第5話後輩女子。続々と

「マイマイが言っていた通りだね」

「丈さんと紗絵さんが別れたって本当なんだね」

「話しかけに行ってみる?」

「でも…見分けつかないって言われるかもよ…」

「それはないと思うな。丈さんなら分かるって」

「何でそう言い切れるんだか…」

双子の姉妹であるるいしずくは一目では見分けの付かないほど瓜二つな容姿をしている。

しかしながら姉の涙は何の根拠があるのか分からないが…。

姉妹揃って丈に話しかけに行くのを決めるのであった。



放課後のことだった。

全肯定女神であるマイマイは本日、日直当番らしく放課後も残って作業を行うようだった。

故に先に帰ることを伝えると彼女は何一つ嫌な顔をせずに了承してくれる。

「帰ってから連絡しますね。また明日」

マイマイを迎えに教室まで向かうと彼女は事情を説明をしてくれて僕は受け答えする。

「じゃあまた明日」

それだけ伝えて一年生の棟を抜けるとそのまま校舎を抜けていく。

校門までの長い道のりで僕に声を掛けてくる女子生徒の影が二つ。

「丈さん」

「こっちですよ」

同じ様な声質の女子二人に声を掛けられて僕は辺りを確認した。

校門までの長い道のりに存在している木陰の側のベンチに腰掛けている二人組の女子生徒を見つけて僕は破顔する。

「涙に雫じゃん。二人共ここに入学したんだ」

表情が綻ぶとベンチの近くまで歩いて向かう。

「陸上部の大半はここに入学したはずですよ」

「私達も漏れ無く入学した組です」

先に話をしたのが姉の涙だ。

後に追随したのが妹の雫。

「その前に…」

「どっちがどっちって…今でも見分け付きます?」

彼女らは殆ど同じ見た目をしており尚且つわざと揃えているのかってほどに同じものを身に着けている。

見分ける要素など殆ど無いように思えるが…。

「右が姉の涙で左が妹の雫」

僕はほぼ即答すると彼女らは驚いた表情を浮かべる。

「何でわかったんですか?」

「私達も気付かない内に…何か見分ける癖があるとか?」

二人はお互いを鏡のようにして見つめている。

だが僕が見分けていると言うよりもお互いの正体を分かる理由は…。

「それは言わないけど…言ったらやめちゃいそうだし」

苦笑して答えると彼女らは頭を悩ませているようだった。

「何で何で!?」

「教えてくださいよ!」

二人は駄々をこねる子供のようにして口を開くのだが僕は首を左右に振る。

「ご両親や家族も簡単に見分けるでしょ?それと一緒とは言わないけど…僕にも分かるぐらいのものはあるよ」

そんな言葉を口にして勝ち誇ったように微笑むと彼女らは不満そうな表情を浮かべる。

「帰ってパパとママに聞いてみよ!」

「じぃじとばぁばにも聞こうよ!」

二人はお互いの顔を見合わせるとそのままベンチから立ち上がった。

「じゃあ丈さん。また明日尋ねますからね!」

「次も見分けてくださいね!」

彼女らは揃って校門に向けて歩き出す。

僕は軽く苦笑して彼女らよりもゆっくりとしたスピードで歩いていく。

「涙ちゃんと雫ちゃんにも絡まれましたか…」

歩き出した途端に後ろから心地の良い声が聞こえてきて僕は振り返る。

「カンナちゃん。こんにちは」

「こんにちは。今日…マイマイは?」

「あぁ〜。日直みたいでね。先に帰っているんだ」

「待っていないで良いんですか?マイマイは機嫌を損ねない…?」

「マイマイは全肯定女神だから。僕の行動を縛ったりしないよ」

「なるほど…マイマイらしいですね…」

「そうだね。昔からマイマイは優しかったし」

「………ですね…」

カンナは少しだけ言葉に詰まるとそのまま僕の隣に立った。

二人して歩き出すとそのまま校門を抜けていく。

「何処か寄っていこうか」

「良いんですか…?」

「もちろん。カンナちゃんは甘い物好きだったよね?イートイン出来るケーキ屋さんでも行こうか」

「え!?覚えていてくれたんですか!?嬉しいですっ♡」

カンナはいきなり声量を間違えたように大きな声を出す。

僕は少しだけ驚いてしまい軽く仰け反った。

「早速行こう。この時間帯ならまだ込んでいないはずだから」

「やったぁ…♡早く行きましょう…」

そうして僕とカンナは揃って知る人ぞ知る穴場スポットであるケーキ屋さんへと向かうのであった。



ケーキ屋でカンナは美味しそうにいくつかのスイーツを食すと満足そうな表情を終始浮かべていた。

僕はそれに笑みを浮かべながら紅茶を頂いていた。

カンナの喜ぶ姿が見られたことに僕自身が満足すると夜が開ける前に帰宅する。

もちろん誘った手前、僕が会計を済ませるのだが…。

カンナは申し訳無さそうに財布を取り出そうとしていた。

僕はスマートではないがどうにかカンナに財布をしまってもらうと会計を済ませて帰宅するのであった。



帰宅するとカンナからお礼のチャットが送られてきて僕は何でも無いように返事を送る。

そして、このまま後輩に奢るとなると貯金が尽きる。

それを理解した僕はアルバイトの求人募集を眺めるのであった。

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