第6話紗絵が束縛激しくなった理由。放課後。面接のこと

一学期も始まって一週間ほどが経過していた。

一年生も新生活に慣れ始めていたことだろう。

僕ら二年生も去年と同様の学校生活が始まるのだろうと予想していた。

「丈…今良い?」

昼休みを教室で過ごしていると幼なじみで元恋人の紗絵に話しかけられる。

「ん?どうした?」

「うん…何か中学の後輩が沢山入ってきたみたいだね」

「あぁ…特に陸上部が多く入ってきたみたいだね。マイマイやカンナちゃんに聞いたよ」

「もう接触したんだ…やっぱり…それって丈目当てってことだよね?」

「違うんじゃない?ここの制服可愛いって受験する前に紗絵も言っていたじゃん」

「そうだけど…後輩たちはそれが理由とは思えないな」

「そう?僕も僕目当てだなんて思えないけど…」

「丈は何も知らないから…」

「どういう事?」

「私が束縛激しくなった理由も知らないでしょ?」

「それは…元々の性格じゃないの?」

「違うよ。幼なじみの時にそんなことした覚えないけど」

「確かに…じゃあどうして?」

「それは…丈が後輩女子に人気で…想像以上にモテていたから…恋人だった私の心情は複雑だったんだよ。嬉しいような恐怖するような。だから束縛が激しくなった。そうじゃないと簡単に私から奪ってくる後輩が現れると思っていたから…」

紗絵は過去の過ちを告白するように口を開くが、もう諦めているようで儚く微笑むだけだった。

「そんな事しなくても…」

その先の言葉を口にしようとするが紗絵は首を左右に振って割って入る。

「丈にはわからないことだから。今後気を付けてね。モテて仕方ないだろうけど…不誠実なことはしないで。痛い思いはしてほしくないから。でも…もしも傷ついてどうしようもなくなったら…私が慰めるから」

紗絵はそれだけ告げると自席に戻っていくのであった。



午後の授業も終りを迎えて本日もいつも通り放課後は訪れる。

誰とも約束をしているわけでは無いが校舎を抜けて校門までの長い道のりできっと誰かに出会える気がしていた。

「先輩!」

思った通り後ろから声を掛けられて振り返る。

「マイマイ。今日もお疲れ」

「先輩もお疲れ様です。一緒に帰ってもいいですか?」

「もちろん。これから何処かで軽く時間を潰さないといけないんだ」

「そうなんですね。何か予定がある感じですか?」

「うん。アルバイトの面接を控えていてね」

「アルバイト始めるんですか?」

「うん。後輩に奢る機会も増えると思ったからね」

「あぁ〜。陸上部の後輩多いですもんね」

「そうそう。懐いてくれるのは素直に嬉しいから。僕は何か奢ってあげることぐらいしか出来ないし」

「そんな事無いですよ。先輩はありのままで良いのに…」

「そう言ってくれてありがとうね。でもこれは僕の自己満足だから」

「ですか。じゃあ否定はしません」

「ありがとう。それでこそ全肯定女神だよ」

「ふふっ。嬉しいですっ♡」

僕らは校門を抜けると駅の方角へと向けて歩き出す。

駅近くのファストフード店に入ると僕らは少し高価な甘い飲み物を購入して時間を潰す。

「面接は何処ですか?」

「ん?あそこ。見える?」

窓の向こうに見えるお寿司屋さんを指差すとマイマイは大きく頷いた。

「あそこですか。少し高価ですけど美味しいですよね。両親が連れて行ってくれたことあります」

「僕も。あの時の印象が強くて…まかないで美味しいものが食べられるんじゃないかって下心もあるんだ」

そんな言葉を口にして苦笑の表情を浮かべて見せる。

「ふふふ。理由がなんだか可愛らしいですねっ♡」

「そう?食事は大事でしょ?」

「そうですね。受かると良いですね」

「うん。後で報告するよ」

「はい。何時から面接ですか?」

「十六時。後二十分後だね」

「ですか。じゃあこれを飲んだら行ったほうが良いですね」

「そうだね。約束の時間より早めに到着したほうが印象良いはずだから」

「そうですよ。頑張ってください!」

「ありがとう」

そうして僕らは飲み物を飲み終えると店を後にする。

店先で僕とマイマイは別れると僕はお寿司屋さんへと歩を進めた。

マイマイは駅まで向かったようだ。


いざ、面接へ。

面接で聞かれたことは週何日入れるか。

土日祝日は入れるか。

何時から何時まで入れるか。

その様な話だった。

平日に最低一日休みが欲しいことと土日は出来るだけ入ります。

平日は十七時から二十二時まで入れることと休日は朝から都合の良い時間までフルで入れることを伝えた。

面接してくれたホールリーダーも目を輝かせて居るようだった。

「そんなに入って大丈夫?勉強の方とか。今の若い人は嫌になるとすぐに辞めちゃうから…扱いが難しいんだよ」

「はい。お金が欲しいので」

「なんで?趣味があるとか?高校生だったらバイクとか?」

「それもいいですね。でも僕は後輩に奢るお金が欲しくて」

「へぇ。変わってるね。高校生から後輩に奢るお金のこと考えているの?」

「はい。なんだか異常に懐いてくれている後輩女子が何人かいて…」

「後輩にモテるんだ。確かに分かるかも」

「ですか…」

「ここにも君より年下の娘が一人いるけど…バイト仲間で和を乱すようなら恋愛はしないでね?」

「僕から動くことはないです。それは約束します」

「相手の女子を見ていないのに言い切れるの?」

「はい。僕から動いた恋愛は今まで無かったので」

「自信あるんだ」

「そうかもです…」

「分かった。じゃあ合格で。いつから入れる?」

「明日からでも大丈夫です」

「了解。じゃあ明日の十七時から入ってもらえるかな?」

「はい。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

面接はこれにて終了して僕は帰宅する。

合格したことを両親とマイマイに伝えると明日の放課後から僕はアルバイト続きの生活を送ることになりそうだった。


アルバイト先でまた何かが始まる予感を感じて…。

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