秘密。

貴津

秘密。

「なぁ、俺に隠してることあるよな?」

 恋人――ルーナにそう問われて言葉に詰まった。

「隠し事? 俺が?」

 とりあえず恍けてみるが、そんなことでは誤魔化されてはくれない。

 ルーナはそれを暴き立てようと、じっと俺――ルスの目を見つめている。

 感情が目に出る。よくあることだ。

 そのわずかな揺らぎを見過ごすまいと、ルーナは瞬きも少なくこちらを見つめている。

(綺麗な顔だな……)

 ルスはこんな状態だと言うのに暢気にそんなことを思った。

 この恋人は時々意地悪な態度も取るが、基本的にはルスに心底惚れている。

 置手紙一枚で約束した気になって、10年も待たせた時もなんだかんだ言って迎え入れてくれた。

 ルスはその気持ちを大切にしたい。ルーナを悲しませるようなことはしたくない。

「おい、聞いてるのか? ルス」

 なかなか口を割らないルスに焦れたのか、ルーナはルスの鼻をぎゅっと摘まんだ。

 獣人であるルスにとって鼻っ面を掴まれるのはちょっと辛い。

「や、やめろって、ルーナ」

「ほら、口を割ってしまえ! 話せば楽になるぞ?」

 ルーナはそう言ってくすくす笑う。

 ルスだって本気で居やがってはいない。

「こいつめっ!」

 ルスはルーナの指を振り払うと、顔を寄せていたルーナの唇にチュッと音を立ててキスした。

「っ!?」

 ルーナはそれだけでポッと頬を赤らめる。

 ルスより体の大きいくせに、初心なルーナが本当に可愛い。

「ルーナ、おいで」

 テーブルの向かいに座っていた恋人を呼び寄せる。

「ルス……」

 ルスのひざ元へやってきて、ルーナはうるんだ瞳で恋人を見上げた。

「可愛い、俺の恋人」

 ルスはそう言って、ルーナの頬をそっと掬い上げると、熱烈なキスを繰り返した。


 こうして、秘密は秘密のまま守られたのだった。



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秘密。 貴津 @skinpop

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