう。単純な斬撃の魔法らしいよ。」
「てか、なんで知ってるの?」
「聴いただけだよ。噂でチラッと。」
「信憑性は0と。」
そういうふうに進んでいくとついにその地、無屋の荒地へ到着した。
無屋の荒地。ここは荒地というだけあってでこぼこな地形であり、動きにくいことが特徴だ。隠れられる岩陰も多いが、敵の急襲にも気を付けなければならない。西ルートでは、3キロほど、ここを通らなければならない。だが、ここは魔族の最終防衛地点となっており、いつも戦いが起きている。そのため建物を建てることが出来ないことからその名がついた。
3キロ先にルートの終着点であるミラーシティがあり、その先に魔王城がある。つまり最後の回廊でもあるのだ。
「これが……無屋の荒地か。」
彼らの前に広がっているのは見るも壮大な荒野だった。例えるならば……火星の表面、とでもいうか。そんな広大で何もない世界が広がっていた。
「何もないな……。強いて言うなら岩くらいか。」
「魔族はいないように思えるが……急襲される危険は常時あると思っているほうが良さそうだな……。」
体を隠す物陰が周りに多々あるため、今まで以上に敵の急襲に気を付けなければならないだろう。
「じゃあ行こうか。あと3キロで誰も到達していないミラーシティだ。その先に魔王城があるんだ。」
ミラーシティの方向を指差して言う。
「あともうちょっとなんだな。」
ユーリが指さされた方向を向いて言う。
「3キロなら今日中に進めるね。レベルが心配だけど。」
彼らはグラスのことを受けて、数日間、実は特訓をしていた。たった数日のため、それで敵と互角に張り合えるかは分からんが。
「最悪通り抜ければ大丈夫です。さあ行きましょう。」
そうして足を踏み入れた瞬間、何者かの気配がした。
(これは……。)
「上からだ!避けろ!」
上から大きな魔族が降ってくる。人型ではあるが、顔がおかしく、目が口のところにも付いている。
「早速急襲してきやがって。返り討ちにしてやるッ!」
そう言って全員武器を取る。
「オまえら、ココはトオサねえゾ。」
「逆に通さねえ、って言われて通らねえやついると思う?」
「何をイッテルンダ?オまえアタま悪いナ。」
「ごめんけど、それは違うと思う。」
「ナンデ?」
明らかにIQ低そうな疑問を浮かべる。
「日本語も上手く話せんやつなんて100%頭悪いに決まってるだろ。」
「ソウナノ⁉︎」
急にびっくりしたような声を出し、驚く。
「オレ、日本語上手くナイノ⁉︎」
「そこからかい。」
流石に呆れてアキラがツッコむ。
「イヤ、それはワカラン。コイツらがテキトウにイッテルだけカもシれんかラな。」
そう言って腕を大きく振り上げる。
「チカラデ、証明してミセろ!」
そう言った瞬間、3人に向かって腕を振り下ろすが、
『断天!』
ユーリの剣で腕を斬り裂く。
「ウェ⁉︎」
腕を斬られたことに驚いたようだが、すぐに再生していく。だが、カムラほどのスピードではない。やはり低級の魔族のようだ。
「畳み掛けるぞ!」
全員で飛びかかり、急所を狙う。だが、
「オレは!運び屋ダ‼︎」
急に変なことを言い出したと思えば、急に身体が裂けた。そして内側からは大量のムカデのような気持ち悪い奴が出てきた。
「そう言うことかよ!胞子のうって!どちらかというとハエじゃん!」
※本当にタマバエというハエは親の身体を食い破って産まれます。
急に出てきた大量のムカデやハエのような大量の虫を迎え撃たなければならなくなり、技を変える。
ユーリの主な武器は剣であるが、扱うのは剣術である。師匠は王国内でも一位二位を争うほど強い人である。その人の技は多種多様であり、どんな時でも、どんな場所でも、どんな相手でも対処できるその手数の多さが武器でもある。極めれば地割れを起こすほどの威力をもつ。その名も——
『天下無双流(てんかむそうりゅう) 鬼門(きもん)・逢魔が時(おうまがとき)‼︎』
巧みな剣の動きで襲いくる敵を弾き飛ばし、着地点を作る。
(流石やなあ。この技は難しかったけど、覚えてよかったわ。)
「ここに着地しろ!」
ユーリが先導し、先程確保した場所に立つ。
「でもこりゃあ……。」
周りは全て敵だ。逃げ道は倒して作るしかない。
(もっと強く!速く!自分の中にある手札でやるしかない!)
天下無双流は手数の多さがうりだが、流石に全てを習得しているものは少ない。ユーリもそういう者であり、手数は確かに多いものの、全ては習得していない。現在持っている技で乗り切らなければならないということだ。
敵が一気に近づいてくる。
『天下無双流 瞬天‼︎』
襲いくる敵に対して抜刀の構えをとり、間合いに入った瞬間、大きく凪ぐ。敵は一斉に斬られ、チリとなる。
(レベルが急に上がってるな……。)
シオンが分析する。確かに魔力も纏われており、技のキレも鋭くなった。特訓をしたのも大きいだろうが、何より魔突閃を経験したのも大きいだろう。
(オレも負けてらんない!)
シオンも剣を振る。使っているのは前のカムラ討伐で手に入れた断魂刀だ。切れ味は鋭く、魔力を調整しながら戦える。特性に目がいきがちだが、それ以外にもいいところがあるのだ。
「このままじゃ詰められて終わりだぞ!どうする⁉︎」
「誰かのところを一気に削ろう!そしたら道ができる!」
「了解!オレが導く!」
ユーリがそう言い、構える。一気に魔力を解放する。
『ダブルスレイヤー』
これは天下無双流の技ではなく、ユーリが独自に編み出した彼だけの技だ。剣で一発、それを降り終わった後に放つことで、2回の斬撃を生む。少し先の敵まで攻撃が可能で貫通もする!敵が一気に斬られ、少しだが道ができた。
「よし、行くぞ!」
シオンのその声で一気に駆け出す。だが、敵もそれを追撃してくる。
「オラァ!」
立ち塞がる敵に対して容赦なく剣を振り、敵を退かせる。
(まだだ!もう一度!)
『ダブルスレイヤー!』
ズバアン!と敵が吹き飛び、穴が空いた。
「突破するぞ!」
だがその時、上から蜂のような大型の飛行タイプが来た。
(マズい!技を撃った直後だから剣は振れん!喰らってしまう!)
そう思いユーリが身構えた瞬間、どこかからナイフが飛んできて、敵を貫いた。
「ソウヤ!」
「俺は上から援護するから!飛行タイプはオレらに任せろ。」
「オレら?」
すると、敵の体を足場に移動する人影があった。
「アキラ……おまえ、そんなことできたのかよ!」
敵を足場に飛んでいたのは、アキラだった。敵の頭に乗り、ナイフを突き立てていく。
「もともと身軽だからねっ!」
そう言い、次々と敵の頭上に回り、敵を殺していく。
「ユーリ!ボーッとすんなよ!」
シオンに注意され、自分の事に戻る。
「わーってるよ。コイツら片づけりゃいいんだろ?」
そう言って敵の大群の前に立つと、
『天下無双流 戦鎚』
ズド、と敵に対して斬り込む。相手も反撃してくるが、
「甘いんだよ!蚊の方が厄介だぜ!」
『天下無双流 戦乱華扇(せんらんかせん)‼︎』
回転斬りで襲いくる敵を吹き飛ばす。
少しずつ敵の数は減っていった。すると、突然相手が退き始めた。
「なんだ?」
急に勢いがなくなる敵勢を前に、疑問を抱く。すると、その答えはすぐにわかった。
「ダレダ?私タチニ剣ヲ振ルウノハ。」
「あー、なるほど。コイツが親玉か。」
空中に、一際大きい、ハエ型の魔族がいた。
「ズイブントコチラニ対シテ剣ヲ振ルッテクレタジャナイカ。覚悟ハデキテルンダロウナ?」
相手は不束な日本語で話してくる。だが、さっきのヤツとは言語的なレベルが圧倒的に違うのがわかった。つまりコイツは……強い‼︎
魔族の強さを知るための情報はいくつかある。事前情報や目撃情報など、先に集めておいたものだけでなく、戦闘局面でも、相手の魔力量、体の硬さ、使える魔法など判断材料は数多くある。中でも言語というのはそこまで重要ではない。だが、こういう魔族に限ってはその常識は成り立たない。
魔族には型となっているものがある。例えば吸血鬼は元が人間の体型なので人間の言語が話せたり、人間と同じような器官を持っていてもなんら不思議はない。だが、コイツらは元が昆虫だ。人間のような言葉を発する器官もなければ、会話というものさえない。だが、コイツはそれが可能なのだ。つまり、知的レベルが圧倒的に高く、独自の進化を遂げている可能性がある。その進化の内容はこれだけかもしれないが、もしレベルが人間まで上がっているとしたら——
「ドウシタ?コイヨ。仕掛ケテキタノハソッチダロ?」
そう言って相手が指をこちらに向けた瞬間、後ろから大量の虫型の魔族が襲ってくる。
(多いな!)
数が圧倒的だった。全体的な数は減ってはいるものの、リーダー格の出現によって統率ができるようになり、集団で襲ってくるようになった。しかもスピードは昆虫が元なので速い。
昆虫は小さいため軽視されているが人間よりも生物の強さという点では遥かに優れている。アリやカブトムシは自分の体重の何倍もあるものを持ち上げたり、オニヤンマは捕食の時に異常なほどのスピードを出す。スズメバチの毒は鳥でさえも殺す。カマキリはほぼ視野が180度あり、さらに前足のパワーは圧倒的な力を保つ。また、バッタやキリギリスは蝗害というものを引き起こし、農作物だけでなく、家畜さえも駆逐する。こんな強い生物が巨大化し、魔力を纏い、統率の取れたグループで襲ってくる。これほど怖いことはない。
(統率が採れる分先程よりも厄介だ。一体一体倒すのに時間がかかる!)
剣を振るうが、すぐにまた、次のやつがくる。
(息をする暇がない。マズいな……。)
「部が悪い!少し退くぞ。」
「わかった!」
この数的不利はかなりきつい。これ以上押し込まれればそれこそ壊滅させられる危険性だってある。最悪追ってくる可能性もあったが、それを考慮し、あるものを使う。
「アキラ!アレを使え!」
「もう使うんかい!もう少し買っときゃあよかったな!」
そう言って彼は一つの爆弾を取り出し、火をつける。導火線が燃え、爆弾に火がつくと、眩い光を出して炸裂した。
「チッ……逃ゲラレタカ。」
相手のボスはシオン達を見失ったようだが、簡単に諦めはしない。
「スピードハコッチノ方ガ上ダ。探セ!オマエタチニカカッテイル!」
そう言うと大量の飛行型が周りを飛行し始めた。
「おい、どうすんだ。」
シオン達は少し離れた岩陰で話し合っていた。
「アイツはなんなんだ?急に出てきたら魔族を統率しやがって。」
「アイツは確か……荒野のベルセガル。この辺を守る魔族だ。昆虫型の魔族を多数統率できる。」
ソウヤがそう答える。
「じゃあ、アイツさえ潰せば大丈夫か。」
「?」
「アイツが全員統率してんだろ?だったら首領倒すのが一番手っ取り早いじゃん。」
「言ってくれるなあ。ベルセガルはそれだけじゃないんだ。毒撃持ちで当たるとまずい。ヒーラーがいねえから当たるとかなりまずいぞ。」
「一応、解毒剤はいくつかあるけどそんなに期待はしないでね。アイツの毒撃がどのくらいの威力か分からないから。」
「ダメージを受けず、なおかつ早くアイツだけを倒す方法……。あれでいくか。」
「あれ、やるんだね。」
「ああ、やらなきゃ、いつやるんだよ。」
全員で合意し、岩陰から全員バラバラにでる。それを相手も見つけ、追尾していく。
「見ツケタノカ。早カッタナ。ドレ、私ガ一息ニ潰シテヤロウ。」
そう言うと、大きな羽で飛翔し、報告を受けた場所へと赴くのだった。
一方でシオン達は各自、敵と戦闘をしていた。次々と襲いくる敵に流石に疲弊していった。
(くそ……まだか……まだ……!)
その時、ユーリの前にベルセガルが飛翔してきた。そのスピードは異常でなんと亜音速(音速に近いスピードってこと)で突っ込んできた。
(速っ……。)
ユーリは大きく吹き飛ばされ、岩にぶつかり、その岩さえも粉々に砕け散った。
「かはっ……。」
「マダ息ガアルカ。モウ一度ダ。」
『ヤンマストレート‼︎』
再び超高速の突撃を行う。だが、
「同じ手を……何度も喰らうと思うなよ。」
なんとかギリギリだったが避けることができた。ベルセガルは後ろの岩に激突し、少し動きが止まった。
『ダブルスレイヤー!』
二撃の斬撃を当て体を斬るが、あまり出血はしない。
「昆虫が元なだけあるな。外骨格が硬い。」
昆虫類は外骨格という硬い外皮で覆われている。昆虫などこちらからしたら簡単に潰せるかもしれないが、今回は大きくなっている分、耐久力が圧倒的に上昇し、刃が全く通らない程になっている。
「ウー、イテテ……。ヤリヤガッタナ?」
「やったも何も、自分で突っ込んだじゃん。」
「五月蝿(うるさ)イ!」
『腐食卵!』
相手が卵のようなものを放つ。それは地面に当たった瞬間割れ、そこから腐食が発生した。
(これがコイツの能力、毒撃……か?……いや、多分違うな。今のは腐食攻撃であって毒撃ではないからな。)
簡単に避けるが相手がそれだけでは見逃さない。
『白昼蝗害(はくちゅうこうがい)!』
大量の魔法陣がベルセガルの周りに形成され、そこから大量のバッタ型魔族が飛び出してくる。
「十万匹ノ食イシン坊ガ、オマエヲ食イ潰ス!」
「本当に十万匹もいるのか?」
「当テテミナ。」
だが、数が多いのは確かだ。あれが一気に向かってきたら、確かに一瞬で食い尽くされるだろう。だが、それだけでは逃げる理由にはならない。
(俺には仲間がいる。そいつらのためにもコイツをここに留める!)
「来い!」
そうユーリが身構えると大量の召喚されたバッタ型魔族が一斉に向かってきた。だが、極められた技が全てを薙ぎ払う。
天下無双流にはいくつかの奥義が存在する。それは天下無双流の使い手の中でも知っている者は数少なく、習得しているものはもっと少ない。これは、彼が習得した奥義のうちの一つ。
ユーリは天下無双流の使い手の中でもかなり強い方だ。なぜなら奥義は天下無双流の継承権を持つ者にしかなく、継承権の獲得は最低でも百の剣技を覚えることだからだ。それにプラスで覚えている。どんな修行を積んでいるのやら。
『天下無双流 奥義!』
極限にまで集中し、練り上げられた魔力を一気に解き放つ。魔力を纏うことを習得したため、この技も前より圧倒的に強くなった。
(全部叩き斬ってやる‼︎)
『神鬼滅殺‼︎』
剣が大きく唸りをあげ、敵の群れに入っていく。そのスピードは人の域を越える。
「バカナ……。」
直後に広がる光景にベルセガルは驚愕した。
「ソンナバカナ‼︎」
全てのバッタ型魔族は斬られ、力無く地表に落ちていった。よく見ると、一体一体首と羽が斬られているのがわかった。息の根を止めているのだ。
だが、ユーリもかなり疲弊しているようだ。
(ヤルシカナイ!)
再び突撃の構えに入るが、
「時間稼ぎナイス!あとは任せろ!」
シオンらが一気に飛びかかる。
「ナッ……⁉︎」
「オマエがそっちに集中してるうちに準備完了したぜ!」
彼は全員で一気に目を狙って刺す。
「ギャアアア!」
「コイツは複眼だ!まだ完全に視力を失ってないぞ!」
「いい、これで十分だ!」
そう言って再び飛び上がり、上から剣を振りかぶる。
彼らが一体何をしていたかというと、あの剣に装備魔法(エンチャント)をつけてもらっており、その効果を発揮するための準備をしていたのだ。
つけてもらったエンチャントは二つ。一つは“魂の残穢”というもので、この剣の特徴に合わせてつけてもらったエンチャントだ。効果は単純で、魂を斬ると追加ダメージが入り、かつ魂が剣にくっつくというものだ。
もう一つは“残魂の共鳴”というもので剣についた魂を一気に解放し、剣の内側から衝撃を発生させる、というものである。
どちらも単体では効果を発揮しないが、二つ合わせることで更なる効果を得ることができる。そして、この断魂刀の特性によって一つ目の効果が必ず発揮されるということだ。
剣に魂を一つでも多くくっつけるために、彼らはユーリに足止めを頼み、魂を集めまくっていたのだ。集めた魂の数は120。それを一息に解放する!
「オマエラ……昆虫ヲ、甘クミルナヨ!」
剣を振り下ろすシオンに向かって尻を持ち上げ、毒針を出す。
『アナフィキラシー・スピア‼︎』
蜂の毒は危険である。最悪の場合アナフィキラシーショックというものを引き起こし、人や動物を殺すこともある。その毒を最大限まで濃縮し、毒針を通じて打ち込む。
「死ネ!」
そう言って毒針をシオンに向けるが……
「ガンッ!」
剣と毒針がぶつかり、止まる。すると、アキラが小さな虫を投げる。
「何ヲ……。」
その瞬間、毒針ごと、その小さな虫を斬っていった。
「何イイイイイイイイイイイ!」
悲鳴と断末魔が混ざった大きな声だった。
断魂刀は強制的に魂を斬るため、近くにもっと斬れそうな魂があると、そちらを巻き込んで斬るという特性がある。そのため、半自動で敵に吸い付く、という効果もあるのだが、今回はそれを活かしたのだ。
(よし!)
毒針を真っ二つに斬り、肉に刃を入れる。
「今だ!やれ!」
その声とともに、エンチャントを発動させる。
『残魂の破壊衝動(ソウルソニックインパクト)‼︎』
「ギャアアアア!」
ベルセガルの体は内側から弾け飛び、チリとなった。残っていた昆虫型魔族も首領がやられたのをみて、逃げていった。
「ベルセガルがやられた?」
無屋の荒地で一人の魔族が驚いた反応をする。
「ベルセガルって西ルートを守護する番獣だろ?マジかよ。」
西ルート側を振り向き、ゆっくりと腰を上げる。
「もう作戦は開始済みなのに……。はあ、まあいいや。さっさと狩って終わりにしましょ。」
後ろには荒廃した都市が見える。
「最後の奉公としましょうかね。」
一方その頃ファントム霊園に訪れる者の姿があった。
「荒廃しているな……。我々魔族の聖地というのに……。」
そうして彼は教会へ行く。奥の方へと向かい、十字架に貼り付けられた者の根元に行くと、穴が空いているのに気が付いた。
「天井が空いている……。」
周りを見渡すが、誰もいない。
「カムラがやられたのも嘘じゃなさそうだ。まあ俺が今度からここに居座るか。」
ストッと地下室におり、石棺に触る。
「魔王様、始まりますよ。」
そう言った男の姿は——
勇者キラーだった。
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