The Red Wolf of the Holy Night


 今宵こよい月雫つきしずく滞留たいりゅうしているのか……?

 ただなかは、いやに眩しい……目がやられる。

 にえはあらかた片付いた。

 立ち去りどきは、今だろうか。

 

 「おい! おまえ……」


 しくじった。

 普段より群れが騒々しいのは一目瞭然いちもくりょうぜん

 気が緩んでいた隙のあだだ。

 遁逃とんとうする腕にかす銃丸じゅうがん

 けがれのない白原しらはらに、ゆっくり沈み込む。

 ……この侏儒しゅじゅは、まるで使い物にならない。

 浮き出し出立しゅったつしなければ一生ちぐはぐだ。

 へたくそな口紅は他血たけつと混じり、わくを増す。

 舌は赤染め、乳白にゅうはくにもどる。

 

 「どうしたの?」


 明暗めいあんが形づくられる雪わた。

 背後で気配はしなかった。

 氷つく手足。

 無理やり動かしせんめる。

 荒く拭った痛さ。

 振り向くとステッキを手にした貴人きじんがいた。

 あやしい笑みは明かさない。

 たなびく銀は、溶けこむあい

 優しく吸い込まれる

 清潔は顔を出す。

 針は見せてはいけない。

 胸に軽く抱えられる。

 静かにゆく道は音もない。

 全てが消えた、がらんどう。

 だんに下ろされて、口が指に閉ざされる。

 瞳は見透かすルビーの宝石。


 「……ふん」


 おまえは長寿の同胞だったか。

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愛とか、恋とか、時節とか 莉子 @riko1018

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