第1話 始まってしまった物語

第一話 始まってしまった物語

 

 

3ヶ月前 王都 トレスクエア

 

王城 ミューシクル城

 

 

「勇者シオンよ。貴殿はその身を賭して、魔王とその配下を滅ぼすことを誓うか⁉︎」

「まあ……やりますよ。」

「……ゴホン!まあヨシとしよう。では、剣を選ぶといい。」

 そう言うと、目の前に3本の剣が出現した。シオンは何か感じるものがあるのかその中の一本の剣をおもむろに取った。

「では、健闘を祈る‼︎」

 

 

 魔王。この世界を侵略する悪の枢軸。700百年前に初めて姿を現してから、今まで数多くの悪事を犯してきた。数多くの魔族、魔物を従え、世界を侵略していた。

 世界は今、情勢がめまぐるしく変わっている。前線では、多くの勇者パーティが命をかけて、敵を打破している。

 だが、敵の強さには敵わないところもあった。洗練された魔法、種族毎にある特性、再生能力と人間を遥かに卓越した身体能力。いくら自分の力を高めようと、埋められない差があった。

 一進一退の攻防を何年も何年も繰り返し、時は流れていく——

 

 

 シオンはそのあと武器屋へと向かった。最初の剣を売るためだ。

「100スルートになります。」

「分かった。それとこの店で一番安い剣をくれ。」

「かしこまりました。」

 まさかの最初の剣を売って、路銀にするのである。これが後々響いてくるのだ。

 

 

現在


 

「マジで人いなさすぎやろーっ!」

 シオンは一人頭を抱える。

 あれから3ヶ月。彼の元には一人も集まらなかった。

 魔族との戦いでは団体戦が基本だ。一対一で倒せる方が少ない。故にパーティを作るのだ。まあ、一パーティで倒せないやつもいるが。

「仕方ない……別の町回るか。」

 

 

王都より西の都市 ベテル

 

 

 この町にはいろいろなものとがある。故に多くのパーティが集まる、王国一の商業都市だ。逆に多くの勇者が集まるため、ギルドの掲示板や、パーティを結成するための交流場もある。意外と王都よりも勇者などの数は多い。

 シオンは一人、交流所へ向かう。

「オイ見ろよ!勇者ランキング変動してるぞ!」

 世界には勇者ランキングという王が定めるランキングがある。一位二位という具体的なランキングとブロンズ級、シルバー級、ゴールド級、ダイヤ級、プラチナ級という相対的なランキングがある。今回は具体的なランキングが変動したようだ。

「マジかよ。コイツが⁉︎」

 勇者ランキング一位。不動のグラス。パーティ結成からたった3ヶ月でプラチナ級まで上り詰めた異例の存在。強さは本物であり、前線で多くの魔族を討伐している。現在の位置はミラーシティ手前らしい。かなりの奥地だ。魔王城前の街の場所だ。

「俺はこの勇者が倒してくれるって信じてるぜ。」

「いや、あそこまでは行ったヤツは多くいる。今回も殺されるだろう。だって相手には勇者キラーがいるんだぞ!」

 敵にも多くの幹部がおり、その中でも勇者を一番多く殺している魔族がいる。それが勇者キラーだ。これまでに幾度も勇者と交戦したが、全て勇者を殺し、その地位に居続けている。そのため現在の魔王の力も把握されてないのだ。

「オイ、そんなことを言うなよ。必ず勝てるはずだ!」

「どうかなあ。前の勇者ランキング一位のやつも勇者キラーと出くわして死んだじゃないか。」

「じゃあヤツに1万スルート賭けるか?」

「1万じゃ少ない。10万にしよう。」

「じゃあ俺は25万!」

 こういうものでさえ、賭けの肴にされるのだ。恐ろしい。

「俺もああいうふうにやってほしいなあ。まあ無理やろうけど。」

 パーティを持たない彼にとっては夢のまた夢だ。そんなことを考えながら交流所へ向かった。

 

 

「お、誰か着てる。」

 交流所には勇者の名前を載せ、募集する人数や仕事(ジョブ)をかく。それをみた人が集まるという仕組みである。パーティ登録まで行える最高の場所だ。彼はそこに勇者となってからすぐに自分の名前を載せていたが、レベルが低過ぎるあまり、募集しても集まらなかったのだ。

 自分のところに人が来てくれるのは初めてだ。やっと掴んだチャンス。これはものにしなければ、次はいつかわからない。やってやる、という気の高まりがきた。

「いや〜マジ緊張する!誰やか〜来てくれたの。マジいい奴来てくれ、頼む!」

 そうして面会所へと向かうのだった。

 

 

 集まったのは3人。一応パーティの基本は満たしている。というのもパーティは普通、最低でも4人は必要である、というのが常識である。前衛二人、後衛、サポート二人という役割を分担し、それぞれの強みを最大限発揮するためである。対魔族戦において必要なのは個々の強さとチームワークである。それさえなんとかしていれば大丈夫だ(多分)。

 彼は一人一人丁寧に接した(つもりである)。

 一人目はアキラという盗賊(シーフ)である。盗賊の主な能力としてはダンジョンのギミックを飛ばして進めることや、宝箱(チェスト)の罠に引っかからないこと、素早さが高く、ヒットアンドアウェイがしやすいことがある。だが、戦闘においてはあまり強くなかったり、そもそもダンジョンで罠のある宝箱があること自体が少ないので要らないまである。さらに盗賊登録されている人をパーティに入れた場合、名声が若干低くなることがある。

※名声とはパーティにつくものであり、名声が高いと特別な武器などを取り引きできるなど様々なメリットがある。

「どうして集まってくれたん?」

「いや〜そうやね〜……勘?」

(絶対コイツ何も考えてねえな。まあその分拾ったら遣えるからいっか。)

 シオンは迷わず了承印を押した。

 二人目はユーリという戦士である。これはいい。戦士は主に前衛としてパーティに一人は欲しい役職だ。攻撃力が高く、武器のポテンシャルを最大まで引き出すことができる。基礎能力が高くなりやすいのもメリットだ。だが、最大のメリットは勇者とセットであると前衛二人の条件があっさりクリアできるからだ。これだけのメリットがありながら、デメリットが見つからないのも当たりの証拠。なので拾ってもらいやすく、数は一番多い。なんなら一パーティに二人いる場合もある(稀)。

「どうして応募してくれたん?」

「まあまず、誰でもどうぞってなってたから入りやすいなって思ったことと……。」

 入る理由にしては充分な量の理由を長々と話され流石に脳がおかしくなりそうだった。

「わかったわかった。もう充分だよ。よろしく。」

「こちらこそ。」

 シオンは迷わず了承印を押し、ユーリも入る決意をした。

 三人目は潤瀬(うるいせ) まほなという魔法使いだった。魔法使いは戦士と同じくパーティに一人は欲しい人材だ。なぜなら後衛、サポート要員としてかなりいい働きをしてくれる。主に回復魔法を付与して前衛を回復させたり、防御魔法で全体を守ったり、攻撃魔法で雑魚を一掃するなど多様な場面で活躍できるため需要はかなり高い。また、魔法は生まれながらの適性や才能がなければ使えないので人数は少ない。なので需要は多いが巡り合う可能性自体も低いのだ。

「どうして入ろうと思ったんですか?」

 流石に女性なのでデリカシーが少ないシオンでも敬語になる(※彼は教養がありません)。

「まあ適当に……。」

「て、適当……。」

(マジか。あんま考えはなかったのか。でもこれはラッキーだな。少し構成はバラつくけどこれでパーティとしては充分だ。よっしゃあ、これで旅ができる!)

 彼は了承印を押した。

 

 

次の日

 集会所に再び集まったのは——三人だった。

「なんでまほなが来んと⁉︎」

「言ってた魔法使い?」

 アキラが聞く。

「そう。おかしいなあ。了承印押したんだけど……。」

「アレは?相手側の決定印。」

「そうだ!それ見ればいいんだ。」

 彼はそれがある場所に行く。

「潤瀬まほな様の決定印ですね?少々お待ち下さい。」

 受付の人に聞き、確認させる。

「え〜っとまほな様の決定印は別のパーティに押されています。」

「は?」

「なので別のパーティに所属になっています。」

「マジか〜〜俺あんなによくしたのに。」

 どこがやねん。

「まあしゃあないか。パーティの最低人数は4人だけどパーティ登録ができるのは3人からだから。」

 パーティに必要な人数は四人と言ったがそれは相場での話。登録ができるのは3人からだ。

「やるか。」

「これ以上待ちたくないもんね。」

 二人も頷く。

「シオン、アキラ、ユーリの3人で勇者パーティ登録をお願いします‼︎」

 そうして彼らはパーティを結成した。常識破りの3人パーティ。彼らは一体この先どうするのやら。だが彼らには一つ言えることがある。それは——

 

 

「ルート決めよう!最初やけん。」

「それよりも装備やろ。それがないと始まらん。」

「金あるんですか?」

「ないっ!」

「ええ〜💦」

(ついに始まったんだ。俺らの冒険が‼︎)

 

 

それまでの常識や仕組みを壊すためには、非常識が非常に有効だということである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       一話 始まってしまった物語 完

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