第7話初バイト。ホールリーダーは人格者

放課後を迎えるとすぐに教室を抜けることになる。

鞄を肩に掛けて校舎を抜けて校門までの長い道のりを小走りで抜ける。

「今日からバイトですよね。頑張ってきてください♡」

途中でマイマイと出会い彼女は僕にエールを送ってくれる。

「うん。頑張るね。じゃあまた明日」

「はいっ♡無理しないでくださいね」

「大丈夫。行ってきます」

「いってらっしゃいっ♡」

マイマイに見送られて僕は校門を抜ける。

現在時刻は十六時を数分過ぎたあたりだった。

六限目まで授業があったためにいつもより一時間遅く学校を後にすることになる。

小走りで駅の方角まで急いで向かう。

結局バイト先に到着したのは十六時三十分頃だった。

「おはようございます」

昨日、面接の帰りに渡されていたマニュアルに目を通していた僕は大きな声で挨拶をするとバックヤードへと向かった。

「おはよう。倉橋くんの制服一式はロッカーに入れておいたからね。鍵はこれね。名前のシールが貼ってあるから。向こうが更衣室だからね。着替えてきて」

ホールリーダーに対面すると彼女はすぐに指示をくれて僕はロッカーへと向かう。

中から制服一式を取り出すとそのまま更衣室へと向けて着替えを済ませるのであった。



「じゃあまずはタイムカードの切り方からね」

「はい。よろしくお願いします」

ホールリーダーは本日僕に付きっきりらしく丁寧に業務内容を説明してくれる。

「汁物や揚げ物のオーダーが入ったら…」

「おあいそって言われたら…」

「ホールバックは素早く丁寧に…」

「空席の確認は怠らずに…」

「平日は殆ど二人体制だから協力しあって…」

「レジ打ちは正確に素早く丁寧に…」

「お酒の種類と飲み方を一通り覚えて…」

「お客様に呼ばれたらすぐに向かうこと…」

「わからないことがあったらお待ち頂いて私がいたら聞くこと。他の先輩に尋ねること…」

「デザートは見た目を美しく盛り付けること…」

「小さいお子様連れの家族が来店した場合はお子様用の食器が必要か尋ねること…」

様々な項目をいくつも説明受けていた。

その全てを僕はメモにとっている。

一字一句漏らさずにメモに取るとそこからは実践となる。

ホールリーダーにくっつきながら仕事のやり方を覚えていく。

次はそれを真似するように僕自身が行うこととなる。

十七時から二十二時までの五時間のアルバイトだったが…。

僕は味わったことのない感覚を感じていた。

時間が信じられないほど早く進んでいるようだと思った。

気付いた時には二十時になっており僕はまかないを食していた。

美味しいまかないだったが食事休憩は十五分しか無い。

急いで食事を済ませて用を足すとお手洗いのチェックを済ませた。

戻ってから再び業務につくのだが…。

気付いたら二十二時を迎えていた。

まるでタイムスリップしているようだと思わずそんな夢見がちな事を感じる。

「お疲れ様。今日一日働いてみてどうだった?」

ホールリーダーに尋ねられて僕は正直な感想を口にした。

「凄くやりがいを感じました。アルバイトをするのは初めてだったので…どうなることかと心配だったんですが…」

「続けられそう?もう少しシフトの時間を減らしたいとか…今のところ要望はない?」

「今のところ無いですね。まかないも美味しくて…入れるなら毎日のようにシフトに入りたいぐらいです」

「ははは。若いうちからワーカホリックになると後々苦労するよ」

「どういうことですか?」

「働くのが嫌になるか、ブラック企業に入社しても気付かなくなるか。そんな仕事人間になってしまう恐れがある」

「そうなんですか?」

「まぁ…私の経験則というか。今までのバイトの子を見てきた感じというか。適度に休んで遊ぶ日も大切にね。特に高校生なんて今しかないんだし。沢山の楽しい出来事や刺激的な経験をするのをオススメするよ。バイト先のリーダーが言うような言葉じゃないんだけどさ。私だってシフトに沢山入ってくれる人は助かるよ。でも倉橋くんみたいに積極的にシフトに入りたいって言って来る子にはどうしてもお節介なこと言いたくなるんだよ。面倒くさい大人でごめんね」

ホールリーダーはまだ子供である僕に対しても本気で向き合ってくれているように感じる。

「ありがとうございます。心に留めておきます」

「うん。これからもシフトで一緒になると思うけど。よろしく」

「はい。よろしくお願いします」

「じゃあ退勤を押して。着替えたら二十三時までには帰宅すること。じゃあ」

「お疲れ様でした」

リーダーはホールに戻ると僕は退勤のタイムカードを押して更衣室で着替える。

そのまま大きな声で全員に挨拶を口にすると店を後にするのであった。



帰宅した僕は風呂に入ってすぐに自室に向かう。

どうやら時間が早く感じていただけで疲労感は五時間働いていた分しっかりと感じている。

気が抜けたのか僕はベッドに潜ると気を失うように眠りにつくのであった。

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