第3話 通り魔
第三話 通り魔
大陸最北端 魔王城
大陸の最北端に位置し、常時紅い雲に覆われている。大量の魔族が居るが、その多くは魔王城には入れない。それほどの実力主義の世界。
魔王城前の橋に誰か居る。魔族特有の暴力的な魔力は感じるが、角がなく、それ以外にも魔族らしい特性がない。そこに多くのコウモリが集まってきた。それは人の形にまとまり、はっきりと姿を現した。
「おかえり。」
橋にいた男はコウモリの中から出てきた男に言った。コウモリから出てきた男はあのグラスの所にいた男だった。
「首尾は?」
「いやー結構キツイね。ミラーシティ手前の無屋の荒地まで進まれてるよ。」
男は上を向いて言う。
「リヒュウがそう言うとは珍しい。何かあったのかい?」
吸血鬼、赤血(せっけつ)のリヒュウ。
吸血鬼という種族は全体的に多いわけではない。希少な種族だ。種族の特性としてはコウモリになって空を飛べるところや、血を吸うことによって強力な力を発揮するという他にはないメリットがある。だが、弱点が多く、日光では燃やし尽くされ、聖水では力が発揮できなくなり、流水(川の流れや雨)では体が溶け、銀の武器では皮膚がただれる。
だが、リヒュウは違う。吸血鬼の1番のメリットは血の吸った相手の特性を奪うことが出来ること。それを使って銀と流水の弱点は克服している。その偉業から魔王に取り立てられ、リヒュウは今や魔王直属の配下となっている。
今回彼はある友人の頼みを受け、前線の様子を探っていっていたのだ。コウモリとなって体を分散し、行動できることは、他の種族にはない、大きな強みだ。そのため、情報収集を行なっている。
「結構離れているのに視線に気付かれた。この俺が、だ。」
「なるほど……確かにオマエの視線は汲み取りづらい。それに気付くというのは確かに強いようだ。」
男は客観的に物事を見ているようだ。おそらくもう一人も魔王直属の配下なのだろう。二人の周りには異常な量のまがまがしい魔力が溢れていた。
「こりゃあマズいよ。“作戦”に支障が出る。」
「俺もそう思ってたところだ。前線はどんな感じなんだ?」
「分からない。グラスのパーティだけが前線にいるかんじ。それ以外はいなかった。野営もしてたしね。」
「……なるほど。おそらく救援を待っているのだろう。」
「個人でも強いのにか?」
「ミラーシティは人類の最高到達地点だ。そこを突破してここまで来るにはそれなりの数が要るって思ったんだろうよ。」
「そうか……人数か。」
「まあ盾にするつもりなんだろうな。意味はないが。」
「でもルートを塞がれては前線と連絡が取れなくなります。“作戦”にも支障が出る。そうなったらかなりの痛手です。これ以上の侵攻はこちらの生命にも関わります。」
「分かってるよ。だから命を受けたんだ。そしてオマエを遣わせた。」
「まさか……行くんですか⁉︎前線に!」
そう言うと男はもたれかかっていた橋の手すりから体をおこして言う。
「俺が行かなかったら誰が行くんだよ。適任は俺だ。」
「でも大丈夫ですか?相当強いですよ。」
リヒュウは心配しながら言う。
(ここまで侵攻されたのは何十年前以来だ。流石に少しキツイんじゃ……。)
「安心しろ。」
その心配を見透かすように言う。
「俺が巷でなんて言われてるか、知ってるか?」
首をかしげるリヒュウに続ける。
「“勇者キラー”だ。」
その眼光は綺麗な虹色で、ダイヤのようだった。
「フ、ハハハハハハハ‼︎」
そう笑い声を残し、勇者キラーは消えた。
ダンジョン ファントム霊園入り口
ファントム霊園は墓地のダンジョンであり、基本的にアンデッドが多くスポーンする。墓地なので障害物は少ないが、広さがハンパではない。ただ単に広い。さらにクリア条件はボスの討伐ではなく出口を見つけ、脱出すること。そのためボスを討伐したとして出口を見つけられなければ意味がないのだ。墓地には強力な結界が張られており、出口以外からの脱出は不可能である。
「気味悪っ!なんじゃここ!」
外側から見た時よりも内側はひどい。
「このダンジョンのクリア条件はここからの脱出だろ?壁に沿っていけばたどり着けるんじゃね?」
それは迷路のクリア方法だ。だが、一理ある。確かに出口は墓地の端にある。どのみち端をたどっていけばクリアはできるだろう。
「いいね。それでいこう。道中で宝箱とか見つけられたらいいでしょ。」
彼らはその後進んでいったが、宝箱は一個も見つからず、あるのは敵モンスターだけだった。
「なんでこんなに出ないと⁉︎宝箱一個もないんやけど。」
「確かにおかしいなあ。こんなにないはずないんだけど。」
盗賊のアキラも首をかしげる。盗賊にはスキルで近くの宝箱を感知する“エメラルドサーチ”というジョブスキルがある。だが、さっきから全くこれに反応がないのだ。だがこれは当たり前。なぜならファントム霊園は宝箱の位置が少しずつ変わる。そのため宝箱を感知できる可能性も少ない。さらに移動するのはそれだけではない。出口も移動する。そのため“一理”あるのだ。最悪入り口の場所が出口になっていたりする。
「もしかしてスキル封じてる?」
「そんなわけないじゃん。金が全てだから!金が一番だから!」
※宝箱から金が出る可能性、極低。出ても少ない。
アキラの金への貪欲さが出た。まあ盗賊になる理由は大抵が金目当てだ。だから仲間にしたくはない。
「でも出口もないね。結構歩いたと思うんだけど。」
確かに彼らはかれこれ2時間は歩いている。そろそろ一周してもおかしくはないのだが……。
「もしかして出口の場所が変わってる⁉︎」
「え⁉︎いやそんなまさか……。」
(((あり得るな。)))
3人は同じことを思った。
(ダンジョンでは常識で考えないのが鉄則。これだけ探しても見つからないならそうなんだろうな。)
アキラは師匠から教わった鉄則を思い出す。
「多分そうなんだろうな。」
「でもどうする?出口が動くんじゃあどうしようもない。」
3人が落ち込んでいる時、攻撃をしてくるものがいた。
「ビシュッ‼︎」
アキラの右腕が切り裂かれる。
「痛っ!」
振り向くとそこには……幽霊(ゴースト)がいた。
(幽霊……!)
「気配がないのも当たり前か。」
幽霊。敵モンスターの中でもかなり低確率スポーンであり、出逢うのは珍しい。攻撃力はそこまでないが、実を言うと異名がついている。その名も“初心者殺し”。
シオンとユーリが一気に斬りかかり、斬りつけるが、貫通する。
「「は?」」
二人は驚いたように顔を見合わせた。
「えっと……攻撃を通り抜けた?」
アキラが言う。
そう、幽霊には物理攻撃が効かないのだ。いや、入らない。彼らには物理攻撃を与えることはできない。だが、いくつかの方法でダメージを与えることができる。
一つ目が魔法攻撃だ。幽霊は基本的に魔力を通り抜けることはできない。そのため魔力を押し出す魔法攻撃は彼らにとって有効な攻撃手段となる。
二つ目に魔力をまとった攻撃だ。これもさっきと同じく魔力を通り抜けることができないのが関係している。これであれば魔法使いでなくてもダメージを与えることができる。
そして最後が“魔族特攻”をもつ武器での攻撃だ。魔族特攻は単純に魔族に対して攻撃力が上がるという単純なものではない。もちろんその効果もあるが1番の強みは相手のモンスターの特性を無視して攻撃できるということである。例えば幽霊の通り抜ける特性を無視して物理攻撃が入ったり、ゴーレムの硬い装甲をいとも簡単に切り裂いたりすることができる。
実を言うと彼らは魔族特攻のついた武器を持っていたのだ。だが、今はない。というかそんな貴重なものを売っているとは思いもしなかっただろう。
「クソッ!」
何度も斬りかかるがその度に攻撃は空をきった。
「おかしいなあ、当たるはずなんだけどなあ。」
幽霊が言う。
「その剣、魔族特攻が付いているはずなんだけど……まあいっか。」
「魔族特攻?」
「魔族の特性を無視して攻撃できる、武器に付いている能力だよ。」
なんで敵が説明してるんだ……。
「最初にもらった剣、あれは魔族特攻が付いているはずなんだ。でもなんで君の剣には付いていないの?」
実を言うと最初に王からもらった剣は魔族特攻が確定で付いている。そのためあの剣を持っていれば大丈夫なはずなんだが……彼は売ってしまっている。ちなみに魔族特攻のついた武器というのはとても数が少ない。
「あ〜……そういうこと。」
シオンは自分のしてしまったことを悔やんだ。
(知らねえよそんなこと!ていうか教えろよ!)
「もしかして売ってたりする?」
幽霊が聞いてくる。
「うーん、まあそうとも言う。」
「売ってんじゃねえかよ!」
アキラが冷静にツッコむ。
「しょうがないじゃん。知らないんだもん。」
「それでもさあ、少し大切にしようと思わないのか⁉︎」
アキラは激怒するが、相手は止まってはくれない。ゲームではないのだから。
「じゃあ楽勝だね。」
相手が一気に近づいてくる。ユーリは思ったことがあった。
(もしかしたらあのタイミングに攻撃を入れればいけるかも。)
相手が攻撃してくるタイミングと同時に斬りつけるが、通り抜ける。逆に相手の攻撃はちゃんとヒットする。
「はあ⁉︎なんで一方的に攻撃できるんだよ⁉︎」
現実での性質上、実体化しておらず物理攻撃のできないものは、現実世界への干渉は不可能である。だが、幽霊は違う。彼らの場合は魔力を消費し、現実世界への攻撃のみを顕現させる。そのため一方的な無敵ゲームというわけだ。
「さあね、勘でこっちは攻撃してるだけだから正直原理とかは説明できんよ。ていうかもう武器捨ててる時点で負けでしょ。そんなに現実甘くないよ。」
「くそっ……‼︎」
その後も何度か攻撃を繰り返したが全く攻撃は入らず、逆に相手の攻撃を何度も受けてしまった。
(コイツら、バカやん。さっさと逃げればいいものを。)
幽霊は内心そう思った。だが、その時相手が斬りかかってくる。
「まだやるの?」
「どうせこのくらいのやつがたくさんいるんだろ?」
「さあ、どうだか。」
「でもお前ぐらい倒さねえと胸張って死ねねえんだよ。」
「ふうん。まあ別いいけど。手柄が増えるだけだし。」
(手柄?つまりボスに報告するってわけか。ここにいるかはわからないけど気をつけるか。)
シオンはそう考える。だが、そんなことを考えてはいられない。
(あの剣にそんな役割があったとは知らなかったけど、やばい状況には変わらない。一体どうしたらいいんだ……。)
シオンは不意に出た言葉を口にする。
「なんで殺すんだよ。結局幹部は幹部だろ?」
「あ?」
シオンの言葉はやつの怒りを買ったようだ。
「手柄立てりゃあ楽できるんだよ。」
「え〜……。」
結論、楽がしたい。
「本当にそれでいいのか?」
「どういうことだ?」
「お前のいう手柄ってのはどの程度のもんなんだい?ちなみに俺らはそんなに強くねえし、最近パーティを作ったばっかりだから名声もそんなにないぞ。」
「でもちりつも(チリも積もれば山となるの略)じゃん。」
「それよりももっと面白いことしようぜ。」
「……。」
(なんだコイツ、自分の置かれている状況をわかってるのか?)
あまりのずうずうしさに流石の彼も引いた。
「それに……お前も死にたくねえだろ?」
「?」
「俺らを倒してもまた勇者パーティが来たらお前は前線に送られる。そこで殺されるかも知れねえし、同族に殺されたりもするんじゃねえか?」
「何が言いたい?」
「俺らと一緒に来ねえか?」
シオンが言ったその言葉はびっくりするものだった。
「は?」
全員が固まる。魔族をパーティに引き入れるというのだ。
「そんなことをして……、何の得になる⁉︎」
いきなり怒りながら続ける。
「それこそ俺が殺されるわ!」
「でも、タイミング的にお前は上のヤツに命じられて俺らの前にきたんだろ?」
「!」
確かに彼は上からのヤツに命じられて彼らを襲った。だが、本意ではなかった。
「……俺は、人なんて殺したくない。」
不意につぶやく。
「でも……逆らったら殺られる……。どうしようもないんだ……。」
「だから俺らと一緒に来ねえかって話してんだよ。」
シオンは言う。
「ここのボスは知ってる。霊媒師(シャーマン)だろ?」
「そうだ、だから俺らを支配できる。」
「魔族の支配体形は恐怖だ。逆らったら殺される、上の命令は絶対。だからいろんなやつがいやいや戦ってる。俺はそんなの嫌だね。」
「俺もだ。」
幽霊は言う。
「俺ももう戦うのは嫌だ!」
吐き出した本音。それが全てだ。
「俺らがそのボス、倒してやるよ!」
シオンがカッコつけて言う。
「その代わり、お前も俺らの仲間になれ!お前は色々使えるからな。」
(普通使えるって言う?)
アキラとユーリは思う。だが、今はそれしかないと思った。このままいってもどうせ殺される。なら、起死回生の一手を打つべきだ。
「ていうか大丈夫なのか?霊媒師に攻撃は当たるのか?」
「大丈夫、霊媒師は幽霊を使役できるけど、幽霊のように攻撃を貫通させられるわけじゃないから。」
幽霊が言う。
「すっかり味方になったんだな。」
アキラが言う。
「俺もこれ以上戦いたくないもん。」
「ハハハ……。」
アキラは笑う。
「じゃあボスを倒そうか。」
ユーリが剣を直す。
「ここのボスは集魂のカムラ。最近降臨したボスだけど、実力は本物だよ。」
幽霊が言う。
「ありがとう。え〜っと……。」
シオンが感謝の言葉を述べようとするが名前がわからず言葉が続かない。
「ソウヤだ。幽霊のソウヤ。」
「ありがとうソウヤ。これからよろしく。」
「その言葉は生きてここを抜け出せたら言ってくれ。」
彼らはそう言い、さらにダンジョンの奥へと進んでいくのだった。
時には敵と手を組むのも大切である。この状況下でこの作戦をとった彼らは正しいのか。まさに非常識だ。だが、何かを変え続けるのは——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます